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テレワーク時代に変化する「人の距離感」 4つのキーワードから探る

[August 25, 2020] BY Emi Suzuki

コロナ禍におけるテレワークの普及で、人との関係性やコミュニケーションの必要性を考えた方は多いと思います。ZoomなどのWEB会議ツールを活用すれば、オフィスに出社しなくても「なんだ、同僚とコミュニケーションとれるじゃん・・・」なんて思ったこともあるでしょう。私もその内の1人です。しかし、本当にそうでしょうか?

今回はソーシャルディスタンスやテレワークなどで人々が「離れて」仕事をする中、同時に適度な交流もまた必要とされる今の働き方の課題に注目し、重要とされる人間関係にまつわる4つのキーワードを取り上げたいと思います。

1. 相手と親しくなるための距離感は”相手の表情が読み取れる”「個体距離(パーソナルスペース)」

まずは、相手と親しくなるための距離感について考えます。

パーソナルスペースとは、他人に近付かれると不快に感じる空間のことです。知り合ったばかりの人がやけに近いと違和感を感じたり、逆に家族や友人の距離が近いときは特に何も感じないといったことがありますよね。この相手との距離感が人の心理に影響を与えることについて、人類学者のエドワード・T・ホールはプロクセミックス(proxemics:近接学)という学問で、距離を以下の4つに分類・定義しています。

・「密接距離」親しい人に許される距離・・・0 – 15 cm(近接相)~15 – 45 cm(遠方相)
・「個体距離」相手の表情が読み取れる距離・・・45 – 75 cm(近接相)~75 – 120 cm(遠方相)
・「社会距離」相手に手は届きづらいが、会話ができる距離・・・1.2 – 2 m(近接相)~2 – 3.5 m(遠方相)
・「公衆距離」複数の相手が見渡せる距離・・・3.5 – 7 m(近接相)~7 m 以上(遠方相)

この考えを働く場に当てはめてみると、オフィスでの普段のコミュニケーションには「社会距離」か「個体距離」が適切と考えられます。働くシーンでイメージすると、「社会距離」は社外の人との商談や打ち合わせ、面接などで、「個体距離」は1on1での面談や、1つのPCを2人で見ながらやり取りをする、といった距離感です。

人は相手に対して友好的な感情があるほどに近い距離を、そうでない相手には遠い距離をとろうとすることから、海外などのオフィスでは交流を促すためにコーヒーマシーンやキッチンスペースを置いて、そこに意図的に人を集めるようにすることもあります。特にトイレやコーヒーマシーン前などでは他人との距離が近づくために交流が生まれるという発想ですね。

アメリカ・エメリービルにあるPixarのオフィスでは、「アトリウム」と呼ばれる広いスペースにメールボックスやカフェ、社内唯一のトイレを設置し、人の交流機会を増やすだけでなく人同士の距離をある程度近づける工夫も施されていることで有名。オフィスを担当したスティーブ・ジョブズの想いが込められています。

距離が相手との親密性に深く関わる実証として、人同士の距離が1mの際には同僚と1週間内に少なくとも1回はコミュニケーションを取る確率が55%もあるのに対し、30m以上離れると約5%にまで低下するといった研究結果もあります。(Allen,1977)

Zoomなどを使ったWEB会議の場面において「社会距離」と「個体距離」を考えると、人数が多いときほど人の表情の判別が難しい「社会距離」となり、少ないほど相手の表情が見えやすい「個体距離」の概念が近いといえるかもしれません。しかしながら、少人数の場合でも画面越しに見える相手の表情やジェスチャー(=非言語コミュニケーション)には限りがあり、従って対面でのリアルなコミュニケーションの重要性がコロナ禍で見直されるのはここに要因があると言えそうです。

関連記事:ウェブ会議で得られない、リアル会議の”熱量”の正体とは?

国や文化の違い、人それぞれの個性によって異なるかもしれませんが、この理論では、相手と親しくなるには、”相手の表情が読み取れる”「個体距離」を多くとっていくことがポイントになるといえるでしょう。

2. 相手と親しくなるためにコミュニケーション頻度はこまめに「単純接触効果(ザイアンスの法則)」

単純接触効果とは、相手と対面する機会が多いほど、相手に親密性を感じるという心理のことです。逆に、あまり面識のない人に対しては、冷たく、攻撃的になります。心理学者のロバート・ザイアンスが提唱した理論で、ザイアンスの法則とも呼ばれています。

毎日オフィスで顔を合わせていれば、自然と相手に対して親しみを持つことができるでしょう。しかしこのコロナ禍で人と対面する機会は確実に減り、併せて会話量も減っています。今年6月発表のエン転職「テレワークにおける社員コミュニケーション」実態調査では、テレワーク勤務においてコミュニケーションの総量が「減った」と感じている人は60%にも上っています。

また、パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」でも、テレワークのデメリットとして「同僚との何気ないコミュニケーションがとりづらい」が最多の約5割といった結果も出ており、社内コミュニケーションの取りにくさが明らかになってきています。同僚と交流(接触)する機会が減ったこの状況のままでは、従業員同士のお互いの関心・親密性が薄れ、仕事の生産性にも影響を及ぼす懸念が出てきます。

