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世界の官公庁のオフィスに学ぶ!ワークプレイスデザインと各国の指針

普段なかなか目にする機会のない海外の官公庁のオフィス。本記事では、アメリカ・イギリス・ニュージーランドの官公庁のオフィスを取り上げ、どのような指針のもとにデザインされているのかを紹介する。

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世界の官公庁はどのようなオフィスを構えているのか

市役所や県庁などの「官公庁のオフィス」と聞いて、どのような風景を想像するだろうか。多くの方が、飾り気のない殺風景なイメージを思い描くのではないだろうか。

しかし、世界の官公庁のなかには、そうしたイメージを覆すデザインのオフィスもある。また、その国が掲げるワークプレイス指針を遵守した最先端のオフィスとなっている例が多い。

そこで今回は、アメリカ・イギリス・ニュージーランドの官公庁のオフィスを取り上げ、それぞれどのような指針のもとにデザインされているのかを紹介したい。

なお、各国の指針を適宜引用しているが、直訳ではなく筆者の解釈・編集を交えたものであるため、詳細はリンク先の原文を参照願いたい。

アメリカの官公庁のワークプレイスデザイン

アメリカの官公庁のワークプレイスデザインについて調べていたところ、米連邦政府一般調達局(General Services Administration:GSA)が提唱する指針に行き当たった。

GSAとは、連邦財産の管理を目的として、1949年に設立された米国政府の独立機関だ。官公庁舎の建設・管理・保全や、政府機関や軍で使用する物資の調達などを統括し、政府全体のコスト最小化と連邦職員の生産性向上を推進している。

米連邦政府一般調達局(GSA)の外観(画像はGSAのWebサイトより)

そういった機関が提唱するだけあり、アメリカのワークプレイス指針は非常に合理的だ。その内容の一部を紹介しよう。

【柔軟で持続可能なワークプレイス設計の指針

・物ではなく人を動かす
個人の作業スペースを標準化し、人が新しい場所に移動する際に調整にかかる時間を最小限に抑える。

・自分のワークスペースを自分で調整できるようにする
調整可能な家具とコンピューターデスクで、ワーカー個人の好みや仕事のニーズを満たす。キャスター付きの家具を使用すると移動も容易になる。

・柔軟なインフラを提供する
取り外し可能な壁、床下配線や床下調整システムを採用することで、建設資材が削減でき、ワークスペースを柔軟かつ環境フレンドリーに簡単に変えることができる。

・オフィス内の機動性をサポートする
ノートパソコン、携帯電話、ワイヤレス接続により、ワーカーがタスクやニーズの変化に応じて簡単に移動することができる。

・代替の作業環境をサポートする
自宅やコワーキングスペースなど、オフィス以外のスペースで働けるようにすることで、通勤にかかる環境コストと経済コストを削減する。

この指針の前提として、GSAは現代のビジネスシーンを流動的だととらえている。組織は方向性を変えたり、新サービスを開始したりするものであり、オフィスで働く従業員はそれに応じて、新しい場所に移動したり、チームを再形成したりする必要が生じる。

GSAの指針は、あらかじめそれを見越してワークプレイス設計に柔軟性をもたせておくことで、変化への対応を容易にするための方法を提示しているのだ。さすが世界のビジネスをけん引するアメリカだけあり、政府関連組織であるGSAもスピード感を意識している。

またGSAは、理想的なケーススタディとして自分たちのワシントンDCオフィスを挙げている。

米連邦政府一般調達局(GSA)内部の様子(画像は建築デザイン会社Shalom Baranes Associates ArchitectsのWebサイトより)

かつて彼らは、4カ所の分かれたオフィスで働いていたが、現在の本部オフィスに職員を集約することになった。集約前に本部オフィスで働いていたのは2200人であったが、オフィス再編成後には約4000人に膨れ上がったのだという。

米連邦政府一般調達局(GSA)執務スペースの様子(画像はGSAのWebサイトより)

2倍近くのスタッフのワークスペースを再編成することがどれほど大変かは想像に難くない。しかしGSAは、前述の柔軟性をもったオフィス設計を行っていたことからスムーズに移動とオフィス再編が実行された。なかには、90分でオフィス移動を完了したチームもあったという。自身が掲げたワークプレイス指針の賜物と言えるだろう。

