Worker's Resort 世界のワークカルチャーから働き方とオフィス環境を考えるメディア

Worker's Resort

CULTURE

SHARE
はてなブックマーク

これからの人と組織と周辺情報がもたらす影響 ― 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆氏インタビュー

[December 24, 2020] BY Chinami Ojiri

パンデミックは、オフィスに限らず人や組織にも様々な影響を与えており、「働く」を取り巻く環境が今大きく変わりつつあります。そこで今回は、株式会社ビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏をお招きし、「人事領域に起こる変化」、「テレワークにおけるコミュニケーション上の課題」、「周辺情報が担う新たな役割」という3つのトピックを軸に詳しくお話をうかがいました。

伊達様プロフィール

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

<プロフィール>
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。

パンデミックが与えた人事領域への影響

人と組織

テレワークによる「役割曖昧性」の高まり

――人事領域で起こりつつある様々な変化を受け、最近力を入れて取り組んでいることや、注目していることはありますか?

私たちが取り扱う「人や組織」というテーマも、例に漏れず新型コロナの影響を大きく受けています。特に、テレワークの導入による、働き方のオンライン化ですね。全体で見るとまだ多数派ではないのですが、私たちがクライアントとする企業では積極的にテレワークを導入しています。

テレワークによって様々な変化が起こっています。例えばコロナ以前からの離職問題、特に若手の離職は、大手企業が持つ課題の一つにあげられていました。離職に関する学術研究では、離職への影響の中でも比較的強い要因の一つとして「役割曖昧性」があげられています。役割曖昧性とは、仕事をする上で自分に期待される役割がよくわからない、という状態を指す言葉です。

――役割曖昧性。興味深いですね。

役割曖昧性が高い、つまり自分の役割がよくわからない状態だと、ストレスがたまって離職につながりやすいことが明らかになっています。テレワークではコミュニケーションが取りにくいので、役割曖昧性がより高まります。そうなると、離職しやすい条件がさらに整ってきますよね。

これは一例ではありますが、このようにやはりテレワークだと、今までの働き方とは前提が違ってきます。顔を突き合わせて議論することはないですし、感情も推測しにくく、伝わりにくい。

今まで取り扱ってきたテーマに、テレワークのような新しい働き方の条件が加わることで、人や組織がどのように変貌を遂げ、どのような影響を受けるのか、そこに興味がありますし仕事としても探求しています。組織サーベイを行ったり、人事データ分析を行ったりする際には、そうした観点に注目していますね。

「ジョブ型雇用」の盛り上がりとその現状

――テレワークだと役割分担がはっきりするように思えますが、むしろ役割曖昧性は高くなるのですね。

そうですね。ある研究では、テレワークで役割曖昧性が高まって、精神的にも身体的にも疲れやすい状況になることが報告されています。その一方で、自律性が高まることもわかっています。自律性が高まると、心身の消耗が少しマシになるんです。

「自律性が高まる=裁量がある」ということ。裁量があると役割曖昧性は低くなりやすいことがわかっています。つまり、テレワークは役割曖昧性を高める効果がある一方で低める効果もあります。この二つの効果はどちらが強いのか。組織サーベイを行っていると、役割曖昧性が高まる力のほうが強いと感じます。

そして、ご指摘の「テレワークで離れているほうが役割がはっきりするのでは」という点。これについては、社会的には「役割分担が明確になっていない」という課題感が大きいと思っています。企業側はむしろ「役割を明確にしたい」という願望をかなり強く持っていて、それが例えば「ジョブ型雇用(※)」が取り沙汰される背景につながっているのではないか、と見ています。

※ ジョブ型雇用:職務記述書(job description)を作成し、従業員とその内容を合意した上で、それに従事するような雇用システム。

ジョブを記述すれば役割が定まるだろうという考え方ですが、実際には難しいんですよね。書いても書いても、書ききれない面があって。諸外国でも、「ここに書いてあることしかやりません」といった限定した運用はされていません。

――ジョブ型雇用は、本来はそれだけやればいいよという話ではないのに、日本だとそう捉えられがちですよね。

ええ。日本の人事では、ジョブ型雇用はかなりの盛り上がりを見せています。その背景を知るために報道やメディアを分析したことがあるのですが、そこで明らかになったのは「マネージメントが機能しにくくなっている」こと。要は、役割曖昧性を下げるのが難しい状況になっているんです。そうした社会的背景から、職務記述書によって役割を定義すればいいのではという展開になっていることが考えられます。

職務記述書

――働き方が大きく変化するタイミングだからこそ、マルチに動ける人が大切になってきますよね。それに相反してジョブ型に進み、自分の業務や役割を書かれたことだけに限定するのはすごく危ないんじゃないかな、と感じています。

ジョブ型雇用については、成果主義と混同されている部分があると思います。90年代に日本が成果主義を導入しはじめた時も、ジョブを定義しようとしたことがありました。結果、やはり定義しきれなかったんですね。