その打開策として、リアルな対面でなくても顔を合わせられるデジタルコミュニケーションツールが注目されているわけですが、中でも意識されていることは「気軽なコミュニケーションの取りやすさ」でしょう。SlackやMicrosoft Teamsなどに代表される”チャット”ツールや、オンライン上でもオフィスにいる時のようにいつでも話しかけられる環境を提供するRemoやRemottyなどのバーチャルオフィス、またTeamSuiteや、Agelu、Meruciiといった「同僚への感謝の気持ちを伝える」ことを目的として作られたツールなど、オンライン上で従業員の気軽なコミュニケーションを支えるツールが近年では特に多く生まれています。

このようなツールを適切に活用することで、オンライン上でも従業員同士の接触機会を増やして親密性を向上させる効果が期待できるでしょう。

3.  職場で安心感を提供する「ソーシャルディスタンス」

ご存知の通りソーシャルディスタンスは、感染症の拡大を防ぐために物理的な距離(2m)をとることです。日本で「ソーシャルディスタンス」という言葉は感染予防の言葉として認知されていますが、世界的に見れば本来これを指す正しい言葉は「ソーシャルディスタン”シング”」で、「ソーシャルディスタンス」という言葉は、先述したホールの「社会距離」を指すものです。

ホールの「社会距離」として考えるにせよ、この2mという間隔は、相手との親密性を高めるに最適な距離とは考えにくいでしょう。あまりに遠すぎる距離感は、相手との心の距離さえ離してしまう恐れや、仕事のアイデアを生み出すコラボレーションの機会すら減らしてしまうことになります。

しかし今の状況で2mの間隔を取ることは、従業員の「安心感」を優先する上で重要な取り組みです。オフィスでも従業員の安全に配慮をした距離をとることが必要不可欠であり、空き席をつくる、千鳥柄に椅子を配置するなどのレイアウト変更を行うことで対策を打つ企業も数多く出てきています。

併せて考えると、従業員の安心感を優先する企業ではまず2mの距離を大事にし、もし十分なコロナ対策を行った上でオフィスでは従業員の交流促進を優先したいとい場合にはこの2mよりも短い、先述の個体距離を意識してオフィス空間を見直すと良いでしょう。直近のオフィス課題として、この相手との顔が見えて話しやすい距離感と、社員にとって安心感を与えられる距離感のバランスは非常に重要なポイントです。

4. 人と生産性をあげられる働き方とは?「心理的安全性」を保つには

ここまで、人との距離感や接触頻度による親密性をご紹介してきましたが、最後に同僚と信頼関係を保つために不可欠なキーワード「心理的安全性」についてご紹介します。

「心理的安全性」とは、エイミー・C・エドモンドソンが提唱し、Googleが「チームの生産性を高める要因の1つ」として効果を広めたビジネス心理学の1つです。Googleのre:Workでは、下記のような言葉で説明されています。

“心理的安全性: 心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。”

つまり、自分が周りの人に対して「無知だ」「無能だ」と思われる心配や不安がなく、自分のアイデアや考えを素直に発言できることが、パフォーマンスを十分に発揮できる要因の1つだということです。この結果、ミスも早くリカバリーできたり、人と自由に話をすることで新たなアイディアが出やすく、生産性が向上すると言われています。

オフィスなどの空間であれば常態的に相手とコミュニケーションを取る機会が増えるため、心理的安全性を醸成しやすいと想像することができます。

しかし、テレワークなどのデジタル空間では、どのようにこの心理的安全性を確保すれば良いのでしょうか?そのヒントとして、株式会社NextInt 代表の中山ところてんさんは、SlackやGoogle Chatといったチャットツールで「部署やチーム内のパブリックチャンネル(チーム内の人間が誰でも見れて書き込めるスレッド)の量と質をいかに高めるかが重要だ」と発信しています。

オープンに誰もが発言できるような風土をつくり、仕事の問題をすぐに確認・協力できる体制があれば、テレワークでも安心して働くことができるのではないでしょうか。

まとめ

職場での信頼関係を高めるには、オフィスで毎日顔を合わせ、時には距離を縮めて多くの会話をすることが効果的ですが、テレワークにおいても様々な仕掛けを導入したり、職場内での会話の発生を高めるなどの工夫をすることで、心の距離を縮めていくことができます。

恐らく今後は、最適なオフィス環境での業務と、テレワークの取り組みの両面の融合が最適なコミュニケーションの形になり、近い未来の企業のあり方の1つになってくるでしょう。またその際は、いかに「心理的安全性」を醸成し生産性を上げていくかも課題となりそうです。

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この記事を書いた人

Emi Suzuki人事歴12年、キャリアデベロップメントアドバイザー。住宅リフォーム、半導体メーカーを経てフロンティアコンサルティングに入社。組織活性化のための人々の働き方や関係性について情報を発信していく。

    
    
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