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天王洲発the DOCKが実践、4つのオフィス最新トレンドを押さえたワークプレイス事例

[October 16, 2019] BY Kazumasa Ikoma

今日最新のワークプレイス環境について語る上で「ITの積極的導入」「緑溢れる環境」「データ収集・分析機能」「外部との交流も深めやすい空間」といったキーワードは欠かすことができない。しかし、この4つすべてを兼ね備えたオフィス環境を日本で見る機会はまだ限られている。そんな中、今回筆者が天王洲で訪れたコワーキングスペース『ザ・パークレックス天王洲[the DOCK]』(以下 the DOCK)はその数少ない事例の1つだった。

この記事では、the DOCKの中身を誕生背景とともに紹介。ユーザー目線で実際にどのような体験を得ることができるのか掘り下げる。

1. the DOCK誕生のストーリー

the DOCKは、今年6月にオープンした複合施設『TENNOZ Rim』内の施設として誕生した。TENNOZ Rimは、もともとパナソニックが26年間保有し2013年から遊休地となっていたビルを、リノベーションのノウハウを持つ三菱地所レジデンスや、周辺地域の倉庫群のリノベーションを通じてまちづくり・文化発信を行う寺田倉庫との一棟リノベーション計画で生まれ変わらせた建物。周辺住民にもオープンな作りを徹底し、今日の最先端を行く共働・共住的な空間に彼らが触れられるよう、各社が持つ知見を集約させた。

三菱地所レジデンスが同建物内の2階部分にオープンしたthe DOCKは、2つのコワーキングスペースを中心に以前紹介したコモレビズ監修のバイオフィリックデザインが施され、パナソニックの最新テクノロジーが各所に散りばめられている。さらに同社のセンサーから収集したデータの分析を行い継続的な環境改善を行うオフィスラボ、TSUTAYA監修の本が並ぶブック・パーク、そしていつでもリフレッシュ可能な仮眠ルームなども備え、訪れるワーカーに次世代のワークプレイス体験を提供する。

1階には474㎡に及ぶ舞台等の稽古場「リハーサルスタジオ」に、FRAMELUNCHが運営するマルチ・コミュニティ・スペースも用意されている。多くの機能を備えた建物なだけに一見複雑な作りに見えるかもしれないが、訪れる人にとって「働く」のみならず「触れる」「インプットする」「交流する」といった体験もすべて1つの建物の中で得られる作りが特徴的だ。

そんな次世代型スペースの中身を実際に見ていこう。

2. 「働く」を高めるthe DOCKの中身

まずthe DOCKの核となる2つのコワーキングスペースは、会員同士のコミニケーションを活性化させる空間と集中空間に分けられている。さらに仮眠ルームやブック・スペースを2つのコワーキングスペースをつなぐラウンジに完備。単純に作業する空間のみならず、リフレッシュやインプットを支えるスペースも備えることで、「働く」体験を包括的に向上させるのが狙いだ。

コラボレーション空間:リラックスして他メンバーと共働が可能

コラボレーション空間として利用されるこのスペースでは、入り口で早速植栽豊かな環境が目に入る。コモレビズが自社でも採用している「シェアグリーン」がずらりと並び、利用者は1つ手に取って自席の目に入るところに植物を置く。またエントランスは、実際の植物に加え、パナソニックの映像技術を駆使した緑環境の演出も行っている。部屋に足を踏み入れた瞬間からストレスレベルを抑え、リラックスして他の入居者と一緒に仕事したり、ミーティングしたりすることができるような空間を提供している。

フォーカスルーム:個人の集中作業のための空間を演出

もう1つあるコワーキングスペースでは、集中して個人作業ができる空間づくりを重視。バイオフィリックデザインには人間のストレスレベルを下げる他に、集中力や記憶力向上の効果もあるとされる。その効果を十二分に活かすように、この集中スペースではもう一方のスペースよりもさらに充実した緑化デザインが施されている。

