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オフィスワーカーの腰痛や運動不足に向けて「体を動かす」コンセプトで作られた事務椅子

[November 20, 2018] BY Shinji Ineda

長時間椅子に座り続けることにより生ずる肩こりや腰痛。最も腰に負担をかけない座り方を習得している達人であれば話は別かもしれないが、一般的にデスクワークを中心とする人は、遅かれ早かれこの悩みに直面する場合が多い。英語で座りっぱなしの状態をセデンタリー(sedentary)と言うが、WHO(世界保健機関)でも早期死亡につながるとされるこの状態について、喫煙やアルコールの飲み過ぎなどと並べ警鐘をならしている。「座りっぱなしが死につながる」という見方を大袈裟と感じる人も多いだろうが、実際のところ腰痛や肩こり、そして運動不足という初期症状を実感している人は決して少なくないはずだ。

「座りつづける」ことを避けるためにこれまで導入されてきたスタンディングデスク

ここ十数年で、Sedentary Death Syndrome(座りつづけることが死につながる症候群)という刺激的な病名は世界中のオフィスワーカーに衝撃を与え、欧米を中心とした企業のワークスタイルに大きな変化をもたらしてきた。

ヨーロッパでは遡ること28年前、1990年に発令されたEU(欧州連合)指令(加盟国に対して目的の達成を求める。方法までは定めていない。)によって、昇降式デスクの普及が進み、デンマークやスウェーデンなどの北欧ではその普及率が現在90%を超えると言われている。

こちらはスウェーデンに本社を構える企業の日本オフィス。本国での働き方が日本のオフィスにも反映されている。

また最近の話題でいうと、カリフォルニア州クパチーノにあるアップル新本社のアップル・パークにおいても、「全従業員のデスクを100%スタンディングデスクにした。」とCEOのティム・クックが6月13日に公開されたデービッド・ルーベンシュタイン(David Rubenstein)とのインタビューで語っている。

アメリカでは大人が働く職場環境だけに留まらず、子供が通う小学校にもスタンディングデスクの導入が行われており、これまで一般的であった常時着座から、立ち座りを使い分けるスタイルが、学びの段階からデフォルトとして染み付いていく環境が作られているケースもある。

サンフランシスコ郊外の学校の様子(District Administrationより転載)

とはいえまだまだ長時間の着座を見かける日本のオフィス

長時間の着座を回避する方法としては、スタンディングデスクの導入だけが全てではない。業務の合間に休憩を兼ねて体を動かす、数十分に一度必ず立つようにするなど、ちょっとした工夫で体の負荷を軽減するように努めている人も多いだろう。

これらの施策が世界中のオフィスで啓蒙されているとは言いつつも、まだまだ日本のオフィスでは長時間の着座シーンを多く見かける。20ヶ国の成人(18〜65歳)49,493人を対象とした調査(The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire )によると、台湾・ノルウェー・香港・サウジアラビアと並び日本が最も着座時間が長いと報告されている。また調査結果の中であわせて注目したいのが、デンマークやスウェーデンと同じ北欧にあるノルウェーがこちらに名を連ねている点。同国はEU非加盟国のため、前述したEU指令の影響がないと考えられる。いかに国の政策が働き方に大きな影響を与えるかがわかる。

日本国内の話に戻すと、数年前まで通常のデスクと昇降機能付きデスクでは価格に大きな差があり、検討の土台になかなか乗ることがなかったが、オカムラのSwiftの誕生をきっかけとして各メーカーが低価格化を図り、従来よりは導入しやすい状況には確実になっていると言える。しかしこれまでの慣習的なものに加え、EUのような国や地方自治体からの後押しがないため、普及にはまだまだ時間がかかりそうだ。

ともなると、長時間の着座時でもいかに体の負担を減らせるかが鍵になってくる。

オカムラのSwift(オカムラWEBサイトより転載)

KOKUYOの「ing」のコンセプトは「座るを解放する」

これまでの事務椅子は、リクライニング機能である前後の動きを有するものが多くを占めてきた。しかし近年、腰痛や肩こりと行ったオフィスワーカーが抱える問題に対して、少し異なる角度で製品を開発する動きが出てきている。

オフィス家具メーカーのコクヨは、 昨年2017年11月に「座るを解放する」というコンセプトのもと、座っている状態でも体の動きを止めない、イノベーティブなイスとして「ing(イング)」の発売を開始した。コクヨによると、「ing」に座って揺れながら4時間のデスクワークをするだけで約1.5kmのウォーキングに相当する運動効果があることや、創造的で有用なアイデアの発想数が13%アップするなど、体や脳に良い影響があるという実験結果を公表している。

