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健康経営で注目されるオフィスの緑化。国内外の最新事例

[August 11, 2021] BY Rui Minamoto

バイオフィリックデザインを取り入れたオフィスの広がり

「人は生まれつき自然とつながりたいという欲求を持っている」という考えに基づき、植物など自然の要素を取り入れた空間デザインを指す「バイオフィリックデザイン(Biophilic Design)」。海外でバイオフィリックデザインを取り入れたオフィスが多く見られることは、既存記事「ワークプレイスと自然の調和、バイオフィリックオフィス5事例」でも触れた通りだ。

環境省の有識者検討会がまとめた生物多様性及び生態系サービスの総合評価2021」では、「自然とのふれあいは健康の維持増進に有用であり、うつ病やストレスの低下、血圧の低下や頭痛の減少等、精神的・身体的に正の影響を与える」ことが示されている。また、健康増進のために、「豊かな自然にふれあう機会を提供していくことが今後さらに重要」とも提言している。

日本国内でも、コロナ禍をきっかけに労働のあり方が見直され、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」の重要性が高まっている。そこで本稿では、健康経営の観点からも注目を集めるオフィスの緑化について、導入のメリットと国内外の最新事例を紹介する。

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オフィス緑化のメリットは?

2019年に環境省が実施した「平成30年度職務環境における植物の導入による人々の福利・健康の向上及び生物多様性の主流化に関する調査」では、職務環境に植物を導入している企業17社146名を対象にアンケート調査を行っている。その報告書によると、緑がもたらす心理的効果をどの程度実感しているかを尋ねる問いに対し、87%の人が「とても実感する」「実感する」と回答。一方、生理的効果について尋ねると、「とても実感する」「実感する」と回答したのは全体の32%にとどまり、心理的効果をより強く感じている様子がうかがえた。

また、普段の生活においても緑との接触を増やしたいかを問う質問に対しては、78%が「やや増やしたい」「増やしたい」と回答した。オフィスで植物に触れることにより、日常における緑への興味・関心も高まることが考えられる。

同調査ではさらに、オフィス緑化の導入でどのようなメリットがあったかを尋ねている。その回答として、次のようなものがあげられた。 

・「企業イメージ向上」「リクルート効果」など企業価値が向上した
・「社内が明るくなった」「風通しが良くなった」「緑をきっかけにコミュニケーションが増えた」など職場の雰囲気が改善した
・「リラックス効果」「リフレッシュ効果」「ストレス軽減」などメンタルへの寄与を感じた
・「集中力向上」など労働生産性への寄与を感じた

また、調査結果のまとめとして、「生理的効果に関しての情報が知りたいという声は多く、どういった樹種や植物の量などで効果が出るかなど実証実験を行い、効果があるものがわかればよりオフィスでの導入促進に繋がるのではないか」と述べている。生理的効果についてはより多くのサンプルに基づく分析が必要となるが、オフィスの緑化を体験した結果、多くの従業員がポジティブな感触を抱いているのは間違いなさそうだ。

続いて、健康経営の観点のもと、オフィス緑化に取り組む国内外の最新事例を紹介する。

 

【国内事例1】植物のメンテナンスにかかる負担を抑えた「第一園芸」

商業施設の空間装飾や緑化事業など、植物を軸に幅広く事業を展開する第一園芸株式会社。同社は、2020年2月の本社移転に際し、自社オフィスを空間デザインのモデルケースとして活用した。

空間デザインは自社の環境緑化・空間装飾ブランド「OASEEDS」が手掛け、無機質になりがちなオフィスを緑豊かな空間にし、リラックスしながら仕事に取り組める環境を整えた。従業員のストレス軽減や知的生産性の向上が得られるかなど、オフィス緑化による効果検証を行い、サービスの向上に取り組む考えだ。

同社の緑化は、季節ごとに植物装飾を変更して来客を迎える「エントランス」、通路側に木立の中を歩いているような演出を施した「リラックススペース」、目に入る風景に変化が出るよう、緑の濃淡や質感の違いなどを考慮して観葉植物を配置した「オフィススペース」に取り入れられている。

 


第一園芸の新社屋エントランス。装飾品にマグネットを組み合わせることで、簡単に取り外し可能な壁面什器が採用されている。(画像は第一園芸のプレスリリースより

使用環境に合わせた空間づくりを可能にし、可変性・拡張性に優れた什器を積極的に使用することで、植物装飾の変更を容易にしている点に特徴がある。また、手入れしにくいハンギンググリーン(壁や天井からぶら下げるタイプの植物)には人工植物を採用するなど、日々のメンテナンスの負担を減らすことで、持続可能性のあるオフィス緑化を提案している。

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【国内事例2】緑化効果を脳波で測定。次世代オフィス像を構築する「東急不動産」

