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世界の注目を浴びる2020年、日本のワークプレイスと働き方はどのように変わるのか。

[January 15, 2020] BY Shinji Ineda

平成から令和へと元号が変わった2019年。改元という歴史の転換点であるとともに、多くの企業で働き方の転換が取り組まれた1年だった。

オフィスのデザインに力を入れることはもはや当たり前のこととなり、各企業は優秀な人材の獲得を目的として働く場所や時間の自由度をあげたり、心身健全に働ける環境を試行錯誤したりする段階に進んでいる。少し前まで働き方改革に実感を持てなかった人も、昨年の変化を目の当たりにし、かなり身近なものとして感じるようになったのではないだろうか。

そのような背景で、2020年は働き方やそれを取り巻く環境がさらに大きく変化することが予想される。ついに今年の夏開催となる東京オリンピックは、例年に増して世界の注目を日本に集める機会となる。少子高齢化の影響により労働人口の減少が危惧される日本では、オリンピックを契機に働きやすさや働く環境の充実具合を世界にアピールし、海外人材の獲得や、グローバル企業の誘致に力を入れ、それを糧として国際競争力の強化に繋げていきたいところだろう。

さらに2013年6月に第2次安倍内閣のもと閣議決定された「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」においても、政府はグローバル経済の利益を享受できる環境整備とともに、海外の優れた人材や技術を国内に呼び込み雇用イノベーションの創出を図るとしている。またあわせて2020年における対内直接投資残高を35兆円へ倍増(2012年時点17.8兆円)するという目標も掲げられており(2018年末の対日直接投資残高は30.7兆円)、この1年が様々な意味で大きな節目になると理解できる要素が数多く存在する。

そこで今年2020年も、皆さんの周りでワークプレイスや働き方がどのように変化していくのか、考えてみよう。

ロンドンオリンピックで起きた通勤・移動手段の変化

オリンピックが及ぼした働き方の変化といえば、8年前の2012年に開催されたロンドンオリンピックが想起される。

ロンドンでは2005年にオリンピックの開催が決定されてから環境に優しいオリンピックを目指して様々な施策が検討された。その中でも海外から訪れる観客、選手やスタッフのスムーズな移動を実現するために、地下鉄や列車などの公共交通機関の輸送力強化及び利用促進とあわせて、自転車を利用した移動が推進された。同年の2005年にロンドン同時爆破テロが発生し交通機関が麻痺したことで自転車利用の意識がより高まったこともあるが、自転車レンタルシステムであるBarclays Cycle Hireの誕生や、自転車専用レーンの整備で、オリンピック以降も多くの人が自転車通勤を行う都市に変わった。

また32のロンドン区およびシティ・オブ・ロンドンで構成されるグレーター・ロンドンの公共交通事業を所管する地方行政機関、ロンドン交通局(Transport for London)が実施した調査からもオリンピック開催中の移動変化を読み取ることができる。「Olympic Legacy Monitoring: Personal Travel Behaviour during the Games」によると、ロンドンを移動する人々(住民、ワーカー、旅行者)の77%がロンドンオリンピック開催期間中に移動そのものを減らしたり、時間帯やルートに関する変更を行ったりしたとのことだ。通勤時のストレスが度々話題になる日本においても、東京オリンピック時にこのような取り組みが実施されることで、通勤のあり方が見直されることを期待したい。

オリンピック・パラリンピックを機に風土強まるテレワーク

一方東京でもオリンピック・パラリンピック期間中の交通混雑緩和に向けた取り組みは数年前から始まっている。「テレワーク・デイズ」はまさに総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府が東京都および関係団体と連携し、2017年から行っている取り組みだ。

テレワークの実施・協力に参加した人の数は、初年度である2017年で約950団体の6.3万人、翌年の2018年では1682団体、30.2万人、そして昨年2019年では2887団体、約68万人となっている。

そして今年はいよいよ開催年ということで、東京都によると国内外から観客と大会スタッフが約1,010万人、1日当たり最大約92万人が東京に集まると予測されている。東京オリンピックが開催される7月22日から8月9日、パラリンピックが開催される8月25日から9月6日を中心に、働く人々の生産性を下げない取り組みが様々な企業で実施されるだろう。これまでの推移を見る限り、今年のテレワーク・デイズ参加者は100万人を超える可能性があり、場所に縛られない自由な働き方はさらに促進されると見られる。

注目度を増すワーケーション:その真価はいかに?

