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「オフィスでブランディング」に成功した企業4選

[August 18, 2022] BY Worker's Resort Editorial Team

なぜ「ブランディング」をオフィスで行うのか?

企業や組織の成長に欠かせないとされる「ブランディング」。特にビジネスにおいては、企業と顧客の接点をつくるうえで非常に重要だが、ブランドの価値を高める要素として「オフィス」を重視する企業も増えている。なぜ、オフィスがブランディングの舞台となり得るのだろうか。

まず念頭に置きたいのが、本記事で取り上げるブランドとは、様々なブランドのなかでも「企業ブランド」であることだ。企業ブランディングとは、顧客に持ってほしい自社への感情やイメージを設計することであり、その結果として生まれる「企業ブランド」が企業と顧客との感情的な接点となる。特にオフィスは、企業・顧客間の物理的な接点となるのはもちろん、社員と企業の重要な交流の場としての役割も持つ。このように、様々な接点を生むオフィスは、企業のブランドやそのストーリーを伝えるのに最適な場所の一つなのである。

ただ、オフィスでブランドを表現する際は、「ロゴや色だけで完結するもの」と思われがちだ。しかし、そうではなく、企業の芯となるオフィスだからこそむしろ企業のカルチャーや社員の働き方を的確に表現する必要がある。ときには企業の経営戦略やビジネスにおける包括的なゴールを見据えながら、「なりたい」と思う将来像を具現化することで、顧客や社員に魅力を与えつづけるブランドの確立が可能になる。

ワークプレイスにおいて自社のブランドはどう表現されている?
(画像はSteelcaseの「Brand, culture and the workplace」より)

Steelcaseのレポート「Brand, culture and the workplace」を見ても、ロゴを散りばめるなどでブランドを表現している企業は70%と高い割合を示しているが、十分なブランディングができているとは言えないようだ。

オフィスにおいて企業のカルチャーとブランドは混同されがちだが、カルチャーが「社員のアイデンティティ」だとするならば、ブランドは「企業のアイデンティティ」と捉えられる。オフィスはこの両方をバランスよく表現する必要があり、ブランドを通して企業がなりたい理想と近いカルチャーを構築できる人材を獲得し、そこでできたカルチャーでブランドをさらに強化していくという相互の関係性が大切になる。

自社のブランドを巧みに表現したオフィスを持つ企業4選

では、実際にどのような形で企業はオフィスのブランディングに取り組んでいるのだろうか。ブランドを上手に落とし込んでいる4社の事例を取り上げ、以下に紹介する。

1. Airbnb:暮らすように旅しよう

「民泊」サービスで世界を牽引するスタートアップの「Airbnb」。サンフランシスコでも特に名の知れた企業だが、2017年にオープンした999 Brannan Streetにあるオフィスは、同社が提供するサービスと企業のビジョンを明確に表現している。

倉庫跡を利用したオフィス内には、大小いくつものミーティングルームが用意されているが、一つとして同じデザインはない。フロアやエリアごとに「ブエノスアイレス」「京都」「アムステルダム」といった世界の都市を当てはめ、色のパターンや用いる材質などを変えることで、それぞれの都市の文化を反映させている。社員はオフィスにいながら、世界中に登録されている自社の民泊の雰囲気を味わうことができるのだ。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

このように、グローバルなサービスをオフィスで表現する一方で、それを利用する社員の意見にも気を配った。具体的には、デザインを決定する前段階で、社員に「Employee Design Exeperience」と呼ばれるプログラムを提供。世界にある実際のスペースを再現すると同時に、本社にいる社員にデザインの最終的なタッチを手伝ってもらい、彼らのアイデンティティを落とし込んでいったという。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

「暮らすように旅しよう」というステートメントにあるように、「現地の住民のような生活で得られるリアルな体験」と「ユーザーが持つ独特な視点」の調和で限りない体験価値を提供するという同社の姿勢が、オフィス全体から伝わってくる。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

施設内には人物写真がいくつも飾られているが、その被写体は実際にスペースを貸し出しているユーザーだ。Airbnbは彼らあってのサービスであり、「そのユーザーのためにサービス開発を行っていく」という想いを大切にしているという。誰のためによりよいサービスを求めていくのか、社員全員が常にその意識を持って仕事に取り組めるよう、オフィス環境からその風土を整えている。

関連記事:Airbnbが進める、オフィス拡張計画の中身

2. Ancestry:科学とテクノロジーで自己発見を

Ancestryは、戸籍制度のないアメリカで、ユーザーに自分の先祖やルーツを調べるサービスを提供する企業だ。入国記録や移民記録、婚姻記録、兵役記録に至るまで、様々なデータを活用して家系をたどっていくことで、「人のつながり」が見えてくる。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