KOKUYO ingの製品ページ

 

ポーランド発のオフィスチェア「Xilium」

先日ドイツのケルンで開催されたOrgatec。そのオフィスやファシリティー分野の国際見本市にて、ポーランドのクロスノにヘッドクォータを構えるオフィスファニチャーカンパニー 「Nowy Styl Group」が初披露したのが「Xilium」だ。従来の前後の動きに加え、X-MOVEという独自の機構によってサイドの動きを可能としている。またヨーロッパの人々の平均身長が祖父母の年代と比較して11cm伸びているリサーチ結果をあげながら、身長や体重など人それぞれ異なる体型や生活習慣の多様化に着目し、幅広い調整オプションを使用することで性別や国籍に関わらず、多くの人々に適応し健康を守ることができると述べている。

Nowy Styl Group  Xiliumの製品ページ

 

体を動かすチェアのパイオニア Wilkhahn

これら「体を動かすチェア」を語る上で、世の中に発信したパイオニア的な存在として忘れてはならないのが、ドイツのハノーファー近郊バッド・ミュンダーに本拠地を構えるWilkhahn(ウィルクハーン)だ。同社は10年の研究成果をまとめた「Office for motion」で、より多くの身体活動を日常のオフィスワークに取り入れる重要性を説いている。同レポートでは腰痛や肩こりなど筋肉・関節の疾患が、長時間デスクの前に座っていることによると考えを述べるとともに、ストレスフルな状態の時に限ってさらにデスクの前でコンピュータ画面を見つめ続けている状況を引き合いにだし、「身体を動かさなければ、人間が生来身につけている、ストレス解消のメガニズムがうまく機能しません。運動不足からストレスが解消されない状態が続けば、免疫系が弱まり、本来の調整機構が乱れ、結果うつ病に繋がることもあり得ないことではありません。」と身体のみならず、長時間の着座が及ぼす精神的な影響についても訴えかけている。

ドイツ・Wilkhahn社 WEBサイトWilkhahn Japan WEBサイト

このようにオフィスの中での動きの重要性を製品開発のベースに置く同社が、ドイツ国立ケルン体育大学と協働し、5年の歳月を経て独自に開発したのが、ワーキングチェアのリクライニングをコントロールするメカニズム、トリメンションだ。人間の関節の動きをモデルに設計されているトリメンションメカニズムは、前後、左右、そしてそれらを組み合わせた回転運動を実現しており、ユーザーの身体の動きに追従するよう設計されている。

Wilkhahn Japan WEBサイトより転載

Wilkhahnはトリメンションメカニズムを有したチェアとして、ON(オン)とIN(イン)に加え今年にAT(アット)という新製品を発表しているが、早稲田大学スポーツ科学学術院の川上泰雄教授はWilkhahn JapanのWEBサイトにて、「座った状態でも体幹や骨盤の可動性が確保されるため、ONに座りながら適度な運動を行うことによって、 骨盤周りの筋肉のストレッチ効果やほぐし効果が期待できる。」と効果検証の結果を述べている。

ON(オン)

IN(イン)

AT(アット)

画像は全てWilkhahn イメージデータベースより

家具選びとあわせて意識も変えてみては

ここまでオフィスでの身体的活動についてこだわる同社が、休憩時間のストレッチや終業後のフィットネスではなく、日々の業務プロセスの中で実践できる効果的なヒントを共有しているので、最後にいくつか紹介したい。

会議は座ってするもの、という固定概念からはなれて、立って会議をしてみましょう。 

時折立ち上がらなければならないように、必要な機器や資料を分散させて下さい。

建物の最短ルートがいちばんよいルートではありません。いちばん遠回りしてみましょう。

トレーニングやワークショップの会場を誰かに設営してもらうのをやめましょう。

最初は少し不便に感じるところもあるかもしれないが、長い人生で健康な身体を維持して働くことを目的とすれば、その不便さも魅力的に感じることだろう。

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この記事を書いた人

Shinji Inedaフロンティアコンサルティングにて設計デザイン部門の執行役員を務める。一方、アメリカ支社より西海岸を中心としたオフィス環境やワークスタイルなどの情報を、地域に合わせてローカライズ・ポピュラーライズして発信していく。



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