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【2019年ITトレンド】テクノロジーが変えるワークプレイスと働き方:前編

[March 26, 2019] BY Kazumasa Ikoma

ワークプレイスに導入されるテクノロジーは年々増えている。特に最近注目を浴びるABWのような自由度の高い働き方に、最新テクノロジーは必須だ。昨年の記事に引き続き、今年もテクノロジー事情とその影響力・懸念点を働き方やオフィスの観点から予想。アメリカを中心とした世界的なトレンド5つを前後編の2記事に分けて見ていく。

1. コミュニケーションツールの整理が必要

2. 進むモバイル利用

3. 香り・嗅覚を働き方改革の味方に

4. データ活用は社員の健康管理が主軸に:ウェルネステック(Wellness Tech)分野の成長

5. 家族支援型の福利厚生制度の充実

前編記事では、上記にある5つのトレンドのうち最初の3つについて触れる。

1. コミュニケーションツールの整理が必要

1つ目に挙げるトレンドは、社内のコミュニケーションツールとしてビジネスチャットツールの導入が多くの企業で進んでいること。しかし、ここで注目すべきなのは、チャットツールを導入した企業の多くが抱える2つの課題だ。

1つ目は、現在数多くのチャットツールが市場に乱立し、さらに導入企業の社内で様々なチームがそれぞれ独自で見つけたチャットツールを試験的に使うこともあって、社内のコミュニケーションチャネルが複数化していること。そして2つ目は、会社側がこのようなチャットツールを活用し円滑な社内コミュニケーションを増やしたいと願う一方で、社員同士のオフラインなコラボレーションも促したいという点だ。

「社内コミュニケーションの交通整理が必要」と海外のワークプレイスやIT専門家は口を揃えて述べるこの問題について、まずはチャットツール導入の現場から見ていこう。

導入が活発化するビジネスチャットツール

アメリカ国内企業を対象としたアメリカ広報協会(Public Relations Society of America: PRSA)のリサーチによると、たった2年前の2017年の時点では、社内の主要コミュニケーションツールにEメールを活用していると回答した企業は95%もあり、Slackをはじめすでに誕生していたビジネスチャットツールの利用はまだ一部のテック企業やスタートアップに限られていたことがわかった。同様にTechnalysis Researchが2017年2月に公開したアンケート結果でも、社内のコミュニケーションの75%が電話やEメールに依存し、チャットツールを使用していると回答した人は全体の4%程度だった。ビジネスチャットツールの社会全体的な導入はまだこれから、という認識が強かった。

しかし、今年1月にSlackは日間アクティブユーザー数が1000万人を突破したと発表。2014年の創業から5年目にして1つの壁を突破し、チャットツール導入企業やユーザーが今も順調に増え続けていることを示した。ちなみに同社の日本上陸は2017年11月、昨年8月には公式ローンチ発表という手順を経て、現在も日本のSlackユーザー数は世界第2位とアメリカに次ぐ市場となっている。2019年1月には、同社日本オフィスが人員拡大に向けてハッピーアワー等を通じたリクルーティング活動を進めており、日本での市場拡大を世界の中でも優先度高く行っていると思われる。

2019年1月、Slackは日間アクティブユーザー数(DAU)が全世界で1000万人、有料プラン利用企業数は85,000s社wを突破したと発表。今も導入企業が増えている。

さらにSlackの競合で、日本市場をターゲットにビジネスチャットツール開発を進めるChatworkも2018年12月に導入企業が196,000社を突破としたと企業紹介ページで発表している。ビジネスチャットツールユーザーの数はこの2社を見るだけでも着々と増えており、その傾向はこれからも進むだろう。

問題は「コミュニケーションの整理整頓」を行えるかどうか

ビジネスチャットツール市場の成長と共に取り上げられるようになったのが、1つ目の課題である「社内チャットツールの複数化」の問題。BetterCloundの調査によると、回答した社員数5000人以上の規模の企業のうち57%が2つ以上のビジネスチャットツールを導入しており、中でも2割が5つ以上のツールを利用しているという。チャットツールの複数保有は、社員の混乱を招き、逆にコミュニケーションフローの悪化につながりかねない。

