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ニューヨーク、スマートシティ化の立役者 – 公共無料Wi-Fiキオスク”LinkNYC”が変えるニューヨーカーの働き方

ニューヨークで進むスマートシティ化プロジェクトの重要な一端を担うLinkNYCプロジェクトから、ニューヨーカーの働き方の未来を考える。

Technology

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ひと昔前はいたるところで目にした公衆電話だが、今日その姿を見ることは少なくなった。それもそのはず。総務省が公開している情報通信白書によると、NTT東西の公衆電話施設数が2000年においては73.6万台だったのに対し、2017年には15.8万台まで減少したと報告されている。災害時には通信インフラのひとつとして重要な手段となる公衆電話だが、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末利用増加の影響により設置台数は、確実に減少の一途をたどっている。

そんな公衆電話を新たな社会インフラハブとして活用し、スマートシティ構想を推進しているのがニューヨーク市だ。2015年、ニューヨーク市は公共コミュニティや中小企業向けのスマートシティ構想、”The Smart and Equitable City Project“を打ち出した。この中には、投資家や中小企業、起業家向けのファンディング、テクノロジー開発やビジネスプラットフォームづくりなどあらゆるプロジェクトが含まれており、ガイドライン化されている。

その中でも特に高い評価を得ているプロジェクトが、“LinkNYC”である。そもそもスマートシティ構想は、スマートオフィスを含め都市部に住み、働く人の生活について考える上で外すことのできないトピックだ。そんなスマートシティ化に向けた取り組みは世界的に進められており、このLinkNYCは一際注目を集めている。Linkはニューヨークのスマートシティ化をどのように支えているのか、そしてニューヨーカーの働き方にどのような影響を及ぼすのか?

LinkNYCとは?

ニューヨーク市内の利用されていない公衆電話を、”Link”と呼ばれる無料Wi-Fiスポットのキオスクに変換する大規模インフラ整備プロジェクト、LinkNYC。

link NYC

プロジェクトのはじまりは、2013年、ニューヨーク市長だったMichael Bloomberg 氏 (マイケル・ブルームバーグ) により発表された、”Reinvent Payphones Design Challenge”コンテストだ。

コンテスト内容は、使われなくなった公衆電話網の新たな社会インフラモデルの構築と、ビジュアルデザインの募集。非営利団体や私企業などを対象に、アイディアの提出を呼びかけた。

ニューヨーク市では、電話ボックスを含めた歩道・公衆電話網は市が管理。電話ボックス自体のメンテナンスはフランチャイズというカタチで各事業者によって維持管理されいる。この契約は15年毎に更新されており、2014年のフランチャイズ契約満了を機に、市内の公衆電話を次世代の新システムに切り替えるプロジェクト、LinkNYCを立ち上げることになったのだ。

そして、このコンテストを勝ち抜いたのが “CityBridge (テクノロジー・通信・広告など様々な分野の専門家で構成された共同事業体)”である。ニューヨーク市はCityBridgeとフランチャイズ契約を結び、総工費約2億ドルのLinkNYCプロジェクトが動き出した。CityBridgeには、以下のチーム企業、IntersectionQualcommCIVIQ Smartscapesが参加しており、各企業が異なる役割を担っている。

Intersectionの調査によると、2015年の導入以降、LinkNYCのネットワークには今や約600万人のユーザーが存在し、累計8.6TBのデータが使用されているとのこと。毎月25万件以上の無料通話が利用され、地図アプリでは毎月約3万件の検索が行われている。これらの数字から、LinkNYCがニューヨーカーにとって、そして、旅行者にとって非常に有益な社会インフラハブとして機能していることが読み取れる。

LinkNYCの主な機能

  1. 高速ギガビット無料Wi-Fi
    :持参デバイスでも使用可能
  2. Androidタッチタブレット
    :マップ検索など情報アプリにアクセス可能
  3. アメリカ国内の無料電話 (ビデオ通話も可能)
    :点字キーパッドやマイクも装備
  4. 緊急電話へのダイヤル
    :911(犯罪・火災などの緊急時) / 311(苦情専用) / 411(無料電話場番号案内サービス)
  5. USBポート
    :携帯電話の充電が可能
  6. ADA対応デザイン
    : Antenna Design New York Inc. が担当
  7. 55” HD ディスプレイ
    :広告や公共サービスを表示

日本人デザイナーが手がけるビジュアルデザイン

LinkNYCのビジュアルデザインには日本人が携わっている。そのデザインを手がけたのは、Antenna Design New York Inc. の宇田川信学(うだがわ・まさみち)氏。ニューヨークの地下鉄車輌や駅のデザインを手がけたことで有名な工業デザイナーで、2013年には「過去25年間で最も影響力のあるニューヨーカー100人」にも選ばれている。日本でも一時期メディア露出が増えるなど、海外で活躍する日本人デザイナーとして名を知る人も多いだろう。

