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大手企業から自治体まで。ワーケーションの成功事例と今後の展望

[November 04, 2020] BY Fusako Hirabayashi

ワーケーションとは

withコロナ時代の新たな働き方として、ワーケーションが注目を浴びている。ワーケーションは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合体させた造語で、観光地やリゾート地などで余暇を楽しみながらテレワークを活用して仕事もすることを指す。

2020年7月、環境庁が国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進事業費補助金の採択結果を公表し、菅官房長官(当時)が「政府としても普及に取り組んでいきたい」と発言したのをきっかけに俄かに話題となった。そのため、突如出てきた言葉という印象があるが、もともとの発祥は2000年代のアメリカとされており、日本の大手企業でも以前から導入している例はある。

とはいえ、いまだ日本企業の導入率は低く、今後どのように広まっていくのかが未知数なのが現状である。 そこで本記事では、ワーケーションに関する意識調査の結果と、すでに実施している企業および積極的に受け入れている自治体の事例を紹介し、国内での普及の可能性について考察する。

多くの就業者がワーケーションに期待するのは精神的余裕

株式会社クロス・マーケティングが全国47都道府県在住の就業者4,342人を対象に行った『ワーケーションに関する調査』 によると、ワーケーションの認知率は72.4%に及ぶ一方、導入済み企業は7.6%に留まり、周知は進んでいるものの実施に至っていない現状を反映する結果となった。また、ワーケーションを知る人のうち実際に行いたいと答えたのは23.1%で、業務上の精神的余裕を期待する声や観光を楽しみにする回答が上位にあがっている。

さらに、株式会社日本旅行、株式会社We’ll-Being JAPAN、株式会社あしたのチームの3社共同で、テレワーク導入企業の会社員332人を対象に実施した『会社員のワーケーションに対する考え方及び姿勢に関する調査』では、ワーケーション制度に興味ありと答えた人が62.0%と6割を超える結果になった。また、ワーケーションに期待することとして、リフレッシュによる生産性向上、家族との時間やプライベートな時間の確保が容易になるとの声が多く見られた。

以上の調査結果から、ワーケーションにはリフレッシュによる精神的な余裕を期待している人が多く、テレワーク経験者のほうがワーケーションへの関心が高い様子がうかがえる。では、実際に導入している企業では期待される効果が得られているのだろうか。事例をもとに確認したい。

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ワーケーション導入の先駆け「日本航空株式会社」

日本航空はワーケーションの先駆的企業であり、ワークスタイル変革の一環として2017年から制度を導入している。社内での普及のため、体験ツアーを実施する、役員が率先して利用する、合宿型ワーケーションを企画するなどの取り組みを行う中で制度が浸透。実際に、2017年の夏期推奨期間で11人だった利用者が翌年には78人に増加し、2018年の年間利用者が延べ174名になった実績も持つ。

2020年6~7月には、株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTBと共に、慶應義塾大学島津明人教授の監修のもと、ワーケーションの効果検証実験を沖縄県のカヌチャリゾートで実施。その結果、ワーケーション期間中に仕事のパフォーマンスが20.7%上昇し、仕事のストレスは37.3%低減したという。それぞれの効果は終了後も5日間続き、生産性の向上や心身の健康にポジティブな効果が見られたと報告されている。

ワーケーション実証実験

ワーケーション実証実験のスケジュール
(NTTデータ経営研究所、JTB、日本航空共同プレスリリースより)

また、ワーケーションとなると公私が混同されそうな印象もあるが、実験ではむしろ仕事とプライベートの切り分けが促進されたという結果になった。適切に設計・運用することで、切り分けの曖昧さに対する懸念は払拭できると思われる。

働く時間も選べる「ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社」

ユニリーバ・ジャパンは、2019年より独自のワーケーション「地域deWAA(Work from Anywhere and Anytime)」を導入している。これは、同社と連携する自治体での滞在中、社員がその地域の施設をコワーキングスペースとして無料で利用できる制度だ。

もともと、働く場所と時間を社員が自由に選べる「WAA」という制度が2016年にスタートしており、地域deWAAはその派生形にあたる。WAAでは、上司に申請すれば会社以外の場所での勤務が可能となり、定められた範囲内で勤務時間を自由に決められる。この制度の活用により、同社では生産性や幸福度の向上効果を実感できているという。

