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エクスペリエンスを導入するオフィスと分散化するワークプレイス ー WORKTECH20 Tokyoレポート

[October 27, 2020] BY Chinami Ojiri

はじめに

毎年、働き方やワークプレイスをテーマに世界中の様々な都市で開催されている「WORKTECH(ワークテック)」だが、2020年はCOVID-19によるパンデミックの影響からバーチャルカンファレンスで実施された。WORKTECHアカデミーのディレクターであるジェレミー・マイヤーソン(Jeremy Myerson)氏は、今回のパンデミックにより世界経済モデルやワークプレイスは過去70年で最大の破壊を経験したと語り、また同時に、働き方の未来を考える上で今ほどふさわしい時はないと力強く語った。

この記事では、2020年10月7日~10日に開催されたWORKTECH20 Tokyoの一部を紹介する。WORKTECH20 Tokyoのバーチャルイベントでは、ワークプレイス・不動産・テクノロジー・イノベーションなど多様な分野から、国内外で活躍するスピーカーによる10のプレゼンテーションが行われた。前例のない事態に直面し、今後の働き方やワークプレイスがどのように変わっていくか、様々な観点からヒントを与えてくれるイベントとなった。

加速した働き方の変化

今回のイベントで複数のスピーカーによって語られたのが、在宅勤務やオンライン会議を前提とした働き方の変化により、ワークプレイスは単一の場所ではなくなり、目的によって分散化するということだ。バーチャルな場所を含め、労働環境が多様化する見通しが読み取れる。

新しい働き方のニュースタンダードとして頻繁に取り上げられるテレワークは、首都圏では約9割の企業がすでに実施しており、さらに、約4割の企業がサテライトオフィスを導入しているという(ザイマックス不動産総合研究所: 働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査 [2020年8月実施]より)。また、コロナ収束後の働き方については、出社派(39.1%)がテレワーク派(33.0%)をやや上回る結果となり、ワークプレイスの方向性としては、「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける(54.1%)」と回答した企業が最も多かった。

江戸時代に向けて「らせん状に回帰」する私たちの未来

また、今回のイベントのプラチナスポンサーであるコクヨ株式会社ワークスタイル研究所所長の山下氏は「ポストコロナの生き方や働き方は時代を『らせん状に回帰』し、その向かう先は日本の『江戸時代的な都市像や生き方』だ」と提言。「江戸時代の人々は時間にあまり縛られず、マルチジョブが当たり前。空いた時間は地域のボランティアに参加するなど、もっと柔軟な働き方をしていた」と語った。

これは、三菱総合研究所が2017年から提唱している「逆参勤交代構想」と同様の考えであり、社会的再編が活発になることで、オフィスや組織を離れた労働力が地域や個人活動へと再編されていく「情熱経済(ハッスルエコノミー)」が活性化するというアイデアだ。つまり、働き方改革と地方創生を同時に実現する構想である。

未来のワークプレイスのヒントは「HUB&SPOKE構想」

では、働き方によって方向付けられるワークプレイスのあり方やオフィス立地の優位性は、どのように変化するのだろうか。

ザイマックス不動産総合研究所の主任研究員である石崎氏は、新たなワークプレイスのトレンドとして「HUB&SPOKE(ハブ・アンド・スポーク)構想」を提唱した。コロナ禍以降、世界で注目されている新しい働き方構想であり、車輪の中心となるHUB(ハブ)と、その車輪の中心と周りを繋げるSPOKE(スポーク)からコンセプトを得ている。つまり、本社オフィス(ハブ)の周りに、郊外オフィスや自宅近郊オフィス(スポーク)が分散化し、新たなワークプレイスとしてそれぞれが有機的に繋がっているイメージだ。

