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和歌山県の成功事例に見る、企業におけるワーケーション導入のポイント

[October 07, 2021] BY Arisa Kitamura

Presented by Wakayama Workation Project

新たなワークスタイルとして注目されるワーケーション

パンデミックの影響もあって働き方が大きく変化するなか、新たなワークスタイルとして注目されている「ワーケーション」。仕事(Work)と休暇(Vacation)を掛け合わせたこの言葉自体はいまや一般化しつつあるが、労務管理の難しさや企業側のメリットがわかりにくいなどの理由から、導入に踏み切る企業はまだ限られているのが現状だ。

そもそも、ワーケーションを導入しても、作業環境の不備で「Work」が疎かになっては意味がない。また、環境を変えて「Vacation」気分を楽しむにしても、その場所ならではの体験ができなければ遠方まで足をのばす意義を見出せないだろう。この2つの要素をバランスよく満たすことは難しく、導入を阻む一因となっていると考える。

そこで今回は、ワーケーションの企業誘致に成功している和歌山県企画部企画政策局 情報政策課 ICT利活用推進班に取材し、これまで取り組んできた施策や今後の展開について伺うなかで、企業がワーケーションを導入する際のヒントを探る。

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全国に先駆けてワーケーション施策を開始した和歌山県

近畿地方の南端に位置する和歌山県は、大阪府・奈良県・三重県と隣接し、瀬戸内海と太平洋に面する自然豊かなエリアだ。県内には南紀白浜空港があり、東京・羽田空港からは約70分でアクセスできる。

2017年、和歌山県は全国の自治体に先駆けてワーケーションへの取り組みを開始している。背景には、県内の人口減少、過疎化などの地域的な課題があり、その打開策として企業の誘致に着目した。和歌山県では、ワーケーションを仕事と休暇の単純な掛け合わせではなく、非日常をきっかけに新たな価値の創造や地域との交流を促すものと考えているという。

県内のワーケーション施策を手掛ける企画部 企画政策局 情報政策課 ICT利活用推進班長の栢木氏も、「『いつもどおり』の仕事をしながら『いつもと違う』場所で『いつもと違う』経験や体験ができる。そんなワーケーションの空間と機会を創出できれば」と、思いを語る。

写真左:和歌山県 企画部 企画政策局 情報政策課 ICT利活用推進班長 栢木 厚氏
写真右:和歌山県 企画部 企画政策局 情報政策課 ICT利活用推進班 副主査 福岡 將元氏

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ワーケーション誘致を後押しした3つのポイント

ワーケーションの聖地とも言われる和歌山県だが、どのようにして企業誘致を成功させたのだろうか。注目したいのは、次の3つのポイントだ。

1.株式会社セールスフォース・ドットコムの進出

和歌山市を有する紀北エリアでは多くの企業が拠点を置く一方、山や海に囲まれた紀南エリアは交通機関がそれほど発達しておらず、企業の誘致に苦戦を強いられていた。そうした背景から、紀南エリアでは場所の制約を受けにくいIT企業を対象に、2001年頃から誘致に力を入れはじめる。

風向きが大きく変わったのは、セールスフォース・ドットコムが南紀白浜に進出した2015年のこと。同社は自然に囲まれた南紀白浜に新たな拠点を置くことを決め、サテライトオフィスを開設した。それを皮切りに、ITベンチャー企業数社が県内にサテライトオフィスを設置している。

2017年頃には欧米で「ワーケーション」の概念が広まりはじめ、その流れにのるように、和歌山県もセールスフォース・ドットコムの協力会社に声掛けをするなどのアプローチを行い、進出する企業の数が増えていく。なかには撤退した企業もあるが、現在も南紀白浜に残っている企業は数多くある。このように、20年ほどの年月をかけ、和歌山の地にワーケーションの文化と土壌が発展していった。

IT企業に対象を絞って誘致を進めたこと、そしてワーケーションという新たな動きにいち早く注目し、取り入れたことが、企業の進出を後押ししたと思われる。完全な移住は難しくとも、ワーケーションの拠点としてなら導入しやすいのではと考え、ワーケーションを軸に誘致を展開した結果、継続的に地域に関わる「関係人口」の創出につながっている。

地域全体で積極的にワーケーションの推進に取り組んでいるか、そして、先行して進出した企業がどの程度残り、どんな広がりを見せているか。これも、ワーケーションの候補地を検討する際のポイントとなるだろう。

2.ネットワーク環境の整備

ICT環境の充実も、企業誘致において重要な要素となる。自然豊かな場所では通信に課題のあるケースも少なくないが、その点、和歌山県白浜町には全国でもトップクラスのネットワーク環境が整っている。

それには、2015年より白浜町が国の機関であるNICTと共同で、「NerveNet(ナーブネット)」と呼ばれる災害に強い無線ネットワーク技術の実証実験を行っていることが関係している。平常時には、「Shirahama free Wi-Fi」を無料で解放しているという。

