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「バックオフィス改革」とは何か。コロナ禍で加速する経理・財務・総務の変化

コロナ禍を変化の時と捉え、抜本的にバックオフィスのあり方に変革をもたらす「バックオフィス改革」。今注目される背景を踏まえ、関連するカンファレンスについて取り上げる。

コロナ禍で注目される抜本的な業務改革

テレワークやウェブ会議など、コロナ禍で働き方に変化が見られる中、経理、財務、総務といったバックオフィスの働き方にも関心が集まっている。

コロナ禍を変化の時と捉え、抜本的にバックオフィスのあり方に変革をもたらそうとするのが「バックオフィス改革」であり、2020年にはそれを推進する動きが活発化した。ここでは、バックオフィス改革が叫ばれるに至った背景から、盛り上がりを示すように同時多発的に開催されるバックオフィス改革関連のカンファレンスについて取り上げたい。

バックオフィス改革が推進される理由

2020年を振り返ると、春先に非常事態宣言が発出されたことでテレワークが一気に広まったが、職種によるテレワークの実施率には大きな開きが出ていた。

株式会社パーソル総合研究所の「第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(P.23)によると、2020年5月、6月時点の職種別テレワーク実施率は、「企画・マーケティング」66.1%、「営業推進・営業企画」54.3%、「営業職(法人向け)」47.0%、「総務・人事」37.1%、「財務・会計・経理・法務」31.7%という結果に。企画・マーケティング職と財務・会計・経理・法務職では、30%以上もの開きが見られた。

これは、緊急事態宣言の発令により、新型コロナウイルス感染拡大への不安も大きく、外出に対してある種の恐れを感じていた頃のこと。それでも、バックオフィス部門で働く人々の7割は出社を余儀なくされていたのである。

その原因となったのが、「紙の請求書」、「入金支払い管理」、「紙の経費業務」などのIT化されていない業務であった(「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトより)。いわゆる、“紙とハンコ”による弊害とも言えるだろう。経理部門ではいまだに紙の請求書の受け取りや発送が多く、処理のためやむを得ず出社する経理・財務担当者は少なくない。

ペーパーレス化

一方、コロナ禍でのこうした状況により、バックオフィスの業務実態が浮き彫りになったことで、働き方を変えようとする機運が高まったのも事実である。その代表的な動きが「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトだ。

これは、バックオフィス改革の中でも経理部門に絞ったプロジェクトで、クラウド請求書発行システム『請求管理ロボ』を提供する株式会社ロボットペイメントが立ち上げたもの。同社の呼びかけに対し、業務支援系のITツールを運営する企業など、協賛企業を含めて100社以上が集まっている。また、2020年9月30日には朝日新聞に15段広告を掲載し、経済産業省へ「IT導入補助金拡充と経理部門の働き方改善を実現する産官学連携の促進に関する嘆願書」を提出した。

同プロジェクトでは、請求書の電子化による経済効果も試算しており、削減される金額は郵送費だけで年間約5,912億9,323万円、人件費は約5,511億2,859万円にのぼるという。

バックオフィスのあるべき姿を提示するカンファレンス

「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトは、2020年10月22日に、「日本の経理をもっと自由にカンファレンス2020」をオンラインで開催している。イベントでは経理に特化し、三部構成でパネルディスカッションを実施。パネルディスカッションには、経理向けサービスを提供する企業10社のほか、実際にサービスを導入した企業の担当者も参加し、それぞれの立場からの現状分析と課題、その解決法について議論が交わされた。

当日のイベントレポートによると、ITツールの導入で紙の請求書から解放された後、経理部門はどうあるべきかも話し合われている。例えば、経営層から経理がより評価されるためには、「経理担当者自身も上層部に対して(経理部門が扱う専門性の高い業務内容について)説明するコミュニケーション能力を養うべき」といった、効率化の先にある経理部門のあり方も提示されていた。

また、その3カ月前の2020年7月29日に開催された、「バックオフィスカンファレンス2020」もおさえておきたい。このカンファレンスのコンセプトに掲げられたのは、「バックオフィスの『ペーパーレス化』『クラウド管理』の実現をサポートする企業が集い、パネルディスカッションや成功事例の紹介を交えながら『バックオフィスのこれからの働き方』を解説いたします」という言葉。主に経理部門におけるペーパーレス化、脱ハンコのためのノウハウと、それを実現するためのクラウドサービスの導入について語られた。

中央官庁も基調講演に登壇した、官民あげたDXのうねり

「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトの協賛企業の1社で、請求書業務をクラウドシステム上で行うサービス『BtoBプラットフォーム請求書』を提供する株式会社インフォマートも、「Less is More. ニューノーマル時代のバックオフィス課題発見イベント」を開催している。

