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拡大を続けるワーケーションの今 ー 事例とこれからの展望

[July 01, 2021] BY Manami Sakakibara

広義になりつつあるワーケーション

パンデミックの影響を受け、働き方改革にもつながる「リモートワーク」の普及が急速に進んでいる。今後、一般的なワークスタイルとして定着するという見方もある一方で、コミュニケーション不足によるストレスの増加や、労務管理の難しさからくる長時間労働など、新たな問題も浮上してきた。本来であれば働き方改革で解消されるべき課題が、逆に深刻化するケースも見受けられる。

こうした背景から、各企業は働き方を最適化するために様々なアプローチを試みている。なかでも「ワーケーション」は、政府の後押しもあってリモートワークの新たなスタイルとして注目されているが、認知度が高まるにつれてその意味は広義なものになりつつある。

そこで今回は、ワーケーションに関連したサービスを提供する三菱地所株式会社と株式会社エイチ・アイ・エスを取材した。はたして、2社のサービスに通底する新たなアプローチとはーー。

ワーケーションとは何か

ワーケーションはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語で、観光地などで休暇を楽しみながら仕事をする、ハイブリッドな働き方を指す。2020年7月、政府が新しい働き方の一つとしてワーケーションの推進を提言したことで、さらに広く知られるようになった。

もともとワーケーションは、非日常的な環境での心身のリフレッシュや、休暇取得の促進が主な目的だ。しかし、最近では、個人のワークライフバランスを向上させるだけでなく、「エンゲージメントの醸成」や「イノベーションの創出」といった組織の文化形成や価値創造の面でも期待が寄せられている。本記事ではここから、ワーケーションの未来について考察する。

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人を、会社を、社会を、元気づける新しい働き方

最初に紹介するのが、三菱地所のサービスだ。現在、伊豆下田・軽井沢・熱海・南紀白浜でワーケーション施設「WORK×ation Site」を展開している。

ワーケーションとは、「Workの質を高め、様々なationを生み出す働き方」だと考える同社。具体的には、Location、Communication、Innovation、Motivationの4つが軸となる。

“働く場所を非日常空間(Location)に変えることで、普段生まれないコミュニケーション(Communication)が生まれ、新しいアイディアが創造される(Innovation)。

その結果、チームメンバーのモチベーション(Motivation)がさらに向上し、社内に良い循環を生み出す。人を、会社を、社会を、元気づける新しい働き方です。”

(三菱地所のウェブサイトより引用)

三菱地所株式会社
ビル営業部 マスターリース事業室 主事 池田氏 (左)
ビル営業部 グローバル営業室 統括 三澤氏 (右)

今回、取材に応じてくれたのは、このサービスをリードするビル営業部 マスターリース事業室 主事の池田氏と同部 グローバル営業室 統括の三澤氏だ。

そもそも、ワーケーションは企業においてどのような役割を持つのだろうか。三澤氏は「ワーケーションはあくまでツール。実施によって何を生み出したいのか、その目的を定める必要がある」と強調する。

「WORK×ation Site」では、目的に合わせて一日のプログラムをカスタマイズできる。例えば、エンゲージメントを高めたいのならオフサイトミーティングを、企画開発やスキルアップのための交流目的ならハッカソンをというように、それぞれのゴールに合わせた多様な活用法がある。

最適な道筋を選ぶためには、その企業が持つ課題の洗い出しやワーケーションに期待する学びなど、目的の明確化が肝要だ。自発的なイノベーションを誘発する場所として、「WORK×ation Site」のような施設の重要性は今後さらに増していくに違いない。

“価値ある無駄”を再認識する

この一年の間、テレワークの普及による「コミュニケーション不足」がしばしば話題になった。サイボウズ株式会社チームワーク総研が2020年10月に実施した、週1回以上在宅勤務をする会社員ら3087名を対象とした調査でも、幅広い世代でテレワーク時のコミュニケーション不足を指摘する声があがっている。

コロナ禍によって様々な制限が生じたが、対面でのリアルなコミュニケーションもその一つだ。互いの姿が見えない状態でテレワークを進める中、「数字」や具体的な「成果」が評価基準とされ、何気ない「雑談」や「温度感」は無駄なものとして一旦後ろに置かれた。その結果生じた、見えない価値を尊重する世の潮流とのギャップを埋めるべく、企業は様々な働き方を模索している。

「成果物を重視するあまり、一見無駄とも思われるプロセスが評価されにくくなっている。人と人との距離感が変わりつつある今だからこそ、“価値ある無駄”に目を向けるいい機会なのではないか」と語る三澤氏。ワーケーションがコミュニケーションを活性化させる場になり得ると期待を寄せる。

ふと立ち話を始めたり、少人数の雑談にみんなが集まってきたり。イノベーションはそうした動きの中から生まれる。ワーケーションが持つ可能性は無限大だ。

ワーケーションはゴールではなく選択肢

三菱地所が掲げる様々な「ation」。「ation」が新たな価値観を育み、自身の在り方そのものを定義付けるヒントとなる。自分らしさを尊重し合える社会、それを意識するきっかけの一つとして、また働き方の選択肢の一つとして、ワーケーションはパラダイムシフトを導く可能性を秘めている。

