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ステークホルダー・エンゲージメントとは何か。その手法と企業事例

ステークホルダー・エンゲージメントは、企業の成長戦略だけでなくCSR活動にも欠かせない取り組みである。本記事では、その概要を整理した上で、国内企業の事例を紹介する。

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企業の成長を後押しする、ステークホルダー・エンゲージメント

「ステークホルダー・エンゲージメント」とは、企業がステークホルダーと良好な関係を築き、その意見を自社の意思決定に反映させる取り組みのことを指す。ステークホルダーに該当するのは、企業活動によって直接的または間接的に影響を受ける「利害関係者」だ。その企業に関わるあらゆる利害関係者の期待やニーズ、関心を把握し、経営に取り入れることが活動の中心となる。

本記事では、まず、重要性を増すステークホルダー・エンゲージメントの定義や手法について整理する。その上で、CSR(企業の社会的責任)を問う声が高まる環境問題や持続可能性に関連する事例として、2社の取り組みを紹介する。

企業にとってのステークホルダーとは?

最初に、ステークホルダーの定義についておさえておきたい。環境省の資料では、ステークホルダーとは「事業者との間に何らかの利害関係を有するか、事業者の事業に関心のある個人またはグループ」とされている。

主要なステークホルダーには、株主や顧客、取引先、従業員、競合企業、地域社会、行政などがあげられる。最近ではこれらに加え、間接的に利害関係を有する報道機関、環境団体、NGOやNPO、研究機関なども対象とみなすことが多い。

地域社会を例にあげると、オフィス周辺だけではなく、海外に設けた工場や原材料の輸入元、資源の原産国の地域住民なども対象となり、その範囲はかなり広い。また、環境問題への関心の高まりから、自然環境もステークホルダーの一つとする企業も増えている。

ステークホルダー・エンゲージメントに取り組むにあたり、まずは自社にとってのステークホルダーを丁寧に洗い出す必要がある。その上で、ステークホルダーと双方向の対話(ステークホルダー・ダイアログ)を行い、意見を経営に反映する仕組みづくりが求められる。

ステークホルダーごとに異なるアプローチ

ステークホルダー・エンゲージメントは、CSRを果たす上で欠かせないものとして重視されている。ステークホルダー・ダイアログを通じて、社会から求められている自社の役割に気付き、改善を行うことは、企業価値の向上にもつながるアプローチと言える。

前述の環境省の資料でも、ステークホルダー・エンゲージメントは「内部事情を優先して偏りがちな組織の視点を補正するための重要な手段であり、事業者が持続可能な社会で長期的に成長する上で不可欠」と、その重要性が示されている。また、「ステークホルダーとの良好な関係作りに失敗すれば、長期的には重大な事業リスクとなり、その回避に莫大なエネルギーやコストが必要になる場合も少なくない」との注意も促している。

では、具体的にはどのような活動が行われているのだろうか。主な取り組みを以下に紹介する。

<顧客やエンドユーザー>

・相談窓口やウェブサイトなどで情報提供を行う
・アンケート調査や市場調査を実施する
・講演会やワークショップを開催する

<従業員>

・社内報などを通じて情報開示する
・アンケートの実施や目安箱などの設置により意識調査を行う

<サプライヤーや現地スタッフ>

・現地を訪問して、個別に対話する
・説明会や情報交換会などを開催する

<株主>

・IR説明会や株主総会を実施する
・統合報告書を発行する

<地域社会>

・情報交換会を開催する
・従業員が地域活動に参加する
・事業所や工場の一般公開、交流イベントを行う

ステークホルダー・エンゲージメントの企業事例

近年、大手企業の多くがステークホルダー・エンゲージメントに取り組み、CSR活動と紐付けて内容を公表している。ここでは、その中から環境問題や持続可能性に関連する2社の事例を紹介する。

