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大企業によく見られる「他責」問題。事例をもとに解決策を探る

大企業によく見られる他責思考は周囲に伝染しやすく、ひいては企業の成長を阻みかねない。今回は他責思考が生じる原因を探りつつ、3社の事例をもとに解決策を考える。

大企業で起こりやすい他責思考

なんらかの問題に直面した際、原因が自分にあると考えることを「自責」、他人や環境にあると考えることを「他責」という。過剰な他責思考は企業の成長を阻みかねないが、現場の声が届きにくく、物事の決定に時間がかかりがちな大企業において特に蔓延しやすい。いわゆる「大企業病」も、他責による弊害の一つと言えるだろう。

今回は、従業員の意識に他責が生じる原因をおさえた上で、3社の事例を取り上げ、他責思考を防ぐための解決策を探っていく。

他責思考が生まれる原因は?

そもそも、なぜ他責思考は生じるのだろうか。こうした傾向に問題意識を持つ方々の話をもとに考えてみたい。

1. タスクの「こなし・さばき」が他責思考を引き起こす

組織開発による経営改革支援のコンサルタントとして活動する傍ら、越境学習によるリーダーシップ&キャリア開発を行う株式会社ここはつ代表の西村統行氏は、「風が吹けば桶屋が儲かる」のと同じような因果関係で「仕事のこなし・さばき」が他責思考を生みかねないと警鐘を鳴らす。

「仕事に効率を求めると、自分のタスクをこなし、さばくようになります。そうすると、仕事が円滑に回っていくように見えるのですが、そこにはチャレンジも付加価値もない場合が少なくありません。その結果、日常に変化を求めるエネルギーを持たなくなり、現状維持や他責思考を加速させてしまいます」(西村氏)

目の前の仕事をこなしているうちは、何もしていない罪悪感に苛まれることはない。それだけではなく、「なぜ、ほかのことまで自分がしなければならないのか?」といった思考にも陥りやすい。常に自分以外に原因があると考えるため、成長はそこで止まってしまう。そして、厄介なことに他責思考は伝染しやすく、周囲に広がることで組織全体の成長にも影響しかねない。


画像は西村氏が作成

2. トップと従業員の意識のズレが他責思考を後押しする

エンゲージメント経営による組織課題に向けたソリューション構築と、コンサルティング支援に務めてきた株式会社スタメンの森山裕平氏は、他責思考を生む原因を次のように説明する。

「原因は二つあると考えています。一つは、生産性を向上させるために組織が機能的につくられる過程で、従業員が『与えられたものをただこなせばいい』という意識になってしまうこと。もう一つは、管理されすぎて、従業員が前向きな期待を持てないことです。いずれも、トップが描く組織づくりやビジョンがうまく浸透していないために生じるのではないでしょうか。『外発的動機付け(評価など外部からの働きかけによる動機付け)=従業員満足度』の追求のみでは太刀打ちできないどころか、他責思考がエスカレートしかねません」(森山氏)

森山氏も、西村氏と同様に仕事の「こなし・さばき」を懸念点と捉えている。ここで、他責思考に関連する社会心理学の用語として、以下の2つを紹介しておきたい。

①傍観者効果
緊急事態を目前にした状態で、周囲に自分以外の人が多くいることにより、対処する行動や意識が抑制される集団心理現象のこと。
②リンゲルマン効果
集団で共同作業を行う際、人数が増えるにつれて一人あたりの課題遂行量が低下する現象のこと。「社会的手抜き」とも呼ばれる。

詳しい説明は割愛するが、両者に共通するのは「責任の分散(誰かがやってくれるだろう)」、「多元的無知(みんなやらないから自分もやらなくていいだろう)」、「評価の懸念(出しゃばって叩かれたくない)」という点だ。集団が大きくなるほど、それぞれの影響も大きくなる。他責思考が大企業によく見られる一因と言えるだろう。

大企業の改革・変革事例から考える、他責問題への取り組み方

企業の特性や体質により、他責問題へのアプローチの仕方は異なってくる。ここでは、解決策の手がかりとなるであろう3社の事例を紹介する。

1. パナソニック株式会社

パナソニックでは、2012年に「One Panasonic」という有志の会が発足している。組織や年代の壁を越え、会社の未来を真剣に議論する者が集う会だ。そこで得たものを、個々の主体的な活動につなげることを狙いとしている。

結果として、自らの興味・関心が動機となる「内発的動機」が多くの社員で向上したほか、ポジティブな影響が見られている。また、One Panasonicの活動は社外にも広がり、大企業の若手・中堅社員の有志が集う「ONE JAPAN」の立ち上げにもつながっている。

2. ヤフー株式会社

ヤフーは、2012年から段階的に全社向けの「組織開発」に取り組んでいる。組織開発とは、組織の中にいる当事者が自分たちで組織をより良くすること、またはその支援を行うことを指す。