テレワークと並び、昨年に続いて注目されているのがワーケーションだ。ワーケーションとはバケーションを兼ねてテレワークを行う労働形態で、日本航空やNTTコミュニケーションズがすでに導入し話題を集めている。

しかし、そのワーケーションもすでに変化の兆しを見せている。元々ワーケーションは休暇中の旅先などで、どうしても業務対応を行わなければならない状況に対して、会社が業務時間を出勤として認める制度として始まった。しかしワーケーションを実践する人の中には、旅先で日常と変わらない業務を行うことに違和感を感じる人も出てきたのである。

せっかく地域や海外に訪れているのであれば、「そこでしかできない体験と仕事を結びつけたい」「その場所で得られた知識や人脈をビジネスに活用していきたい」と考えるのは当然のこと。地方自治体や各団体がこぞってワーケーションの誘致や企画に取り組みはじめていることもあり、土地ごとに働く生活における特別な体験を得られる仕組みは徐々に整いつつある。企業はワーケーションを「旅先での業務を出勤として認める」だけの単純な制度としてではなく、社員のより良い体験と自社への持ち帰りを期待できる制度として検討していくことが大切だ。

信州リゾートテレワーク』Webページより

5Gのサービス化により遠隔コミュニケーションでも「リアルな対面会話」が実現

テレワークやワーケーションなど人が離れて仕事を行うにあたって、欠かすことができないのが遠隔コミュニケーション技術である。SkypeやZoomといったウェブ会議サービスを利用しパソコンやスマートフォンのモニターを通したコミュニケーションは以前から行われているが、まだまだ回線の影響などもあって音が途切れたり画面が乱れるといった不自由さを感じる人は少なくない。しかし今年2020年春より本格的なサービスが予定されている5G(第5世代移動通信方式)によって、その多くが解消されていくことが期待される。

モニター越しの遠隔コミュニケーションが浸透するほど、対面コミュニケーションとの相違点は浮き彫りになる。それを示唆する「メラビアンの法則」については皆さんはご存知だろうか?この法則は、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した非言語コミュニケーションの重要性を説いたもの。アルバート・メラビアンは会話において矛盾したメッセージが発せられた時に、「何をもって矛盾と判断したか」を探るため実験を行った。

被験者が矛盾を判断する際に参考にする情報として実験内で注目されたのが、話の内容(言語情報)・声の大きさやトーン(聴覚情報)・表情や仕草(視覚情報)の3つ。実験のの結果、影響力の高い順に、視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%という割合となった。この実験結果から、言語情報である話の内容よりも、そのほかの非言語情報がコミュニケーションに与える影響は多いということが発見された。

従来のウェブ会議などでは、ネット回線の状況からカメラを利用せず音声のみのコミュニケーションが行われることも多く、最も影響力の高い視覚情報が伝達されない場面も多くあった。しかし5Gの普及により回線速度や通信容量が大幅に向上することによって画質や音質が改善され非言語コミュニケーションが円滑になることで、遠隔コミュニケーションの利便性も画期的に高まると考えられる。また5Gの恩恵は遠隔コミュニケーションのみに限らず自動運転やロボットの遠隔操作など、これからの働き方を大きく変えると考えられるだけに、この1年はテクノロジーの変化をさらに注意深く観察することが必要だ。

働き方の変化がもたらすコミュニティとの関係性

テクノロジーの発達で働き方・働く場所の選択肢が広がるなか、オフィスの必要性と存在意義を問う声は日に日に増している。Worker’s Resortでもこの議論についてはこれまでNEW STANDARDのオフィス取材記事ミレニアル世代のオフィスについて語った記事など複数機会にわたり取り上げてきた。