本部オフィスの内部の様子は、下記のGSA公式動画から見ることができる。
https://www.youtube.com/watch?v=RGbwaU1WVqQ

イギリスの官公庁のワークプレイスデザイン

イギリスの場合は、政府のWebサイトから政府機関のワークプレイス指針(Government Workplace Design Guide Version 3)をダウンロードすることができる。アメリカGSAのワークプレイス指針が大枠のみだったのに比べ、こちらはPDFファイル102ページにもなる膨大かつ詳細な内容だ。

働く職員の安全や健康、利便性を考慮した提案をはじめ、サーキュラーエコノミー視点の環境配慮から、作業デスクやスタッフロッカーといった細部にまで提言がなされている。何しろ情報量が膨大であるため、要点を実際のオフィスを例に見ながら解説したいと思う。

取り上げるのは、タインアンドウィア州にあるサンダーランド市の市庁舎だ。2021年11月に完成したばかりの新しい建物である。

サンダーランド市庁舎の外観(画像は建築事務所FaulknerBrowns ArchitectsのWebサイトより)

エントランスホールに入ってまず目を引くのは、地元の造船会社から引き継いだ金属製の階段だ。同地でかつて栄えた造船業の歴史を反映しており、かつワークプレイス指針内の「材料のリサイクルと再利用(中略)を通じて、建設中に排出されるCO2を削減する」という項目(指針78ページ参照)を順守したものとなっている。

23トンの金属製の階段がガラス張りのホールを貫く(画像は建築事務所FaulknerBrowns ArchitectsのWebサイトより)

同指針では、ゾーニングの重要性も説いている。フロアに特性(目的)の異なるゾーンを複数設け、それぞれの場所で目的に応じた異なる業務を行うことが推奨されている。ゾーンは大きく3つに分類される。

①チームホームゾーン
チームが通常のデスクワークに取り組む場所で、長期間の滞在に適したゾーン。従来のスタイルの個人デスクとフレキシブルに活用できるテーブル、チームおよび個人の荷物入れ(ロッカーなど)で構成される(指針の16、30ページ参照)。

サンダーランド市庁舎のフロア内の様子(画像は建築事務所FaulknerBrowns ArchitectsのWebサイトより)

このサンダーランド市庁舎の画像には、個人の作業用デスクや、チームがディスカッションするテーブル、奥にはロッカーも確認できる。まさに「チームホームゾーン」のお手本のようなオフィスだ。

②コラボレーションゾーン
チームホームゾーンから離れた場所で、グループ作業や活動に最適なさまざまな作業環境を提供するゾーン(指針の16、35ページ参照)。

ちょっとした打ち合わせに便利なインフォーマルミーティングセッティング(画像は建築事務所FaulknerBrowns LLPのWebサイトより)

このゾーンにはさらに、「インフォーマルミーティングセッティング(カジュアルな会議設備)」という項目も提案されている(指針の36ページ)。同僚やクライアントとカジュアルなミーティングをするための場所を指し、もちろんサンダーランド市庁舎のフロアにも設置されている。

③Do Not Disturbゾーン
ホテルのドアノブにかける札でおなじみのフレーズ「Do Not Disturb(邪魔しないで)」。これをイギリス政府はワークプレイス指針にも取り入れている。個人が邪魔されず、複雑な情報を検討したり、集中して作業したり、機密事項を扱ったりできる専用スペースの提案だ。

このゾーンについては照明にも言及されており、ユーザーが集中できるように、また発達障害等の神経疾患の人をサポートできるように、個人で調整できる照明が推奨されている(指針の16、43、83ページ参照)。

このようにイギリス政府の指針は、働きやすい職場づくりのためのビジョンから始まり、ゾーニングや各ゾーンの具体的な提案までを行う、マクロ×ミクロな内容になっている。官公庁のみならず、一般のオフィスにも大いに役立ちそうだ。

