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【2019年ITトレンド】テクノロジーが変えるワークプレイスと働き方:後編

2記事に分けてお送りしている今年のテクノロジートレンド。後編では、ウェルネステックのワークプレイス導入と家族支援型の福利厚生について触れる。

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前編記事から続く今年のテクノロジートレンド予測。この後編では5つ挙げたトレンドの残り2つについて取り上げる。テクノロジーを通じて、社員の健康管理や家族支援に力を注ぐアメリカ企業の動きを探る。

1. コミュニケーションツールの整理が必要

2. 進むモバイル利用

3. 香り・嗅覚を働き方改革の味方に

4. データ活用は社員の健康管理が主軸に:ウェルネステック(Wellness Tech)分野の成長

5. 家族支援型の福利厚生制度の充実

それでは4つ目のウェルネステックから見ていきたい。

4. データ活用は社員の健康管理が主軸に:ウェルネステック(Wellness Tech)の成長

データの収集と活用が鍵と言われる今の時代、働く場における社員データはもちろんその対象の1つ。数あるデータの中で今年注目を集めるのは彼らの健康データだ。

企業向けに健康分析・コスト管理ソフトウェアを提供するSpringbukが2017年に8000の企業を対象に行った調査によると、回答企業の35%がすでに社内のウェルネスプログラムにウェアラブル製品を利用していると回答。そして残りの回答企業のうち48.6%が1年以内の導入を検討していると答えた。この8000社は同社が開催するHealthiest Employers Awardに参加した健康意識の高い企業のため、上記の数字は一般的な企業を含めた数字よりも比較的高めだと思われるが、それでもウェアラブル製品から得られるデータに基づいた社員の健康管理は注目が集まっていると言える。

その背景にはスマートウィッチを中心としたトラッキング機能の進歩がある。近年のスマートウォッチや健康ウェアラブルデバイスはヘルストラッキング機能が付くようになったことで、「フィットネス製品」という分野から抜け出し、「健康管理・医療デバイス」として進化しつつある。昨年9月に発表されたApple Watch Series 4は内蔵された電極とセンサーを通じて心臓の電気信号を計測し、従来よりも高い精度で素早く心拍数や心電図計測の結果を表示して、不整脈や心疾患の兆候を検出できるようになった。

実際の導入事例としては、昨年アメリカの大手ドラッグストアチェーン・CVS Healthに買収された医療保険会社のAetna(エトナ)が今年1月から社員にApple Watchを支給、健康的な生活習慣を送る社員にリワードを提供するプログラムを開始した。また医療保険最大手のUnitedHealthは企業に提供するウェルネスプログラム「Motion」の中にApple Watchを追加。医療保険企業とウェアラブル企業の提携は数年前から加速していたが、企業のウェルネスプログラムへの導入は本格化している。

Apple Watch for Corporate Wellnessのページより。企業のウェルネスプログラム導入に向けた開発が進む

同じくウェアラブル製品で有名なFitbitは昨年9月に法人向けに企業内ウェルネスプランへの導入を目的として、企業やヘルスシステムをつないでヘルスプランを管理するプラットフォーム「Fitbit Care」を開始。さらに企業のウェルネスプランや医療プランに特化して作られた製品「Fitbit Inspire」を今年1月に発表。働く人にフォーカスした製品づくりが次々と進む。

このような健康データの収集は社員の健康管理を促進する上で、ジムの社内設置や会員権の提供よりも効果的だという見方が近年されている。収集されたデータを毎日見れるようにすることで、従来ジムに行ったり運動したりしない社員にも健康に対する意識づけを行いやすい、という考えのようだ。

ちなみに日本で同様の流れが見られることはまだなさそうだ。日経 xTECHの記事によると、日本において心電計は法律上医療機器の認定を受ける必要があることから、Apple Watch Series 4に新たに搭載された心電図機能はまだ利用できない状態だという。またAppleやFitbitが英語ページで大々的に謳っている「コーポレートウェルネス」のキーワードは、日本語ページでは確認できない。ウェアラブル製品を通じたデータ収集で行う社員の健康管理は世界的なトレンドとなりつつあるが、日本でまだまだ先の話かもしれない。

5. 家族関連の福利厚生制度の充実化

最後に挙げるトレンドは、今まで人気の福利厚生の1つとして挙がっていた無期限の有給休暇が徐々になくなり、代わりに産休や育休をはじめとした家庭関連の福利厚生制度が手厚くなったこと。その福利厚生に含まれる卵子凍結や体外受精等のファティリティ(不妊治療)技術の進歩が、現代の働き方テックトレンドの1つとして取り上げた理由だ。

