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<海外事例>社会起業家やソーシャルベンチャーを支援する、米国・英国・カナダのコワーキングスペース

[April 21, 2022] BY Chinami Ojiri

海外を中心に重要性を増す、ビジネス✕社会貢献

近年、SDGs(持続可能な開発目標)や、環境・社会・統治を考慮した企業へ投資するESG投資など、ビジネスを通じた社会貢献への関心が高まっている。これに伴い、「企業と社会」、ひいては「個人と社会」との関わりを意識する機会も増えている。そうしたなか、ビジネスとしての利益追求と社会課題の解決を両立する「社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)」や「ソーシャルベンチャー」は、まさにこれからの時代を担う存在と言えるだろう。

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一方で、トムソンロイター財団が2019年に行った「社会起業家にとって最適な国」についての調査では、対象となった43カ国のうち日本は41位にとどまっている。まずは社会起業家が活動しやすい環境づくりが課題と言えるが、日本でも彼らの育成を目的とした社会起業大学やビジネススクール、コミュニティが設立されるなど、サポートを提供する場が少しずつ増えてきている。

本記事では、社会起業家やソーシャルベンチャーの支援における海外の先行事例として、活動のハブとなるコワーキングスペースに注目する。そして、そこでの具体的な施策や取り組みから、彼らのニーズを読み解き、活動をサポートする場づくりのヒントを探りたい。

社会起業家、ソーシャルベンチャーとは

社会起業家とは、事業活動を通して社会貢献や社会課題の解決に取り組む人のことで、それを組織として行うベンチャー企業をソーシャルベンチャーと呼んでいる。ここで留意したいのが、「ソーシャルビジネス(社会事業)= 無償で行う支援活動」ではないことだ。

経済産業省の「ソーシャルビジネス推進研究会報告書」によると、ソーシャルビジネスとは、高齢化問題や環境問題などの様々な社会的課題を「市場」と捉え、その解決を目的とする事業を指すという。また、同報告書は、ソーシャルビジネスの要件として「社会性」「事業性」「革新性」の3つをあげている。

すなわち、社会課題の解決をビジネスとして成立させることが前提であり、社会起業家やソーシャルベンチャーには、その利益や成果を社会に還元しながら持続的に活動することが求められる。一般の起業家や通常の企業とは、事業の目的が大きく異なるのだ。

社会起業家、ソーシャルベンチャーを支援するコワーキングスペース事例

海外に目を向けると、社会起業家やソーシャルベンチャーの支援において積極的な動きが見られる。ここでは、彼らの活動支援に取り組むコワーキングスペースに注目し、それぞれの施策を紹介する。

1. 【米国】コラボレーションを促進する「The Center for Social Innovation/Relay Coworking」

テキサス州のイーストオースティンにある、クリエイティブ層のための大型のコミュニティ施設「Springdale General」。スタジオやクリエイティブオフィススペース、テストキッチン、ワークショップ用のスペースを備えた同施設の敷地内にあるのが、The Center for Social Innovation(以下、CSI)だ。Springdale Generalにある15棟のうち、CSIが5棟を占める。

CSIは「世界中のチェンジメーカーを解き放つ」ことをミッションに掲げるNotely社が、2018年に開設した。同社はチェンジメーカーの具体例として、起業家、非営利団体、社会的インパクトのあるベンチャー企業などをあげている。彼らが活動するうえで、不動産コストが障害になっていることに着目し、その負担軽減を目的に賃貸オフィスとしてCSIを提供している。

(画像:Springdale GeneralのWebサイトより)

CSIには様々なサイズのオフィスがあり、3〜10年の中長期契約が基本となる。ミーティングスペースやラウンジエリア、コワーキングスペース「Relay Coworking」も備えており、利用者はCSIで開催される教育プログラムやイベントなどにも参加できる。現在は、ミッション主導型組織の発展のためにマーケティングや広報、クリエイティブ戦略を手掛ける「Bloom Communications」や、困難を抱える子どもを長期的にサポートするメンターの育成・派遣を行う「Friends of the Children」など、15の企業や組織が入居している。

CSIは中長期契約が基本だが、CSI内にあるコワーキングスペースの「Relay Coworking」は短期での契約が可能だ。月325ドルの共有デスクプラン、月450ドルの専用デスクプラン、月1500ドルの4~6人用個室プランがあり、メンバーになれば24時間いつでも使用できる。CSI内に設置されていることで自然なコラボレーションが生まれ、イノベーションの促進が期待できるという。

2. 【英国】ローカル拠点の活動をサポートする「Better Space」

2020年、ロンドンのイズリントン評議会とロンドン大学シティ校が共同で運営するコワーキングスペース「Better Space」がオープンした。両組織は10年間のパートナーシップ協定を結び、イズリントン地区を拠点にして、目的主導型の起業家やフリーランサーの活動を支援している。

