Worker's Resort 世界のワークカルチャーから働き方とオフィス環境を考えるメディア

Worker's Resort

CULTURE

SHARE
はてなブックマーク

企業がSDGsに取り組むための第一歩。「重点課題の特定」と導入事例

[February 04, 2021] BY Hiroaki Matsuoka

SDGsの認知度が高まる一方、導入・運用に課題を持つ企業も

近年、国内企業のあいだでも徐々に浸透しつつある「SDGs(持続可能な開発目標)」。積極的に取り入れる動きが見られる一方で、「何のために導入するのかあまり理解できていない」、「何から始めればいいかわからない」、「導入はしたもののうまく実行できていない」といった声も耳にする。

そこで本記事では、導入の第一歩となる「重点課題(マテリアリティ)の特定」に的を絞り、その概要や事例を紹介する。なお、「重点課題の特定」とは、企業が、自社の抱えるSDGsにおける課題が何かを策定することを指す。

関連記事改めて考えるSDGs。会社規模別、オフィス運営における3つの成功事例

自社の特性に合わせた取り組みが成功のカギを握る

SDGsが扱うテーマは実に幅広く、17の目標、169のターゲットを理解するだけでも骨が折れるのが正直なところだろう。また、予算や人員など社内のリソースは限られており、導入の重要性を理解しながらも、最初の一歩を踏み出せない企業もあるかもしれない。

sdgs-goals

SDGsの17項目
(画像は国際連合広報センターのウェブサイトより)

ただ、前提として、1社で17の目標すべてを達成する必要はない。あくまでも自社の企業理念やミッション、ビジネスの先にある経営課題とSDGsを照らし合わせた上で、「重点課題の特定」を行うというのが導入の初期段階で求められる工程だ。自社に関連する目標を見定めることではじめて、事業に即した効果的なSDGs達成への貢献が可能になる。

また、企業が取り組む際に有効なフレームワークも用意されており、「SDG Compass SDGsの企業行動指針」で確認できる。これは、国際的なNGOである「GRI(Global Reporting Initiative)」、国連が提唱する「国連グローバル・コンパクト」、多様な国際企業で構成される「WBCSD(World Business Council for Sustainable Development)」が協働して作成したもので、企業におけるSDGs実践のためのフレームワークやプロセスを明示している。

SDG Compassは、企業がSDGsに取り組む際の指針となるものであり、SDGsに最大限貢献するために必要なプロセスとして以下の5つのステップを示している。

SDG Compassの5つのステップ

「重点課題の特定」に必要な2つのステップ

SDGsへの貢献度を上げつつ、自社のリソースを投入して解決すべき課題は何か、自社が競争優位になれるのはどんな市場環境なのか、絶えず考え続ける必要がある。その際に、力を入れるポイントや戦略の方向性を定めるプロセスが、「重点課題の特定」である。

重点課題の特定は、優先課題を決定し(ステップ2)、目標を設定する(ステップ3)ことで形成していく。詳細は「SDG Compass SDGsの企業行動指針」にあるが、ここでは流れをつかむために、2つのステップの概要を紹介する。

ステップ2:優先課題を決定する

①バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する

SDGsバリューチェーン

バリューチェーンにおけるSDGsのマッピングの実例
(画像は「SDG Compass SDGsの企業行動指針」より)

優先課題を決定する最初のステップとして、まずは自社ビジネスのバリューチェーン(サプライチェーン)を分析する。この点について、前述の指針では、「供給拠点・調達物流から生産・事業を経て製品の販売・使用・廃棄に至るバリューチェーン全体を考慮することを推奨する」としている。

バリューチェーン全体を見ながら、SDGsの目標に対する正と負の影響をマッピングする。そうして、自社ビジネスが与える現在・未来の影響領域と範囲を可視化し、主観的に評価していく。

②指標を選択し、データを収集する

次に、①で確認した内容をもとに、正および負の影響が大きい領域と最も関連度の高い指標を選択し、関連するデータを洗い出して収集する。もしデータが不足しているようであれば、適宜調査して補っていく。

③優先課題を決定する

これまでのステップやプロセスを通して得られたものから、自社が優先的に取り組むべき課題を決定する。

決定の際には、リスクやコストといった負の影響、事業の成長性や活動で得られる利益などの正の影響、そして正と負の2つの軸の規模・強度・可能性を検討する。また、それらの影響が社会や環境、主要なステークホルダーにとって将来どれほど重要かを考慮することも大切になる。

ステップ3:目標を設定する

①目標範囲を設定し、KPI(主要業績評価指標)を選択する

ステップ2で定めた優先課題と照らし合わせ、目標の範囲を設定する。また、進捗状況について情報発信する際のベースとなる、KPIを選択する。

企業間でのデータ集約・比較がスムーズになるため、できれば一般的に使われる指標をKPIとして選ぶことが望ましい。SDG Compassのウェブサイトで、SDGsのターゲットに対応する事業指標がまとめられているので、参考にするといいだろう。

