ログイン

ログイン

ニューノーマルのオフィス展望 / Frontier Session #1

Legaseedの近藤氏、あしたのチームの早川氏、パソナグループの細川氏を迎え、ニューノーマルのオフィス展望をテーマに、働く環境に関する取り組みや今後の展望について話をうかがった。

働く場づくりに関する、三社三様の新たなアプローチ

本カンファレンスは、株式会社フロンティアコンサルティングが「Frontier Session」と銘打ち、2018年より社員教育を目的に年2回開催しているイベントです。今回は、コロナ禍で急激に進んだ働き方の広がりを踏まえて、「新常態(ニューノーマル)のオフィス展望」をテーマに選定。株式会社Legaseed代表取締役の近藤悦康氏、株式会社あしたのチーム管理部部長の早川将和氏、株式会社パソナグループ執行役員HR部長の細川明子氏をお招きし、働く環境に関するそれぞれの取り組みや今後の展望についてお話をうかがいました。

セッション情報

開催日:2020年10月29日
会場:株式会社フロンティアコンサルティング
(登壇者は対面でのセッション、聴講者はZoomにて視聴)
テーマ内容:『新常態(ニューノーマル)のオフィス展望』

スピーカー(五十音順)

Legaseed近藤様
近藤 悦康 株式会社Legaseed 代表取締役
1979年岡山県生まれ。「はたらくを、しあわせに」を理念に、新卒採用支援を手掛ける株式会社Legaseedを2013年に創業。年間1.7万人を超える学生が応募する人気企業に。2021年度の楽天みん就調べ人気インターンシップランキングで総合10位、人材業界1位。これまで全国450社以上の組織変革を行い、延べ80,000名にセミナーを実施してきた人事コンサルタント。常識を覆す独自の採用手法が「クローズアップ現代」「ワールドビジネスサテライト」など多くの番組で取り上げられており、著書には「日本一学生が集まる中小企業の秘密」などがある。

あしたのチーム早川様

早川 将和 株式会社あしたのチーム 管理部長
司法書士試験合格後、大手司法書士法人勤務、リスクモンスター株式会社人事総務部長を経て現職。

パソナグループ細川様
細川 明子 株式会社パソナグループ 執行役員HR部長
1997年、株式会社パソナに入社。社長秘書を務めた後、人材派遣部門の営業部を経て、キャリアカウンセラーとして10年間勤務する。2011年より株式会社パソナグループ人事部にて、人事戦略や人財のキャリア開発などの業務に携わり、2018年9月より現職。

モデレーター

FC小野様
小野 哲 株式会社フロンティアコンサルティング 設計デザイン部 部長
プロダクト製品開発の会社を経て、オフィス設計業界へ転身。2008年、株式会社フロンティアコンサルティング大阪支店の立ち上げに参画する。作り手目線のモノづくりから、ユーザー視点のモノづくりを目指したオフィスの構築・設計を手がける。現在は、国内設計部門のトップとしてマネジメントに従事。大型案件の要件整理(プログラミング) を担当するほか、自社の働き方改革プロジェクトから得た知見を生かし、顧客へのアドバイスも行っている。


Legaseed:オフィスは理念やビジョンを反映する「城」のようなもの

小野哲(以下、小野) 本日はお集まりいただきありがとうございます。今回のセッションは、「ニューノーマルのオフィス展望」をテーマとしています。コロナ禍を受けてオフィスの縮小や不要論が出ている中、どちらかと言うとオフィスや働く場に投資されている三社の皆様にお集まりいただきました。具体的にどんな取り組みを行っておられるか、お話しいただければと思っております。まずは近藤さん、お願いします。

近藤悦康氏(以下、近藤) 今日は、新オフィスへの移転をきっかけにお招きいただいたかと思います。1年半くらい前ですがオフィスのあるビルの建て壊しが決定し、2020年7月までに出なければならず、新しいオフィスへの移転がまず決定事項としてありました。いろんな物件を探したのですが、当時の都内は空室率が2%くらい。賃料を高く出した方が入居するような競り状態で、いい物件を見つけてもなかなか決まらなかったんですね。

そんな中、コロナの影響が大きくなり、弊社も3月末からリモートに切り替えました。3月~6月は完全リモートでしたが、オフィスは出なければならない。そこで、3月中旬くらいに品川の港南口にあるグランドセントラルタワーの物件を見に行きまして、「ここはいいな」となりました。

ただ、前のオフィスと比べると賃料は約2倍。面積も広くなって敷金だけでも1億ほどかかり、なかなかの投資だなと。役員からは、「リモートで対応できているし、これからの時代を考えるとオフィスにそこまでお金をかけなくていいのでは」という話も出ましたが、最終的に4月末に入居する決定をしました。

