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成長や働きがいも促進。VUCA時代に強い「自律型組織」のつくり方

経営環境が不確実性を増すなか、「自律型組織」の重要性が増している。自律型の組織づくりにはどのようなアプローチが求められるのか。導入企業の具体的な事例をもとにヒントを探る。

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自律型組織に対する関心の高まり

上司の指示を待つのではなく、自社のビジョンやミッションを軸に従業員が自ら考え行動し、企業活動を力強く推進する。そんな「自律型組織」の重要性が近年増している。その背景には、経営環境の目まぐるしい変化がある。不確実性(VUCA)の時代と呼ばれる現代では、変化への対応力に優れた組織づくりが必要とされているのだ。また、自己の成長や働きがいを求めるワーカー側からも、自律的な働き方を望む声があがっている。

ここで、株式会社リクルートマネジメントソリューションズが従業員300名以上の企業に勤務する一般社員と管理職435名を対象に行った、「自律的に働くことに関する実態調査」を見ておきたい。同調査では、一般社員の約8割、管理職の9割以上が所属企業から「自律的に働くことを期待されている」とし、全体の約8割が「自律的に働きたい」と答えている。

一方で、「上司や会社から、自律的に働くことを阻まれている」「周囲に、自律的に働くことを望んでいる人は少ない」と回答した人も4割前後見られた。会社が自律を期待するメッセージを打ち出し、ワーカーが自律を望んでいながらも、周囲がそれを阻む状況が一部にはあるようだ。

そんななか、Googleやスターバックス、株式会社星野リゾートなど、自律型の組織づくりに成功する企業も増えている。今回は、自律型組織を目指す取り組みを紹介し、導入のヒントを探りたい。

自律型組織とは? 従来の管理型組織との違い

まずは自律型組織について、従来の管理型組織と比較しながら説明する。

管理型組織とは、メンバーが会社や上司の指示通りに動くことで職務を遂行する組織を指す。ピラミッド型の階層構造を成し、トップに権限が集中する。変化の少ない経営環境下では、確実な計画の実行が重視されるため有効に機能しやすいが、経営環境が不確実性を増すにつれて上位下達では難しいケースも増えていく。

一方の自律型組織では、組織内で共有する理念や目的を拠り所にして、メンバーが自ら考え行動、協働する。現場に権限移譲するために階層を簡素化するなど、よりフラットな組織形態をとる場合もある。もちろん、各人が自由気ままに働いてよいわけではなく、一定のガバナンスをきかせている。管理型組織が会社や上司の指示によって統制されるのに対し、自律型組織はミッションやビジョンといった理念を軸にしているのが特徴だ。

近年は、フラットなティール組織やホラクラシー組織、迅速な意思決定を可能にするアジャイル組織といった自律分散型組織も注目されている。それぞれについて簡単に解説したい。

・ティール組織
フレデリック・ラルー氏が提唱した組織モデル。上司と部下といったヒエラルキーは存在せず、メンバーは組織の目的をいかにして実現するかを自ら考え行動する。ティール組織の成立には、各人の「セルフマネジメント(自主経営)」、メンバーの多様性を尊重し合う「ホールネス(全体性)」、組織の存在意義を理解し追求する「エボリューショナリーパーパス(存在目的)」の3要素を必要とする。

・ホラクラシー組織
上司・部下のヒエラルキーが存在しないフラットな組織で、意思決定権が分散されている。指示が上から下へと降りるヒエラルキー型組織と対照的なモデルと言われ、ティール組織の一形態とされる。アメリカで靴を中心としたECサイトを運営するZapposのほか、日本では不動産に特化したDXソリューションを提供する株式会社UPDATA(旧ダイヤモンドメディア株式会社)などがこの組織形態を採用している。

・アジャイル組織
ソフトウェア開発で取り入れられている、アジャイル開発の概念から生まれた組織モデル。アジャイル開発とは、途中で仕様変更が発生することを前提に、スピーディーに製品をリリースし、ユーザーの反応を見ながら改良を繰り返していく手法を指す。これを応用したアジャイル組織は、小回りのきくフラットなチームの集合体で構成される。各チームに権限が移譲され、素早い意思決定が可能となる。

事例に見る、自律型組織を実現する施策

では、自律型組織を実現するためにはどのようなアプローチが求められるのだろうか。具体的な事例をもとに考えたい。

1. ウォンテッドリー株式会社

外からモチベーションを管理する管理型組織ではなく、内発的動機付けに突き動かされる自律型組織を目指す、ウォンテッドリー。同社が公開する「モチベーションから紐解く『自律型組織の作り方』/ Drive! Your Team」にもあるように、内発的動機付けに必要な要素として「共感」「自律」「挑戦」の3つを掲げ、それぞれを以下のように定義して組織づくりを進めている。

・共感
会社、チームのミッションやビジョン、つまり向かうべき方向が明確に示されており、それらを心から有意義なものであり、達成することを自分の使命と感じられる状態

・自律
ゴールの達成の方法、つまりチームのバリュー(行動指針)を理解しているため、ゴールを示せばマイクロマネジメントの必要なく最短距離でゴールに向かって走れる状態

・挑戦
常に簡単すぎず、難しすぎないハードルを持っており、自己成長実感を感じながら、フロー状態でシゴトに立ち向かっている状態

「共感」は、採用段階で8割方決まるとする同社。採用活動においては、自社のミッションへの共感を最も重視している。入社後も、CEOを交えて少人数でランチを食べながらディスカッションする「Culture Lunch」の時間を設けるなどして、共感をキープできる環境を整えている。

