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人中心の照明設計「ヒューマン・セントリック・ライティング」の重要性と活用事例

[August 26, 2021] BY Chinami Ojiri

ヒューマン・セントリック・ライティング(HCL)とは

欧米を中心に、「ヒューマン・セントリック・ライティング(Human Centric Lighting:HCL)」の活用が広がっている。HCLとは、人の感情や心身の状態、個人のライフスタイルに合わせて照明の色や明るさを制御するもので、人を中心にした照明設計の概念を指す。本記事では、HCLが注目される背景やメリットを踏まえた上で、具体的なプロダクトやオフィスへの導入事例など、HCLについて包括的に紹介したい。

LightingEurope(欧州照明工業会)は、「HCLとは、人々の生物学的、感情的、健康、または幸福に利益をもたらすことができる照明の一種。 LEDなどを利用したスマート照明を調光し、一日を通した自然光を模倣することによって実現される」と説明している。これまでの照明は、エネルギー効率や空間演出を中心に考えられ、開発・製造されてきた。HCLはそこから一歩進み、人が本来必要とする自然光の効果を取り込むことで人の感情や心身の状態に呼応させ、生産性や集中力の向上につなげるといった、照明の非視覚的側面に焦点を当てている。

ヒューマン・セントリック・ライティングに期待されるメリット

HCLのメリットとしてまずあげられるのが、概日リズム(サーカディアンリズム)に働きかけられる点だ。

人間の活動は概日リズムと密接に関係しているが、一日中オフィスや自宅などの屋内で働く場合はそのコントロールが難しく、窓からの採光や休憩時の散歩といった対策にも限界がある。しかし、概日リズムの乱れは心理・生理的機能に大きく影響するため、睡眠障害や生活習慣病などのリスク要因にもなりかねない。また、集中力やパフォーマンス低下など、働く人々の健康と働き方に関わる重要な要素とも言える。

概日リズムの正常化に有効なのは、言うまでもなく「光(太陽光)」である。HCLの概念をベースとしたプロダクト・空間デザインは、太陽光と人間における生物学的反応の関係性をベースとしており、特定の反応を誘発するように設計されている。すなわち、HCLで昼光のパターンを最適化することで、屋内環境でも概日リズムの正常化に働きかけられるのだ。作業内容・時間に合わせて照明器具の輝度や色温度を制御することで、健康やウェルネス、生産性、集中力の向上にもアプローチできる。

また、HCLのプロダクトには、年齢や生活習慣、地域の日照状況に基づいてあらかじめ照明をカスタマイズできるものが多い。そうしたプロダクトを使えば、ユーザーの好みや活動に合わせて、よりパーソナルな照明設定が可能となる。さらに、温湿度やCO2などのセンサーデバイス、位置情報ソリューションと組み合わせることで、空間内のヒトデータ・環境データを取得し、柔軟性のある照明環境も構築できる。HCLはユーザーの好み、環境、エネルギーレベル、精神状態を最適化し、不適切な照明やエネルギーの無駄をなくす、環境に配慮したソリューションとも言えるだろう。

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国内外のワークプレイスにおける活用事例

では、HCLはワークプレイスでどのように活用されているのだろうか。国内外の事例を以下に紹介する。

1.光を利用した“人起点”のオフィス「worXlab(ワークスラボ)」

まずは、パナソニック東京汐留ビル内にあるライブオフィス「worXlab(ワークスラボ)」を取り上げたい。人を起点とした空間価値の創出を目指すworXlabでは、いきいきと働ける環境を提供するために様々な取り組みを行っている。具体的には、オフィスに求められる機能を「安全」「交流」「集中」「回復」の4つに設定し、それぞれのソリューションを「光」「空気」「音」「香り」「映像」を使ってオフィスフロアに点在させている。ここでは、HCLの考え方が反映された「光」を利用したソリューションに注目する。

(画像はパナソニック株式会社のウェブサイトより)

例えば、フリーアドレススペースに導入された「フレキシブルゾーニングソリューション」では、光と音を使い分けて執務エリアの環境を制御。エリアごとに照明の色温度や照度、音の組み合わせを変えることで、リフレッシュできる「Nature-mode」、リラックスできる「Cafe-mode」、集中するための「Booth-mode」といったスペースのゾーニングを実現している。