さらに社員の混乱を招くのは、チャットツールと類似する「社内SNSツール」の存在。チャットツールとの違いとして、個人間やチーム内での相互間会話を重視するのがチャットツール、全社や特定グループへの一方的な情報発信の特徴が強いのがSNSツール、と一般的に認識されつつある。しかし、SNSツールでも社員同士の会話は可能であるため、社内コミュニケーションが複雑化する可能性が懸念されている。

このようにオンラインでのコミュニケーションを取れる手段が増えると、社員同士顔を合わせて話す機会が減るのではないか、という懸念も企業側にさらにのしかかる。このようにビジネスチャットツールの浸透が生む新たな課題の対処に、社内のコミュニケーションフローを見直し、ルール化を徹底する企業が増えている。実際にアメリカの企業では、社員と共有する行動規範(Code of Conduct)の資料内でコミュニケーションルールに関する部分に今まで以上のページ数が割かれているようだ。

これからもビジネスチャットツールを導入する企業は増えてくるだろう。そのような企業にこそ、この懸念点はぜひ押さえておいていただきたい。

2. 進むモバイル利用

2つ目の潮流は、スマホを中心にモバイルでも仕事ができる環境が増えていること。企業側は社員がデータにどこからでもアクセスすることを見越した上で、情報管理を徹底する必要がある。

進むモバイル化

アイルランドのアクセス解析サービス企業StatCounterによると、2016年に世界のモバイルとタブレットの利用率を合わせた数値がパソコンの利用率を初めて上回ったという。またインターネット・トレンドレポートでお馴染みにMary Meeker氏も2018年の資料で、モバイル利用の上昇は現在も止まらずに伸び続けていることに触れている。ウェブサイト制作やアプリ開発でユーザーのスマホ利用を中心に考える「モバイルファースト」の影響で、スマホの利用時間がパソコンを超えているのが現状だ。

Mary Meeker氏のトレンドレポートより

モバイルファーストの流れは、働く場にも影響を及ぼしている。実際に多くのビジネスツールでもアプリ開発が進み、会社のデータへのアクセスや仕事そのものがスマホで完結できる環境は読者の中で感じる方も増えているだろう。日本の起業家たちが「今の時代スマホされあれば仕事できる」と発言することが多いのもこの流れがあるからだ。

モバイルファーストの働き方で生まれる懸念

スマホで仕事ができる環境は、場所や時間に縛られることのない自由な働き方を推奨する上で便利な一方、3つの懸念点を生み出す。1つは会社のデータにどこからでもアクセスが可能になる点。例えば通勤途中に社内システムに入りデータにアクセスすることも可能だが、機密データの場合は注意が必要だ。2つ目は、どのデバイスでもアクセスが可能になるという点。仕事で使用するスマホアプリは会社から支給されるスマホだけでなく、個人スマホでも利用が可能だ。しかし、会社支給のスマホと個人スマホの使い分けを細かくルール化し徹底できている企業はまだほとんどなく、機密データや情報を個人のスマホで扱う社員の実態に対する懸念が社会的に増えている。

社員に会社用スマホを支給できる余裕がまだない企業では、このような潮流の中で個人スマホ利用禁止をナンセンスだと感じ、一定の範囲内での利用を認めるところも徐々に増えつつあるようだ。その場合、仕事における個人のスマホ利用をどこまで認めるかをまとめたルールをBYOD(Bring Your Own Device)ポリシーとして行動規範の1つに入れているケースがアメリカでは多い。BYODポリシーとは、いわば学校で配られるような、携帯電話やタブレット利用を規則としてまとめたもの。社員全員にスマホを支給することができない企業でもスマホで働ける環境を整えるところが増えている。

スマホの利用規則には利用時間も大切

3つ目の懸念点は、スマホを利用することでいつでも仕事ができる生活とうまく付き合っていけるか、という問題だ。

フランスでは2017年に「つながらない権利(Right to Disconnect)」を認める法律が施行され、勤務時間外での連絡を断ち切れる権利が保証されている。このような国では会社支給のスマホか個人のスマホかで適用ルールも変わってくる可能性があるため、会社は慎重な判断が必要だ。また個人スマホを利用する人は仕事との上手な距離感を取れないと、最悪な場合社員のバーンアウトにつながる恐れもある。スマホ利用に関して細かいルール設定が企業側とユーザー双方で必要だ。

