オフィスから市役所まで。広がる「個室型ブース」の活用事例とメリット
[March 02, 2021] BY Wataru Ito
「Web会議をする場所がない」という新たな課題
テレワークの定着とともに「Web会議」をする機会が増え、取引先や同僚、上司とオンラインで会話することが日常になりつつある。そんな中、オフィスワーカーの間では「Web会議をする場所がない」という問題が生じている。例えばよく耳にするのが、次のような悩みだ。
・会議室は数に限りがあるため、常に埋まっている
・静かな執務空間では、周りの迷惑になるのではないかと気を遣う
・社内の共有スペースだと周囲の雑音を拾ってしまう
・会話の内容が周りに聞こえてしまう
実際に、株式会社スペースマーケットが2020年9月に20代から60代までの会社員821名を対象に行った調査でも、436名の回答者のうち24.5%が「オンライン会議ができるスペースが不足している」と回答したという。
また、在宅ワークをする側も同様の問題を抱えている。例えば、地域交流サイトを運営するPIAZZA株式会社と、投資会社である株式会社マーキュリアインベストメントが2020年8月に924名を対象に行った「家庭内リモートワークに関する調査」では、約4割の自宅にリモートワーク専用のスペースがないという結果が出ている。自宅のリビングやダイニングのほか、自宅外に作業場所を求める人も少なくないが、カフェなどのオープンスペースでは雑音が多く、いずれにおいてもWeb会議がしにくい状況は容易に想像できる。
個室型ブースに対するニーズの高まり
こうした状況への打開策として注目されているのが「個室型ブース」だ。個室型ブースとは、電話ボックスのようなコンパクトさと防音性を確保したワークスペースのこと。Web会議利用を想定して、電源やネット環境、さらには空調まで備えた製品も見られる。駅ナカを中心に、オフィスビルのエントランスや商業施設のほか、最近ではオフィス内での導入事例も増えてきている。
米国に目を向けても、やはり個室型ブースの需要は高い。その背景にあるのが、多くの企業が採用するオープンオフィスがもたらすデメリットだ。
オープンオフィス・モデルでは従業員間のコラボレーションが生まれやすい反面、プライベートな空間を確保できず、作業への集中も難しくなる。また、間仕切り型のオフィスからオープンオフィスへ移行したことにより、対面コミュニケーションが70%減少したという報告もある。その点、個室型ブースは、オープンオフィスのメリットを生かしながらプライバシーも守れるため、北米のほか英国やインドなどでも急激に普及が進んでいるという。
関連記事:米国におけるポスト・コロナー職場への復帰とオープンオフィスの再評価
オフィスにおける個室型ブースの活用事例
オフィスの場合、新たに会議室を増設するという手段もあるが、賃貸入居しているオフィスでは増設工事が許可されないケースも少なくない。個室型ブースなら、導入にかかるコストを抑えられ、オフィス内でレイアウト変更を行った際も設置場所を変更できるというメリットがある。
では、オフィスでは実際にどのような個室型ブースが導入されているのだろうか。さまざまな製品が登場しているが、今回はその中から以下の4つを紹介する。
1. WORK POD
コクヨ株式会社のWORK PODは、使用シーンに最適化したラインナップが特徴の個室型ブースだ。電話やクイック作業に適した「スタンディング仕様」、Web会議に適した「ソファー仕様」、対面ミーティングに適した「1on1タイプ」の3タイプから選べる。
電源、USB給電、LEDダウンライトのスイッチ、調光ダイヤルなどを標準装備しており、優れた換気性能を持つ。ガラス面を大きくとった開放感のあるデザインが特徴で、複数のブースを並べても違和感はない。
株式会社カオナビに設置されたWORK POD
ユナイトアンドグロウ株式会社に設置されたWORK POD
2. テレキューブ
株式会社ブイキューブが提供するテレキューブは、大規模な設置工事を必要としないワークブース。1人用の「ソロ」、2人用の「グループ1型」、4人用の「グループ2型」の3タイプを展開している。