1. 株式会社セブン&アイ・ホールディングス

コンビニエンスストアやスーパー、百貨店、金融サービス、ITサービスなど多業態のグループ経営を行うセブン&アイ・ホールディングスは、2008年に「CSR統括委員会」を設置し、グループ全体でCSRの推進に取り組んできた。

2019年5月には環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を発表し、ステークホルダーとともに環境問題に取り組み、「豊かで持続可能な社会」を実現することを掲げている。特に社会的影響が大きい「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」の4つのテーマに対し、重点的に活動するとしている。

さらに同社では、「地球環境」をステークホルダーの一つと考え、ステークホルダー・エンゲージメントの手法として、次の4つをあげている。

・お客様相談室への問い合わせ対応
・商品・包装材仕入先との会議
・国・自治体、店舗近隣住民、NPO・NGOとの対話
・設備・メンテナンス会社・廃棄物処理業者との対話

また、対話により得られた声から、近年関心が高まるSDGs(持続可能な開発目標)の重点課題も以下のように整理し、社会課題の解決に向けて取り組んでいる。

・重点課題1:高齢化、人口減少社会のインフラの提供
・重点課題2:商品や店舗を通じた安全・安心の提供
・重点課題3:商品、原材料、エネルギーのムダのない利用
・重点課題4:社内外の女性、若者、高齢者の活躍支援
・重点課題5:お客様、お取引先を巻き込んだエシカルな社会づくりと資源の持続可能性向上

2. サッポロホールディングス株式会社

サッポロビール株式会社やポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社を傘下に持つサッポロホールディングスは、情報開示や相互コミュニケーションを通し、ステークホルダーとの信頼関係構築に取り組んでいる。

同社がステークホルダーとしてあげるのは、顧客、株主・投資家、取引先・関係会社、従業員とその家族、地域社会・NPO・NGOだ。相談窓口や説明の場、対話の機会を設けるほか、地域貢献活動などを通して関係性を深めている。

SDGsが掲げる重点課題の解決については、以下のような中長期目標を設定している(一部抜粋)。

・従業員一人ひとりが、地域貢献活動に積極的に取り組むことで、地域の発展に貢献する
・商品、サービスを通じて地域とつながり、共に課題の解決に取り組む
・自社拠点でのCO2排出量を2013年比で20%削減する
・生産工場における水使用総量を2013年比で10%削減する
・容器包装のリデュース(軽量化・簡素化)を維持・拡大する
・再生可能材料の利用を拡大し、容器包装材料の枯渇性資源依存を低減する
・社外との連携・協調を深め、持続可能な循環型社会の構築に貢献する

また、ビオトープ園のある静岡工場や北海道工場では、地域に開放して親子自然観察会を実施し、環境教育の場としての活用も推進。森を守る活動として、九州日田工場の従業員が山林で枝打ちに参加するなど、商品やサービスの提供を通した活動に限らず、様々な形で環境貢献に取り組んでいる。

ステークホルダー・エンゲージメントの可能性

ステークホルダー・エンゲージメントには、時間がかかる取り組みが多いのは事実だ。しかし、組織が大きくなればなるほど求められる社会的責任も大きくなるため、これに取り組むことで得られるメリットは大きいと考える。

ステークホルダーとの対話を継続して行い、広く意見を取り入れることは、その企業の視野を広げ、多くの気付きをもたらしてくれるに違いない。

またその対話は、企業が課題を発見する機会となるだけでなく、ステークホルダーが企業への理解を深める機会にもなる。そして、ステークホルダーを尊重し、その声に応えることは、説明責任を果たすことにつながるだけでなく、社会との信頼関係構築を促進して企業の競争力を高めてくれる。

CSRが以前にも増して重視されるようになり、社会課題にどう取り組んでいるかを、就職活動における企業選びの軸とする見方もある。これらを総合して考えると、ステークホルダー・エンゲージメントに真摯に取り組むことは、自社の将来を考える上で必要不可欠と言えるのではないだろうか。

この記事を書いた人:Yumi Uedo

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