画像:SVA MFA Products of DesignのHPページより

LinkNYCプロジェクトでのAntennaの役割としては、機能的で象徴的な、物理的デザインとハードウェアインターフェイスの作成。スマートシティ構想において、新たな象徴的なランドマークとなるLinkNYCだが、それと同時に、少なくとも15年間は街の風景の一部となるため、ニューヨークの様々なコンテクストに馴染む必要がある。ミニ超高層ビルを思わせるような高くて細い構造は、ニューヨークのエネルギーを表現しながらも、時代を感じさせない普遍的なデザインとなっている。

Linkは高さ約3m (9.5フィート)、幅が約30cm(0.9フィート)のタワー型。周辺の状況(商業用、住居用、ランドマークなど)に応じていくつかのデザインパターンがある。画像はLinkNYCのHPページより

両脇には広告用の55インチ液晶ディスプレイが設置され、キオスク正面にはユーザーが使うタッチスクリーンがある。敢えて、側面を狭くし、斜めにカットすることで、正面性を明確にする工夫としている。タッチスクリーンは細い側面に埋め込まれており、プライバシーを保つためのニッチ空間が生まれる。また、LinkNYCはADAに基づいており、ユニバーサルアクセスを考慮したデザインとなっている。

タッチスクリーンの表示例。右画像はLinkNYCのHPページより

実際、私自身もLinkNYCを利用してみたが、初めてでも簡単にスムーズに操作できた。画面も見やすく、分かりやすいインターフェースだと感じた。公共サービスは、当たり前だが不特定多数のユーザーを対象としている。市民だけでなく、旅行者であっても誰であっても、全てのユーザーに等しくサービスを提供する必要がある。そのため、”公共感”と”徹底したリサーチ”がデザインの重要なベースとなるのだろう。

ビジネスモデル

LinkNYCの運用コストには税金は一切使われていない。広告、スポンサーシップ、およびパートナーシップを通じて独自の収益を生み出している。すなわち、公益事業であると同時に、自分たちで収益源を確保するためのビジネスモデルが構築されているのだ。

広告には企業広告と公共広告の2種類がある。企業広告には、新商品キャンペーンや映画の告知など様々だが、タバコ(電子タバコ含む)やアルコールなどの広告は禁止されている。両脇のディスプレイは歩道や車道からの視認性が良く、ニューヨークのいたる所に設置されるため、ベンチャー企業や中小企業にとってだけでなく、大企業からも広告塔のとしての注目度は高い。

公共広告では、基本的にリアルタイムの交通情報やマップなどが表示されている。Intersectionは芸術や文化発信の役割を担っているため、季節限定イベントや地元情報、アートイベントやAP通信記事など、旅行者だけでなくニューヨーカーにとっても興味深い情報が含まれる。さらに、Linkにプロポーズを表示したカップルもいたりと、ユニークな使い方もされている。

ローカルエリア情報。(画像:LinkNYCのHPページより)

初めの2年間こそ、収益が期待には届かず少し苦戦したものの、LinkNYは今後12年かけて5億から10憶米ドルの収益を生み出すと期待されている。2017年にはCityBridgeのチーム企業であるIntersectionに対し、投資家から1億5,000万ドルの資金援助があるなど、期待値の大きさが窺える。

これからの働き方とビジネスを支えるLinkの存在

2015年の導入から5年目に入り、市民生活に少しずつ浸透しているLinkNYCだが、働く人のためのスマートな環境づくりという側面でも大きな期待が寄せられている。この公共無料Wi-Fiキオスクが進めるデジタルトランスフォーメーションには以下のようなものが挙げられる。

5G(第5世代移動通信システム)の普及促進

ワイヤレスが私たちの生活の基盤になってきている今日において、Wi-Fiの存在は欠かせない。数年前からNYではすでに、公園や駅周りなど公共無料Wi-Fiが整備が進んでいる。そのため、暖かくなると街中ではノートパソコンを広げ仕事をする人達を目にすることが多くなる。そんな中、こちらの記事によると、LinkNYCが5Gの普及に一役買うことが期待されているとのこと。5Gの高速かつ大容量モバイルといった特性に加え、さらに多様な働き方の可能性を広げることになるだろう。

例えば、先日の2019年トレンド記事や今年5月に行われたWORKTECH NYCのレポート記事でも触れたが、パソコンだけでなくスマートフォンで作業を行う時間は増えており、さらにオフィス・仕事用のアプリのユーザビリティ(使いやすさ)の向上は今後進んでいくと多くの専門家は予想している。その他にもあらゆるデバイスがインターネットに繋がり、複雑な処理はクラウド上で完結。テレビ会議やウェブ会議はよりスムーズに行うことができ、データ量の多い資料なども瞬時に共有することが可能となり、場所に縛られずに円滑なビジネスコミュニケーションが行えるようになる。