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また、Lipton Rogers LLP(リプトンロジャース)のパートナーであるサー・スチュアート・リプトン(Sir Stuart Lipton)氏も都市構造を含めたワークスペースのABWに触れており、「公園やパブリックスペースなどの公的な場を含んだ解決策を打ち出すことも可能だ」と述べた。郊外オフィス(スポーク)の形態はコワーキングスペースやサテライトオフィスなど、従来から存在するオフィス空間に限定されず、オフィス機能を代替する場の必要性が高まると予想される。

参考までに、ザイマックス不動産総合研究所が行ったフレキシブルオフィス市場調査2020(2020年1月実施)で、コロナ以前における東京23区内のオフィスストックとフレキシブルオフィス市場を見てみると、フレキシブルオフィスの8割以上が都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)に集中していることが分かる。その一方で、ワーカーの約9割の自宅最寄り駅は周辺18区にあり、自宅近くで働く選択肢は極めて少ないと言える。

フレキシブルオフィス

左:オフィスストックの分布/右:フレキシブルオフィスの分布
(画像はフレキシブルオフィス市場調査2020より)

ワーカー自宅最寄り駅

東京23区に通勤するワーカーの自宅最寄り駅の分布
(画像はフレキシブルオフィス市場調査2020より)

コロナ禍以前より、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催期間中の混雑対策としても、企業には従業員が都心部に通勤せずに済むような対策が求められていたが、HUB&SPOKE構想をはじめとした社会的なABW構築の必要性はますます高まるだろう。

オフィスの機能は限定され、エクスペリエンス重視へ

パンデミックを受け、グローバル不動産総合サービス会社のCushman & Wakefield(クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド )が実施した「6フィート・オフィス」は、デザインを用いて人々の距離を保つ、新たな職場標準のプロトタイプとして様々な企業で参考にされている。しかし、WORKTECH20 Tokyoのスピーカーでもあり、上記企業でOccupier Business Performance部門の責任者を務めるデスピナ・カティカキス(Despina Katsikakis)氏は、「6フィート・オフィス」はあくまでも一時的なものであり、長期的な解決策ではないと指摘した。

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では、リモート勤務やHUB&SPOKEがニューノーマルとして確立していく中で、中・長期的な視点に立つ未来のオフィスはどのような姿で、どのような役割を担っていくのだろうか。

オフィスにもユーザー・エクスペリエンスを

未来のオフィス像について多くのスピーカーが口を揃えて指摘したのが、オフィスはワーカーが「明確な目的を持って訪れる場所」となり、「経験重視、人重視」のオフィスになるということだ。
冒頭で触れたWORKTECHアカデミーのジェレミー氏は、「オフィスはワーカーに物理的・精神的・知性的な感動を作り出すような体験(スーパーエクスペリエンス)を提供することが重要」だと語った。労働だけではなく、トレーニングやイノベーションアクティビティ、コミュニケーションなど、オフィスに来ることで得られる特別な体験価値=目的を付加する必要が出てくる。体験価値ブランディングとして、商業ビルや店舗で取り入れられていたユーザー・エクスペリエンスがオフィスにも適用されるのだ。

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オフィスのプレミアム化を図るBASIC機能

コクヨの山下氏は、場所を規定しないABW x テクノロジーが基本になるとし、その上でオフィスの機能が取捨選択されると述べた。オフィスにはプレミアムな機能だけが残り、「Booster・Authenticity・Speciality・Interaction・Confidentiality」の5つの機能、すなわち「BASIC」を中心に新たなオフィス環境の整備が求められると予測する。それぞれの機能は必ずしも本社オフィスで保持する必要はなく、HUB&SPOKEの特性を活かし、コワーキングオフィスなどを利用することでまかなうこともできると付け加えた。

テクノロジーが牽引するワークプレイスのあり方

2019年のWORKTECH LA・NYCレポートでも触れていたように、年々オフィステクノロジーの開発は加速していたが、パンデミックの影響を受け、テクノロジーが未来の働き方やワークプレイスをさらに牽引していくことは明白である。