人間にとって最適とされる緑視率10〜15%となるように配置した植物に加え、部屋の中央を流れる小川からも自然が感じられる。さらに部屋の天井側から鳥のさえずり、床側から川のせせらぎが聞こえるようにするなど、音響演出にも抜かりがない。この自然を忠実に再現した演出は什器にはめ込んだ2つのスピーカーのみで行っているというから驚きだ。実際に入居者から高い評価を得ている点もこの音響設備だという。またナノイー発生装置を内蔵した空調から流れる微かな風で植物が揺れるのも、バイオフィリックデザインに大切な要素の1つである。

取材当日もこの部屋で自らの作業に打ち込む人を多く見かけた。

川が天王洲からこの部屋にも流れている、という周辺との繋がりを感じさせるデザイン

コワーキングスペースに設置されたセンサー。(四角いものがオフィス空間の温度分布を計測するGrid-EYE(実証実験中)「Grid-EYE」、丸いものが屋内位置情報システム(LPS))

天井のプロジェクターから水辺に魚を投影するという粋な演出も行う

オフィスラボ:データ収集・分析を通じてオフィス環境の「アジャイル開発」を実践

the DOCKが働きやすい空間に向けて日常的にアップデートしていく上で肝となるのが、データ収集と仮説検証ができるリサーチ環境「次世代型オフィスラボ」の存在だ。労働環境の改革のためパナソニックの技術4軸(映像、照明、音響、自然 / バイオフィリア)が集結した2つのコワーキングスペースには、54のセンサーが設置されており、空間内の熱だまりや人の動線が計測される。そこで得られたデータをもとに、ワークプレイス最適化のための研究・発見が常に行われている状態だ。

例えばオフィスにおける音響という点では、バイオフィリックデザインの1つとして自然界にある本物の鳥のなき声を流すと、人間の耳は逆に疲れるということが判明した。そのため音をチューニングをして、人の耳に心地良いとされる状態で現在音を流しているという。このような実験を通じて、将来緑視率に続く新しい指標や自然界以外にも人間に効果的な音が発見できるのでは、とオフィスラボの職員は期待を膨らませる。

日本でワークプレイスに対する従業員やユーザーの満足度調査を行っているところはまだ数が限られているし、ましてやセンサーを用いて働く空間の分析を行う事例にいたってはほとんど聞かれない。しかし、これからオフィスに対する企業の期待や実際の投資が上がる中で、オフィス空間を効果的に運用するためには、データを用いて働く環境のPDCAサイクルやOODAループを回していくことが必要不可欠になる。その好例となるのが、このオフィスラボの存在である。

ウェアラブルデバイス&仮眠ルーム:働く人のオン・オフ切り替えをサポート

働きやすさを追求する取り組みは、空間設計だけにとどまらない。

例えばthe DOCKですでに採用されているウェアラブルデバイス「WEAR SPACE」は、ノイズキャンセリング機能を備えたヘッドホンに、視野角を調整できるパーテーションを掛け合わせた製品で、被るとオープン空間でも目の前に作業に集中することができる。このようなまだ市場に出ていない製品も導入されているため、ユーザーはプロトタイプ段階の製品をいち早く知り試すことが可能だ。

また仮眠ルームは15〜20分のパワーナップ用に設計された空間だ。パナソニックが開発した睡眠用のソフトウェアを部屋内の照明と連携させ、スムーズな入眠と倦怠感の残らない寝起きを実現するプログラムを採用。部屋内には衛生的観点からベッドではなくイスを設置している。当初は大きなゲーミングチェアを置くことを想定していたが、数々の製品を試した結果画像にあるキャンピング用品のイスが一番リラックスできたため取り替えたという。

仮眠ルームの様子。最初は眠りに入りやすいようにゆっくりと照明が点滅を繰り返すゆらぎ制御技術を活用、徐々に部屋を真っ暗にし、最後に漸増光制御技術で明るみの強い照明を人間に浴びせすっきりとした目覚めを促す。朝来てまだ眠気を感じる人がこの最後の光を浴びて目を覚ますことがあるという。

「最も効率的・生産的な働き方は何か。」徹底した空間設計と新たな開発製品の掛け算で生まれた最新の環境を試すことができるのが、the DOCKの大きな魅力の1つなのである。

