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コモレビズが語る、バイオフィリックオフィスで学ぶべき「自然との触れ合い方」

[July 24, 2019] BY Kazumasa Ikoma

緑豊かな植物を取り入れた「バイオフィリックオフィス」が欧米を中心に世界的なトレンドとなっているのは「ワークプレイスと自然の調和、バイオフィリックオフィス5事例」で触れた通り。健康経営への意識高まる日本でも注目されつつあるが、広く浸透するのはまだこれからといったところだ。

今回取材を行ったパソナ・パナソニック ビジネスサービス株式会社(PBS)が提供するサービス『COMORE BIZ(コモレビズ)』は日本のオフィスのバイオフィリック化に頼もしい存在だ。「ワークプレース(職場環境)をライトプレース(人間に最適な自然環境)に」というビジョンのもと、働く環境を自然環境に近づけることで企業の健康経営と社員の生産性向上を実現する。実証実験を重ねて自然環境が人間に与える効果の見える化を行い、エビデンスに基づいたバイオフィリックデザインを実践するサービスとして、筆者は注目している。

日本における緑化オフィスが持つ本当の意味や価値とは何なのか。同社の代表取締役副社長、岩月隆一さんに話を伺った。

これまでも緑と調和していた日本のオフィス

オフィスに緑がある光景自体は別にめずらしいものではない。これまでも日本のオフィスには待合室をはじめ数々のスペースに緑が添えられていた。しかしその目的は、硬いオフィスに少し和らぎを与えたり、デッドスペースを隠したり、という程度のもので、緑が人間に与える効果までは考慮されていなかった。

「社会の問題点を解決する」「人を活かす」この2軸を持つパソナグループにおいて総務系業務を受託してきたPBSは、働く場が人材に与える影響は大きいと常に考えていた。その中で生物学者のエドワード・O.ウィルソン教授が提唱するバイオフィリアの考え方と出会い、オフィスにある緑は活用方法1つでその効果をもっと引き出すことができるという気づきを得たのがコモレビズの原点になった、と岩月さんは話す。そこに通信事業を展開する日本テレネット株式会社と緑を生かした空間デザインを提供するparkERsが連携し、同サービスは誕生した。

バイオフィリアがウィルソン教授によって提唱されたのは1984年。当時は賛否両論の概念として注目は一時期下火になったものの、2000年以降からアメリカのオフィスで意図的に緑を取り入れるケースが徐々に増えていった。バイオフィリックオフィスの効果を検証する論文もその数を増やし、現在の緑化オフィスのトレンドに至る。コモレビズはその論文に目をつけ、これから増えつつある日本のグリーンオフィスが単に「視覚的に映りの良いオフィス」にならないよう、科学的根拠に基づいたソリューションの提供を日本で広めていく、というのが背景だ。

大阪にあるPBS本社オフィス。視界に色鮮やかな緑が映るようコモレビズ独自の空間設計がされている。

多くの企業の人事・総務から支持を得るエビデンスの力

実際にサービスの提供を開始したところ、当初の想定を上回り、大企業の人事・総務や働き方改革推進室、健康経営推進室、また経営部門に近いところやコワーキングスペースなどから導入への興味を示す声が多く届いているという。その彼らを惹きつける一番の理由となっているのが、コモレビズが持つエビデンスの力だ。

その要素の1つにあるのが緑視率。緑視率とは、人が着座した状態の視界(120度)に占める緑または植物の割合のこと。2013年に豊橋技術科学大学松本名誉教授が日本建築学会で発表した研究結果によると、緑視率が10~15%の環境で人のストレスレベルは最も効率的に下がるという。コモレビズではこれを活用し、どの座席でもこの緑視率を保つように適切な植物の配置を行う。

緑視率とその最適値とされる10〜15%を示した図

扱うのは視覚だけではない。例えば聴覚の面でいえば、人間の耳の可聴領域とされる20Khzを超える高周波成分を含んだハイレゾ音響を駆使し、バイオフィリックサウンドデザインを提供する株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテイメントのKooNe(クーネ)と提携。録音した高音質な自然音を壁などに乱反射させる間接音響の技術を駆使して小鳥のさえずりは上から、小川のせせらぎは下から聞こえるように忠実に再現することで、社員の集中力向上やストレス低減の効果を引き出す。KooNeの空間音響にもリラックス効果があるというエビデンスがあり、現在では五感から空間の質を上げるための研究を行うプロジェクト『KANSEI Projects Committee』とも連携している。

コモレビズでは他にもアロマを活用し嗅覚からも自然の効果を引き出す取り組みを行っている。嗅覚は働く人の頭の切り替えに非常に便利なもので、先日の記事でも「嗅覚は視覚や聴覚と違い、得られた情報を考えて理解するというプロセスを通さずに、感情や本能を司る大脳辺縁系に直接信号を送る。」と説明した通り。このように自然環境が人間の視覚や聴覚、嗅覚など五感に与える影響をエビデンス化することが、健康経営につながるサービスの明確な導入結果を求める人事・総務担当者の心を掴んでいるのだ。

