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「エシカル」とは何か? 企業そして個人に広がる働き方・考え方

近年聞かれるようになった、「エシカル」という言葉。今回は、その意味と定義をおさえた上で、消費活動や働き方の視点から見た「エシカルな生き方」について考える。

近年、広がりつつあるエシカル志向

「エシカル(ethical)」というワードが、数年前から聞かれるようになった。倫理的、道徳的といった意味を持つ英語で、一般的には「法律などの縛りがなくても、みんなが正しい、公平だと思っていること」と解釈されている。ここから転じて、人や社会、地球環境に配慮した消費行動を「エシカル消費」と呼び、最近ではSDGsと関連付けて取り上げられる機会も多い。

とはいえ、個人が日々の生活の中で、エシカルかどうかを見極めるのは意外に難しい。一方で、働き方とエシカルを紐付けて考える「エシカルワーク」という考え方も出てきている。エシカルをどのように捉え、日常の中に取り入れていくか、自分なりの軸を持つのもいいかもしれない。

そこで今回は、エシカルの考え方を日常生活や働き方にどう取り入れるか、その定義をおさえながら見ていきたい。

エシカルをどう定義する?

2015年11月に設立された一般社団法人エシカル協会では、エシカルについてこう表現している。

「一般的には、『法的な縛りはないけれども、多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範』であると言えます。私たちが普及活動を行なう際の『エシカル』とは、根底には一般的な定義が流れているものの、特に『人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動』のことを指します」
(エシカル協会のウェブサイトより引用)

エシカルを理解する上で最も重要かつ難しいのが、「人間が本来持つ良心」、そして「みんなが正しい、公平だと思っていること」の部分ではないだろうか。第一に、「人間が」とか「みんなが」という主語は、いささか漠然としている。その上、「正しさ」や「良心」という、それこそ人によって捉え方が違う言葉が続くのだ。一体、何を軸にして考えればいいのだろうか。

そのヒントとなる枝廣淳子氏の言葉を、エシカル協会の代表理事である末吉里花氏が一般社団法人日本エシカル推進協議会のウェブサイト上で公開している。なお、環境ジャーナリストである枝廣氏は、エシカル協会の相談役も務めている。

「正しさとは、『一』と『止まれ』でできていて、『この線で止まれ』という意味だ。『この線』のことを規範といい、難しい言葉だけれども、人を傷つけてはいけない、動物も大事にしよう、自分たちだけがいいわけにはいかない、未来の世代のことも大事にしよう、など色々な規範がある」
(日本エシカル推進協議会のウェブサイトより引用)

上記の言葉を引用した後、末吉氏は次のように述べている。

「枝廣先生の教えから学んだのは、正しさはひとつではなく、正解はない、ということです。大切なのは、『この線』を一人一人が心に持つことであり、『内なる規範』を持つことで『エシカルな自分づくり』ができる、ということ」
(日本エシカル推進協議会のウェブサイトより引用)

正しさも良心も、人それぞれ違っていい。その代わり、一人ひとりが「内なる規範」を持つことが大切なのだ。「内なる規範」を言い換えるとすれば、それは不都合なことから目を背けないことではないだろうか。

エシカル消費と日々の暮らし

エシカルの定義をおさえたところで、注目度の高い「エシカル消費」について見ていきたい。

消費者庁は、エシカル消費を、「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」と説明している。さらに、SDGsとの関連として、17あるゴールのうち、エシカル消費はゴール12の「つくる責任 つかう責任」につながる取り組みだという。

SDGsの17項目(画像は国際連合広報センターのWEBサイトより)

後でも述べるが、企業活動においてもエシカル消費は重要な視点だ。消費者庁の「倫理的消費」調査研究会の報告でも、エシカルな商品やサービスの提供が企業イメージの向上につながるかを尋ねる問いに対し、7割弱が肯定的だったことが示されている(2016年12月実施、対象者2,500名)。

消費者庁では、エシカル消費の啓蒙活動の一環として、日常の中でエシカル消費につながる消費行動の目安や考え方を示している。同庁の特設サイト内にある「エシカル消費とは」には、エシカルを意識するために「人・社会への配慮」「地域への配慮」「環境への配慮」「みんなで支え合う社会へ」と生活シーンに合わせて項目を分け、わかりやすい言葉で呼びかけている。それぞれについて、以下にまとめる。

1. 人・社会への配慮
「商品やサービスの裏に隠されたストーリーに、思いを巡らせてみませんか?」

チョコレートやコットン(綿)製品などの原材料の多くを生産する発展途上国では、安い賃金で働き、貧困に苦しむ人たちがいる。そこには児童労働の問題もある。また、障がい者施設でも日用品などが製作されているが、消費者には浸透しておらず、結果として障がい者の多くが低賃金で働いている実態がある。そうした人・社会にも思いを巡らす。