ブック・スペース:働く人にとって大切な「インプット」を支える

the DOCKのさらなる価値となるのが、2階の中央スペースに位置するブックスペースの存在だ。働く上で「インプット」は言わずもがなの大切な要素。しかし、その質は非常に重要だ。

TSUTAYA監修となるブック・スペースに並ぶ本は、起業関連の本やビジネス書などはもちろんのこと、あらゆる種類のものをTUSTAYAが利用者向けに厳選している。本は定期的に追加される予定のため、利用者は常に新しい情報を手に入れることができる。

後述するイベントスペースと合わせ、「何か知識を持ち帰れる場所」としての大きな価値をユーザーに提供する。

3. コワーキング機能以外も充実したthe DOCK

あらゆる視点からユーザーのコワーキングを支えるthe DOCKだが、そのほかにも紹介すべき機能が存在する。

Circ Lounge:アップサイクルプロダクトのオフィス家具に触れる

建物を入って最初のスペースとなるコミュニティスペースの「Circ Lounge(サークラウンジ)」では、パナソニックの工場で出た部材や端材の排出物を活用して、別のプロダクトに生まれ変わらせたアップサイクルプロダクトを目にすることができる。企画・デザインは、この建物のリノベーション設計にも携わるオープン・エー。パナソニックのアイロン、炊飯器、システムキッチン等の製造過程で生じた工場排出物から生まれたブックエンド、照明、テーブルは非常にユニークだ。さらに跳び箱やシートベルト等の廃材をもとにしたイスやデスクなどのオフィス家具も並ぶ。これらもまだ市場に出る前のものばかりで、コンセプトを具現化したプロトタイプを展示している。

工場排出物から生まれ変わったブックエンド、照明、オブジェ

左から、跳び箱を使ったラウンジチェア・デスク、シートベルトを背もたれに使ったイス、太陽光パネルを活用したテーブルに、システムキッチンの板を使ったデスクテーブル

パナソニックが持つ高度な技術と発想力のショーケース的な意味合いもあるだろうが、新しい家具や働き方グッズを見ることができるのは興味深い。また最近では自社オフィスの家具を社員たちがDIYで作る企業も多いことから、そのためのクリエイティブな発想を得る場所としても良さそうだ。自らの「働く」を追求するためにも新しいものに「触れる」ことは欠かせない。

KITEN:コラボレーション促進のためのマルチコミュニティスペース

現代のワークスペースにおいてユーザーのコラボレーションや交流は最も求められる機能の1つ。そのため今秋完成予定のイベントスペース場所「KITEN」もthe DOCK利用者の体験度を左右する重要な役割を担うだろう。

マルチコミュニティスペースとなるこの空間にはステージが設置され、スタートアップのプレゼンやeスポーツ大会が開催される予定。そのほかにも天王洲の地から新たなクリエイティビティを発信するイベントが計画されているという。

多くの起業家や新規事業開発に携わる人、さらに地域住民も含め、幅広い業界や分野にわたる人々がこの施設がコラボレーションを目的に集まり、コミュニティを育むだろう。先日の記事では、良いコミュニティづくりにおいてメンバーに一定のマナーを求めたり、より多くの共通課題を共有させたり、といったいくつかの仕掛けが必要であることに触れたばかり。今後KITENで育つコミュニティにどのような工夫が施されるのか楽しみだ。

取材を終えて

今回the DOCKが持つ多くの機能や価値について触れたが、単純に最新テクノロジーやコンセプトが敷き詰められたわけではなく、「働く」という活動に紐づいた実体験につなげる空間として計算されている。

近年オフィスにかける予算を増やす企業が増えつつも、どのような働き方やそれに合わせた空間を作っていいのかわからないという担当者の不安の声も耳にする。そうしたときに最新の働く環境には何があるのか、どのような環境が自社にとってベストなのか、そのヒントを知るのにthe DOCKのような空間は貴重な場所と言えるだろう。他の場所では得られないユニークな体験を得られるワークスペースづくりを実践する事例として、参考になる部分は多いはずだ。

まだオープンしたばかりのTENNOZ Rimが天王洲からどのようなオフィス文化を発信するのか期待したい。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikomaフロンティアコンサルティングにてリサーチャーを務める。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。

    

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