また、メンバーの「自律」には、バリューを組織に正しく浸透させることが重要だという。そこで、バリューの解釈にブレが生じないように、毎年更新される「Culture Book」でCEOがバリューについて解説する、バリューの直感的理解を促すポスターを飾るなどの施策を重ね、浸透を促している。

画像はウォンテッドリー株式会社のブログより

そして、「挑戦」を、“最適な”ハードルの仕事に取り組むことと定義する同社。Googleも採用しているOKR(Objectives and Key Results:目標と成果指標)という手法を取り入れ、それぞれの自律性を尊重しながら従業員の挑戦をサポートしている。

2. 株式会社ガイアックス

ITサービスの開発やソーシャルメディアサービス事業などを幅広く展開する、ガイアックス。組織形態としてティール組織を導入しており、その内容をブログで公開している。

同社では、一人ひとりが自分自身の「使命で働く」ことをフィロソフィーとして掲げている。それを実現するために不可欠なのが、「フリー・フラット・オープン」な環境づくりだ。例えば、経営層が行った改正は、すべて議事録で全社員に共有。多くの権限を可能な限り各現場に渡すことを考えており、事業単位で存在するチームや事業部から希望があれば、経営サイドの判断を待たずに組織化できるという。

また、自主自律的な働き方をいち早く取り入れた同社のソーシャルメディアマーケティング事業部は、次のような取り組みを通して従来の働き方からのシフトを実現している。

・2015年からクラウドソーシングの活用、リモートワークの推進など働き方の多様化を積極的に推進。
・プロのファシリテーターを招き、コントロールを手放したチームセッション(ロングミーティング)を実施。
・「経営陣とそれ以外のメンバー」の境界線をなくし、経営陣も参加者の一人としてチームセッションに参加。

ティール組織について、「目指してなるものではなく、結果的になるものであり、組織の『あり方』である」とも言えるとする同社。現在は、株式会社はぐくむと共同で、自主自律型組織への変革を希望する企業に向けたコンサルティングサービスも展開している。

「キャリア自律」という観点からのアプローチ

自律型組織の開発には、ほかにも様々な切り口がある。その一つが「キャリア自律」の支援だ。キャリア自律とは、ワーカー自身がキャリアを能動的に形成することを指す。

キャリア自律が進むと、会社への帰属意識が低下するように思うかもしれない。しかし、企業が競争力を高め、成長するためには、自社の方向性を理解したうえで自分のキャリアを描ける自律的な人材が不可欠だ。前出の調査でも、「自律的キャリア形成」への意識が高い群では、「自律的職務遂行」や「自律的協働」の実践度が高くなっている。

また、「自律」の経験やマインドは「協働志向の自律」にもつながっているとし、「自律」の水準が高くなるほど、個人の働きがいや所属組織へのポジティブな関わり方が増える傾向があるという。比較的イメージしやすいキャリア形成から、自律的職務の遂行や自律的協働につなげるのも有効なのではないだろうか。

2020年に出された経団連の報告書「Society 5.0 時代を切り拓く人材の育成」でも、キャリア自律の重要性に触れられている。また、厚生労働省が毎年開催している「グッドキャリア企業アワード」にも注目したい。同アワードでは、従業員の自律的なキャリア形成支援について模範となる企業を表彰している(2021年度は実施を中止)。ここでは、「グッドキャリア企業アワード2020」の受賞企業のなかから、2社の事例を紹介する。

1. 万協製薬株式会社(大賞)

外用薬の受託製造を手掛ける万協製薬。「業務のモジュール化」で仕事のスキルを可視化し、それを「ジョブローテーション」と連携させることで社員の能力開発を図っている。また、各自が作成したキャリアアッププランをもとに上司がフォローする、配置転換や転属などについて相談できる経営幹部との面談を年2回設けるなど、キャリア形成をサポートする環境を整えている。

このほか、全社員が参加する成果発表会の開催、社員が直接会社の仕組みを変えられる提案制度の設置といった、社員のモチベーション向上につながる施策も導入。その結果、帰属意識が高まり、当事者意識をもって職務に取り組むことができるなど、個人の能力向上と組織の成長を両立させることに成功している。

2. ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社(イノベーション賞)

医療機器メーカーのボストン・サイエンティフィック ジャパン。評価のポイントとなったのは、「キャリアオーナーシップ」をキーワードとする人材育成と、キャリア開発に関する制度だ。例えば、社内公募制度もその一つ。2018年から採用オープンポジションを月次で共有し、2019年より管理職登用を原則公募制とするなど、制度の拡充に努めている。

また、「社員応募型研修」も導入し、オンラインキャリア研修のほか、外部のベンチャー企業に出向する越境型の短期体験学習プログラムも提供。管理職登用やキャリアシフトの機会として社内公募が活用され、その挑戦のために自発的な能力開発が行われるという好循環が生まれている。

今後も模索される、自律型組織への転換

今回は、自律型の組織づくりを進める企業の施策とあわせて、ワーカーのキャリア自律を支援する企業の取り組みを紹介した。このほかにも、職務内容を明確に定義した「ジョブ型雇用」の導入により、自律型組織を目指すというアプローチもある。

どんな方法が有効かは、企業によって異なるだろう。一つ言えるのは、従来の管理型組織では現場の創意工夫やイノベーションが生まれにくく、働きがいの観点でもワーカーの支持を得にくくなっているということだ。今後ますます、多くの企業において自律型組織への転換が模索されるのではないだろうか。

この記事を書いた人:Wataru Ito

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