和歌山県全域を見ても、Wi-Fiスポットは1500カ所以上設置されており、2018年の時点で人口に対するWi-Fiの数の多さは全国で2番目。そうした環境も、誘致成功のカギとなったと考えられる。

3.誘致後も企業のサポートを継続

誘致で終わらず、進出後も和歌山県が各企業のサポートを続けていることにも注目したい。例えば、「Wakayama Workation Networks(ワカヤマ ワーケーション ネットワークス)」もその一つだ。コワーキングスペースや宿泊、アクティビティなどワーケーション関連のサービスを提供する約90社の民間企業が登録しており、地域とのつながりを活かした多彩なプログラムを提案している。熊野古道を歩くプランや、農業体験、温泉、ビーチヨガといったアクティビティのほか、先進事例の視察プランを提供する旅行会社も見られる。

また、ワーカー向けのプログラムだけでなく、親子で参加できる取り組みも積極的に行っている。例えば、2019年の夏休み期間を利用して開催した親子ワーケーションでは、首都圏を中心に8組23名の親子が参加した。

朝夜を一緒に過ごし、日中は子どもと離れて仕事をする2泊3日プログラムで、親は三菱地所のコワーキングスペース「Work × ation Site 南紀白浜」や串本町のリゾート大島でテレワークを行い、子どもたちはアドベンチャーワールドや串本海中公園などを楽しんだという。参加者からは、「いつもどおり仕事は進んでいるのに、帰ってみると楽しい旅行の思い出ばかりというのは不思議な感覚」「ワーケーションはオンとオフがスムーズに流れる」といった感想があがっている。

「海岸線で夕日を見ながら仕事ができる環境はなかなかないので、とても喜んでいただいています。豊かな自然を体験して、また実施したいと言ってくれる企業が多いですね」と栢木氏が話すように、その土地のよさを実感できる充実したサポート体制がリピートにつながっていると思われる。

CSRの観点でも導入が進むワーケーション

いくら快適な環境が用意されていても、なぜワーケーションを導入するのかが社内で共有されていなければ、導入への一歩を踏み出すのは難しいだろう。実は、ワーケーションはCSR(=企業の社会的責任)活動の一つとしても注目されている。和歌山県では、実際に、日常の業務とあわせて地域課題に対する意見交換会を取り入れる企業もあるという。テーマは少子高齢化やインフラ整備などで、その解決策を企業と地域住民とで話し合う交流会も実施されている。

地域貢献を企業理念におく企業だけではなく、社員の副業や兼業につながる自立機会として地域交流を組み込む企業もあるようだ。

それと並行する形で、和歌山県はこれまで蓄積してきた知見を活かすべく、長野県と一般社団法人日本テレワーク協会との連携により2019年に「ワーケーション自治体協議会(WAJ:Workation Alliance Japan)」を設立している。会員自治体は2021年9月時点で199(1道22県176市町村)に及び、和歌山県長野県、鳥取県が中心となって日本経済団体連合会や日本観光振興協会との意見交換や、各種研修、企業とのマッチングなどを行っている。

2021年秋には複数の自治体での同時ワーケーション受け入れイベントを計画しており、地域ごとの課題やテーマに興味のある企業や省庁を招致し、官民一体で意見交換ができる場を設ける予定だ。同協議会のこうした動きは、国内におけるワーケーションの推進をさらに後押しするものと思われる。

ワーケーションはニューノーマルな働き方として定着する?

今後の取り組みについて、栢木氏は「ワーケーションの手引書を作成する予定です。導入を検討する企業にとって、少しでも助けになれば」と語る

ワーケーションの導入を考える企業のなかには、社内で議題にはあがるものの、制度の整備や労務管理の難しさが障壁となって管理部門などから難色を示されるケースもある。また、いざ導入しようと思っても、何から始めればよいかわからない企業も少なくないという。和歌山県ではそうした状況を踏まえ、首都圏を対象に、和歌山県でのワーケーションを導入するための手引書を作成し、ウェブサイト上で公開することを予定している。公開されれば、導入を考える企業の手助けとなるだろう。

さらに、ワーケーションのメリットをわかりやすく伝えるため、和歌山県は民間企業とのコラボレーションによる効果検証の実施に向け、動き出している。実際に、セールスフォース・ドットコムでは売上向上などの効果も得られており、ワーケーションの効果を可視化できれば導入をさらに後押しできるはずだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、密を避けられる働き方としてもワーケーションは注目されており、リモートワークの急速な普及もあって働く場所の選択肢は格段に増えてきている。日常から切り離され、リラックスできる環境での業務は、従業員のウェルビーイングにもつながり、新たなアイデアや発想も生まれやすい。関係人口の創出をはじめ、地方創生に与える影響も大きいだろう。

和歌山県をはじめとするワーケーションの今後の展開と、導入する企業のさらなる広がりに期待したい。

 

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この記事を書いた人

Arisa Kitamura新卒でディベロッパーの総務人事部、専業主婦、パートを経て2019年にフロンティアコンサルティング人事部に入社。社内外のキャリアによりそう採用育成担当になるべく、日々働き方に向き合っていきます。