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ウォルマートとアクセンチュアに学ぶ、これからのダイバーシティ&インクルージョン

企業理念や組織形成を語る上で欠かすことができない「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」について、ウォルマートとアクセンチュアの事例をもとに解説する。

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ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは

近年、企業理念や組織形成を語る上で欠かすことができないトピックの一つ、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」。多様性の祭典を目指す東京オリンピック・パラリンピック(TOKYO2020)でも基本コンセプトとして取り上げられており、そうした事実からもその重要性と関心度の高さが読み取れるだろう。

では、改めて「D&I」とは何か。アクションワードである「Know Differences, Show Differences. ちがいを知り、ちがいを示す」とともに、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は次のように説明している。

ダイバーシティは「多様性」「一人ひとりのちがい」、
インクルージョンは「包括・包含」「受け入れる・活かす」
という意味を持ちます。

多様性は、年齢、人種や国籍、心身機能、性別、性的指向、
性自認、宗教・信条や価値観だけでなく、キャリアや経験、
働き方、企業文化、ライフスタイルなど多岐に渡ります。

東京オリンピック・パラリンピックのウェブサイトより引用)

以下、この記事では「D&I」を企業文化の一つとして掲げ、社員にとって平等な職場環境づくりを推進している企業を紹介していく。「D&I」における先進的な企業として高く評価され、日米国内に拠点を持つWalmart Inc.(ウォルマート)とAccenture PLC(アクセンチュア)の具体的な取り組みから学ぶことは少なくないだろう。

「一緒に働く仲間 」を尊重するウォルマート

まずは、世界27カ国に11,500以上の店舗を展開する、世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」について取り上げたい。ダイバーシティに関して優れた取り組みを行う企業のランキング「THE 2020 DIVERSITYINC TOP 50 COMPANIES FOR DIVERSITY」(⽶国のダイバーシティ専⾨のWebマガジンDiversityInc)への選出や、企業の平等指数をはかる「Corporate Equality Index 2020」(Human Rights Campaign)での高い評価にもある通り、会社の方針や福利厚生、ビジネスにおける日常的取り組みが総合的に評価されているのは注目に値する。

同社では、社内外のリサーチや活動をまとめたダイバーシティ&インクルージョンに関する独自レポート「CULTURE, DIVERSITY & INCLUSION REPORT」を定期的に発表しており、そのオープンで透明性のある姿勢も好感を得ている。正社員、パートタイム社員、役員を含めたすべての従業員は「アソシエイト」と呼ばれ、人種、言語、宗教、セクシュアリティなど、違いを受け入れていきたいという企業文化も確立されている。「アソシエイト」には、従業員を一様に大切にしたいという思いが込められているのだ。

ちなみにウォルマートは、2002年の業務提携を経て2008年に西友を完全子会社化している。その意味で日本との縁は深く、「ウォルマートジャパン」でもダイバーシティ&インクルージョンを大切にする考え方が共有されている。

以下、ウォルマートの具体的な取り組みについて見ていこう。

Associate Resource Groups : ARG(アソシエイト・リソース・グループ)

Associate Resource Groups(ARG)は多様な価値観やバックグラウンドを持つアソシエイトのコミュニティだ。それぞれが目標を掲げ、独自の活動を行っている。LGBTとそのアライ(同盟・支援者)向け、ディスアビリティ向け、異なる文化を持つ人向けなど、現在あるコミュニティの数は9つ。各コミュニティは地域ボランティアやイベントに参加すると同時に、互いに連携し合って問題解決や相互理解に取り組んでいる。

こうしたコミュニティができる背景には、「人種、肌の色、祖先、年齢、性別、性的指向、宗教、障害、民族、出身国、退役軍人、婚姻状況、妊娠に基づく雇用などにおける差別を容認しない」企業文化がある。つまり、「従業員、顧客、会員、サプライヤーを含めた関わる人々に差別のない環境を提供したい」という同社の思いが具現化されていると言える。

Live Better U(ライブ・ベター・ユー)

ウォルマートが2018年からスタートさせたLive Better Uは、「Higher Learning, Lower Tuition(質の良い教育を低学費で)」をコンセプトに、従業員全員に教育とトレーニングの機会を提供するプログラムだ。仕事関連のトレーニングはもちろん、大学の学位取得や新しい言語のオンデマンドトレーニングなど、従業員はキャリア形成を実現するためのサポートを最大限活用することができる。

ダイバーシティ_Walmart

Live Better U( 画像はウォルマートのウェブサイトより)

その具体例として、教育テクノロジーを通じた社会人の学位取得を支援するスタートアップ企業のGuild Educationと提携し、大学の授業料を負担する奨学金制度を可能にしたことがあげられる。従業員は1日1ドルでプログラムに参加できるだけではなく、経営、サプライチェーン・マネジメント、テクノロジー、医療など様々な分野の学士・準学士課程を履修することも可能。夜間や週末にはオンラインでも授業が受けられるなど、各社員の環境に合わせたサポートも実現している。