また、「集中持続サポートソリューション」を採用した個別ブースでは、利用者の状態をモニタリングして集中力の低下を検知。低下が見られたら光や気流・香りで刺激を与え、集中力を維持できる環境へと切り替えている。

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2.空を室内で再現し、生体リズムに働きかける「青空照明」

HCLプロダクトの中でも昨今注目されているのが、「青空照明」や「天窓照明」と言われる太陽や空の仮想空間を人工的に再現する照明システムだ。

イタリアのCoeLux S.r.l.(コールクス社)によるCoeLux®シリーズはそのパイオニア的存在であり、日本国内でも2017年から販売が開始され、オフィスや店舗、公共施設など多様な空間に導入されている。LEDと特殊なナノ技術を用い、自然界で発生している「レイリー散乱(空が青く見える自然現象)」を人工的に表現するもので、その高い再現性から話題を呼んでいる。

(画像はコールクス社のウェブサイトより)

国内企業が手掛けたプロダクトでは、パナソニック株式会社ライフソリューションズ社の「天窓Vision」や、三菱電機株式会社・三菱電機照明株式会社の「misola」などがある。天窓Visionでは、桜や冬景色といった季節の変化に合わせた映像コンテンツを追加できるほか、照明や音響などの機器と連動させる制御ユニットの開発も進めている。

青空照明のメリットは、窓のない部屋や地下エリアなど自然光が取れない場所でも、自然とのつながりや解放感のある空間を演出できる点にある。概日リズムに配慮した空の移り変わりや陽射しが表現され、まるで自然の中にいるような環境をつくり出せる。

ランカスター大学のケイリー・クーパー博士と、ビジネス心理学を専門とするロバートソン・クーパー社が行った研究によると、自然との触れ合いは従業員のストレスを軽減するだけでなく、幸福度や生産性、創造性の向上にもポジティブな影響を与えるという。近年注目される、自然の要素を取り入れた「バイオフィリックデザイン」においても、青空照明は今後さらに存在感を高めていくと予想される。

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3.多様な環境に適応する照明システム「Soliscape(ソリスケープ)」

オランダの建築事務所UNStudioとベルギーの照明ブランドDeltaLightとのコラボレーションで生まれた「Soliscape(ソリスケープ)」は、人中心の空間づくりを目的として設計された照明システムだ。UNStudioの共同設立者であるベン・ファン・ベルケル氏は、建築デザインのウェブサイト「Dezeen」の中で、「光、音、香り、空気質、気温など、多くの環境要因が私たちのウェルビーイングや健康に直接影響している」と語っている。


(画像はDelitaLightのウェブサイトより)

Soliscapeは音と光の2つの側面を組み合わせることにより、人々の日常生活をサポートする感覚的な「屋内環境」を作成する。スポット、直接光、間接光機能を持つtoolbox(ツールボックス)や円盤状の吸音パネルを多様に構成し、モジュラーフレームと合わせることで、個人の集中作業からグループのプレゼンテーションまで様々な場面に対応できる。

(画像はDelitaLightのウェブサイトより)

また、Soliscapeに搭載されているDeltaLightのMelanopic Light Technology® (メラノピックライトテクノロジー)は、高効率反射板と概日リズム制御の補助を行う、人中心のLEDテクノロジーだ。様々なビル管理システムへの接続が容易で、センサー技術を介して建築や空間と連動できる。人々の活動を学習し、ユーザーや場所における日常的なニーズやプログラミングに合わせ、最適なシステムを構成する。

ヒューマン・セントリック・ライティングの広がりと可能性

世界のオフィストレンドは「人中心」の考え方へとシフトしており、照明についても同様の潮流が生まれている。

そうした世界的な動きとあわせて、日本国内でも2018年にHCLの広がりを支援する団体「一般社団法人HCLE」が発足している。また、2021年3月に開催された国内最大級の展示会「ライティング・フェア2021」においても、HCLが重要なテーマの一つとして打ち出された。HCLは次世代の照明を語る上で、いまや必要不可欠なキーワードと言えるだろう。

今後、HCLの活用がさらに進み、ワーカーが健やかに働ける「人起点」のワークプレイスの創出が広まっていくことを期待したい。

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この記事を書いた人

Chinami Ojiriフロンティアコンサルティングで設計デザイン部に勤めた後、渡米。経験と知識を広げる為、現在はNYの美大にてインテリアデザインを学んでいる。



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