Legaseed新オフィス_OASIS

株式会社Legaseedの新オフィス(画像はLegaseed のプレスリリースより)

僕はオフィスって、戦国時代で言う「城」だと思ってるんです。戦い方の戦略として、理念やビジョン、想いをいかにその城の中に埋め込んでいけるかが重要だと考えています。

「業務だけする」観点だとオフィスはなくてもいいと思うんですが、私たちは「オフィスに来られたお客様が、いかに弊社と契約したくなるか」という戦いの場として捉えています。また、人材採用を非常に重要な戦略としており、学生を含め新卒や中途採用の方が来られた時に、「ここで働きたい」という思いがさらに感化されるスペースをつくっていくことも視野に入れています。

弊社の場合は創業7年、新卒も8割です。若い人たちの育成を考えた時に、所作や感性みたいなものを指導していく上で、コミュニケーションを取りながら共に働く場所が必要かな、と。

少し背伸びをした意思決定であったことは皆もわかっている中で進められた移転でしたが、蓋を開けて見ると、社員からは「もっと業績を上げていこう」、「いい仕事をする責任感が増した」という声があがりました。リモートとレンタルオフィスを併用していた7月~8月は、リモートの社員が7割程度だったのが、併用は続いているものの現在は95%の社員がオフィスに出社しています。オフィスをきちんとつくり込めば、社員もオフィスを使いたいと思うんだな、と感じているところですね。

Legaseed新オフィス_COCKPIT

株式会社Legaseedの新オフィス(画像はLegaseed のプレスリリースより)

小野 ありがとうございます。さらに深掘りしてお聞きしたいところですが、先に細川さんにお話をうかがいたいと思います。パソナグループの動向については、かなり衝撃的なニュースだったのでほとんどの方が知っておられるかと思いますが、御社の思いや考え、もしくは記事に出ていないことも含めてお話しいただければと思います。

パソナグループ:働く環境を重視し、東京の本社機能を淡路島に一部分散

細川明子氏(以下、細川) 当社も、働く環境については創業当時から重視していました。仲間がコミュニケーションをとれる場所や健康面、というところですね。東京・大手町の本社ビルに田んぼを作ったこともありますし、直近ですと「大手町牧場(※1)」で酪農家の育成や食育講座を行ったりと、食の安全をオフィスビルを通して発信してきました。

大手町牧場

大手町牧場(画像はパソナテックのウェブサイトより)
※1 大手町牧場:2017年、東京・大手町 JOB HUB SQUAREに開設された「酪農」と「食育」を学ぶ施設。地方創生に向け、地域産業の担い手となる「酪農・観光牧場」分野での人材育成を目的としており、様々な動物を身近に感じ関心を抱いてもらえるよう酪農セミナーや人材育成講座、食育体験を行っている。

そして今回、以前からの計画をコロナが後押ししたところもあり、BCP(※2)対策の一環として、本社機能を分散(※3)することになりました。では、なぜ淡路島なのか。当社ではもともと地方創生事業も行っており、2008年から淡路島で農業人材を育成していました。さらに、小学校の廃校をリストランテにしたり、マンションをリノベーションしたりといろいろと積み重ねてきた経緯があり、地方創生事業の一環として淡路島に、となりました。

※2 BCP(事業継続計画):自然災害や大火災、テロ攻撃などの緊急事態において、企業が事業資産の損害を最小限に抑えたうえで中核事業を継続・早期復旧するため、行うべき活動、緊急時にとるべき方法や手段などを取り決めておく計画のこと。
※3 本社機能を分散:働く人々の「真に豊かな生き方・働き方」の実現と、グループ全体のBCP対策の一環として、主に東京・千代田区の本部で行ってきた人事・財務経理・経営企画・新規事業開発・グローバル・IT/DXなどの本社機能業務を兵庫県淡路島の拠点に分散し、2020年9月から段階的に移転を開始した。

背景の一つには、人材を誘致して地方を活性化する、「文化を産業にする」という取り組みがあります。そして、もう一つは働く人々の環境ですね。東京だと満員電車で通勤して、周りはビル群というのが日常。一方の淡路島は、神戸や大阪などの都市部にも非常に近く、海や山、おいしい食材もたくさんあります。生活面でも心の健康、より豊かな生活を創造していく観点から淡路島を選択し、現在二拠点化しています。

小野 ありがとうございます。早川さん、あしたのチームではワーケーション(※4)に取り組まれていますよね。そのあたりのお話をおうかがいできればと思います。

※4 ワーケーション:ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合体させた造語で、観光地やリゾート地などで余暇を楽しみながらテレワークを活用して仕事もすること。