報告によると、2020年6月時点で25,000人を超える従業員がこのプログラムを利用しており、大多数は女性だという。平均年齢は30~40歳、そのうち47%はpeople of color(有色人種)である。

同社米国部門の社長兼最高経営責任者(CEO)であるグレッグ・フォラン(Greg Foran)は、「これからのウォルマートには、アソシエイトの個人的かつ職業的な成功に向けた投資が不可欠だ。トレーニングや学習の機会を設けることは、アソシエイトのキャリアアップと同時に、お客様に提供するサービスの向上にもつながると確信している」と語る。まさにダイバーシティ&インクルージョンの好例として各所で取り上げられるのもうなずける。

「文化のEquality(平等性)」を大切にするアクセンチュア

次にアクセンチュアの事例を紹介したい。同社は世界最大級の総合コンサルティング企業であり、「ストラテジー」「コンサルティング」「デジタル」「テクノロジー」「オペレーションズ」の5つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供している。インクルージョン&ダイバーシティの推進に長年にわたって取り組んでおり、様々な機関からそのリーディング・カンパニーとして評価されている。

ダイバーシティ_平等性

具体的には、2018年と2019年の2年連続で「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス(D&I指数)」(リフィニティブ)の世界第1位を獲得していることがあげられる。D&I指数は、400件超のESG(環境・社会・ガバナンス)データをもとに算出される指標であり、世界で最も多様性と受容性を備えた企業として評価されたと言える。

アクセンチュアの最高経営責任者(CEO)であるジュリー・スウィート(Julie Sweet)は、選出に際して次のように語っている。

「誰もが自分らしく働くことができるよう平等を重んじる文化を整備することは、企業のあり方を決めるカギとなるものです。私たちは一人ひとりが固有に持つバックグランド、スキル、経験を適切に評価し、各自が大胆な目標の達成に向けた責任を負っています」(アクセンチュアのウェブサイトより引用)

「Cross Culture Day(クロス・カルチャー・デイ)」の開催

まずは、同社の日本オフィス「アクセンチュアジャパン」で行われているイベント「Cross Culture Day」について特筆しておきたい。30カ国以上の多国籍な社員が所属しているアクセンチュアジャパンだが、それぞれの国籍や文化の多様性について理解を深めるために実施されているという。

2020年は、パンデミックの影響でオンライン開催となった本イベント。当日は、外国籍社員によるパネルディスカッションが行われ、トピックとして「ハイコンテクストの国として知られる日本での苦労話」や「ビジネス文化の背景理解」などが取り上げられた。

加えて、同社では人事部と連携しながら、外国籍社員一人ひとりに最適な研修メニューの開発に取り組んでいるという。まさに、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を積極的に行っている証左と言っていいだろう。

障がいのある社員が能力を十分に発揮できる環境づくり

アクセンチュアは、障壁を感じさせないインクルーシブ(受容的)な環境を保障する取り組みにも積極的だ。メンタルヘルスやジョブコーチなどのサポート体制を整え、各自の個性や強みに合わせて成長を支援する場づくりを進めている。

具体的には、身体障がいのある社員の雇用だけではなく、2019年に精神障がい・発達障がいのある社員の能力を生かすことを目的にサテライトオフィスを設立。社員が自身の成長を実感し、どれくらい貢献できているのかを定量可視化するなどの仕組みづくりにも熱心だ。

ダイバーシティ_障がい

このほか、テクノロジーの活用にも積極的に取り組んでいる。最先端のテクノロジーは、障がいのある社員のニーズに合わせた環境づくりも可能にする。AIを取り入れて開発した、聴覚障がい者のためのコミュニケーションツール「TransCommunicator」がその一例だ。

これは、発話内容がリアルタイムで字幕として表示され、聴覚に障がいのある社員でもストレスなく会議に参加できるというもの。日本語音声の高い書き起こし精度を保証するAmiVoiceを採用しており、AIの学習機能によって一般的な言葉だけではなく専門用語の認識も可能にした。質問がある時にはアクションボタンを使い、合成音声で発言できる。

日々アップデートされるダイバーシティ&インクルージョン

以上、ウォルマートとアクセンチュアの事例を取り上げた。大企業ならではの大胆な施策も見られる一方、両社に共通しているのは、明確なコミットメントをもってダイバーシティ&インクルージョンの課題に取り組んでいることだ。紹介した例は一部に過ぎず、このほかにも、多様性に富んだ経営陣の選出やジェンダーバランスのとれた組織構成、若い世代へのメンタリング、所得格差の解消など、多様な労働力と包括的な職場環境を維持するために実践されていることは少なくない。

パンデミックの影響で働き方やワークプレイスのあり方が変化していく中、ダイバーシティ&インクルージョンに対する考え方も日毎アップデートされていくはずだ。ウォルマートやアクセンチュアの新たな取り組みと併せて、今後も関連する動きやトレンドに注目していきたい。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri

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