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オフィス回帰率を高める方法とは? 出社したくなるオフィスのアイデア6選

従業員にオフィスへの出社を促す企業が増えているが、オフィスへの回帰率は企業側が期待するほど増えていない。出社したくなるオフィスとは? 6社の企業事例からそのアイデアを考察する。

オフィス出社率の現状は?

新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に移行されたことで、従業員にオフィスへの出社を増やすよう求める企業も出てきている。というのも、観光地や繁華街の人出の回復ぶりに比べると、オフィスへの回帰は比較的緩やかだからだ。

2023年6月8日付けの朝日新聞によると、5類移行後である5月の東京のオフィス出社率は、コロナ禍前の66%であったという。2022年9月の68%から横ばいが続いている状況だ(株式会社ニッセイ基礎研究所とクロスロケーションズ株式会社による携帯の位置情報データを用いた調査)。

これは、コロナ禍の長期化により、テレワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークがある程度浸透したことが関係していると思われる。テレワークに慣れ、それを快適と感じるワーカーが増えている以上、従業員のオフィス回帰率を高めるには、従業員自らが“出社したくなる”オフィスである必要がある。

本稿では、従業員のオフィス出社を促す施策について、「出社の動機となるインセンティブの充実」「リフレッシュや気分転換ができる設備の導入」「コミュニケーションを促進するイベントやツールの活用」の3つの観点から、実際の企業事例を6つ紹介したい。

出社の動機となるインセンティブの充実

オフィスワークを行う従業員に対して、何らかのメリットやインセンティブを与えることで、出社の動機づけが期待できる。

1. 社員食堂を充実させる

ヤフー株式会社の本社には「BASE」「CAMP」と呼ばれる社員食堂・カフェがあり、朝の時間帯はおにぎり、みそ汁、サンドイッチなどの軽食を無料で提供している。実質的な食費の補助だ。

また社員食堂では、カロリーを655kcal以内に抑えた「アンダー655定食」(480円)などの健康を考えたメニューのほか、1食1500円の「うにいくら丼」や「A5ランクステーキ重」といったぜいたくランチも提供。厨房内には製麺機があり、打ち立ての讃岐うどんが食べられるほか、独自にスパイスを調合したしっかり辛口のカレーも人気だという。

画像はヤフー株式会社のWebサイトより

テレワークでは栄養が偏りがちになる人や、自宅近くに適当な飲食店がない人にとって、食の充実は魅力的なインセンティブになりそうだ。社員食堂がない企業は、置き型の社食や置きお菓子・飲料サービスも近年増えているので、検討してみてはいかがだろうか。

2. 出社にボーナスをつける

オウンドメディアやECサイトの運営などを手がけるパスクリエイト株式会社には、「早起きは1000円の得制度」がある。始業時間の1時間以上前に出社した人には1日500円、2時間以上前に出社した人には1日1000円が会社から支給されるというものだ。

「早起きは1000円の得制度」で出社した時間帯の様子。人が少なく、静かな雰囲気の中で仕事ができる(画像はパスクリエイト株式会社のWantedlyより)

早起きによる生活リズムの改善や、自主的な業務推進を応援するために導入された制度だが、従業員にとっては朝型の生活習慣が身に付けられるうえ、金銭のインセンティブも得られ、出社へのモチベーションが高まる施策といえる。特に、混みあった通勤電車に乗ることが出社のストレスという人にとっては、出社の動機づけとなり得る。

リフレッシュや気分転換ができる設備の導入

オフィスがテレワークで働くよりも快適な環境であれば、従業員の足は自然とオフィスへ向くだろう。リフレッシュや気分転換ができる設備を導入し、それを従業員に訴求することで、オフィスワークへの関心を高めることができる。

1. 運動不足を解消するジムの設置

不動産開発を行う株式会社二期は、従業員の健康増進を目的にスポーツを積極的に導入している。その取り組みのひとつが社内ジム「NIKI SALON」の開設だ。同ジムではパーソナルトレーナーによるワークアウトを提供している。