「ワーケーションはゴールではなく選択肢の一つ。これをきっかけにコミュニケーションが生まれ、破壊と創造が起こるイメージ」と三澤氏。

続けて池田氏は、「本当の意味で自由にコミュニケーションができる場として進化していってほしい。個人でもチームでも、ワーケーションを働き方の選択肢の一つとして、簡単に選べるような社会にしたい」と今後の展望を語った

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ワーケーションで地域の魅力を再発見する

エイチ・アイ・エスでも、様々な形のワーケーションを提案している。B to B向けに用意されたプランでは、その土地独自のアクティビティや文化交流を積極的に組み込んでおり、地域創生にフィーチャーした旅行業ならではの視点が魅力だ。

株式会社エイチ・アイ・エス
本社経営企画本部 広報室 三浦氏 (上段左)
法人営業本部 商品企画チーム 日高氏 (上段中)

今回の取材には、本社経営企画本部 広報室の三浦氏と法人営業本部 商品企画チーム の日高氏が応じてくれた。

日高氏はワーケーションについて、「メジャーな観光地ではないが、ワーケーションだからこそ魅力を感じられる場所がある。地域の人と関わったり、町を知って文化を体験したりする機会を設け、地域とのつながりを生み出せるのも醍醐味」と説明する。

昨今では地域創生の一貫として、ワーケーション誘致に向けて積極的な地方自治体も多い。そこには、その地域と関わりを持つ「関係人口」を増加させたいという自治体側の狙いもある。

ワーケーションに力を入れている自治体と言えば、和歌山県白浜町が有名だ。株式会社セールスフォース・ドットコムのサテライトオフィス開設を皮切りとして、テック企業を中心に様々な企業が白浜町へ集結した。また、長野県では緑豊かな自然環境をアピールポイントに、ワーケーション施設として空き店舗などの活用を促すことで、利用する企業と地域双方の満足度向上を達成している。ワーケーションは企業文化を醸成するだけでなく、地域とのつながりを形成し、昇華させる社会的役割も担っているのだ。

エイチ・アイ・エスが取り組む事例として、2021年4月にリリースした「今治・しまなみワーケーション」を特筆しておきたい。これは愛媛県今治市を基点としたワーケーションプログラムで、今治の文化や食を体験できるプランだ。今治はサイクリングの聖地としても近年注目されており、県外からの旅行者も多い。しまなみ海道のトライアスロン大会と掛け合わせたワーケーションツアーを企画し、市民アスリートからも好評を博している。

制度の導入に向けた土台づくり

ワーケーションという言葉自体はよく知られるようになったが、中身についてはどうだろうか。日高氏は、「ワーケーションの概念がわからないという人も多いが、むしろ明確な概念はなく、いろんな形で活用できることをより浸透させていきたい」と話す。

ワーケーション黎明期の現在、社会全体でより良い手法を模索している状態だ。既存のワーケーション制度はいわばプロトタイプであり、その先には各企業・個人の色に合わせた無数の進化がある。

一方で導入に至るまでのハードルはやや高く、そこをクリアするのが目下の課題となっている。この点について日高氏は、「ワーケーションのメリットがわかりにくい、導入方法がわからないといったご相談が多く、まずはそこを解決するのがポイント。実施前段階の運用やソフトの整備といった点も重要」と語る。

企業によってワーケーションのプログラムは異なるため、定量的な分析が難しく、数値上のメリットを示しにくいのも事実だ。だからこそ、ワーケーションをより広義的に捉える視点が求められる。まずは導入に向けた啓蒙や土台づくりが重要だ。

生活の可能性を広げるワーケーション

今後、ワーケーションにはどのような可能性が期待できるのだろうか。

「自治体や官公庁もワーケーションの推進に力を入れており、社会情勢が落ち着いたら一気に広まる可能性もある」と語る三浦氏。日高氏は「ワーケーションが一般的になれば、一人ひとりの生活の可能性が広がる。旅行会社として、地域と人を結び付ける役割を今後も果たしていきたい」と続ける。

実際、世界中のガイドと日本国内のトラベラーをつないでオンラインツアーを開催するなど、エイチ・アイ・エスはコロナ禍でも様々なイノベーションを生み出し続けている。パンデミックで技術革新が加速したように、未曽有の事態をポジティブに転換する視点を持ち続けることが、我々の働き方を変化させるトリガーとなっていくに違いない。

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白馬岩岳マウンテンリゾートにて

現在と未来をつなぐゲートウェイに

これまで、社会の在り方や労使構造は、産業革命を契機の一つとして変容してきた。第4次産業革命の今、世の中のありとあらゆるモノが変化を遂げ、一年後の未来ですら予測は難しい。それは同時に、今まで存在しなかった新たな価値創造や、それを承認し合える文化形成の可能性を秘めているのだ。

時代が我々へ与えているのは単なる試練ではなく、「働く」やその先にある「生きる」という価値観と向き合うための問題提起なのではないだろうか。ワーケーションという新たな文化の萌芽、それは今を生きる我々と未来をつなぐゲートウェイとなるのかもしれない。

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この記事を書いた人

Manami Sakakibara店舗デザイン会社で勤務したのち、フロンティアコンサルティングに入社する。所属は設計デザイン部。社内の働き方改革プロジェクトにも参画し、より良いワークプレイスの在り方を日々探求している。



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