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実施率が低い、中小企業のテレワーク。成功事例に見る制度化のポイントは?

以前より、働き方改革を推進する取り組みの一つとして、テレワークが推奨されてきた。今回は実施率が低い中小企業に着目し、企業規模・業種による違いや成功事例を紹介する。

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中小企業で伸び悩む、テレワークの実施率

以前より、働き方改革を推進する取り組みの一つとして、テレワークの導入が推奨されてきた。それに加え、感染拡大を受けての緊急事態宣言下では、対象地域の企業に出勤者数の7割削減を目標とするよう政府が要請を出している。こうした状況に対応するため、大企業ではテレワークを原則とするケースも増えてきているが、中小企業のテレワーク実施率は低いままに留まっている。

本記事では、企業規模や業種による違いを踏まえた上で、特に実施率の低い業種に着目し、中小企業における成功事例を紹介する。

企業規模が小さいほどテレワークの実施率は低い

内閣府が発表した「令和2年度年次経済財政報告」によると、2020年4月時点のテレワーク実施率は企業規模が小さくなるにつれて下がっており、「10~100人未満」の実施率は「10,000人以上」の半分にも届いていない。

企業規模別(従業員数別)のテレワーク実施率(画像は内閣府「令和2年度年次経済財政報告」より。数字は原図のママ)

また、同報告には地域別・業種別のテレワーク実施状況もまとめられており、地域別では23区や東京圏で実施率が高く、地方圏で低い割合になっている。業種別では、主に対面でのやり取りが必要となる「医療・福祉・保育関係」を除くと、「農林漁業」「小売業」「サービス業」「建設業」の順で実施率が低くなった。

業種別テレワーク実施状況(画像は内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より)

23区内に限られるが、2020年9~10月に東京商工会議所が会員企業を対象に実施した調査でも、従業員規模が大きくなるに従ってテレワークの実施率が高くなっており、業種別では建設業・小売業の実施率が低いという結果が出ている。

テレワーク実施企業の半数以上が効果を実感

では、テレワークの導入効果についてはどうだろうか。

中小企業庁が公表した「2020年版中小企業白書」によれば、「非常に効果があった」もしくは「ある程度効果があった」と回答した企業は、資本金「1,000万円未満」で56.5%、「1,000~3,000万円未満」で74.0%となっている。この調査の実施期間は2018年9月末であり、新型コロナウイルスの感染予防対策効果は含まれていないが、半数以上が導入の効果を実感していた。

資本金規模別、テレワークの効果(画像は中小企業庁「2020年版中小企業白書」より)

資本金「1,000万円未満」では、「マイナスの効果があった」あるいは「あまり効果がなかった」との回答は見られず、「効果はよく分からない」が40%以上を占めている。導入時期とのクロス集計がないので推測にはなるが、導入から日の浅い企業で効果を把握できていないケースが多いのではないだろうか。

コロナ禍では感染予防効果が注目されがちだが、テレワークの導入によりそれ以外の効果も期待できることが、これらの結果からうかがえる。

テレワーク実施率が低い業種における成功事例

テレワーク導入率が低い、農林漁業・小売業・サービス業・建設業の中小企業でも成功事例は少なくない。なかでも特徴的な事例を、以下に紹介する。

1. 農林漁業「有限会社トップリバー」(長野県北佐久郡、従業員数100名:うち季節雇用50名)

長野県内の2カ所の農場でレタスを栽培しており、効率的な農場運営を目指すトップリバー。10年ほど前から少しずつテレワーク環境を整え、全社員にノートパソコンを支給し、約3年前からクラウドサービスの利用も開始した

出退勤情報はスマートフォンで入力しており、打刻場所は位置情報で確認できる。販売データや注文データもモバイル端末やスマートフォンを使って入力し、一元管理・共有して業務の効率化を実現するなど、業務のペーパーレス化も進めている。

従来は対面で行っていた2カ所の農場の会議も、コロナ禍以降はウェブ会議ツールを利用する機会が増えている。また、外部との打ち合わせや研修をオンラインに移行することで、作業時間・移動時間を短縮できているという。積雪などで通勤に困難が生じそうなときにも、自宅でのテレワークを推奨している。

2. 小売業「株式会社 WORK SMILE LABO」(岡山県岡山市、従業員数35名 )

1911年に筆や墨を扱う文具店としてスタートし、その後、メイン事業を事務用品やオフィス家具、OA機器の販売へとシフトしたWORK SMILE LABO。同社がテレワークを導入したきっかけは、子育て中の社員が抱える問題だったという。

