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外国人労働者200万人時代へ。外国人人材と働くときに知っておきたいこと

2030年には日本の労働者の30人に1人が外国人になると予測されている。外国人と働く前に知っておきたい雇用制度、彼らの悩みと働きやすい環境づくりに取り組む企業を紹介する。

労働者の30人に1人が外国人の時代に

日々の暮らしの中で、外国人と触れ合う機会や時間はあるだろうか。出入国在留管理庁の発表によると、2021年末時点での在留外国人は276万635人に達することがわかっている。日本の人口は2022年4月1日時点で1億2507万1千人であるから、全人口のおよそ2.2%が外国人という計算になる。およそ20年前の2002年時点では185万1758人の在留外国人が日本で暮らしていた。つまりこの20年で外国人の数は約100万人も増加しているのだ。

こういった在留外国人増加の背景には、日本経済が抱える課題がある。人口減少と少子高齢化、そしてそれらに伴う労働力不足だ。2022年現在、日本の人口は前述のように1億2507万1千人である。そのうちの59%にあたる7418万4千人が生産年齢人口といわれる15〜64歳の人々だ。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、これが2030年には6773万人、2060年には4418万人にまで減少すると見込まれている。人手不足はすでに喫緊の課題であるが、この傾向はさらに深刻化する可能性が高いのだ。生産年齢人口の不足を解決する手段として期待されているのが、女性、シニア、そして外国人人材の活躍だ。全就業者に占める外国人労働者の割合は、過去10年(2008年~2018年)でおよそ3倍に増加している。

株式会社パーソル総合研究所の推計では、外国人労働者は今後さらに増加し、2030年には209万人に達する見込みだ。2030年の労働需要は7073万人と予測されており、全労働者のおよそ3%。30人に1人が外国人になるのである。

いつあなたの同僚や部下、上司が外国人になってもおかしくない時代がやってくる。「自分の仕事は海外や外国人とは関係しない」と高をくくっていると、あとで慌てることになるかもしれない。そこで今回は、外国人人材と働くために知っておきたい知識や制度、そして外国人人材が働きやすい工夫をしている企業の事例を紹介する。

外国人を雇用する際に知っておきたいこと

もしもあなたが経営者や企業の人事担当者であるならば、まずは外国人労働者の雇用制度を把握しておこう。

・在留資格

外国人のすべてが日本で働けるわけではなく、また日本で暮らす外国人であればどんな仕事をしてもよいわけでもない。まず最初に確認すべきなのが「在留資格(就労ビザ)」だ。現在日本には合計29の在留資格があり、所持している資格以外の仕事には従事することができない。

在留資格については、出入国在留管理庁のWebサイトに一覧が掲載されているほか、厚生労働省のWebサイトにて就労が認められる在留資格が整理されている。

例えば、留学生がもつ「留学」の在留資格は本来、就労が認められていないが、「資格外活動許可申請書」を住居地の地方出入国在留管理官署に提出し、許可を得ればアルバイト等で働くことが可能となる。ただしその場合も、働ける時間は週28時間までとなっている(例外あり)。もしも面談時に「資格外活動許可」のないことが発覚した場合は雇用ができない。また労働時間の上限があることから、他のアルバイトとの掛け持ちがないかも確認が必要だ。

採用の際には、どのような在留資格を所有しているのか、自社でお願いする仕事に合致しているのかをチェックする必要がある。

・各種届け出

外国人を雇用する場合は、必ず届け出が必要となる。まず、雇入れ時に必要なのが「雇用保険被保険者資格取得届」または「外国人雇用状況届出書」。前者は雇用保険に加入する場合、後者は雇用保険に加入しない場合に提出する。それぞれ提出先のハローワークが異なるので注意が必要だ。この届け出は離職時にも必要となる。

その他、外国人の在留資格には期限がある。1年、3年、5年など、人や資格により期限はさまざまだが、自社のスタッフの在留資格が切れるタイミングでは、更新手続きが必要になる。

更新資料の準備や作成には、会社側の支援も欠かせない。外国人雇用時の手続きや注意点については厚生労働省のWebサイト手引を公開しているので、雇用を検討する際にチェックしておこう。

・利用できる支援策

外国人の雇用を促進するために、各種機関が支援制度を用意している。

まず、外国人労働者の雇用に関する相談が無料でできる「外国人雇用管理アドバイザー」制度だ。前述の届け出の手続きや外国人スタッフの職場教育、契約や福利厚生などについて自由に質問できる。ハローワークで申し込めば、事業所までアドバイザーが訪問してくれる。

続いて活用したいのが、「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」である。外国人を雇用するにあたっては、例えば社員向けのマニュアルや就業規則を多言語化したり、外国人向けの休暇制度を新設したりと労働環境の整備を行う必要が出てくる。本助成金ではその際に発生した通訳・翻訳料、弁護士や社会保険労務士への報酬といった経費の2分の1〜3分の2(上限額あり)の助成が受けられる。