「地域deWAA」は、「WAA」の成功を踏まえ、働く場所の選択肢をさらに増やすものと位置付けられている。無料のコワーキングスペースで仕事をするほか、業務時間外に地域のイベントやアクティビティへの参加も可能。自治体が指定する地域の課題解決に関わる活動に携わることで、提携する宿泊施設の宿泊費が無料もしくは割引になるという特典も用意されている。

2020年2月時点での提携自治体は、北海道から宮崎県までの全国7か所であり、参加した社員からは「リゾート感のある場所で集中して仕事ができた」といった声もあがっている。

ユニリーバ・ジャパンと同様に日本航空も、自宅以外でのテレワークを可能とするところから始め、その延長線上でワーケーションを導入している。コロナ禍でテレワークの下地ができた企業であれば、そこから自宅以外にも勤務場所を広げ、ワーケーションに繋げていく道筋は見えそうだ。

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ワーケーション誘致の成功例「和歌山県」

日本航空もユニリーバ・ジャパンもワーケーション先で仕事をする場所として、自治体が運営するコワーキングスペースなどを利用している。

ワーケーションの受け入れは、自治体にとっては観光振興をはじめとする地域活性化に加え、関係人口増加、移住促進に繋がるなどのメリットがあるため、以前から力を入れている自治体も少なくない。2019年11月には、ワーケーション受け入れを推進する65の自治体が集まり、「ワーケーション自治体協議会」を設立している。

知事が同協議会の会長を務める和歌山県は、2017年より「和歌山県ワーケーションプロジェクト」として、ワーケーションに対する取り組みを開始。観光戦略実行推進会議の資料によると、2017年~2019年の3年間で104社910名が和歌山県でのワーケーションを体験しているという。

ワーケーションオフィス

同県の取り組みの下地となるのは、県内の複数の自治体が以前から力を入れてきたサテライトオフィスの誘致である。中でも、観光地として名高い白浜町は、ICT企業を中心としたサテライトオフィス誘致の成功事例として知られている地域。2019年9月時点で、株式会社セールスフォース・ドットコム、NECソリューションイノベータ株式会社をはじめとする14社が、町が運営する施設内にサテライトオフィスを設置している。

また、首都圏などで勤務するこれら企業の社員が、サテライトオフィスでワーケーション制度を利用するだけではなく、他の企業もしくは個人がワーキングスペースや通信インフラが充実した宿泊施設を利用する例も増えている。

環境庁の補助金には約500の事業が採択されており、2020年10月22日時点でワーケーション自治体協議会の会員自治体は123(1道15県107市町村)に及んでいる。自治体間でのノウハウ共有が進めば、ワーケーションの受け入れ体制は急速に整備されていく可能性が高い。

環境次第でさらなる普及が予想されるワーケーション

多くの就業者がワーケーションに期待するのは、精神的余裕から生まれる仕事とプライベートへのポジティブな影響という調査結果を紹介した。複数の事例から、ワーケーションを導入している企業では期待される効果があったと評価されており、効果実証実験でも心身の健康・生産性の向上にポジティブな効果があるという結果が得られていることを確認できた。

今回紹介した以外にも、官民連携でのワーケーション事例は多数あり、経団連がワーケーション自治体協議会、日本観光振興協会と『ワーケーションの推進に向けたモデル事業の実施に関する覚書』を交わすなど、経済界も力を入れはじめている。コロナ禍で移住検討者が増える中、テレワーク移住者への補助金交付施策も発表され、移住の入口としてワーケーションの活用も活発になっていくであろう。

パンデミックにより、ワーケーションの土台となるテレワークは広まってきている。制度の具体的なイメージが共有されることで実施意向が高まり、懸念点としてあげられている情報漏洩・勤怠管理に関する制度整備・ノウハウ蓄積が進めば、ここ数年でワーケーションが普及していく可能性も高いのではないだろうか。

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この記事を書いた人

Fusako HirabayashiIT系大手企業で研究開発、新事業立ち上げの業務に携わりながら裁量労働制の導入検討委員を務めるなど、働き方とそれを支える環境について関心を持ってきた。現在はフリーランスのライターとして、新しいワークスタイルを中心に発信している。

    
    
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