人の言葉ってそこまで万能ではないですし、未来を予測するのは無理なので、全て予見してあらかじめ記述しておけないと。そうなると、むしろ役割外の行動をいかに取ってもらうかが大事になります。

こうした背景を踏まえると、純粋な意味でのジョブ型雇用の導入は今回も難しいという結末になるのかもしれません。結局は柔軟な役割観を持った人を採用し、育成していく必要があるという考えに落ち着いていくのではないかな、と見ています。

関連記事入社後すぐの自宅待機 新人研修の実態と新入社員の本音を取材

テレワークにおけるコミュニケーション上の課題

――役割認識で言うと、オフィスで大勢の中で働く時とテレワークでは違いが生まれてくるように思います。

そうですね。まず、人は役割をどうやって認識するかですが、それは人とのコミュニケーションの影響が大きいんですよね。確かに文字に書かれたジョブの影響もあるのですが、やはりコミュニケーションを通じて自分の役割を認識する側面は大きい。

コミュニケーションというのは、上司との「縦のコミュニケーション」と、ちょっとしたフィードバックを受けたり、サポートしたりする「横のコミュニケーション」を含みます。いずれも自分の役割を認識する上で重要な要因となりますが、テレワークだと得る機会が減りがちです。

学術研究でも、テレワークをするほど、フィードバックやサポートを得にくくなることが報告されています。テレワークではコミュニケーションが減ることで、自分の役割を定義しにくい状態になっていると言えますね。

――テレワークではコミュニケーションが減っている。確かにそうですね。

テレワークでは、ウェブ会議などでコミュニケーションを取っている会社がほとんどです。コミュニケーションの特徴としてあげられるのが、「仕事」と「関係性」という2つのポイント。前者は「仕事を進めるための会話」で、後者は「アイスブレイクなど、関係性をメンテナンスするような会話」を指します。このうち、オンラインのコミュニケーションでは、前者の「仕事」に関連した会話が多くなります。

わかりやすい証拠をあげてみましょう。例えば、ウェブ会議に移行したばかりの頃、対面の会議では1時間取っていた議題が、ウェブ会議だと30分で終わってしまった、みたいな経験はありませんか? それは、「関係性」に関する時間が削減されるために生じることです。

要は、余計な話をせずに「仕事」のコミュニケーションだけを進めた結果、効率的に会議が終わった、ということ。裏を返せば、オンライン上では「関係性」に関するコミュニケーションが足りていないと言えます。

関連記事テレワーク時代に変化する「人の距離感」 4つのキーワードから探る

周辺情報がオンライン上のコミュニケーションで果たす役割

社内コミュニケーション

「非言語的手がかり」が信頼構築の鍵を握る

――オンラインだと、人物以外にも本棚など視界に入るものがあるかと思います。そうした周辺情報がコミュニケーションにどう関わってくるのか、お考えをお聞かせください。

まず周辺情報について整理すると、「非言語的手がかり」と呼ばれる言葉以外の情報が一つあります。例えば、ボディランゲージや服装、においなど。そして、もう一つが、どんなものが置いてあるかといった物理的なものに関する情報です。そうした周辺情報が不足すると、実在感が低下してしまい、社会的に関わっている感覚が薄くなると考えられます。

特に、非言語的手がかりが与える影響は大きいと感じています。人は身振りや手振り、アクセントなどから相手のことを理解しています。そうした非言語的手がかりが伝える情報の一つが「感情」です。

例えば、「悲しい」という感情を言葉で伝えるより、泣いている姿を見たほうが伝わりますよね。非言語的手がかりには、感情を円滑に伝える効果があるんです。なので、それが不足すると感情の読み取りが難しくなってしまいます。

さらに、人には、感情に基づいて信頼関係を結ぶ側面があります。相手と感情を交換することで、相手が自分のことを裏切らないだろうとか、自分に敵意を向けてこないであろうとか、そうしたある種の「信頼」を形成しているんです。だからこそ、周辺情報である非言語的手がかりが少なくなると、信頼構築が難しくなります。

――テレワークではテキストだけのやり取りでコミュニケーションが終わることもあるでしょうし、非言語的手がかりが不足しやすくなりますよね。

そうですね。オフィスやチームへの影響という視点で見ると、すでに信頼を形成してきたチームは問題ないのですが、テレワークが導入される前に信頼関係を形成できていなかったチームはかなり大変です。非言語的手がかりが不足した中での信頼構築になるので、雰囲気がよくなかった職場はより悪化したり。テレワーク前にどの程度信頼を形成していたかによって、テレワーク後の状況が二極化してしまうところはありますね。

また、例えば新しいプロジェクトでチーム編成する場合も、信頼を一から築く必要がありますよね。一度も対面することなく、最初からバーチャルで信頼を形成して物事を進めていくのは、すごく大変なことです。このように周辺情報は、信頼構築において重要な役割を果たしているんです。

一番外側の情報(ノイズ)が相手のことを表すシグナルになることも

――コミュニケーションに付随する情報は層状になっていて、中核に会話内容や共有されるテキストがあり、その外側に非言語的手がかりがあり、さらにその外側にオフィスで流れる音楽や周囲の話し声といったノイズ的なものがあるように思います。一番外側にある視覚的な周辺情報やノイズが果たす役割についてはどうお考えですか?