また、世界的にも最もオフィス物件の賃料が高い街の1つに入るニューヨークにおいて、企業はオフィスの外でも柔軟に働ける環境や制度を充実させようと取り組んでおり、街を挙げての5G通信の普及は自由な働き方の促進につながる。またニューヨークはセントラルパークやハイラインがあるように緑の多い都市としても有名で、社員が緑のある場所で働けるようになるのは近年話題である「バイオフィリア」との相性が良い話だ。

さらに5Gの強力な通信インフラは、ニューヨーク市内で増えているシェアバイクサービス『Citi Bike』といった公共交通機関のIoTの普及の大きな後押しとなる。深刻な通勤渋滞が問題視されている同市だが、高度な通信技術を活用した都市交通計画整理や新たなスマート交通機関の普及も将来実現できる施策の1つだろう。最近では5Gを活用した自動運転車の実証実験のニュースを耳にすることが少しずつ増えてきたが、このコネクテッドカーが実際にいち早く普及する都市がニューヨークになることも考えられる。WORKTECHにおいてオフィス・働き方の専門家たちはすでに自動運転車内の環境を働くスペースとして捉えていることから、ニューヨーカーの働く場所に「自動車」が加えられるのはどこよりも早いかもしれない。

(画像: IntersectionのHPページより)

USBポートによるモバイル充電問題の解決

スマートフォンでの仕事の作業時間が近年増えているのは先ほど述べた通り。例えば日本で使われることが多くなったkintoneやChatwork、Slackなどのツールをスマホで扱う人は周りに多いだろう。「モバイルで場所を選ばすに仕事をする」は今では自然な光景である。

しかし、モバイルにつきものなのが充電の問題。日本では近年モバイルバッテリーのレンタルサービスが徐々に浸透し、アメリカでもより長持ちするバッテリーの開発に多くのスタートアップや企業が取り組んでいる。そんな中、Linkに搭載された充電可能なUSBポートは、リモートワークやノマドなど、柔軟に様々な働き方をするNYのワーカーにとって、仕事の効率を高める強い味方になるだろう。

(画像: Campbell Law ObserverのLinkNYC記事ページより) 

ローカルビジネスのサポート

上で述べたように、LinkNYCは広告収入を基本として運営されているが、ローカルのスモールビジネスを盛り上げるためにLinkLocalというプログラムを実施している。このプログラムでは、ローカルのベンチャー企業や小企業は市内にある5つのLinkで、30日間無料広告を打つことができる。ポップアップストアやレストラン、ネイルサロンやスパ、個人法律事務所など、参加企業は多様だ。店舗のオープンやイベント時にLinkで広告を打ち、集客に繋げる使い方が多いようで、今後もNYのローカルビジネスを支える大きな役割を果たすだろう。

終わりに

プロジェクト発足時、ニューヨーク市の5つの区 (Manhattan、Brooklyn、Queens、Staten Island、Bronx) には約11,000台もの未使用公衆電話があったが、2015年に1台目のLinkが導入されて以降、 年々設置台数は拡大している。そして、現在約1200台以上のLinkがニューヨーク市内で稼働。

LinkNYCの設置マップ。各キオスクは周辺約45m (150フィート)に無料Wi-Fiを提供。(画像: LinkNYCのHPページより) 

LinkNYCプロジェクトでは、2024年までに7500台の設置を目標とし、着々と切り替え作業が進行している。将来的には約45.8m (150フィート)毎にキオスクが設置される予定であり、市内のいたる場所でギガビット通信が可能になる。観光客とニューヨーカーにとって、気軽に必要な情報が得られる街へと進化している。

さらに、スマートシティ構想の流れに伴い、LinkNYCは現在の機能に加え、新たなシステムの導入も検討されている。例えば、Sidewalk Labsが発表するLinkを都市データ感知システムとして使用するという案は興味深い。温度や湿度、CO2などの環境データを蓄積し、都市の綿密なデータ分析を行うようだ。

LinkNYCの動きは他の国でも活用されており、イギリスでは”LinkUK”として、2017年より同様のプロジェクトがスタートした。2020年の東京五輪、2025年の大阪万博と国際イベントが続く日本。公衆電話の有効利用について新たな取り組みが必要になりそうだ。

<その他参考記事・文献:>
米国におけるスマートシティに関する取り組みの現状
ニューヨークの講習Wi-Fi事業について
Intersection raises $150 million for the global expansion of its free Wi-Fi
Reinvent Payphones Design Challenge Launches

この記事を書いた人:Chinami Ojiri

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