キャスター付きの可動式で、防音性、遮音性に優れた設計。サブスクリプション(月額課金)での利用も選択できるため、初期費用が抑えられるのも魅力だ。
3. ソロワークブースCocoDesk
富士ゼロックス株式会社が提供するソロワークブースCocoDeskは、一般ユーザー向けの「CocoDesk」をもとにオフィス用に設計された製品。防音パネルや24時間換気、抗菌コーティング、スライドドア、熱感知式自動消火装置などに加え、オフィス向けにLANポートが追加されている。
ソロワークブースCocoDesk
(画像は富士ゼロックスのウェブサイトより)
4. kolo
株式会社クラスが提供するkoloも、サブスクリプションでの利用が可能。ブース内部には人感センサー付き換気用ファン・LEDライトやUSB端子、コンセントなどが設置されており、音に配慮した遮音・吸音設計となっている。
商業施設や行政施設での個室型ブースの活用事例
駅ナカを中心に展開されてきた個室型ブースの設置が、商業施設や行政施設にも広がってきている。ここでは、一般のビジネスパーソンを対象とするサービスとして、「テレキューブ」、「STATION BOOTH」、「CocoDesk」の3つをあげ、それぞれの展開について解説する。
1. テレキューブ
先に紹介したオフィスでの導入のほか、駅構内をはじめ、マンションの共用部、商業施設、行政施設など、さまざまな場所に設置されているテレキューブ。2020年10月には、2021年3月末までの期間限定で実証実験を目的とする「テレキューブWeb会議センター」を、都内2カ所に設置。ブース内のタブレット端末やWi-Fi、ライティング機器を使用できる、「手ぶらでWeb会議」サービスを提供している。
また、2020年11月に行政施設としては初となる、東京・青梅市役所にも展開。同年12月には実証実験として都内のセブン-イレブンに設置するなど、今後さらに普及が進むことが予想される。
2. STATION BOOTH
JR東日本が手掛けるSTATION BOOTHは、駅ナカを中心に展開するシェアオフィス事業「STATION WORK」のサービスのひとつ。テレキューブをもとに開発された製品で、デスクやWi-Fi、電源、小規模な空調などが完備されている。2019年8月に都心でサービスを開始し、2021年2月時点で30カ所以上に設置済み。今後は、東北や信越でも新たに設置する予定だ。
3. CocoDesk
CocoDeskは、前述の「ソロワークブースCocoDesk」のベースとなる個室型ブース。東京メトロの駅構内を中心に導入されていたが、京浜急行電鉄沿線やオフィスビルエントランスなどへの展開も進めており、商業施設やショッピングモールでの設置も予定されている。
上記3つのサービスは、駅ナカから事業を本格化している点で共通している。都心の駅周辺には日夜ビジネスパーソンが行き交い、駅構内には空きスペースが豊富にある。コロナ禍で「Web会議をする場所」に対するニーズが急増したことを追い風に、一気に普及したというわけだ。現在も、設置台数は右肩上がりで増加しつづけている。
メリットは「働き方の変化」への柔軟な対応力
オフィス向けと、駅ナカを中心とした一般ユーザー向けのどちらにおいても、利用のハードルが低いのはメリットのひとつだ。オフィス向けのサービスでは初期費用が抑えられ、一般向けのサービスには1回ごとの利用料を支払うだけという気軽さがある。
大がかりな工事を必要とせず、比較的ローリスクで導入できる個室型ブース。パンデミックの影響もあって働き方が大きく変わりつつある中、今後さらに存在感を増していくのではないだろうか。
関連記事:グローバル視点で見るワークプレイスを取り巻く環境の変化と将来像 ー WORKTECH20 GLOBAL EDITION レポート
この記事を書いた人
Wataru Ito フリーランスのコピーライター。中小企業やBtoB企業を中心に、ライティングを通してブランディング、採用広報、販売促進をサポート。建築学科卒、建材メーカー勤務経験あり。
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