空間要素の研究も進める

さらにエビデンス化を進めるコモレビズは、今年5月にトヨタ自動車との共同研究を発表。「今までとは違った観点での研究」と岩月さんが語る通り、植物が人間の五感に与える影響というこれまでの研究の枠を超えて、植物のある空間そのものが人間にどのような効果を与えるのか、より総合的な観点から科学的に解明を進めるという。空間は多くの要素によって構成されるが、身体に良いとされる自然環境において最も重要となる要素は何か、またそれを科学的に再現するにはどのような方法があるか、その答えを見つけ出していく。

また別の研究課題として挙がっているのが、植物が人間に与えるプラス面の影響の有無だ。現時点では、植物は人間のストレスレベルや疲労度を下げたり、欠勤率を下げたり、とネガティブな要素を取り除く効果の方が多く発見されている。この共同研究では、むしろ集中力や幸福度の向上など、プラスの方向で働く効果があるか探していく予定だ。

そして一番重要なのが、植物のオフィス導入における費用対効果をはっきりさせること。導入して得られるメリットを明確にすることで、日本でも緑を通じた社員の健康基準や生産性の向上を実践する企業がさらに増えることを期待したいと岩月さんは話す。

ストレスレベルを測る非接触バイタルセンシングで緑の効果を実感

コモレビズが今年3月に本格導入を発表した非接触バイタルセンシングも興味深い。これは疲労科学研究所監修の方法のもと、パソコンのインカメを通じて社員の目の下の部分から推定される脈拍を測り、ストレスレベルや疲労度、幸福度を割り出すというもの。植栽の導入前後で数値を測り、その効果が社員に表れているか検証を行うツールとして活用することができる。

またこのセンシング技術では時間ごとの計測結果をレポーティングすることも可能で、例えば会議が人によって幸せなものであったかそうでなかったか測ることもできる。従業員の幸福度と生産性の関連性を明らかにし、彼らのパフォーマンスを管理するツールとしての活用も見込まれる。コモレビズのエビデンスに対する徹底した姿勢はさらなる展開が期待されている。

非接触バイタルセンシングで得られたハッピー指数のレポート

緑を取り入れるだけではバイオフィリックデザインと呼べない

身近でバイオフィリアを実践できる方法を聞いたところ、岩月さんは快く答えてくれた。どの植物がどのような効果を発揮するか非公開ではあるが、エバーフレッシュやシュガーバインなど葉が柔らかい植物の方が基本的に人間のストレスを下げるという。また日常での工夫として、自分の視覚の中にどんな植物があってもストレスが上がることはないため、小さな植物を机の上に置いてみることを気軽に実践してみても良い。風の流れがあるところで少し葉がブローされるような状態の方が望ましいようだ。

しかし、バイオフィリアを実践する上で緑のある環境にただ身を置けば良いというのは本質的な考え方ではないと岩月さんは語る。そもそもバイオフィリアには「植物を愛でる」という意味があり、社員1人1人が植物と触れ合い大事に育て上げる姿勢を身に付けることが、本当の意味で緑の効果を得られることだという。

実際に岩月さん自身も朝オフィスに来て植物に霧吹きで水をあげる時にこそ自らリラックスできている実感があるという。ケアをするという行為こそに意味があり、そうしたちょっとした気遣いができるか否かは社会人として周りに気を配れるかに通ずる。植物は、その人自身を表す鏡になり得る。

先日紹介したThink Labの植栽もコモレビズが手がけている

とにかく身の回りの植物を通して自然との触れ合い方を学んだ人間は、オフィスだけでなく私生活でも緑と触れ合う機会を増やし、ストレスレベルが低く落ち着きのある時間を過ごせるようになる。多くの人がこのバイオフィリアの本質的な考え方を知るきっかけとなるからこそ、日本の働く環境におけるコモレビズの存在は大きいと筆者は捉える。

最後に:日本らしさを活かした緑環境の実現へ

世界のトレンドを見てみると、海外企業では植物に対する意識が高い分、そのスケールも日本とはまったく異なる。緑溢れるキャンパスの中にオフィスを作ったり、オフィスの周りに大量の植物を植えるなど、積極的な投資を行う例が数多く存在する。転職市場も盛んなアメリカでは人材をつなぎとめるために緑は欠かせない要素とされている。

しかし、日本ももともと自然豊かな国。「素晴らしい自然がある分、それを体感すべき」と岩月さんは話す一方、今日本では都市部に人が集中する現象が今も進んでいる。そうした時に身近に緑を感じることができつつあるオフィス環境はより重宝されるだろう。PBSが働く場を通じて「社会の問題点を解決する」としたとき、今バイオフィリアに目をつけるのはまさにこれが日本の社会的問題となっているからだ。

今ではワーケーションも徐々に浸透し、緑のあるところに人を寄せていく考えがこれからも増えるかもしれない。しかし、まだ当面は働く人が地方に場所を自ら移すことは少なく、オフィスに集中するだろう。それならオフィスが笑顔溢れる空間になってほしいと岩月さんは締めくくった。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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