スマホはあらゆるデバイスの中でも一番私たちとの生活に身近なものだと答える人は多いだろう。だからこそスマホを使った働き方には慎重に行うことが重要だ。

3. 香り・嗅覚を働き方改革の味方に

第3にあげるトレンドはテクノロジーで可能になった、働く場における香り・嗅覚の活用だ。これは今日話題のキーワードとして取り上げられるABWと関連していると筆者は見る。

ABWは、「仕事内容に合わせて働く場所を選べる」と定義される。集中作業の時は周囲からの視線を遮断できる静かなスペースを、カジュアルなミーティングを行う時には人通りの多い活気あるカフェスペースを、といった選択肢が社員に与えられる。これはつまり、「自らの聴覚や視覚的感覚で働く環境を変える」という表現も可能だろう。

嗅覚は、この視覚や聴覚に加え、実は働くシーンの切り替えに活用される五感の1つであることをここでは取り上げたい。例えばアロマのような良い香りは疲れた時のリラックス効果をもたらしてくれるし、逆に嫌なにおいは集中力の急激な妨げや気の散る原因となる。まだ未解決の分野であった働く環境における香り・においの問題に取り組み、良い香りの最大化、嫌なにおいの最小化を実現する2つのテクノロジーをここであらためて紹介したい。

AROMASTIC

先日の記事で取り上げたAromasticは場所やタイミングを選ばず、自由に好きなアロマの香りを楽しむことができるデバイス。アロマは従来部屋全体に香りを拡散させるため、公共性の高い場所での利用は不可能だった。しかし、このAROMASTICには、カートリッジにドライエアーを吹き込むことでユーザーの顔周辺の空気だけに香り付けを行う「気体拡散方式」を採用しているため、人の集まる場所でも個人がアロマを自分だけ香ることができる、という仕組みだ。

AROMASTIC開発チームは自分力開発研究所(現:やる気の科学研究所)」と共同で、学習塾の生徒を対象として行った実験から、「香りが集中力の維持・向上をサポートすると言える結果」を得ている。また香りを感じる嗅覚には、得られた情報を理解するプロセスを通さずに感情や本能を司る大脳辺縁系に直接信号を送ることから、視覚や聴覚と違って瞬時に集中やリラックス効果が得られると利点がある。何かを見たり聞いたりするよりも頭の切り替えを行いやすことから、ワーク・ライフの境界線が曖昧になりつつある今日の働き方に適しているのでは、と開発者の藤田さんは語っている。

関連記事:嗅覚が働くシーンの切り替えスイッチに – AROMASTIC (TM)開発者・藤田修二さんインタビュー

Kunkun Body

一方Kunkun Bodyは嫌なにおいの最小化を助けてくれるデバイスだ。

開発チームメンバーの小笠原堂裕さん曰く、2014年に行った調査で、職場において同僚等周囲の人の身だしなみで対処してほしいと思う問題点の1位に挙がったのが体臭や口臭を含めたにおいだった。それに加え、他人の身だしなみで最も指摘しにくい問題もまた同じにおいが合計で76.5%にまで昇ったという。今働く場でにおいが一番問題視されながらも、そのための解決策がまだ存在していない。そこでまずはにおいの可視化・データ化を行い、においに対する意識を強めていこうという背景で生まれたのがこのKunkun Bodyだ。

ビジネスパーソンを中心とした「個人のエチケットツール」として、髪を整えたり、歯を磨いたりという身だしなみを整える習慣の1つとしてこのKunkun Bodyの普及を目指している、と語る小笠原さん。その取材の様子は後日公開する。

さらに日本ではここに挙げた2つの製品以外にも、タニタが昨年7月に販売を開始したにおいチェッカーや、昨年2月に開催されたシリコンバレー最大級のスタートアップイベント「Startup Grind Global Conference 2018」で、上位50社の1つに選ばれたアロマビットのにおい可視化センサーが挙がる。筆者が知る限り、このような香りやにおいに関連したデバイスは世界を見ても日本以外に開発例をほとんど見ることがまだなく、実際に世界から注目が集まっている。このような製品が生まれるのも、においに敏感という日本の環境が背景にあるのかもしれない。働く環境で香りや嗅覚がどのように活用されるのか、注目が必須である。

残りのトレンド2つは後編記事で紹介する。

(続く)

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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