外国人人材が感じる日本の職場への「不満」

もしもあなたが外国人の同僚や部下をもった時のために、彼らが日本の職場で抱える悩みや不満を知っておくことも大切だ。

パーソル総合研究所が2019年に行った「日本で働く外国人材の就業実態・意識調査」の結果から、外国人人材の職場でのリアルが見えてくる。

まず職場で感じている孤独感について、正社員として雇用されている外国人人材の32.6%が「私は孤立しているように思う」と回答していた。「私のことを本当によくわかってくれる人はいない」が28.6%、「私には頼りにできる人がいない」が27.2%と続き、正社員では約3割が職場での孤立や孤独、コミュニケーション不足に悩んでいることが明らかになった。

画像はパーソル総合研究所のWebサイトより

私たち日本人と外国人人材の間には、どうしても言語・文化の壁が存在する。彼らと働く場合は、意識的にコミュニケーションを増やす必要がありそうだ。

職場での不満についても、文化や風習の違いが影響している。同調査では、外国人人材が抱える職場の不満について、正社員では1位が「昇進・昇格が遅い」、2位が「給料が上がらない」であった。年功序列で徐々に給与・立場が向上する日本のビジネス習慣に不満を抱える外国人の戸惑いが見え隠れする。

画像はパーソル総合研究所のWebサイトより

その他、5位「無駄な会議が多い」、6位「残業が多い」、10位「組織・上司の意思決定が遅い」となっており、外国人人材を定着させ実力を発揮させるためには、日本の当たり前を0から見直す必要がありそうだ。

外国人人材が働きやすい工夫をしている企業事例

続いて外国人人材の活用に力を入れる企業の実例を、具体的な取り組みとともに紹介したい。

企業例①株式会社セブン-イレブン・ジャパン

特に都心部において外国人の働き手をよく目にするのが、コンビニエンスストアだろう。業界1位のセブン-イレブンでは、全スタッフの約8%が外国籍だ。セブン-イレブンでは、労働力不足の解決だけでなく、増加する訪日客に対応するためにも外国籍スタッフの存在を重視しているという。

そんなセブン-イレブンでは2021年、外国人スタッフの人材育成と生活支援を行う「一般社団法人セブングローバルリンケージ」を設立した。同法人の目的は、外国人人材が日本社会に定着するための各種の支援を行うプラットフォームとなることだ。

日本で働く外国人にとって、在留手続きや家探し、日本語や接客への不安など悩みは多いが、それらの悩みを一社で解決することは難しい。そのため同法人には在留手続きサービスを提供する企業、外国人向け家賃保証・生活支援を提供する企業、人材開発・研修等を担う企業など複数の外部企業・団体が参加する。

またセブン-イレブンでは従前から、外国人従業員向けの初期教育テキストの作成、レジ接客研修なども行ってきた。特にレジ接客研修は、接客実務を入り口に日本文化全体を学べるよい機会にもなっている。日本語学校へ出向いての留学生向けアルバイト説明会も行っており、外国人雇用を質・量の両面で促進させようとする姿勢がうかがえる。

企業例②カシオ計算機株式会社

売上のおよそ70%を海外から得ているカシオ計算機も、外国人人材の活用に積極的な企業のひとつだ。海外拠点の多い同社では、日本以外の地域の従業員が67%を占める。そのため、日本の拠点においても外国籍従業員向けの配慮が行き届いている。例えば、社員食堂での外国語のメニュー併記はもちろん、宗教戒律としての食事制限に対応できるよう肉の種類をイラストで示すなどの工夫が行われている。

その他、外国籍従業員限定の休暇制度もある。海外に実家がある従業員の場合、日本人に比べて帰省のハードルが高い。そこで彼らに対して有給休暇とは別に、特別な「母国帰国休暇」が用意されている。特に珍しいのは「お祈り部屋」の設置だろう。イスラム教徒の従業員のため、毎日欠かせない祈りの空間を社内に整備している。

大切なのは「当たり前のコミュニケーション」に立ち返ること

ここまで外国人人材が抱える悩みや先進的な企業事例を見てきた。その中で、外国人人材の主な悩みが孤独や周囲とのコミュニケーション不足であり、先進的企業の施策が彼らの悩みや課題に寄り添うものであることがわかってきた。いずれも、日本人従業員の悩みや日本人従業員向けの施策と本質的には変わらない。違うのは、私達日本人が外国人の悩み・思いを知るためには、意識的な行動が必要だということだ。

日本人の同僚・部下に対してであれば、自分の経験に照らしてその思いを推し量ることができる。しかし、異なる文化的背景をもつ外国人人材に対しては、積極的に内面を知ろうと努力しなければ理解することは難しいだろう。

本来、コミュニケーションとは、相手への理解を深めようとする能動的な行動だ。ただし、日々の慣れの中で私たちは理解しようとする姿勢を忘れがちである。外国人人材と働くことは、そのような「当たり前のコミュニケーション」に立ち返ることなのかもしれない。

この記事を書いた人:Hiromasa Uematsu