「10倍挑戦、5倍失敗、2倍成功」のスローガンのもと、ヤフーでは当事者意識を高め、組織としての自走を促すために様々な支援策を実践している。その代表例が「1on1ミーティング」だ。これは、上司が「週に1度30分間、場所を確保し、部下の話を聞く」もので、部下の目標管理のためではなく、成長を支援し潜在力を引き出すために行われる。その一方で、管理職の1on1スキルを磨く取り組みも実施されている。

成功例はもちろん、失敗例も含めて知見を蓄積し、次の施策に生かすという好循環で継続的な改善につなげている。

3. テルモ株式会社

テルモは、1990年代の半ばから風土改革に取り組んでいる。一人ひとりが当事者として自主的・主体的に仕事に携わり、互いに尊重し合える風土を育む狙いから、社員を「アソシエイト(働く仲間)」と呼んでいるのもその一環だ。

2000年からは脱年功序列、2002年からは従来の縦割り組織を壊す取り組み、2013年にはダイバーシティ推進室の設立など、スタートから20年以上経つ現在も歩みを止めることなく、同社の風土改革は続いている。

他責思考をなくすために必要な3つのポイント

前述した各社の取り組みは、自走力をつけて社員の主体的な活動を促す点で共通している。他責は、言わばオーナーシップの欠如。「やらされ」ではない自己決定の習慣が身に付けば、ポジティブな効果が得られ、納得した上で仕事に取り組めるだろう。

他責思考を防ぐために心がけたいポイントを、以下に整理する。

1. 愚痴をやめ、自責思考で考える

潜在的なものも含めて課題を洗い出すため、まずは自身や自部門を俯瞰する。取り組むべき課題が見えてきたら、その課題について周囲の人と話し合うのが次のステップだ。感じたことを本音ベースで言葉にすると、思った以上に共感されることもあり、異なる意見からも新しい気付きを得られるだろう。

大切なのは、単なる愚痴大会で終わらせないこと。そして、自責思考で考え、対話後は小さくてもアクションを起こすこと。続けているうちに同志が増え、ポジティブな意識の広がりも期待できる。ただし、過剰な自責思考はメンタル面に悪影響を与えかねず、注意が必要だ。

2. 優れた思考や行動様式を称賛して共有する

「2-6-2の法則」をご存じだろうか。簡単に説明すると、組織における2割の人間が意欲的に働き、6割が普通に働き、残る2割が怠ける可能性が高いという法則のこと。組織としては、意欲的に働く2割の行動とカルチャーを称賛し、広く共有することが求められる。

ただ、モチベーションの大小はあるものの、会社をもっと良くしたいという人は、普通に働く6割、そして怠ける2割の中にもいるかもしれない。であれば、彼らの思いを汲み取り、表に出せるような施策が必要であろう。その基盤となるのは、自己理解と相互理解だ。

従業員のモチベーションには、外発的動機付けと内発的動機付けがある。報酬や待遇、福利厚生といった外発的動機付けは効果が持続しにくく、仕事そのものの価値向上につながりにくいのがデメリットだ。対して内発的動機付けは、個人の興味や関心、信念によるため、自走力がありモチベーションを維持しやすい。内発的動機付けを促す上では、いかにビジョンを浸透させ、現場の共感を得られるかがカギとなる。

3. 職場に潜むマイナス要因・習慣を放置しない

職場での人間関係やワークフロー、管理体制、勤務形態などに潜む、生産性やモチベーションの低下につながるマイナス要因・習慣を見過ごさないことも重要だ。例えそれが些細なものであっても、違和感や慢性的な課題を放置すると、改善されないどころかますます問題が大きくなりかねない。

「一人では変えられない」、「自分には関係ない」と他人事として捉えたり、仕方がないと飲み込んだりせずに、まずは対話を通して課題を共有し、自分の問題として改善策を模索する姿勢が求められる。すぐに改善されなくとも、そうした姿勢は周囲にポジティブな影響を与え、社内全体における他責思考の抑制につながるだろう。

課題の「自分事化」が最初のステップ

他責思考からの脱却は一筋縄ではいかないものだが、行動を起こすことで少しずつでも変化は生み出せる。周囲のせいにせず、真摯に行動する中で問いが生まれ、問いに対する議論の末に意義やミッションを見出すことができるだろう。例え小さな変化であっても、個々の行動で会社は変えられるという成功体験を積み重ねていけば、イノベーションというゴールにもたどり着けるはずだ。

まずは、組織における課題を自分事化して、仲間と対話することから始めてみてはいかがだろう。愚痴抜きで会社について本音で議論するのは、意外と楽しいと気付くのではないだろうか。企業もビジネスも生き物、だからこそ難しくもおもしろい。

この記事を書いた人:Yasunari Ishikawa