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完全フリーアドレス化は危険?導入前に知っておきたい4つの事例

[January 08, 2020] BY Kazumasa Ikoma

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「完全フリーアドレスにしたけど失敗した」「期待した効果は得られず、むしろ社員のストレスを増やしてしまった」公にはならないものの、このような失敗事例の話を周りで耳にすることが最近多い。今回はフリーアドレスを検討している企業にこそ知ってもらいたい4つの事例に触れながら、完全フリーアドレス化の現実を見ていく。

巷にあるフリーアドレス導入メリットは鵜呑みにして良いのか?

フリーアドレス導入のメリットには、デスクのシェアリングによるスペース効率の向上、社員間コミュニケーションの促進、ペーパーレス化によるセキュリティの向上などが挙げられる。これらのメリットはすべてフリーアドレス導入後すぐに得られると期待して良いものだろうか?答えは「ノー」である。

例えばスペース効率の向上はフリーアドレス化がオフィスに与える最も直接的で明快なメリットだ。固定席を無くしデスクをシェアリングすることで執務スペースの総デスク数を減らすことができ、浮いた分をカフェスペースなどの共用空間に転換することができる。コスト削減という会社側のメリットのみならず、異なるデスクオプションをワーカーに提示するという現代の働き方改革との相性の良さもあるため、社員からの理解も得やすい。

一方気をつけなければいけないのが「コミュニケーションの促進」を目的としたフリーアドレス化だ。単に「コミュニケーション」といっても社内外には数多くの種類のコミュニケーションが存在するが、どれを促進の対象としているのか明確に定義されることはほとんどない。それに加え、コミュニケーション促進の必要性そのものが社員に理解されにくい点もある。フリーアドレス導入が逆にコミュニケーションの悪化につながるケースもあることを知っておかなくてはならない。

改善されるコミュニケーション、悪化するコミュニケーション

フリーアドレス導入は部署”間”のコミュニケーションや交流を活性化させるが、一方で部署”内”のコミュニケーションを減らすリスクを伴うことが近年発見されている。つまり、フリーアドレスは必ずしも生産性や創造性の向上につながるわけではないのだ。

センサー技術によって少しずつ露わになったフリーアドレスのコミュニケーションのおける効果を紹介する。

①森ビルの実験:「部署間コミュニケーションの向上」と「部署内コミュニケーションの低下」

2016年、森ビルは六本木ヒルズ森タワーにある本社で、社員が対面で行った交流の度合いをセンサー技術で計測。その結果、社内コミュニケーションの大半は部署・チームの中で行われていることがわかった。多くの社員が部署ごとに割り当てられた固定デスクに1日を通して在席し、オフィスの約20%のスペースを取っていたオープンエリアが利用されることがほとんどなく、部署間や全社レベルでのコミュニケーションに改善の余地があった。

森ビルの調査に用いられたセンサーの1つ、Humanyzeは過去の記事でも紹介したもの。「Sociometric Badge」と呼ばれる製品を首からぶら下げて通常通り作業をするだけで、声のトーンや大きさ、スピード、発言回数などのデータ収集のみならず、社員の居場所や誰と話しているかも把握するため、交流度合いや人間関係の構図を見える化する。

そこで森ビルは空間デザインが社員間のコミュニケーションに影響を与えるかを知るため実験を行った。同社は本社オフィスを構築する複数フロアのうち1つを選択。そこは部署ごとにデスクが島ごとにまとまって配置されているつくりだったが、フロアの一部デスクをそのまま固定席として残し、残りをフリーアドレスに変更して、対面コミュニケーションの変化を見た。その結果、部署”間”の交流は増加した一方、部署”内”の交流は著しく減少し、社員が個人作業を行う時間は以前に比べ1.26倍に増えたという。

部署間の交流増加は一見良い結果に思えた。上司を都度介すことなく他部署の必要な人物とコミュニケーションを取ることができるため、問題解決のスピードを早めることができる。また、社員が日常の業務内で必要な時にいつでも他の社員とコミュニケーションが取れるため、結果的に30分を超える会議の数が減り、個人作業をする時間も増えた。しかし、その裏側で起きていた部署内交流の低下によるいくつもの問題もフリーアドレス導入後6ヶ月で浮き彫りとなった。

まず1つ目は顧客からのクレームの増加。上司を飛び越えた会話が行われることで彼らの目が行き届かない部分が増え、適切な処理が行われていない件数が増えた。また2つ目に生産性の低下も見られた。会議の時間短縮は良い点かと思われたが、詳しく問題を紐解いてみると時間短縮で生産性を上げる社員と著しく下げる社員の2つに分かれた。

生産性を上げた社員は、それまで会議があくまで手引きを得る程度の目的だったために、その時間を個人作業に回すことができた。一方、生産性を下げた社員は会議を問題整理の立場として開催・参加していたために、それがなくなったことで同僚や部下から日常的にひっきりなしに声をかけられることで集中力維持が難しく、また疲労の蓄積にもつながった、という結論に森ビルは至った。