ニュージーランドの官公庁のワークプレイスデザイン

最後に紹介するのは、ニュージーランドの官公庁のワークプレイス指針だ。ニュージーランド政府のGovernment Property Group(政府資産グループ)のWebサイトを見てみると、政府機関の職場設計の指針として原則とすべきワークプレイス指針が公開されていた。

同グループでは、政府機関のすべてのワークプレイスに対し、変更プロジェクトの際にはこの8つの原則すべてを達成することを求めている。

【優れたワークプレイス設計のための原則】

①オープンプランの職場環境
オープンプランエリアは、チームが本拠地として使用できるエリア、キッチンなどの共有エリア、グループワークや予定外の交流を促進するコラボレーションスペース、集中する作業のためのさまざまなオプションで構成される。スクリーンや壁などの物理的な隔たりをなくすことで、組織全体のコラボレーションを促進し、サイロ化を解消する。

ウェリントンにある社会開発省所有施設(画像はデザイン事務所The Building Intelligence GroupのWebサイトより)

②共有スペースをつくる
集中力のいる作業のためのエリアや、スタッフが交流できるエリアなど、多目的に使用できるさまざまな共同スペースやコラボレーションスペースを設ける。プリンター等の設備はその共用スペースに設置し、複数のチームまたは組織で共有する。

③選択できる職場環境
スタッフには、密室になる会議室、カジュアルな家具セッティングのオープンプランエリア、周囲の騒音対策をしたワークポイントといった、職場の選択肢を提示すべきである。そのために、持ち運べるパソコンやタブレットなどを使用し、ニーズに応じて建物内または屋外のどこでも柔軟に仕事ができるようにする必要がある。

④機動性と適応性を確保する
可動性をダイナミックな環境設定をすることで、スタッフはひとつのワークステーションに縛られることなく、その日に必要な業務に最適なエリアで働くことができる。そのためには、スタッフが同じ場所で一日中、仕事に向かっていることではなく、仕事の成果を重視する組織文化が必要である。

⑤テクノロジーを活用する
フレキシブルなワークプレイスデザインを実現するために、新しいテクノロジーの導入は重要である。導入にあたり、スタッフをトレーニングする予算と時間を確保する必要がある。

⑥一貫性のある一般的なデザイン
一貫性のある一般的なデザインは、床面積を最大限に効率よく使用でき、スペースの柔軟性を高めるものである。すべてが同じように感じられるため、スタッフが新しいエリアに素早く適応でき、移動の際も効率がいい。

⑦スペースを必要としない成長への順応性
フレキシブルで順応性の高いワークプレイスを設計しておけば、事業拡大やスタッフ増員の際にも増床せずに対応できる。

⑧安全・安心で高いアクセシビリティ
すべての従業員と顧客や請負業者などの訪問者に安全で安心な作業環境を提供する。これには、障害者のニーズを考慮した設計・施工も含まれる。セキュリティについては、いったん許可を得た人はほとんどのエリアに簡単にアクセスできるようにする。

ウェリントンにある社会開発省所有施設(画像はデザイン事務所The Building Intelligence GroupのWebサイトより)

ニュージーランド政府のワークプレイス指針は、仕事内容によって働く場所を選べるフレキシブルかつ安全・安心な職場環境を提案するものであり、一般企業にも大いに役立つ内容といえる。

実際に、写真で紹介したニュージーランドの首都・ウェリントンにある社会開発省所有施設のオフィスにも、政府機関のオフィスとは思えないようなオープンな雰囲気が感じられる。スタッフの働き方に焦点を当て、「オープン」「フレキシブル」「コラボレーション」というキーワードを前面に出している点が印象的だ。そのうえ、組織文化の醸成や必要となる研修についても言及されており、ハイブリッドワークを採用する企業には特に参考になる内容となっている。

オフィスリニューアルの際の参考に

今回の記事では、3カ国の官公庁のワークプレイス指針をみてきた。官公庁のワークプレイスデザインは、国の資産の有効活用につながるものだ。アメリカの指針は合理的であり、イギリスの指針はかなり詳細な提案がされたもので、ニュージーランドの指針は新しい働き方にフィットした先端的な内容であった。オフィスのリニューアルの際には、これらのワークプレイス指針の内容を参考にしてみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Naoko Kurata

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