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信頼醸成に大切な「共在感覚」と、テレワーク下でそれを補う「自己開示」

コロナ禍の影響でテレワークや分散出社を導入し、非対面コミュニケーションが増える中、組織内の信頼関係をどう築けばよいのか。共在感覚と自己開示をキーワードにその方法を探る。

働き方が多様化する中で問われる、コミュニケーションの質

近年、ワーカーの望む働き方は多様化している。そんな中、新型コロナウイルス感染症が流行し、多くの企業がテレワークや分散出社を導入した。コロナ禍が多様な働き方を後押しした面もあるが、新たな課題も見えてきている。その一つが、「コミュニケーションの質」である。

確かに、テレワークであれば従業員間の感染を防ぐことができ、自宅での作業なら移動時の感染リスクは抑えられる。ただ、その一方で、孤独感から不安やストレスを抱える、コミュニケーションが不足するといったデメリットも生じやすい。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所が2020年3月末に実施した、一般社員2,040名、管理職618名を対象とする「テレワーク緊急実態調査」では、管理職が抱える不安についても触れられている。そこで明らかになったのは、部下がさぼっているのではないかと考える管理職が半数を超える現状だ。業務の指示や指導が困難であることや、チームビルディングができないこと、部下の心身の健康の悪化を見逃すことが不安だとする声も6割を超えた。

また同調査では、一般社員も加えたテレワーク経験者917名に対し、テレワーク環境下の心理的変化についても尋ねている。その結果、変わらないと考える人が6割前後に上り、「会社に対する好意的・肯定的な感情」が増えるとする人も2割を超える一方、「さびしさや疎外感を感じる気持ち」「仕事のプロセスや成果が適正に評価されないのではという不安」の項目において、高まると感じる人が低下すると感じる人を上回った。

つながりが薄れて孤立感を抱くと、人は不安になりやすい。不安が蓄積されると、円滑に保ってきた人間関係に歪みが生まれ、周囲に対して不信感を覚えることもある。テレワークのように画面越しに顔を合わせる状況下でこそ、コミュニケーションの質がより重要な意味を持つようになるだろう。

本記事では非対面でのコミュニケーションに焦点を当て、信頼関係の醸成に役立つ「共在感覚」と「自己開示」という概念を参考にしながら、テレワーク環境下における信頼関係の構築方法について考えたい。

非対面のコミュニケーションで失われやすい「共在感覚」

これまでのように、直接会って築き上げてきた人間関係を、チャットツールやオンラインミーティングだけで築くのは容易ではない。その大きな理由として、「共在感覚」の欠如があげられる。

共在感覚とは、「自分が組織や共同体の一員として共に在る感覚」のことを指す。同じ空間にいることは、所属意識を生み出し、組織や共同体のメンバーを安心させる効果を持つ。また、共在しているからこそ、表情や身体の動きなどの非言語コミュニケーションを無意識に読み取ることも可能になる。

この人間関係の土台となる共在感覚が、テレワーク環境下では失われやすい。オンラインでコミュニケーションを取ったとしても、画面越しでは微細な表情の変化や身体の動きなどが読み取りにくくなる。その結果、「相手がどう感じているか」の判断が難しくなり、不安から顔色をうかがって話すようにもなりかねない。

こういった小さなストレスの蓄積は、社内の信頼関係に少しずつネガティブな影響を及ぼしていく。そして、信頼関係に生まれた歪みは、いずれ組織にとって大きな不利益につながるリスクもはらんでいるのだ。

組織における信頼関係の重要性

信頼関係が組織の業績や生産性に影響することは、科学的に実証されている。クレアモント大学院大学の教授であり、同大学の神経経済学研究センター所長も務めるポール・J・ザック氏は、その著書『トラスト・ファクター 最強の組織をつくる新しいマネジメント』で、組織における「信頼」の重要性についてまとめている。

ザック氏によると、「優れた業績を上げている組織ほど従業員同士の信頼度が高い」という。1,000名以上を対象に、信頼関係がパフォーマンスにもたらす影響について調査した結果、組織への信頼度が高いグループは低いグループに比べて、「生産性が50%」「仕事に対するやる気が106%」「勤務中の集中力が76%」高いことが明らかになっている。

また、アメリカのグーグル社は従業員に対する調査をもとに、「効果的なチーム」の必要条件として、「心理的安全性」「相互信頼 」「構造と明確さ」「仕事の意味」「インパクト(目的達成への貢献)」の5つをあげている。重要度が高い順に並べられており、2番目に「相互信頼」が入っていることに注目したい。

こうした「信頼」が組織にもたらすポジティブな効果を踏まえ、企業はテレワーク環境下で信頼関係が育まれにくいことを自覚し、対策を講じる必要があるだろう。企業には、コロナ終息後も考慮した、持続可能な組織づくりが求められている。

積極的な「自己開示」が信頼関係を築き、モチベーションを高める

多様な働き方が共存する組織の中で、従業員同士の信頼関係を保ち、モチベーションを高めていくためには何を意識すればよいのだろうか。重要なのは、積極的な「自己開示」によって「人間の透明性」を高めることだと考える。

情報を公開し、組織の透明性を高めることでもたらされるメリットについては、すでに広く知られている。透明性の確保は、優秀な人材を獲得する上でも重要だと言われている。

テレワークにおける「人間の透明性」の確保では、「自分事」の共有が重要になる。例えば、チャットツールやオフィスの掲示板を活用して、自分自身の情報を積極的に発信するのもいいだろう。そうして意図的にお互いを知るきっかけを増やすことで、共に働く仲間としての安心感が育まれる。

これは、従来であればオフィスでの雑談が担っていた役割だ。自らが抱えている悩みや立ちはだかる壁など、自分に関する話題を周囲と共有することが、自己開示につながっていく。

自己開示は、行った側にも受け手側にもメリットがあると考えられている。行った側は自分の内面が明確化され、受け手側は相手から自己開示の対象とされたことによって、自分に対する好意や信頼を確認できる。立場や年齢を超えた双方向の自己開示は、信頼関係の構築や維持を手助けしてくれるだろう。さらに、自己開示にはストレスを低減するというメリットもあるとされている。

ワーカーが自己開示しやすい環境づくりを

今回紹介した信頼関係構築のポイントは、テレワーク環境下のみならず対面コミュニケーション時にも大いに役立つものだ。信頼して働ける環境は、ワーカーの不安を軽減し、活気あふれた組織へと導いてくれるだろう。

日常的なコミュニケーションをいきなり変化させるのは、なかなか難しい。しかし、ほんの少しのポジティブな変化が、いずれ大きな効果となって表れてくるはずだ。その上で、まずはチャットツールやバーチャルオフィスの活用など、リモートでも気軽に雑談できる場づくりから取り組みを始めてはどうだろうか。多様化する働き方に合わせ、企業としてワーカーが自己開示しやすい環境を整えることが、今後ますます求められていく。

この記事を書いた人:Masaki Ohara