例えば、パンデミックによって追加されたオフィステクノロジーの役割の一つが、「感染対策ソリューション」だろう。AIカメラを活用した3密(密接・密集・密閉)回避や発熱検知。さらには、顔認証技術とAIを組み合わせて、オフィスのエントランスからエレベーター、ドア、照明のスイッチなど、触れるものを最低限に抑え、感染拡大を防止する非接触型の新たなオフィスモデルが実現しはじめている。

顔認証技術

「テクノロジーに対して、人々はこれまでで一番オープンになっている」と語るのは、世界で最もスマートなオフィスビルの代表例であるThe Edgeを手がけた、不動産大手「OVG Real Estate & EDGE」の創設者兼CEOクーン・ヴァン・オストゥルム(Coen van Oostrom)氏だ。

アプリがワークスタイルのプラットフォームとなる、「APPセントリックワーク」導入のパイオニアでもあるThe Edge。混雑具合や空気環境を考慮した執務席の検索や確保、同僚の居場所検索、ロッカーやドアの解錠も、アプリ一つで操作できる。The Edgeには約28,000個のセンサーが整備されており、空間自体が各個人に合った働き方を読み取り、データ化し、それぞれの社員に適した働き方をサポートする仕組みとなっている。

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その一方で、データ利用の懸念点として、クーン氏は「ビッグデータの利用は慎重に考慮しながら進める必要がある。『スマート化=デジタル監視主義』にならぬよう、個人情報に配慮したアプリ設計が必要だ」と指摘した。さらに、データの活用方法については、「まだビジネスモデルを定義できる段階ではないが、データを利用してビルを最適化する機会は多い。現段階で言えるのは、健康と持続可能性をサポートする環境をつくる上でテクノロジー利用はリーズナブルで有益なもの。今後のハードルは、ビルを利用する人々の信用を保てるかどうか」だと語った。

メンタルヘルスは世界共通の課題

また、パンデミックで急激に社会状況が変化する中、メンタルヘルスは世界共通の課題となっている。長期戦が予想されるウィズコロナ時代、企業とワーカー両者にとっても避けては通れないトピックだ。

先日発表された、米オラクルと、Workplace Intelligence(ワークプレイス・インテリジェンス)社が世界11か国(米国、英国、UAE、フランス、イタリア、ドイツ、インド、日本、中国、ブラジル、韓国)のワーカーを対象に行った新たな調査(2020年10月8日発表・2020年7月16日~8月4日に実施)では、70%の人が2020年は今までで最もストレスや不安の多い年だと回答している。そして、従業員の78%がメンタルヘルスに悪影響を受けており、85%の人が職場でのメンタルヘルス問題(ストレス、不安、極度の疲労)がプライベートな生活にも影響していると回答した。

未来の働き方を創出する力についてセッションを行った、ロンドン・ビジネススクール管理経営学教授リンダ・グラットン(Lynda Gratton)氏は、メンタルヘルスケアの軸として、「社員の生活文化」を理解する重要性を伝えた。

組織やリーダーは、社員がどのような環境にいて、どのような犠牲を払っているのかを理解する必要がある。例えば、子どもがいる社員にとって、リモートワーク環境は公私の区別が難しく境界が曖昧になる。また、管理不能な仕事量のやりくりに追われて極度の疲労を感じたり、一人暮らしの社員は仕事の相談ができず不安や孤独を感じたりと、メンタルヘルスの問題は一様ではないと語る。持続可能な働きやすい環境を整備するために、組織やリーダーは、社員がどのような環境にいて、どのような犠牲を払っているのかを理解する必要があるのだ。

AIが心のケアを

また、リンダ氏はAIを利用したメンタルヘルスケアも重要な手段の一つだと付け加えた。実際、メンタルヘルスケアの点で、人よりもテクノロジーに期待を寄せる社員は多く、先述した調査では82%の社員がメンタルヘルスのサポートを人よりロボットに頼りたいと回答している。