実はそこまで人気ではなかった無期限の有給休暇制度

これまで多くのテック企業やスタートアップでは「無期限の有給休暇制度」がもはや当然の福利厚生の1つとして提供されていたが、この制度の見直しが進みつつある。というのも、社員の多くは多忙を極める仕事量や同僚からの圧力(ピアプレッシャー)により、通常の有給制度で確保された日数よりも実際に利用する休暇日数は少なかったという。また雇用者側も無期限制にすることによって、会社を離れる社員に対し利用していない休暇日数分の手当を払う必要がない、という事実もあった。

そこで、あまり機能していないこの無期限の有給休暇制度を無くし、その分を他の福利厚生に割り当て始めているのが今の流れだ。特に今のテック企業が社員のダイバーシティを重視していることもあり、女性やLGBTQの社員のワーク・ライフを支援するファティリティ関連や家族支援型の福利厚生がさらに手厚くなっている。

卵子凍結や体外受精の支援

家族支援型の福利厚生制度は、業界問わずに対策が必要とされる人材不足やダイバーシティ問題を改善するために、優秀な女性社員やLGBTQ社員の獲得を目的として、近年多くの企業が力を入れている。そこに不妊治療技術の社会的な実用化が進み、同分野に専門を置くProgynyCelmatixといったファティリティ系スタートアップが誕生したことも影響して、卵子凍結や体外受精を会社の福利厚生として提供しやすくなったことが背景にある。

先日の記事『導入から5年、企業による卵子凍結支援の効果は?』でも取り上げたが、実際に卵子凍結を含むファティリティテックを利用する企業は年々増えている。企業向けのファリティリティプランを提供するFeritility IQの2019年レポートによると、アメリカ国内の400以上の企業がファティリティの福利厚生を提供し、リストにある企業の23%が制度を新たに導入した、または既存制度をさらに拡張させた企業だという。2018年レポートでの導入企業数は前年比10%アップの250とされたが、最新レポートではそれ以上の上昇率が見られたことになる。業界を代表する先述のProgynyでは、2016年には5社しかいなかった顧客が2019年に入り77社にまで増えたと同社CEOのDavid Schlanger氏が語っている。

Progynyのホームページより。LGBTQも含めた様々なカップルのニーズに応えるために、体外受精や卵子凍結以外にも代理出産や養子縁組制度まで包括的にサポートしている。

このファティリティ技術のおかげで子供を持つ社員が増え、産休・育休・家族休暇制度や養子縁組支援制度の価値が増すことになった。そこで家族支援制度の充実化にさらに拍車をかけようとしているのがまさに今の企業の現状である。

さらに拡張される家族支援関連の福利厚生

実際に家族支援型の福利厚生は昨年だけでも様々な企業で見られた。

例えばアメリカの大手食品会社のGeneral Millsは有給の産休・育休制度を3倍以上に変更。出産した母親は18〜20週間、父親やパートナー、養子縁組を行った親たちは12週間の有給休暇を現在取得可能だ。同社はさらに介護者向けの福利厚生も提供し、家族に深刻な健康問題を抱える社員は2週間の有給休暇を取ることができる。

同じく昨年から、Starbucksはアメリカの全従業員に対し、チャイルドケア支援プログラム「Care@Work」を展開。オンラインで子を持つ親とベビーシッターを結ぶCare.comと提携し、通常のチャイルドケアに何か起きた時に対応できるように、10日間分のCare.comのサービスを利用できるようにしている。アメリカの保健福祉省が2016年に行った調査によると、5歳以下の子を持つ親の200万人近くが十分なチャイルドケアがないために仕事を辞めるか、得られない状態にあり、同社はこの問題に対応しようとしたという。

今年も多くの企業で同様の福利厚生制度の改善が見られるだろう。それにもテクノロジーの進歩が大きく影響しているのである。

まとめ

今年もテックトレンド5つを挙げてみたが、どのトレンドにも日本にいる私たちがいずれ直面する課題がすでに見えている。海外企業が実際に直面した問題を私たちはうまく対処できるのか、もし今回挙げた事例や取り組みを参考にする企業が読者の中にいるとしたら、この記事がその準備に役立てられれば幸いである。

2019年も4分の1が過ぎた今、上に挙げたトレンドはよりわかりやすい形で表れてくるだろう。今年の動向を押さえながら、今後もテックトレンドと働き方の関係性を探っていきたい。

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

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