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ワークプレイスと自然の調和、バイオフィリックオフィス5事例

[October 30, 2018] BY Kazumasa Ikoma

現代のワークプレイスで植物や緑を見る機会が増えたと思う読者の方は多くいるのではないだろうか。今回は植物を活用した緑溢れるオフィスデザイン「バイオフィリックデザイン」をテーマに、オフィスの事例をいくつか紹介したいと思う。

「バイオフィリア」とその背景

9,386人のアメリカ人を対象としたEPA(Environmental Protection Agency)のリサーチによると、人間が生活の中で建物の中にいる時間は平均で90%以上と言われている。2001年のこの調査結果以来、建物内の環境を利用する人のために改善しようとする取り組みが進み、特にここ10年の間では緑を積極的に取り入れた建物が多く見られる。

こういった背景の中で、著名生物学者のエドワード・ウィルソン(Edward O. Wilson)氏によって1984年に提唱された「バイオフィリア(Biophilia)」という言葉が注目を浴びるようになった。彼曰く、自然体系の一部として「人間には生まれ持って自然とのつながりを求める本能がある」という。理論自体は賛否両論のあるものだが、今日私たちの生活が自然やアウトドアな環境との間に距離のあるものだと問題視する声は多く、人間が自然と近い環境で生活すべきという考えは徐々に支持されるようになった。

その他にも実際に人間が自然環境に身を置けていない事実が数々の研究で明らかになりつつある。Accent Officeによるリサーチでは、働く人の47%が自身の労働環境において十分な自然光を得られておらず、また55%が植物のような自然な緑と近くで触れ合えていないという結果が出ている。そしてこのような自然環境の有無と社員の生産性や健康面との関係性は今日多くのメディアで取り上げられている通り。働く人のことを考えたワークプレイスに緑は欠かせない、という認識が一般化されつつあるのである。

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このような緑を多く取り入れた「バイオフィリックデザイン(Biophilic Design)」の話は本メディアで度々触れてきたが、ここで改めて注目し、今までどのようなオフィスが生まれてきたか振り返る機会としたい。現在すでに数多くあるバイオフィリックデザインのオフィスだが、事例として5つの企業オフィスをご紹介する。

1. Allegro

まず1つ目に取り上げるのが、Eコマースプラットフォームを提供するAllegroのポーランド・ワルシャワにある本社オフィス。2016年に超高層ビル「Q22」に移り住み、11階から13階までのデザインを行った。先述の自然植物や自然光の量の課題が考慮された開放的な空間が特徴的だ。

「オフィスがもっと自宅のように温かみを感じれる空間だったら?」「ミーティングがもっとリビングルームのような場所で行えるとしたら?」デザインを担当したWorkplace Solutionsはこのように自問自答を繰り返しながら、働く人が戻ってきたいと思える空間作りを行ったという。5,500平方メートルに広がるスペースを「人が戻るオフィス」にすることで、Allegroの450人に及ぶ社員同士の関係構築サポートを行うのがこのデザインの目的だった。

比較的自然と隣り合わせにあるワルシャワの都市だが、オフィスの中の緑も当然必要だった。むしろ普段から自然に近い環境にいるからこそ、オフィスにはなおさら自然の緑があって当然だったかもしれない。

写真はWorkplace Solutionsより引用

2. SelgasCano

スペインの建築事務所、SelgasCanoのオフィスは2007年完成と10年以上前のプロジェクトである。しかし、「自然と働く人の調和」というテーマにおいては、触れずにはいられないオフィスだ。

社名の由来となったホセ・セルガス(Jose Selgas)氏とルシア・カノ(Lucia Cano)氏の創業者の2人はスペインのマドリードにある本社オフィスで「バイオフィリアの重要性」を再現した。建物の半分は地面に埋まり、自然との一体感をより感じさせる。暑さ20mmにもなるカーブのある窓は、透明アクリル板で作られている。一方、透明な窓とは反対側の壁はファイバーグラスとポリエステルで作られた暑さ110mmのもので、直射日光から影を作る役割を担う。建物の片端には重さをかけることで開くメカニズムの開口部が設けられており、自由な角度で開け閉めが可能。その機能も極力自然に配慮された作りとなっている。

ちなみにSelgasCanoは他のプロジェクトでも緑をふんだんに取り入れたデザインを行っている。2017年2月にオープンしたばかりのポルトガル・リスボンのコワーキングスペース「Second Home Lisboa」では、1000以上の植物が曲線で作られた白いテーブルに配置され、250人のメンバーに自然豊かな環境が提供されている。