「事務作業を行う場所=オフィス」だったものが「事務作業を行う場所=Anywhere」に代わり、「なぜオフィスへ出勤するのか?」「なぜ高い家賃を払ってオフィスを構える必要があるのか?」とオフィスの価値を見直す経営者がスタートアップやベンチャー企業の間で増えている。ウェブサイトやブログの作成ができるコンテンツマネジメントシステム (CMS)で有名な『WordPress』の運営会社Automatticがオフィスを持たずリモートワークに完全移行したのは、まさにビジネスにおけるオフィスの価値を見直した事例の1つだ。従来の慣習に囚われず、企業は自身のビジネスやそれに伴う活動・企業文化を改めて咀嚼し直し、オフィスの意味を再定義することが求められている。

そのような中、オフィスの意味と近年の働き方を考えるうえで切り離せない要素となっているのが企業とコミュニティとの関係だ。外部との共創に向けた取り組みや副業といった制度を実施していくと、企業には様々なコミュニティとの接点が生まれる。特に最近ではそういった外部との接点をつくるために、外部の方を招けるイベントスペースや、来訪者用の仕事スペースを用意したオフィスを頻繁に見かけるようになった。

次世代を担うミレニアル世代の働き方や考え方などに注目が集まっているが、そのひとつにもコミュニティ形成のあり方がある。これまでは地縁や血縁のほか、企業という利益や目的をもったコミュニティに所属することが自身の人生におけるコミュニティ活動の大枠を占めていた。しかしミレニアル世代ではSNSなどを利用してさらに複数のコミュニティと関係を持つことが特徴として挙げられている。そのように考えると、企業が様々なコミュニティとの接点をつくることは従業員に幅広い活躍の場を提供し、従業員と企業とのエンゲージメントを高める可能性がある。

加えて、企業はコミュニティとの偶発的な出会いを目的としたスペースづくりやイベント企画を行う一方で、コミュニティとのより計画的な交流や活動も必要となると考えられる。なぜなら、複数のコミュニティと幅広く接点を持ち共感や課題感をもって仲間づくりを行う活動と、接するコミュニティ数は限定したが密接に深い考察を一緒に行い具体的な取り組みにつなげていく活動のどちらが重要かは、企業の目的やその達成に向けたフェーズによって異なるからだ。

Rettyが行った「深い」コミュニティづくり

実名口コミグルメサービスを運営するRettyは、コミュニティを意図的に限定し活発なコミュニティの形成に成功している例の1つと言えるだろう。先日の取材記事で、同社代表の武田和也さんは8年間で6回も移転した自社オフィスを「食べ歩き移転オフィス」と称し、社員が移転先の周辺地域にあるの飲食店を徹底的に行きつくして、食への理解を深めていると語っている。そして定期的に開かれるオフ会では、社員が同社サービスのヘビーユーザーと交流を図り、その様子を写した写真は社内で最も多くの目線が集まるオフィスのエントランススペースに飾られる。

Rettyのオフィスエントランススペースに飾られたオフ会の写真

また、『グルメ調査費』というプライベートも含めた食事の費用を会社が負担する制度や、外食時の移動を支援する『Happyタクシー制度』などを設けることで、従業員も含めた「食」のコミュニティを育んでいる。「食」分野に限定し、その文化をコミュニティと共に深く理解する姿勢が同社サービスを支えているのである。

働き方の変化がもたらすコミュニティとの関係をどのようにデザインしていくべきか、企業は下記の質問を自問自答しよく検討する必要がある。

  • 社員がどのようなコミュニティに興味を持ち所属しているのか?
  • そのコミュニティとの接点をどのように作っていくか?
  • 具体的な取り組みに向けてどのようなコミュニケーションを行っていくべきか?
  • そして、企業としてそのような活動に必要なオフィスとはどのような空間であるべきか?

最後に

序盤で働き方の自由度の高まりについて述べたが、一方でこのような流れについて懸念する声も度々耳にする。それは長年管理し管理される意識で働いてきた人たちが、今さら自分で場所や時間、その時の業務によってコミュニケーションを取る人を選択しながら能動的に働くことは難しいのではないかという意見だ。

しかし、筆者はそのような日本が古くから培ってきた働き方の文化も否定するつもりはない。なぜならばそれも一つの選択肢であり継続的なビジネスと人材にフィットしているのであれば問題ないと考えるからだ。

重要なことは日々変化する社会のなかで、日々働き方やオフィスを見直せているかどうか。そのきっかけを作り出すメディアとして、今年1年も多くの情報を発信していきたい。

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。



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