(画像:Better SpaceのWebサイトより)

社会的企業におけるハブを目指すBetter Spaceは、リアルとデジタルのハイブリッドで、様々なユーザーサポートやコミュニティサポートに取り組んでいる。そのなかから、2つの事例を紹介する。

・ビジネスサポート&メンターシッププログラム

幅広いネットワークとコラボレーションを活用し、地元の起業家や中小企業向けのワークショップ、教育イベント、メンタリングプログラムなどを実施。高齢者の孤立を解消するために世代を超えたコミュニティの構築に取り組む「BuddyHub」や、所得が教育に影響を与えない世界を目指し、家庭教師を雇用・訓練して低所得世帯の小学生に個別指導を提供する「Tutors United」など、2022年3月現在で11のプロジェクトチームが活動している。

・ローカルサステナビリティサポート

ローカルサステナビリティとは、地域社会のニーズを地元で満たしてコストや資源を削減し、サステナブルな社会を目指すことを言う。Better Spaceではローカルサステナビリティを実現するために、地域で社会事業を展開する企業や中小企業のリストを作成し、企業間をつなぐサポートを行っている。また、Webサイト上に社会起業家のインタビューを掲載する、地域でつくる良質な製品やサービスを集めたギフトガイドを作成するなどして、地域経済の好循環が生まれるよう支援している。

3. 【カナダ】成長フェーズに合わせた支援を提供する「Centre for Social Innovation」

カナダのトロントでコワーキングスペースを展開する「Centre for Social Innovation」は、社会問題に対して革新的な解決法を導き出す「ソーシャルイノベーター」の育成や、コミュニティの形成支援を行っている。2004年の設立時より成長を続け、6000人を超えるメンバーや卒業生を抱えるコミュニティに発展している。

メンバーは月36ドルでコワーキングスペースを利用でき、Centre for Social Innovation主催のイベントやプログラムへの参加も可能。会議室やイベントスペースの利用、ソフトウェアの割引、IT支援など、多様なパートナーが提供するサービスを無料もしくは割引価格で受けられる。

また、カナダ全土に約2万人の会員を持つイノベーターネットワーク「CSI Network」に加入すれば、会員の活動状況を知ることができ、新たな人脈づくりにも役立つという。CSI Networkへの加入は無料で、様々なオンライン・オフラインイベントやワークショップに優先的に参加できる。

(画像はCentre for Social InnovationのWebサイトより)

また、Centre for Social Innovationが採用しているメソドロジー(方法論)「The Swirl」にも触れておきたい。これは、イノベーターや起業家がどのような道のりを経て成長するのかを示したものだ。

The Swirl
(画像はCentre for Social InnovationのWebサイトより)

このThe Swirlを実現するためには、「SOLVES(解決)」「CONNECTS(つながり)」「EDUCATES(教育)」「ACCELERATES(加速)」という4つのメソッドに沿った様々なプログラムやプロジェクトが必要となる。

「SOLVES」は、企業、政府、コミュニティなどに対し、未来経済を創造するために必要な課題の解決をサポートするフェーズだ。ホームレス問題や公共衛生問題、雇用機会の創出などにおける既存のパラダイムを変革し、市場機会の可能性を広げるモデルを創造する。そして、「CONNECTS」で、変化を起こすためのつながりとコラボレーションの構築を支援する。ここでは、ともに学び、成長し、つながり、協力し合えるコミュニティを育んでいく。

「EDUCATES」では、リーダーシップの可能性を開発し、スキルや知識、ネットワークの構築をサポートするプログラムが用意されている。例えば、短期の教育プログラムを通して、起業家精神の基礎やSDGsに沿ったビジネスモデルなどについて学ぶ機会を提供する。
そして、「ACCELERATES」を通し、企業の開発と検証、設立から成長までを支援する。プロジェクトやビジネスを実現するため、専門家との1on1コーチングやトレーニング、教育機会やアドバイザリーサービスなどを提供している。

社会課題を自分事と捉え、行動する人を支えるために

海外と比較すると、日本における社会起業家やソーシャルベンチャーを中心としたコミュニティづくりの動きはスローではある。しかし、今後は彼らの存在が日に日に大きくなり、重要性が増していくのは間違いないだろう。

企業、組織、個人のそれぞれが、現在の社会課題を自分事として捉え、社会変革に熱意を持つ人の声がより届きやすく、活動しやすい環境が整備されることを願っている。

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この記事を書いた人

Chinami Ojiri フロンティアコンサルティングで設計デザイン部に勤めた後、渡米。経験と知識を広げる為、現在はNYの美大にてインテリアデザインを学んでいる。



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