Second Home Lisboa

Second Home Lisboa写真はdesignboomより引用

3. JOANY

個人向けに市場のあらゆる保険から最適なものを提供するスタートアップJoanyが、今年3月カリフォルニア州ロサンゼルスに新オフィスを完成させた。

彼らのオフィスの特徴は緑に囲まれた作業スペースの「Growroom」。この箱自体はIKEAのイノベーションラボが2016年に発表したもの。Growroomと呼ばれるのは、この箱で実際に野菜や果物を育てることができるからだという。いずれにして、オフィスにいながらも必要な時には即座に緑に囲まれた集中スペースに身を置くことが可能だ。

オフィス全体のデザインを行ったのはケリー・ロビンソン(Kelly Robinson)氏。「保険の購入にシンプルさと透明性を」という企業ミッションのもと、オフィスを自宅にいるような雰囲気にしたいという創業者の希望により、新デザインには健康的かつバイタリティを感じれるような空間設計を取り入れることが本プロジェクトの中核になったという。バイオフィリックという観点から言えばIKEAにクレジットが行くだろうが、この緑をうまくオフィス全体の中に溶け込ませ、結果として働く人と緑を近づけたロビンソン氏のデザインも同じく評価されるべきだ。

写真はKenny Robinsonより引用

4. Google Office

4つめに取り上げるのはGoogleのオフィス。同社の企業理念でもある「To create the happiest, most productive workplace in the world(世界で最も幸福度の高い、生産性の高いワークプレイスを)」は比較的有名であるが、そのような社員第一のオフィス作りを行う企業はもちろんオフィスに多くの緑を投入している。下写真のように、Googleオフィス内の緑はほぼどのオフィスにも共通して見られる特徴である。

google office テルアビブオフィス

その中で特に自然感を強く表現しているのがスイス・チューリッヒにあるオフィス。「ジャングルルーム」には文字通りジャングルで生い茂るような植物がそのまま採用され、個人の作業スペースや少人数のミーティングスペースが空間内に用意されている。さら日本庭園を思わせる別の空間では、単に緑を取り入れるだけでなく「空間としての調和」を意識した作りで、緑を活用して部屋全体で社員の集中力を高める特別な空間作りが施されている。

5. Amazon Spheres

過去にも取り上げたAmazonの球体型ワークスペースだが、数あるバイオフィリックデザイン事例の中でも極めて独特かつ大胆なものだろう。Curbedのインタビューにおいて同社のバイスプレジデントであるジョン・シュートラー(John Schoettler)氏は、現代のオフィスに足りないものを考えたときに自然とのつながりだったと語っている。

プロジェクトを担当した世界的建築事務所NBBJのプリンシパルであるジョン・サボ(John Savo)氏によると、最大の難関は自然と人間両方に等しくベネフィットになる環境を作ることだった。その答えとなったのが、雲霧林(うんむりん)だったという。雲霧林とは、気温が涼しく湿度の高い、常に霧や雲に覆われる高地の熱帯林。珍しい生態系が集まりつつも生物多様性が豊かであるこの雲霧林の特徴が、今回のバイオフィリックデザインのテーマに適していたのだろう。この植物に合わせ、スフィア室内の気温は20〜23度、湿度は通常のオフィスよりも少し高い60〜65%に維持されている。人がいなくなる夜7時以降から明け方にかけて湿度は80〜85%まで上がるが、植物の概日周期の一部として管理が行われている。豊かな自然を社員に提供し、また植物にも無理のない環境を用意することで、人間と植物が共に生きる空間を実現している。

本プロジェクトを担当したNBBJのリードデザイナー、デール・アルベルダ(Dale Alberda)氏はこのスフィアを通じて「従来の『労働環境』とは全く異なる環境に社員がいられるようにした』と語る。彼は「厳密な意味でいうと、スフィアは(植物用の)温室でもなければ、オフィスビルでもない。その2つを兼ね備えた新しい建物だ」と続けた。アマゾンスフィアは、バイオフィリックデザインを通して、ワークプレイスの概念を進化させたと言っても過言ではないだろう。

アマゾンスフィア写真はCurbedより引用

関連記事:【後編】働き方改革はGAFAに学べ 世界4大テクノロジー企業が取り入れるコーポレートキャンパスとは

まとめ

今回5つのオフィスを通じて、企業が単にオフィスに植物を持ち込んだだけでなく、雰囲気や企業のブランド、また社員の働き方を考慮しながら導入している工夫が見られた。ここ十数年でバイオフィリックデザインが浸透してきた中で、次のフェーズとしてどのような形で「緑と調和したオフィス」が実現されるのか。注目が引き続き必須だ。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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