あしたのチーム:サテライトオフィスを活用してワーケーションを推進

早川将和氏(以下、早川) もともとワーケーションを導入した背景には、休みを取りやすくしたいという考えがありました。税務上の優遇もあるので、永年勤続休暇制度(リフレッシュ休暇)やその旅行補助など、おそらく多くの企業で取り入れられていると思います。5日間とか1週間とか休みを取得できるんですが、なかなかそうはいかず、活躍している人ほど休みが取りにくいのが現実でした。

例えば、1週間いないとお客さんへの引き継ぎが大変だとか、今の仕事をある程度片付けないといけないとかですね。ましてや、年次の有給休暇取得率も2019年度で52.4%などという状況を考えると、まず「休みを取りやすい状況をつくれる」ことが、ワーケーションのいいところかなと思っています。

ワーケーション

では、ワーケーションをどうやって取れるようにするか。ワーケーションというと、欧米のビーチからボスとテレビ会議するようなイメージもありますが、それは日本人のマインドにはちょっと合わないかなと思っていまして。また、会社全体でワーケーションするもの違うかと思いますし、だからと言って一人でやっていいよとなっても、空気が読めない人みたいになりかねないとも思うんですね。

そうすると、働く場所を会社が認めるほうがいいんじゃないかな、と。オフィスのような環境があって、セキュリティなどの問題もクリアできる場所があるといいなと思った時に、サテライトオフィスが思い浮かびました。昔流行ったものの、現在あまり活用できていない場合も多いんです。

サテライトは都市部より地方に多いので、それを活用して、例えば1週間の午前中だけそこで働くような環境を用意するとかですね。日本人的なワーケーションで懸念されるのが、目の前に働く環境があるとずっと働いてしまうこと。なので、サテライトに働く状況を用意して、そこを出れば働かないという括りを設けたほうが、今はまだワーケーションが取りやすいように思います。

弊社の場合は、幸いサテライトが4カ所あったので、そこを使えばワーケーションもOKですし、旅行補助も追加して1回試してもらいたいという試みを今行っています。

新しいオフィスや働く場の運用から見えたこと

小野 こうした思い切った施策は先の効果を予想しながら決断されているのでしょうが、うまく成果が出ないことや、つまずくこともあるかと思います。新しいオフィスや働く場を運用する中で、見えてきた課題などはありますか?

近藤 オフィスに投資したことで、「社員の働き心地や生産性の向上」、「契約確率の向上」、「採用に優位に立つ」の3つがどうなるかは、これから見えてくるかなと思っています。細かいところで言うと、今回オフィスの中にオンラインで打ち合わせできる個別ブースやスペースをつくっているんですが、パソコン上で話すとやっぱり声が大きくなるみたいで、最近デシベル計をつけました。デシベル計で設定したこの音量で話しなさい、という(笑)

(一同笑)

小野 なるほど。話す声量の見える化ですね(笑)

近藤 想定外の事態は起きるんですが、それをどうおもしろく解決していくか。ディズニーランドに完成形がないように、オフィス空間も常に改善していく場だという意識を持っています。

細川 そうですね。弊社では、住まいと生活、仕事の環境を整えているところです。例えばIT環境については、島内を移動すると携帯がプツンと少し切れたりすることもありますし、まず自社オフィスや施設からの強化が必要かなと。また、交通の便に関して一応社用車はあるんですが、人数が増えると間に合わないこともあり、全社宅に朝バスが停まるようにバスの運行を変更しました。カーリースの補助制度も決定したので、マイカーも使えるようになっています。

あとは、ご家族で転居された場合のお子さんへの教育や保育園、医療についてですね。多くの社員が住む社宅の1階がスーパーだったんですが、たまたま向かいに移転されて。そこを全てオフィスとキッズルームにして、保育士さんと過ごせるようにしました。また、社員のプロフェッショナルなメンバーが空手やバレエ、バイオリン教室で指導したりと、お子さんの教育面も今拡充しているところです。

小野 生活ごと移動となるので、そのサポートを会社が考えるという点では、初動はやはり大変な部分もありますよね。

早川 弊社の支社は7カ所あるのですが、ワーケーションの場として支社オフィスを使いたいという人が出てきました。サテライトオフィスはわりと自然豊かな場所にあるんですが、例えばワーケーションを利用してUSJに行きたい人がいる場合、そこにサテライトがないので支社を使いたい、と。今はコロナでリモートが進んで空きスペースが結構あるので、支社長の許可があればOKという追加対応もしています。