ワークアウトとしてキックボクシングを取り入れ、格闘技の観戦を楽しんだり選手をトレーナーとして迎えたりしているうちに、従業員のワークアウト熱が高まり、社内ジムに本格的なリングが設置された。今後は、パブリックビューイングやプロ選手の公開レッスンなど、地域貢献となるイベントも計画中だという。

画像は株式会社二期のWebサイトより

テレワークは運動不足になりやすい。かといって、働きながらスポーツジムに通う時間がとれないと考える人にとって、会社で楽しみながら体を動かせる社内ジムは出社のメリットになるだろう。

2. 美味しいコーヒーマシンの設置

システム開発やネットワーク構築などを行う株式会社Eyes, JAPAN。同社には本格的なエスプレッソマシンで淹れるコーヒーを自由に飲むことができる「フリーカフェイン制度」がある。インスタントではなく本物の味を知ることで仕事の質も高めようという思いも込められているそうだ。

また、血糖値の下がった従業員に対して、頭をすっきりさせて仕事に臨めるようにバナナやオレンジなどを常備する「フリービタミン制度」もあるという。コーヒーやフルーツといったいわゆる嗜好品を自由に飲食できるというのは、オフィスで過ごす時間を充実させる、従業員にとって嬉しい取り組みだ。

コミュニケーションを促進するイベントやツールの活用

テレワークが浸透したことで、再認識されたのがコミュニケーションの場としてのオフィスの価値だ。人と人との対面でのコミュニケーションの重要性を感じている従業員は少なくないと思われ、オフィスでのコミュニケーション活性化の施策がオフィス回帰の一手になる可能性は大いにある。

1. 外部講師によるワークショップの開催

資格試験の通信教育講座などを展開する株式会社フォーサイトは、社内で料理教室を開催している。同社では以前に、食材と場所を会社が提供し、社員同士でランチを作りあう取り組みを実施していた。部署を超えたチームで料理を行うことで、社内コミュニケーションの活性化につながったことから、それを発展させて定期的な料理教室をスタートしたものである。

画像は株式会社フォーサイトWebサイトより

参加者にアンケートを行った結果、「満足・おおむね満足」が94%、「コミュニケーションの活性化につながると思う」が同じく94%を占めていた。これからのオフィスの役割として、従業員同士のコミュニケーションやチームビルディングは重要な要素となる。また、料理教室で作れるメニューが増えればウェルビーイングにもつながるという興味深い取り組みである。

2. ペットとしてのAIロボットの導入

オフィスにおけるコミュニケーション活性化のためにAIロボットを導入する企業も出てきている。多機能素材の開発と製造を手がける株式会社タイカでは、「コロナ禍で減っていた従業員同士のコミュニケーションの活性化」と「最新テクノロジーに触れ合う機会の創出」を目的にAIロボット「LOVOT(らぼっと)」を導入した。

画像はLOVOTのWebサイトより

LOVOTは自由に動き回り、抱っこをしたり、やさしくなでられると喜ぶ、ペットのようなロボットだ。側にいるだけで幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンの濃度が高くなるという実験結果もある。

タイカは導入後、日頃コミュニケーションをとる機会のない他部署の社員とコミュニケーションをとる機会が増えたとしている。また、出社した際に挨拶をしたり、どこにいるかを探す社員の姿もあるそうだ。愛らしいペットのような存在も、オフィス回帰においてあなどれないツールといえそうだ。

アナウンスのみではなく、従業員が出社したくなる施策を

コロナ禍を経て、人々の生活や働き方は大きく変化した。ニューノーマルに対応したワークプレイス戦略が必要であり、対面でのコミュニケーションによる信頼関係の醸成や、リアルでの協働によるアイデアやイノベーションの創出が期待される。オフィス回帰をアナウンスするだけではなく、従業員の行動につながる施策を検討してみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Rui Minamoto