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生産性向上も期待される「地方型サテライトオフィス」の動向と成功事例

[March 23, 2021] BY Fusako Hirabayashi

政府も後押しする「地方型サテライトオフィス」の誘致

サテライトオフィスは設置地域によって、都市型・郊外型・地方型に分類される。以前の記事「テレワーク拡大で進む『都市型・郊外型サテライトオフィス』の導入と活用事例」では、コロナ禍において都市型・郊外型の利用が拡大している状況を紹介した。

最近では、都市や郊外だけでなく、地方でのサテライトオフィス設置を検討する企業も増えている。BCP(事業継続計画)の観点から感染リスクの少ない地域への移転や分散を図る、または地方で働きたい人材を確保する、などがその理由としてあげられる。

コロナ禍以前から総務省や国土交通省は、地方創生を目的として、都市に本社をおく企業のサテライトオフィスを地方に誘致することに力を入れてきた。感染が拡大してからは、地方分散や移住を加速させるため、地方型サテライトオフィス開設関連の補助金も増やしている。

本稿では、このような地方型サテライトオフィスの動向について触れ、複数の成功事例を紹介する。

地方型サテライトオフィスの7割は「常駐型」

総務省がまとめた「地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査結果」によると、地方公共団体が誘致・関与したサテライトオフィスの開設数は、コロナ禍以前の2019年度末時点で654カ所となっている。回答を得た223カ所のうち、常勤の要員を配置している「常駐型」は73%、常勤の要員を配置せず短期的に利用する「循環型」は25%であり、業種はソフトウェア開発やウェブ制作といった「情報サービス業等」が80%を占めた。

地域別では北海道が最も多く、徳島県がそれに続いている。下のグラフからも、都道府県ごとの力の入れ具合、成功度合いが見て取れる。

地方型サテライトオフィス開設数

都道府県別サテライトオフィス開設数
(画像は総務省のウェブサイトより)

自治体が誘致に関わっていないケースもあるため、実際の開設数はこの数字よりも大きいと推測される。

地方型サテライトオフィスのメリットと集積事例

では、地方型サテライトオフィスは実際にどのような効果をあげているのだろうか。政令指定都市を擁さず、人口が少ないにもかかわらず、サテライトオフィスの誘致数が多い徳島県、島根県、和歌山県から、そのメリットと成功事例を紹介する。

1. 古民家を活用したサテライトオフィスを設置:徳島県神山町

徳島県では、全国屈指の高速ブロードバンド環境が整備されており、県のサポートもあって神山町をはじめとする複数の地域にサテライトオフィスが集積している。 神山町では、2010年にクラウド名刺管理サービスで知られる「Sansan株式会社」が開設したのを皮切りに(正式運用の開始は2011年)、2019年の年度末時点で14の企業がサテライトオフィスを設置している。

Sansanが神山町にサテライトオフィスを設けた理由は 、新しい働き方を模索する活動の一環とのこと。古民家の活用という新たな視点が評価され、一般社団法人日本テレワーク協会が主催する「第12回 テレワーク推進賞」で優秀賞を受賞している。

実際にサテライトオフィスで勤務する同社社員は、メリットとして「満員電車での通勤がない」、「心身のリフレッシュにつながる」、「集中力が向上する」点をあげている。現在も常駐社員に加え、部署単位での合宿や集中的な開発のための一時滞在、新入社員研修などに活用 している。Sansanはオンライン営業中心の営業スタイルで急成長し、株式公開を果たした。この営業スタイルの確立に、サテライトオフィスでのテレワークが大きな役割を担ったとする報告もある。

神山町には、Sansanのほかにも映像事業を手掛ける株式会社プラットイーズ、オンライン募金システムの株式会社ソノリテなどの企業が単体で古民家を活用し、サテライトオフィスを開設している。また、コワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」を利用する企業も、2018年10月時点で15社を超えている。

同町ではサテライトオフィスの集積により、その利用者を主な顧客とする複数の飲食店や宿泊施設がオープンしている。それによって利用者の生活の質が上がり、さらに誘致がしやすくなるという好循環を生んでいる。

2. サテライトオフィス要員として積極的に現地採用:徳島県三好市

三好市では、人事評価システムの「株式会社あしたのチーム」などがサテライトオフィスを設置し、地元との交流や現地採用を積極的に行っている。あしたのチームは、現在全国4カ所にサテライトオフィスを設けているが、その先駆けとなったのが2013年に三好市に開設した「三好ランド」だ。

同社がサテライトオフィスを設立した目的は、業務の効率化だという。サテライトオフィスの効果について、同社代表取締役会長の髙橋恭介氏は、「オペレーション業務をサテライトオフィスに集中させることで、本社での営業活動を効率的にすることが可能となり、生産性が上がった」と語っている