これらの結果を受けて、森ビルは部署ごとの固定席に戻し、オープンスペースの面積を小さくしたのである。もともと生産性の高いコラボレーションを生み出すオフィスづくりを目的としていた森ビルにとって、この決断には素早く動けたようである。

このようにフリーアドレスを導入する際は、単純に「コミュニケーションの促進」だけでなく、その先にある目的が「生産性の向上」なのか、それとも「創造性の向上」なのか、明確に定義する必要がある。目的が明確になれば、それに合わせたフリーアドレス化を実行しやすく、またこの事例のように効果測定も行いやすい。計画的なフリーアドレスは生産性と創造性を相互に向上させるが、目的を見失った完全フリーアドレスは生産性を低下させる危険な行為になりかねない。

②あるコールセンターの事例:コミュニケーションの促進は社員の動きが多い企業や部署で見られる

森ビルの実験で発見された部署間交流と部署内交流の変化は、海外の専門家からも指摘されている。彼らによると、その効果はフリーアドレス導入先企業の業界やその働き方、また社内の各部署によっても異なるようだ。

先述のHumanyzeサービスを展開するベン・ウェイバー (Ben Waver) 氏に加え、同じくセンサー技術を用いてワークスペースの分析を行うジェニファー・マグノルフィ (Jennifer Magnolfi) 氏とグレッグ・リンゼー (Greg Lindsay) 氏の専門家たち3人がHarvard Budiness Reviewにて共同で執筆した”Workspaces That Move People”では、彼らがこれまでセンサーを用いてオフィス改装前後で調査した社員交流の変化について知見が語られている。

それによると、あるコールセンターでは生産性向上を目的とした上で、「より少ない面積で数少ないデスクを配置した方が社員同士の距離を近づける」と仮定し、フリーアドレスを実験的に実施。その結果、他部署の社員との交流は17%向上した一方で、社員が他の社員と1日に会う回数は平均で14%減少した。在席率が高く社内での動きが少ないコールセンターへのフリーアドレス導入は彼らが利用するデスクを日々入れ替える程度で、社員同士が1日の中で偶然出会う機会を増やすことまではできなかったのである。

例えばマーケティング部署の人材はオフィス内での動きが多いため、フリーアドレス制のもとでは他の社員との出会いも自然と多くなる。しかし、コールセンターで働く社員のように一度オフィスに到着すると1つのデスクから離れない人にとっては、導入効果はほとんど見られない。実際にこのコールセンターでもチーム内コミュニケーションは結果的に45%も低下したという。「フリーアドレス化によりコスト削減には成功したが、収益と生産性低下を招いた事例だ」とウェイバー氏は語る。フリーアドレス化は、導入先の企業や各部署に合わせて調整されなければその十分な効果を期待することができない。

フリーアドレス導入に適さない部署

完全フリーアドレスが企業の生産性を下げる要因になるのは、適切でない部署にフリーアドレスが導入されたときである。一般的に在席率が比較的低く社内外とのやりとりが多い営業、マーケティング、PR、広報部門などはフリーアドレスの恩恵を受けやすい。一方、適さない部門も一部の管理部門を中心にいくつか存在する。

– 会計・経理部署
この部署は在籍率が高く、先ほど挙げたコールセンターのように動きの少ない部署であるため、固定席の方が良いとされるケースが多い。またお金を扱う集中作業が多いことから、フリーアドレス化で会話量が増える環境にふさわしくないと考える見方がある。

– 機密情報を取り扱う部署
企業によっては、顧客情報などを取り扱う部署はセキュリティ維持のために他部署と隔離された状態でワークスペースが用意されるケースもある。このような部署でのフリーアドレスは同じ部署内が限界で、完全フリーアドレスはふさわしくないとされる。

– ITヘルプ・サポートデスク
外資系企業によく見られるITヘルプ・サポートデスク。パソコンの修理やその他機材トラブルを請け負う部署は企業の生産性とも大きく関わる部署のため他の社員に居場所を特定の位置にしておく必要がある。

– エンジニア
これは企業や各エンジニアによって分かれるが、エンジニアも在籍率が高く、加えて自らのワークスペースにこだわりを持つワーカーが多いことから、彼らのために固定席を用意する企業が比較的多い。エンジニアが多いテック企業では、彼らの固定席にプラスしてフリーアドレスで働ける空間・デスクを同時に用意することが多々ある。

フリーアドレスを導入する部署と導入されない部署が生まれるのは公平性に欠けると思われるかもしれない。しかし、働き方が異なる以上、それぞれに適した空間を用意することが必要だ。そのため、フリーアドレス化は1つの企業内でも導入する部署と導入しない部署を慎重に考慮して進める必要がある。

次ページ:エイベックスの成功事例、フリーアドレスの全社導入を断念したAirbnb

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaオフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    
    
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