②ベースラインを設定し、目標タイプを選択する

目標のベースラインとなるのは、特定の「時点」なのか、特定の「期間」なのか、定めておく。また、目標のタイプには「絶対目標」と「相対目標」の2種類があり、どちらかに決定する必要がある。それぞれの特徴を以下に記す。

・絶対目標
KPIを達成することのみに主眼を置く。目標が社会に与える影響を表すのに向いているものの、企業の成長や衰退は考慮していない。

・相対目標
達成度の測定において正確性に優れる一方、目標が与える影響をすべて把握するのは難しい。

③意欲度を設定する

目標は、自社の事情を優先したり、同業他社の様子を見て控えめなものにしたりするのではなく、意欲的に設定することが望ましい。それは、意欲的な目標でこそ、より大きな影響や達成度を実現できるため。社内外に向けての公表を前提に、具体的で訴求力のある言葉を選びたい。

④SDGs へのコミットメントを公表する

目標の一部またはすべてを公表し、目標達成に対する志や取り組みの内容、達成状況などを社内外に発信する。

SDGsワークショップ

事例に見る、重点課題を特定するプロセス

では、SDGsを実践している企業は、どのようにして重点課題の特定を行ったのであろうか。以下に2社の事例を紹介する。

株式会社リクルートホールディングス

リクルートホールディングスでは、「ステークホルダーからの期待」と「ビジネスの関連性」の2軸で評価を行い、重点課題を特定している。

まず、サステナビリティの専門家や国際NGOなどのステークホルダーと意見交換を行い、得られた情報をSDGsが示す目標と照合。それを「ステークホルダーからの期待」として縦軸に置いた。さらに、グローバルなサプライチェーンを持つ同社ビジネスとの関連性の高さを横軸にプロット。これら2軸による評価を行った。

そして、「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現」という経営理念に照らし合わせ、「働き方の進化」、「機会格差の解消」、「多様性の尊重」、「人権の尊重」、「環境の保全」という5つの重点課題を設定している。

自社だけで目標を設定するのではなく、有識者などのステークホルダーの意見を取り入れながら方向性を定めることで客観性が高まり、より効果的でポジティブな影響を期待できる好例だ。同社は独自のビジネスモデルを通して、SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」を軸に事業を展開。その取り組みが評価され、「The 2018 Global SDG Award」を受賞している。

株式会社大川印刷

大川印刷は「社会課題を解決できる印刷会社」をパーパスに掲げる老舗の印刷会社。自社を「ソーシャルプリンティングカンパニー」として位置付け、全社をあげてSDGsに取り組んでいる。

SDGsの導入にあたっては、自社の事業とSDGsの17項目を照合するワークショップを社内で開催し、議論を深めた。そこで明らかになった内容を重点課題とし、経営計画の短期目標は社員が、中長期目標は社長が設定。全社員が「ゼロ・エミッション2020」「再生可能エネルギー100%印刷」など7つのプロジェクトチームに分かれて所属しており、SDGsに関する取り組みを本業の一つと捉えている。

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「J-Net21」の記事によると、SDGsへの取り組みによる一番の成果は「社員の意識変容」であったとのこと。各自が印刷の可能性を模索しはじめ、新たな企画や新事業の提案数が大幅に増加したという。

そうした功績が認められ、同社は「第2回ジャパンSDGsアワード」の「SDGsパートナーシップ賞(特別賞)」を受賞している。差別化が難しい印刷業界において、SDGsへの取り組みにより頭角を現した事例と言えるだろう。

関連記事イタリア家具ブランド会長が日本に伝えたい、家具・オフィス・働き方デザインの本質

自社の特性を生かした取り組みを

自社の特性を生かして重点課題を特定している企業は、今回紹介した2社にとどまらない。2社以外にも、特定のプロセスを丁寧に行うことで、自社のビジネスに対する理解の深化や、新たな事業展開、そして社員の意識改善や積極性の向上など、ポジティブな効果を得られている企業は少なくないだろう。

SDGsは2030年を期限とするものであり、2020年からは「行動の10年」として取り組みを加速させることが求められている。大手を中心にさまざまな企業がSDGsに取り組むようになってきたが、その一方で中小企業ではまだ着手できていない現状もある。

企業ブランドの向上や社員のモチベーションアップ、ステークホルダーからの信頼の高まりなど、取り組みを通してポジティブな影響も期待できるSDGs。まずは自社の事業とSDGsの照合からスタートし、それぞれの企業の特性に合わせた取り組み方を探ってみてはいかがだろうか。

はてなブックマーク

この記事を書いた人

Hiroaki Matsuoka立教大学ESD(持続可能な開発のための教育)研究所や地域創生プロジェクトに参画後、富士山地域の国立公園保護管理を担当。2020年よりフロンティアコンサルティングに所属し、持続可能な社会作りの一環としての、働く場所・環境・文化の創発を行っている。趣味はワークショップ、レースラフティング、登山。座右の銘は「人生はいつだって楽しい!」。

    
    
    sdgs