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従業員の病気治療に企業が支援できること ー 真の「健康経営」に向けたヒント

[April 26, 2022] BY Kaori Isogawa

健康経営の観点からも注目される、治療と仕事の両立支援

厚生労働省のパンフレット「治療を受けながら安心して働ける職場づくりのために」(2013年度厚生労働省委託事業 治療と職業生活の両立等の支援対策事業)によると、病気を抱える労働者の92.5%が就労の継続を希望し、仕事をしていない人の 70.9 %が就労を希望しているという。医療の進歩に伴い、仕事を続けながら治療を受けられる病気は増えてきたが、職場の環境や支援の仕組みが整っていなければ両立は難しい。誰にでも病気になるリスクはあり、従業員の健康管理を戦略的に実践する「健康経営」は、いまや欠かせない経営視点となっている。

こうした背景から、治療と仕事の両立支援に対するニーズは今後高まると予想されるが、実際には病気を理由に離職に至るケースは少なくない。前出のパンフレットでも、正規雇用の労働者の14.2%、非正規労働者の25%が病気に伴い退職(あるいは転職)したことが明らかになっている。両立を支援するためには、治療・通院に支障がない勤務形態や休暇制度を整備する必要があるだろう。

ここで、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2013年に行った「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」を確認しておきたい。この調査の結果、連続して1カ月以上の療養を必要とする社員が出た場合、「ほとんどが病気休職を申請せず退職する」または「一部に病気休職を申請せず退職する者がいる」と回答した企業は、メンタルヘルスの不調の場合で18.3%、その他の身体疾患の場合は15.1%だったという。また、企業が独自に設ける「病気休職制度」を過去3年間で新たに利用した労働者のうち、復職せず退職した人は37.8%に及んでいる。

こうした状況からもわかるように、ただ制度を整えるだけではなく、制度を利用しやすい企業風土の醸成も重要となる。さらには、病気の発症予防や重症化予防といった取り組みも必要だろう。実際に、健康経営優良法人認定制度の評価項目である「私病等に関する復職・両立支援の取り組み」の適合基準としても、「相談窓口を明確にし、その周知を図っていること」、または「支援体制の整備等の対策を定めていること」が求められている。

関連記事:「健康経営」の基礎知識 ー 業績向上につながる具体策とは

両立支援に関わる様々な制度​

業務中や通勤中のほか、業務外に発症した病気でも適用される支援制度がある。ここでは、なかでもおさえておきたい制度と企業に対する助成制度を紹介する。

1. 労働者の病気における制度

仕事との因果関係が認められるケガや病気が生じた場合は労災保険の適用となり、治療費の支払いのほか、休業日4日以降の休業補償給付などを受けられる。また、業務外のケガや病気(私傷病)で療養する際に事業主から十分な報酬を受けられない場合、健康保険より傷病手当金が支給される(2022年より支給期間は支給開始日から通算して1年6カ月に変更)。

このほか、法定休暇である年次有給休暇はもちろん、企業によっては特別休暇として私傷病のための休暇制度を設けているところもある。特別休暇は法定外の休暇であり、福利厚生として付与されるものだ。

厚生労働省も「働き方・休み方改善ポータルサイト」などを通して、治療を受ける労働者のための休暇制度の必要性を伝えている。一方で、「令和3年就労条件総合調査」によると、特別休暇制度を設けている企業の割合は 59.9%であり、うち「病気休暇」がある企業は23.8%にとどまっている。​​病気と仕事の両立支援のためには、こうした制度を充実させる必要があるだろう。

2. 両立支援のための助成制度

事業者においては、両立支援制度を導入もしくは適用した場合に利用できる助成制度がある。例えば、独立行政法人労働者健康安全機構の制度では、両立支援につながる勤務・休暇制度を導入し、両立支援コーディネーターを配置した場合に助成金が受けられる。また、都道府県労働局は、胃がん検診や肺がん検診など、労働者の健康づくりに向けた雇用管理制度を導入・実施した結果、離職率の低下が認められた事業者に助成金を支給している。

企業が両立支援を実施する際の留意点

企業が実際に両立支援を行う場合、留意すべき点がいくつかある。厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、以下の8項目をあげている。