2. 地域への配慮
「地元の本屋さん、電器屋さん、肉屋さんなどでお買物をしてみませんか?」

インターネットを通じて、ほしいものを取り寄せて購入できる現代。一方で、それぞれの地域には第一次産業もあり、また地元の個人商店もある。遠方で生産・製造された食材や商品を購入できるのは便利だが、地元の店で買い物をすることで地域振興につながることも忘れてはならない。

3. 環境への配慮
「日々の暮らしの中で、『もったいない』と思うことは何ですか?」

日々の暮らしを振り返ると、その生活を支えるためにいかに多くのエネルギー資源や原材料、食料品などを消費し、海外から輸入しているかに気付かされる。大量生産・大量消費・大量廃棄が引き起こす、地球温暖化や海洋汚染、生態系の破壊、エネルギー資源の減少、異常気象による農作物被害といった、地球規模の課題。これらは、一人ひとりのささやかな消費の積み重ねによって引き起こされる。「もったいない」という思いを行動につなげることが大切。

4. みんなで支え合う社会へ
「消費と社会のつながりを『自分ごと』として捉え、世界の未来を変えるために、今から行動しましょう!」

エシカル消費とは、まさに「内なる規範」に照らして商品が届くまでのストーリーに想いを寄せ、廃棄後の影響を考え、今ある社会課題の解決につながるモノやサービスを利用することである。

エシカル消費を意識しつつ、立ち止まって地球規模に思いを巡らす。言うのは簡単だが、実践してそれを続けるのはなかなか難しい。そこで、毎日の消費行動をより簡単にエシカル消費へとつなげるため、一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会では「サステナブル・ラベル」の普及活動を行っている。

サステナブル・ラベルは、持続可能な原材料調達や環境・社会的配慮につながる国際認証ラベルの存在を広く知ってもらうために、同協会が命名したものだ。スーパーなどで購入する魚や果物、野菜に与えられる認証や、木材原料で製造される商品に付けられる認証、オーガニックの繊維製品に与えられる認証など、ジャンルは多岐にわたる。こうしたラベルが付いた商品を選んで購入するのも、エシカル消費の一つの方法だ。

エシカルワークとは?

エシカルは消費行動への意識として捉えられがちだが、実は働き方においても当てはまる。仕事を通じてエシカルな組織・団体を「寄付」で応援する一般社団法人ECEFの代表理事・田中新吾氏は、自身のコラムで企業とエシカル、働く人とエシカルの関係について触れている。

ここではまず、企業におけるエシカルへの対応について書かれたコラム「エシカル消費の具体例と企業の対応」を紹介しておきたい。同コラムでは、企業がエシカルに配慮した原材料の仕入れや商品の製造を行うメリットについて、ESG投資*の観点から次のように指摘している。

*ESG投資:資産運用において、環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)の要素を考慮する企業へ投資を行うこと。

「ESG投資は、環境においては『地球温暖化対策』『生物多様性の保護』、社会は『人権への対応』『地域貢献活動』などの指標を重視するものなので、エシカル消費に取り組むことは投資の評価対象として大きな意味があります。エシカル消費に積極的に取り組む企業は投資を集め、それによって企業価値の向上が期待できます」
おしえて!アミタさんより引用)

また、個人の働き方とエシカルを結ぶ「エシカルワーク」についても、コラム「エシカルワーク 〜鍵となる『ダイバーシティ&インクルージョン』〜」で言及している。同コラムでは、エシカルワークを「『働く』にエシカルの考え方を適応させたもので『人、地球環境、社会を大切に配慮した働き方』」と説明。具体的な働き方のシーンで考えると、エシカルな事業を行う会社で働くことや、エシカルに配慮したオフィス環境が整えられている企業で働くこともエシカルワークなのだという。

さらに、「ウェルビーイング」を取り入れた企業においても、エシカルワークは実現されるとしている。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を指す。企業が社員のウェルビーイングを求める=働く人への配慮と考えられるため、まさしく「エシカルワーク」が実践されていると言えるのだろう。

働き方改革が叫ばれ、期せずしてコロナ禍によってテレワークが浸透し、働く人のワークスタイルは変わりつつある。そこからさらに一歩進んだエシカルワークを企業や組織が意識して取り入れることが、これからは求められる。そして何より、企業や組織の行動を促す上では、社会の一員であり一人の消費者でもある私たち個人のエシカルな心掛けが必要不可欠なのではないだろうか。

この記事を書いた人:Naoto Tonsho