だからこそ、オフィスをつくるうえで重視したのが、彼らが持つテクノロジーを使っていかに人間味を表現できるかということだ。そのため、オフィスの壁には、自社サービスを利用して社員が自ら見つけた「はるか昔の親戚の写真」と「その社員の写真」を並べて掲示している。Ancestryはテクノロジーを扱う企業だが、提供したいのはそうした技術を活用して見つけ出した、ユーザーの感情に訴えかける「人のつながり」だ。2枚並んだ写真に、その想いが強く反映されている。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

また、建物の入り口に展示されているグラフィック作品は、複数の色や層で多様な人々とそれぞれの祖先を表現している。重複した色は、世界の歴史が気付かぬところで強いつながりを持ち、構築されてきたことを表しているのだ。オフィスのブランディングを手掛けたVisionも、「敷地の性質上、壁面にAncestryのコアバリューにつながるアートを配置することが最も現実的な選択肢だった」と語っている。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

機能面でも「人のつながり」を意識しており、休憩用の部屋やファミリールームなど人が集う場所をオフィスの中心に配置。そこで生まれる交流を大切にしているという。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

このように、オフィスに想いやビジョンが映し出されていると、その企業が提供する価値の重みも自然と感じられるようになるだろう。

3. Instacart:ユーザーの生活を改善し、人々にとって身近な企業に

買い物代行プラットフォームのInstacartは、サンフランシスコで急成長を遂げたスタートアップだ。スーパーやドラッグストアなど複数の小売店と提携し、ユーザーが買いたいものをオンラインで指定すると、ショッパーと呼ばれる個人がユーザーの代わりにそれらを購入して即日配達するサービスを提供している。オフィスのデザインは、本メディアでも紹介したSeth Hanley氏によるものだ。

関連記事:【Seth Hanleyインタビュー#1】小さな事務所の大きな影響力ーDesign Blitzのデザインに密着

Instacartの本社は、居心地のいいアットホームなデザインに特長がある。これには、起業時のスタートが決して派手なものではなかったことと、「人々の生活を改善したい」という想いで顧客に寄り添うことを重点に置いた企業ミッションが反映されている。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

オフィス内に設置されたカフェは、創業者のお気に入りの店からインスピレーションを受けてつくられたもので、そこでの体験を訪問者にも届けたいとの想いがあるという。特に6階にあるカフェは受付の隣にあり、創業者が重視する「温かいイメージ」がオフィスに訪れた瞬間に伝わるような設計が施されている。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

また、食料品配送ボックスを利用したオーダーメイドのスタンディングデスクや野菜が一面に広がる壁で、購入シーンを再現。企業が常にユーザーの一般的な生活と隣り合わせでサービスを提供していることを表している。実際に、社内ではショッパー向けに食料品のレプリカを並べ、良質な野菜や果物の見分け方をレクチャーする空間も用意されている。ユーザーに寄り添うブランドを持つ企業にこそ参考にしてほしいオフィスだ。

4. Zynga:ゲームを通じて人をつなぎ、多くの人に愛される企業に

世界的なソーシャルゲーム会社のZyngaは、他のユーザーと一緒に農場を管理する「FarmVille」や、アプリなどを使って他のプレーヤーとポーカーを楽しむ「Zynga Poker」といった、誰でも簡単に遊べて交流できるゲームを開発するスタートアップだ。提供するゲームを通じて、人をつなげることを企業理念に掲げている。創業者のMark Pincus氏は、こうした考えのもと、創業して間もない頃から同社のブランディング戦略を重視していた。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

創業者が抱くブランドイメージを最も明確に体現したのが、企業名やロゴの由来ともなった彼の愛犬である。遊ぶのが大好きで忠誠心が強く、皆に愛され、何かをするときには常に中心的存在になりたがったその性格が、提供するゲームだけではなく、社員の行動規範の見本となった。今も社員のペットが多く集まるオフィスの光景は、「誰からも愛されながら人の交流を手助けする」環境をつくるうえで、大切な要素の一つとなっている。

(画像はZyngaのウェブサイトより)

また、ビジネス分野がソーシャルゲームということもあり、社員の社交性も重視している。無料のカフェテリアを設置するスタートアップは少なくないが、同社は早いうちから無料食事プランを導入しており、昼食だけではなく、朝食や夜食まで提供している。創業時のジムのメンバーシップ制度から始まり、社内にフィットネス設備を整えるなど、積極的に手厚いサポートを行ってきた。

(画像はOFFICE SNAPSHOTSより)

「世界をゲームでつなげる」というミッションステートメントを掲げる以上は、まずは社員がつながる必要がある。ゲームの世界を表現したオフィスで社員が集い、活気あるミーティングを行う姿は、ユーザーにもほかの社員にもポジティブな印象を与えるだろう。

ゲーム業界により多くの人を巻き込み、盛り上げていくZyngaの姿勢の裏には、こういった社内の環境づくりがある。「人をつなげる」という理念をどこでも実現させていこうする努力が、ブランドに説得力を持たせているのだ。

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