そこに関しては、少なくとも対面状況ではあまり意識されていなくて、コミュニケーションに対して与える影響度は小さいと言えます。やはり、言語的な情報や非言語的な情報のほうが、コミュニケーションや仕事に与える影響は大きいと思います。

ただし、場合によっては、興味深い影響の仕方をすることもあります。例えば、人材採用のシチュエーション。そこは求職者と企業、双方にとって非常に情報が不足しやすい場面です。言語的な情報と非言語的な情報、どちらも不足してきますし、オンライン化されるとさらに情報を取りにくくなってしまう。その結果、何が起きるかというと、不足している情報を得ようと、まさに一番外の層の周辺情報からいろんなことを推測しようとするんです。

一つ例をあげましょう。今年、就活生にインタビュー調査を行いました。ある学生がオンライン採用で一度だけ会社を訪問して面接を受ける機会があり、その時に、部屋の後ろに飾っていた絵の下に点字を発見したそうです。学生は「点字があったので、多様性に配慮している会社だとわかりました」と話してくれたんですね。そもそも、普段はそんな所まで見ませんよね。まるで探偵のような。

(一同笑)

この例からわかるのは、その学生は足りない情報を補おうと、今までは空気のような存在だった視覚的な情報から意味を見出そうとした、ということです。一番外側にある周辺情報を「相手のことを表すシグナル」として認識し、相手のことを知るために用いようとしたわけです。

――オフィスの中にある周辺情報に対する認識は、その中にいる個人や仲間というより、組織に対してになるのでしょうか?

あるいは、職場の中に文脈を落とすと、個人に対しても言えるかと思います。例えば、その人の机の上に何が置かれているかという情報もその一つ。今までは、何気なく視界に入っていただけで、そこに注目しなくてもコミュニケーションを交わせば相手のことがわかる状況だったと思います。

ですが、今のように離れて仕事をしていて、久しぶりにオフィスに来る、そして話をするというシチュエーションになると、いろんなものを手がかりに相手を理解しようとする傾向が強まるのではないかな、と推測できますね。

周辺情報が組織文化や風土に与える影響

――周辺情報が与える影響自体は小さいというお話でしたが、ちりも積もれば山となるような効果もあるかと思います。周辺情報は、組織の文化や風土、あるいは理念のようなものを伝達する上で、どのような機能を果たしているのでしょうか?

文化や理念の浸透に関して、物理的にオフィスに行ってみんなが関わり合う状況だと、周辺情報が与える影響は小さいと言われています。ただ、今のような状況だとそれが変わってくる可能性があります。

先ほどお話に出たように、情報を層で考えると、中心層の情報が不十分になると外側の情報が周辺ではなくなり、すごく大事な情報になってきます。おそらく、情報が不足すればするほど、周辺情報がいろんな意味を持ち、重要な情報として解釈されやすくなるのではないでしょうか。

オフィスの中に何が置いてあって、どんな配列をしているのかといった情報が、組織の風土として捉えられたり、従業員の心理に影響を与えたりする。つまり、周辺情報の影響度が高まってくることが考えられますね。

――今後企業がさらにテレワークを導入していくとなると、今のこの状況が通常になります。そうなると、やはりこれからはオフィスの中の周辺情報をどのように見せていくのか、整えていくのかという点に気を使う必要があると思います。

おっしゃる通りです。今まではデザインや効率性、ファンクションなどがオフィスで重視されてきました。しかし、オフィスに行くことが減り、得られる情報が少なくなった状況では、オフィスが持つシンボリックな役割が強くなっていくのではないでしょうか。

神社みたいなものですよね。たまに行くと、何かちょっと神聖な気持ちになるみたいな。

(一同笑)

例えば、神社って整然としていますし、道や装飾一つひとつが意味を持って配列されていますよね。そして、それらに私たちは何かしらの雰囲気を感じ取るわけです。そのようにシンボルとして、オフィスがどのような役割を持つのかは、今まで以上に重要になってくると思います。その中で、かつて周辺的で意識されることがなかった情報が、シンボルを伝える重要なオブジェクトになることも考えられそうですね。

関連記事ニューノーマル時代の“場所に縛られない”働き方を代表するABWの真髄

はてなブックマーク

この記事を書いた人

Chinami Ojiriフロンティアコンサルティングで設計デザイン部に勤めた後、渡米。経験と知識を広げる為、現在はNYの美大にてインテリアデザインを学んでいる。

    
    
    post-5570