①安全と健康の確保

仕事をすることで病気の悪化・再発を招かないよう、作業の転換や労働時間の短縮など、就業上の措置や配慮を適切に行う必要がある。繁忙期も例外ではない。

②労働者本人による取り組み

病気を抱える労働者本人が、主治医の指示に基づいて治療を受け、服薬や適切な生活習慣を守るなど、病気の増悪防止に適切に取り組む必要がある。

③労働者本人の申し出

本人の申し出があった場合に取り組むことが基本。申し出を円滑に行えるよう、意識啓発を行い、相談窓口を明確化するなどの環境整備が重要となる。

④治療と仕事の両立支援の特徴を踏まえた対応

入院や通院、療養の時間の確保に加え、症状の悪化や薬の副作用などで仕事の遂行能力が低下する場合に、時間的な配慮や就業上の措置を行う必要がある。

⑤個別事例の特性に応じた配慮

治療法や症状は個人で異なるため、個々に適した対応が必要となる。

⑥対象者、対応方法の明確化

職場の理解を得るためにも、両立支援の対象者や対応方法などを明確にしておく。

⑦個人情報の保護

病気や治療の情報は個人情報にあたる。労働安全衛生法に基づく健康診断で把握した場合を除き、 事業者が本人の同意なく取得・漏洩してはならない。

⑧両立支援にかかわる関係者間の連携の重要性

労働者本人、事業場の関係者、医療機関の関係者、地域で事業者や労働者を支援する関係機関・関係者が必要に応じて連携することで、より適切な両立支援が可能となる。

関連記事:働く人の「不妊治療」にどう向き合うか。企業にできる両立支援のアイデア

両立支援に取り組む企業の事例

では、実際に企業はどのような制度を導入しているのだろうか。両立支援に取り組む大手企業と中小企業の事例を紹介する。

1. 大鵬薬品工業株式会社

大鵬薬品工業は、​​「私たちは人びとの健康を高め、満ち足りた笑顔あふれる社会づくりに貢献します。」という企業理念のもと、従業員のウェルビーイング向上にも注力している。
​例えば「積立有給休暇」では、消滅する有給休暇のうち年10日(最高50日まで)を積み立てることが可能。また、在宅勤務やフレックスタイム制、コース変更申請、カムバックパス(再雇用)制度などを導入し、柔軟な働き方を支援している。

さらに、相談しやすい環境をつくるため、本人だけではなく上司、同僚、家族へのサポートも重視して「がんに罹患した社員の就労支援ガイド」(Web冊子)を作成。社内データベースの「ライフイベント支援ガイド」に、「結婚・育児編」と「介護編」に続いて「病気に罹ったら編」を追加するなど、従業員に対する情報提供にも取り組んでいる。

2. 株式会社アートネイチャー

トータルヘアコンサルタント企業のアートネイチャーは、顧客の笑顔を増やすためには従業員が笑顔で働ける環境が必要だと考えている。両立支援への取り組みもその一つだ。

具体的には、「病気治療と仕事の両立支援ガイド」を作成し、従業員が病気になったときの対応手順や使用できる制度、受けられる就業サポートをまとめ、イントラネット内に格納。また、従業員がケガや病気で勤務できない場合、特別有給休暇を最長1カ月付与する「傷病休暇制度」を利用できる。さらに、年次有給休暇とは別に、独自の有給休暇「ふさふさ休暇」を年に12日付与し、そのうち8日間を上限として1時間単位での休暇取得が可能となっている(年間最大64時間)。

また、がん検診費用や健康診断結果に基づく二次検診の費用を会社が負担。適正な健康診断、がん検診などの受診や、日々の健康づくり(朝食の摂取や8000歩以上のウォーキングなど)に対してポイントを付与する「健康ポイント制度」を実施するなど、従業員の健康増進、病気の発症予防にも積極的に取り組んでいる。

3. 大日本法令印刷株式会社

創業100年を超える大日本法令印刷は、昭和30年代から看護職を配置するなど、早くから従業員の健康管理に意識的に取り組んできた。「健康な社員が健康な会社を創る」という方針のもと、従業員が病気になって休職した際には治療に専念できるよう配慮している。休職中は看護職が定期的に連絡を取り、治療の状況や回復の様子などを確認。情報は看護職が一元管理し、本人からの了承を得ながら上司にも情報共有を行っているという。

また、復職前は原則としてリハビリ勤務を実施。期間中は週に1度、看護職・上司と面談して心身の状態や仕事の状況を確認するなど、関係者が連携して復職を支援している。さらに、フレックスタイム制や在宅勤務の活用のほか、病気治療を目的とした通院を1日1回2時間まで有給にできる独自の「有給通院制度」を導入している。

4. 第一電機工業株式会社

総合設備工事を手掛けている第一電機工業。同社が両立支援を開始したのは、2018年に従業員が膠原病(皮膚筋炎、間質性肺炎)で入院したことがきっかけだった。総務部長、衛生管理者、総務課担当者、工事部門長、直属上司の5名による「支援チーム」を設置し、石川産業保健総合支援センターなどからアドバイスを受け、独自の「両立支援マニュアル」を作成した。

7カ月にわたる入院中も、検査結果などを毎月上司とメールで共有。本人の意欲を受け、支援チームとの面談や在宅での試し勤務などを経て、段階的に復職につなげていったという。自宅で使用するパソコンやソフト、スマートフォンなどは会社が貸与し、光熱費などの環境整備費用の一部も会社で負担。この両立支援の取り組みは、同社が在宅勤務制度を導入するきっかけにもなっている。

関連記事:福利厚生の新たな形。従業員のプライベートをサポートする、株式会社TPO 代表取締役 マニヤン麻里子氏インタビュー

安心して働ける職場環境を実現するために

企業の成長には、従業員がいきいきと働ける職場環境の整備が不可欠であり、治療と仕事の両立を支援する仕組みづくりは今後その重要性を増していくと考えられる。厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」には、相談可能な支援機関も掲載されており、これから導入に取り組む企業の参考になるだろう。

本記事では4つの事例を紹介したが、企業の規模や業務内容などによって必要な対策は異なる。また、制度を整備しただけでは形骸化してしまう可能性もある。それぞれの企業に合った両立支援の仕組みを構築することはもちろん、病気を抱える人が気軽に相談できる企業文化を丁寧に醸成していくことが大切なのではないだろうか。

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この記事を書いた人

Kaori Isogawa ライター/翻訳者。ホームインテリアからオフィスデザインまで、ライフスタイル&ワークスタイルを中心に幅広くコンテンツを作成。外資勤務経験あり。



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