幼い子どもを育てていると、子どもの急な病気などで休まざるを得ないこともある。そんなとき、休む本人は同僚に迷惑がかかると気を遣い、一方で業務を代行する従業員は残業がかさむことに不満を持っていた。そこで、在宅勤務がその解決策になるのではないかと考え、当初はイレギュラー時を対象にテレワークを導入した。

その結果、欠勤せずに済むだけでなく、作業に集中できて効率が上がることが明らかに。ほかの社員も内勤者からシフト制に移行し、1年後には全社員が利用できる仕組みを構築している。

具体的な施策としては、パソコンを全社員に支給し、共有サーバでの情報の一元管理、セキュリティ強化、外部からのリモートアクセス環境などを整備した。労務管理は、スマートフォンで出退勤の打刻や位置情報を確認できる仕組みを整え、出退勤データはクラウド管理に移行。コミュニケーションはウェブ会議システムを活用し、社内にモニターを設置してテレワーク勤務者と常時接続すると同時に、新たなルールや評価制度も導入している。

テレワークの導入により、残業が40%以上減っただけでなく、売上高・粗利高ともに上がり、生産性も向上したとのこと。2018年9月には、JR岡山駅前に共有型サテライトオフィス「WORK SMILE SATELLITE」をオープンし、テレワークという働き方を活かすワークプレイスの提供も始めている。

3. サービス業「BizMow株式会社」(東京都世田谷区、従業員数約70名)

ベンチャー企業などを対象とした事務代行のほか、中小企業の管理部門を支援するサービスを提供しているBizMow(旧名:株式会社お金の家庭教師)。2009年に、妊娠した社員に在宅勤務制度を導入したことをきっかけに、オンライン事務代行サービスを本格的に始動した。2020年8月時点で、全社員がテレワークを実施している。

クラウド型のコラボレーションツールを活用し、セキュリティを強化しているのに加え、ツール利用時の2段階認証などの運用施策も徹底しているとのこと。顧客とのやり取りもオンラインで行い、必要があれば使用ツールの操作方法をレクチャーすることもある。

柔軟な勤務制度とテレワークを組み合わせ、子育てなどの制約があっても働き続けられる環境を実現したことで、人材の確保に多大な効果が得られており、業績の向上にもつながったという。2020年3月には熊本県八代市にサテライトオフィスを開設し、同地でも積極的な採用を進めている。

4. 土木・建設業「株式会社岡部」(富山県富山市、従業員数94名)

土木・建設業のほか、公共施設や保育所・幼稚園などに設置される遊具の設計・施工を手掛けている岡部。テレワーク導入の目的は、育児や介護と仕事の両立、そして災害などの緊急時に備えたBCP(事業継続計画)対策であった。遊具メーカーとして少子化対策に貢献したいとの考えから、2010年に育休中のテレワークを制度化している

制度化にあたっては、クラウド型グループウェアで設計図を含めた情報を共有し、スマートフォンと連携して報告書が作成できるソフトを開発。現場事務所や点検先の宿泊施設でテレワークを行える環境を整えており、コロナ禍に伴う在宅勤務の実施率は、役員や現場担当の技術者を除いて100%となった

こうした企業姿勢が若手社員の採用にもつながり、2018年時点で10~20代の社員が全体の3割を占めている。テレワークの導入により、生産性向上、離職率低下などのメリットを感じているという。

下がりつつある、テレワーク導入のハードル

今回紹介した複数の事例において、一部の従業員をきっかけにテレワークを導入し、メリットを実感してその対象を全社に広げていた。これは、前述した「中小企業白書」で導入企業の半数以上が効果を感じていることの裏付けにもなるだろう。

国土交通省が2020年11月~12月に、就業者(有効サンプル数4万人)を対象に行った調査では、約82%の人が今後もテレワークを実施したいと答えている。テレワーク制度があると転職先としての志望度が上がるという調査結果も見られることから、テレワーク導入による採用や離職防止への効果は高いと考えられる。

事例として紹介した企業は、コロナ禍前から時間をかけてテレワークの導入と定着を進めている。そして、スムーズな導入を可能にするツールや環境もさらに整ってきており、制度化のハードルは下がりつつある。

就業規則などの制度を整備する際も先行事例が参考になる上、厚生労働省のテレワーク相談センターをはじめ、専門家に相談できる環境も整ってきた。農業や建設業などの現場作業が避けられない業種でも、トップリバーや岡部のような例がある。
テレワークを企業の文化として定着させるまでには、試行錯誤がつきものだ。しかし、各企業があきらめずに進めることで、柔軟な働き方を実現し、それを持続する動きが広がることを願う。

この記事を書いた人:Fusako Hirabayashi

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