また、100%地元雇用を目標に、地元の高校からの採用も積極的に行っている。そうした地元雇用創出への貢献が評価され、同社は2017年に「徳島県地域情報化表彰(e-とくしま表彰)」を受賞した。また、2020年10月には、サテライトオフィスでのワーケーション促進を目的にリフレッシュ休暇制度を一部変更しており、「三好ランド」から順次対象先を拡大していく予定だ。

徳島県では、神山町や三好市のほかにも、美馬市、美波町などがサテライトオフィスを積極的に誘致している。サテライトオフィス設置数20の実績がある美波町で誘致の中心的役割を担う、「株式会社あわえ」の代表取締役・吉田基晴氏は、「朝釣りをしてから仕事ができ、昼休みに家に帰って子どもと一緒にご飯を食べる暮らしが普通にできる」と、地方で働く魅力を語っている

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ワーケーション

3. プログラミング言語を核にIT企業のサテライトオフィスが集積: 島根県松江市

松江市は「Ruby City MATSUE」を謳い、プログラミング言語「Ruby」を核に30以上のIT企業を誘致。企業間や地元との情報交流を図り、人材育成などで効果をあげている。

「Ruby City MATSUE」プロジェクトは、Rubyの作者であるまつもとゆきひろ氏が松江市在住であることがきっかけで誕生した。2006年に市が開設した「松江オープンソースラボ」や企業のサテライトオフィスを拠点に、ITエンジニアの交流が活発に行われている。

松江市では2012年度から一部の市立中学の授業にRubyを取り入れており、2016年度には全市立中学に展開している。民間企業が開催するプログラミング教室も盛んで、そのあたりに魅力を感じて移住するエンジニアもいるという。

プログラミング言語を核としてIT企業のサテライトオフィスを誘致する施策はほかに類を見ず、Rubyをテーマとした国際会議「RubyWorld Conference」も毎年松江で開催されている(2020年はオンラインで開催)。今後も松江市の盛り上がりは続きそうだ。

4. 先駆地としてサテライトオフィスを誘致:和歌山県白浜町

白浜町は、地方型サテライトオフィス設置の先駆的エリア。2018年9月時点で、株式会社セールスフォース・ドットコム、NECソリューションイノベータ株式会社をはじめとする14社が、町が運営する施設内にサテライトオフィスを設置している。

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先鞭をつけたセールスフォース・ドットコムが、サテライトオフィスを白浜町に設置した理由としては、東京本社との交通アクセスの便がよく、ITインフラの整備も含めた自治体側の受け入れ体制が充実していたことなどがあげられる。2015年10月の開設時は総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」の一環であったが、同事業が終了した2016年3月以降もサテライトオフィスを継続運用している。

白浜町は、サテライトオフィスの誘致や移住者の増加につなげる狙いもあり、ワーケーションにも力を入れている。2019年には、三菱地所株式会社が同社のテナント企業などを対象にワーケーション用オフィスを開設。2020年11月には県と町の補助により民営のサテライトオフィス用ビル「ANCHOR」がオープンしており、中央省庁の職員らを対象としたワーケーションの試行地にも選ばれている

「循環型」利用を入り口とするプロセスの設計を

先に紹介した総務省の調査では、新たな企業が進出したことによる自治体側のメリットとして、 移住者の増加や地元人の雇用機会の創出、交流人口・関係人口の拡大、空き家・空き店舗の活用などをあげている。

企業側のメリットとしては、働き方改革の実現や、通勤のストレスがなく集中できる環境で創造性が発揮できること、優秀な人材を確保できること、事業継続に役立つことなどが考えられる。人材の確保に関しては、地元だけでなく、Uターン・Iターン目的の人材採用でも効果があがっている。松江市のように、サテライトオフィス設置企業間の交流がメリットとなっている例もあり、今後は地元企業とのコラボレーションによる新規事業の創出が期待される。

地方型サテライトオフィスに関心はあっても、常勤者を配置する「常駐型」の開設となると、地域選びをはじめ企業側のハードルは高くなる。総務省が力を入れている「おためしサテライトオフィス 」やワーケーションによる「循環型」の利用を入り口として企業と地域の「お付き合い」を重ね、関係性を構築していくプロセスの設計が必要であろう。また、二拠点居住により、都市のオフィスと地方のサテライトオフィスでの均等な勤務が可能となるため、デュアルスクール やリモート通学などの制度の普及も望まれる。

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この記事を書いた人

Fusako HirabayashiIT系大手企業で研究開発、新規事業立ち上げなどの業務に携わりながら働き方とそれを支える環境に関心を持ち、裁量労働制の導入検討委員を担当する。宅地建物取引士資格を取得し、不動産仲介業務にも従事。現在は、フリーランスのライターとして、新しいワークスタイルやワークプレイスについて発信している。



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