あとは、子どもを持つ社員も多いんですが、例えばワーケーション先の自治体に協力してもらって林間学校みたいなことができると、子ども達が通常の旅行では体験できないことにも出会えるなと。夏休みなど、子どもと一緒に休みを取れる時期になると、そうした使い方もできると思います。

これまで、どちらかと言うと「地元の雇用を維持する」という文脈でサテライトの誘致活動が行われてきたと思いますが、今後は都市部の人が来て働くプラットフォームにもなるし、その人が2週間ほど滞在して、いい場所だなと思えば移住を検討するかもしれない。もしくは、サテライトを箱として使うのではなく、1席月3万円で使えますという形が求められるかもしれません。こういった変化も、テレワークが可能になったからできる感じがしますね。

小野 皆様のお話をうかがいながら、働く場やオフィスをつくった後の運用・改善の大切さを改めて感じています。私たちも場所を提供する側として、提供後の場の使われ方や、使う人のマインドが大事だという話をすることがあります。

今後求められるニューノーマルなオフィスとは

小野 まだまだうかがいたいことはありますが、最後に一つ。答えはないでしょうが、ニューノーマル時代のオフィス像を、ぼんやりでもあればお聞きしたいと思います。

近藤 先ほどオフィスは城だと言いましたが、弊社は法人や成長企業の経営者の方々がお客様なんですね。通常、お問い合わせをいただいたら先方に足を運ぶと思うんですが、弊社ではそれをしません。弊社オフィスにご来社いただく価値をお伝えして、こちらにお越しいただいています。

なぜかというと、弊社は若いメンバーが多いので、仮に先方で社長室に通されて交渉がスタートするのと、こちらのオフィスで中をご案内して弊社の価値観や人を知っていただきながら、一周見て回って席に着いた時のお客様の興味って全然違うわけです。

アウェーで戦うのとホームで戦うのと、結果が大きく違うんですね。ですので、オフィスに投資する考えの背景には、営業経験をゼロにするという私のコンセプトが基本としてあります。オフィスをいわゆるショールーム、ショーウィンドウ、戦う場所、グラウンドみたいな場所にするのが一つです。

それから、もう一つは生産性・機能性だけではなく、安心・安全に働けるオフィス環境を仕組みとしてどうつくっていくか、ということです。例えば、弊社では壁や床、そして机に至るまでオフィス内全面に「セルフィール(※5)」と呼ばれる空気触媒を散布しました。ほかにも、入口には体温検査付き顔認証システムを導入するなど、なるべく非接触で扉を開閉できるようにしています。

※5 セルフィール:一度散布すると、その素材自体に傷や汚れがつかない限りは長期間効果があり、ウイルスだけでなく消臭・抗菌・防汚・防カビにも優れた効果を発揮するとされる。

セルフィール

セルフィール散布時の様子(画像はLegaseedのプレスリリースより)

顔認証システム

エントランスの体温検査付き顔認証システム(画像はLegaseedのプレスリリースより)

小野 なるほど、ありがとうございます。

細川 当社は人を活かす会社です。各社様、そして働きたいと願う人たちの課題を解決をしていくためには、当社の社員が皆様を元気付ける役割を担っている、と感じています。そうした中で、社員一人ひとりがいきいきと働きながら、充実した私生活を実現していく環境づくりができればいいな、と。社員の自己実現や社会貢献をサポートできるオフィスづくりを目指したいと思っています。

早川 そうですね。先ほど近藤さんのお話にあったオフィスの使い方がすごくいいなと思ったんですが、私もやっぱりオフィスにはオフィスでしかできないことがあると思っています。リモートはやはり自分の見える範囲の世界しかなくて、簡単に意見交換や雑談ができないですよね。それがオフィスだと、例えば今回みたいな席配置で普通に話しながら仕事ができる。実際、私も昨日まで家でリモートで働いていて、1週間ぶりに会社に行ったんですが、2時間くらい雑談に使ってしまいました(笑)

(一同笑)

早川 オフィスはコミュニケーションメインで、作業の効率化は家で、という考え方になるのではと思います。リモートも選べる働き方であれば、オフィスはオフィスで新たに担う役割が出てくる。今後は、そうした意味でもオフィスのつくり方もかなり変わってくるように思います。

小野 弊社はニューノーマルのオフィスづくりとして、4つの議論を提言していますが、その答えは一つではないと思っています。専門性があるような場所をつくるのか、コミュニケーションに特化した場所をつくるのか、社員を守っていくような場所をつくるのか。各企業様にとってのニューノーマルなオフィスを一つずつデザインすることが大切だと、改めて感じました。本日は長時間、本当にありがとうございました。