東急不動産ホールディングス株式会社東急不動産株式会社は、2019年8月、東京都渋谷区道玄坂のオフィスビル・渋谷ソラスタに本社を移転した。

東急不動産はオフィスビル事業において、植物が持つ力を最大限に活用し、日本の新しい働き方をデザインするプロジェクト「Green Work Style」に取り組んでいる。新社屋には、約250種類の植物を配置。緑を効果的に取り入れたワークプレイスを実現し、オフィス緑化で得られる効果について、従業員の脳波などから科学的に検証する実証実験を行っている。

渋谷ソラスタには各フロアにグリーンテラスが、屋上にはスカイテラスが設けられており、コミュニケーションやリフレッシュの場となっている。(画像は東急不動産のウェブサイトより

移転3カ月後の2019年11~12月には、従業員32名を対象に、緑化した会議室と緑化していない会議室を用意して会議前・中・後に簡易脳波測定を行い、気分の変化を検証している。実験の結果、緑化した会議室は緑化していない会議室に比べて、会議中のストレス度が低く、快適度と興味度が高い状態にあることが明らかになった。また、緑化した会議室のほうが、会議前のワクワク度が20~30代で132.4%高く、40~60代では興味度が117.4%高い傾向にあったという。

(画像は東急不動産「Green Work Style」プロジェクトのウェブサイトより)

実証実験を監修した、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授の満倉靖恵氏は、「緑化されている会議室は、緑化されていない会議室と比べ、興味度やワクワク度が高まっていることから、会議に臨む意欲が上がることが期待できます。(中略)また、緑化された会議室はストレス度が低く、快適度も高まっていることから、落ち着いた状態で会議を行えることが考えられます」と総括している。

本研究の特徴は、簡易脳波測定により、会議室の緑化が脳に与える影響を可視化しているところだ。緑化の効果をグラフや数値で明示することは、次世代型オフィスモデルの構築に役立つと考えられる。

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【海外事例】人間と自然をつなぐオフィス緑化を実現した「ヒーロー」(スイス)

スイスの自然食品メーカー・ヒーローは2018年から2020年にかけて、その名もBiofilicoという企業とともに、バイオフィリックデザインを取り入れたグローバル本社のオフィス設計プロジェクトを行った。Biofilicoは、ロンドンとバルセロナを拠点としており、健康、自然、持続可能なデザインを得意とするウェルネスインテリア・コンサルティング企業である。

同社は、バイオフィリックデザインを、「自然を取り入れた建築やインテリアを通して、工業化された世界における人間と自然の断絶に取り組むもの」と定義している。その実践のために、光、香り、植物、装飾、空気の質、音、色、素材などを利用するのだという。

オープンプランのオフィスに必要となる、従業員の快適性とプライバシーを確保するための防音電話ブース。オフィスの緑化に合わせてナチュラルな色調が採用されている。(画像はBiofilicoのウェブサイトより

 

その考え方は、オフィスに設置された柔らかくナチュラルな色調の防音電話ブースや、「静けさ」をコンセプトにしたクワイエットルームなどに体現されている。緑化については、地元で植物を扱う業者の協力を得て、1階のレセプションエリアに屋内庭園を設置している。さらに、地元の造園業者とのコラボレーションで、屋外にもワークスペースを設けている。

屋外ワークスペースのコンセプトイメージ。自然食品メーカーとしての「自然の良さを守る」というミッションを反映した、健康的で緑豊かな生産性の高い職場となっている。(画像はBiofilicoのウェブサイトより)

従業員が働く環境全体を、人が生物として親しみやすいものにすることで、集中力の向上やストレスレベルの低下、気分や活力の向上に貢献し、より高いレベルの快適さと幸福を追求している好例だ。

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オフィス空間が自宅より快適になる未来も

オフィス緑化の心理的な効果と比べ、生理的な効果についてはまだ解明の過程と言える。それでも、健康経営の観点から従業員に対するメリットを見越し、大企業を中心にその導入は進んでいる。事例で紹介したように、メンテナンスの負担を抑える工夫がなされたり、数値化されたオフィス緑化の効果が共有されたりすることで、実践する企業はさらに増えていくことだろう。

ヒーロー社の事例のように、自然環境における様々な要素をオフィスに体現する試みは、オフィス空間が自宅よりも快適になる未来さえ想像させる。

人生の多くの時間を費やすオフィス空間が、自然に限りなく近づいていくとしたら、私たちの働き方は一体どのようなものになるのだろう。探究心や好奇心を刺激するような事例がますます増えることを期待したい。

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この記事を書いた人

Rui Minamoto 女性誌のインタビューから経済誌の書評欄まで、幅広いテーマの取材・執筆を担当。近年は、広告・PRプランナーとして消費者インサイトの発掘や地方若者議会で「広報力養成講座」の講師も務めている。

    

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