その理由として、AIなら「ジャッジメント・フリー・ゾーン(決めつけのない環境)」や先入観のない条件で相談できるという利点があるようだ。さらに、76%のワーカーが、自社が今以上に従業員のメンタルヘルスを守る必要があると考えており、企業やリーダーにとってメンタルヘルスケアは喫緊の課題と言えるだろう。

必要とされるリーダーシップと理想のチームビルディング

複雑さと未知の世界に直面しているリーダーや企業は何をすべきか。この問いに対し、「リーダーは正解を知っているわけではない。解決策を知らないことを謙虚に受け止め、現状維持に固執しないこと」と提言したのは、目覚ましい業績を残した変革的なリーダーであり、「アメリカで最も偉大な戦士の一人」として知られるスタンレー・A・マクリスタル元司令官だ。スピードと柔軟性がより求められる今日において、リーダーは「物理的空間とバーチャルでは、情報の流れ方・コミュニケーション方法が異なる」ことを理解する必要があると説いた。

チームビルディング

スタンレー氏は、チームビルディングを行う上で物理的な空間環境の有効利用は、何世紀にも渡って効率化と専門性を促進してきたと説明。物理的な空間配置やデザインだけではなく、社員同士のコネクターや組織内のキーパーソンをどこに配置するかで、チームのコミュニケーションが左右されると述べた。

また、彼は自身が戦場で直面した経験から「デジタルリーダーシップ」の重要性にも触れた。当時、イラク戦で司令官として指揮をとっていたスタンレー氏だが、別々の組織で構成されたチームは、拠点もバラバラで、懐疑的だったという。その状況から脱却するため、オンラインミーティングを採用して組織全体を効果的に繋ごうと試みたのだ。

始動当初は参加メンバーが集まらない、決まったメンバーしか発言しないなどの問題があったが、組織の一人ひとりの状況や環境を理解するように努め、積極的に話しかけて意見を聞いたという。また、「オンライン上のコミュニケーションでは視覚・聴覚情報の比重が大きいため、表情や視線の管理に対してより注意を払った」と語った。さらに、スタンレー氏は「これまでオフィスで可視化されていたリーダーシップやチームビルディング、コミュニケーションは一旦失われる。それは、バーチャルで自然と再現されるものではなく、意図的にそのプロセスを組み直さなければならない」と付け加えた。

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スタンレー氏曰く、チームビルディングは「組織一人ひとりのシナプスを繋ぐイメージ」だという。「効果的なデジタルコミュニケーション+文化的なつながりにより、流動的でイノベーションを誘発するようなチームを構成する。さらに、チーム内外から、チームが機能しているかを定期的に確認しつづけ、データを分析し、調整していく必要がある。ここで注意しなければならないのが、データは意思決定をしてくれるわけではないこと。リーダーは経験や直感、コミュニケーションによって、進むべき道を考える役割を担っているのだ」と指摘した。

まとめ

今回紹介したのはWORKTECH20 Tokyoで語られた内容の一部だが、パンデミックによって加速した働き方のニューノーマルを考察する上で、有益なヒントを得られたのではないだろうか。
冒頭で紹介したWORKTECHアカデミーのディレクターであるジェレミー氏は、「働き方やワークプレイスは都市構造に影響する。フレキシブルなワークプレイスに加え、自動車優勢から自転車や歩行者優勢、街の緑化など、サステイナブルな都市開発を行う機会になる」と話した。

以前より「働き方改革」と銘打ち、ワークライフバランスを尊重した多様でフレキシブルな働き方が求められていた日本だが、パンデミック以降その動きは加速すると同時に、これまでになかった新たな考え方や価値観をもって変革を行う必要があると筆者は感じた。引き続き、働き方やワークプレイスの動向や新しい動きに注目していきたい。

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この記事を書いた人

Chinami Ojiriフロンティアコンサルティングで設計デザイン部に勤めた後、渡米。経験と知識を広げる為、現在はNYの美大にてインテリアデザインを学んでいる。

    
    
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