インフォマートが運営するオウンドメディア名でもある「Less is More.」とは、「余計なものはないほうがいい」といった意味で、近代建築の三代巨匠の一人に数えられるミース・ファン・デル・ローエが遺した言葉だ。企業における紙のやり取りをクラウドシステムで行うサービスを展開し、ペーパーレス社会を目指す同社らしい言葉のチョイスと言えよう。

Less is More. ニューノーマル時代のバックオフィス課題発見イベント」の第1回目は2020年7月14日に、第2回は8月27日に、第3回は11月17日にオンラインで開催された。毎回、様々な分野の専門家による基調講演をはじめ、企業活動で必要なクラウドサービスを提供する企業が参加し、講演を行っている。

第1回の基調講演に登壇した一人目は、税理士でSKJ総合税理士事務所所長の袖山喜久造氏。袖山氏は国税庁OBであり、電子帳簿保存法(契約書や請求書などの取引書類を電子保存するための法律)の立案にも情報技術専門官として参画している。もう一人の登壇者は、25年以上にわたる総務・ファシリティマネジメント業務の実務経験を持ち、国内外の大手企業で勤務実績のある株式会社Hite&Co.の代表取締役社長・金英範氏であった。

袖山氏は、2020年10月から施行された改正電子帳簿保存法の改正ポイントと、2023年10月より導入される「適格請求書等保存方式」、いわゆるインボイス制度の要点について解説した。どちらも、経理・財務の働き方に大きな影響を与えるトピックであり、企業の適切な対応が求められるものである。

また、「ニューノーマル時代の総務戦略と財務実践手引き」というテーマで講演を行った金氏は、テレワークの普及を前進させたコロナ禍は、施設の維持・運用・管理に必要なファシリティコストを見直すチャンスの時期でもあると語った。一般的に、ファシリティコストは年間1人あたり100〜150万円かかっていると言われ、テレワークの実施率によっては億単位のコスト削減が可能だという。

第2回第3回でも、基調講演では「withコロナ。バックオフィスの業務で変わるもの、変わらないもの」、「withコロナ時代にこそサウナ!? 患者ゼロの社会を実現したい!」といった多様なテーマが取り上げられた。とりわけ、第3回では、経済産業省と中小企業庁のDX担当者が登壇しており、官民が足並みを揃えてDX、バックオフィス改革を推進しているような機運の高まりが感じられる。

どのサービスが必要? ずらりと並ぶ業務支援クラウド型サービス

第1回の登壇企業だけでもラインナップは実に豊富で、各社のサービスを職種・業務別にジャンル分けするとそれぞれの特徴がよくわかる。以下に各サービスの簡単なプロフィールを並べるので、バックオフィス改革をイメージしながら眺めてほしい。

クラウドサービス

株式会社あしたのチーム『ゼッタイ!評価®︎ZEROあしたのクラウド』(人事・評価)

人材育成に必要な人事評価制度のコンサルティング、クラウドサービス、アウトソーシングのすべてをワンストップで提供する。組織変革に欠かせない「教育・評価・タレントマネジメント」を支援し、人材育成・企業成長による最高のチームづくりを実現する。

株式会社エイトレッド『X-point Cloud』(ワークフロー)

日本における「働く」の新しい常識を生み出すことを使命に掲げ、低価格で導入できる生産性向上のためのクラウド型ワークフローシステムを提供している。時間のかかる事務手続きや複数ある手書き申請書類などをクラウド上で処理することができ、スマートフォンやタブレットにも対応している。

株式会社エフアンドエム『オフィスステーション』(労務・年末調整)

労務手続き、年末調整、有休管理、ウェブ給与明細、マイナンバー管理機能を持つクラウドシステム。自社の業務内容に合わせて機能を使い分けられる。ペーパーレスで、従業員が直接入力するため、担当者の業務負担を大きく削減できる。

サイボウズ株式会社『kintone』(業務アプリ開発)

誰でも簡単に業務アプリを構築できるクラウドサービス。散在するエクセルや煩雑なメール、紙の書類の山などの情報を一つにまとめられる。データ管理を一画面で集約・共有でき、チームの仕事の見える化も可能になる。

Chatwork株式会社『Chatwork』(コミュニケーション)

メール、電話、会議、訪問といった、仕事で必要なコミュニケーションの効率化を図るビジネスチャットサービス。社外メンバーが関わる仕事でもスムーズに情報共有でき、大企業や官公庁でも導入できるセキュリティの高さを誇る。

株式会社ネオキャリア『jinjer』(人事・勤怠管理)

勤怠管理、人事管理、給与計算、経費精算、ワークフロー、コンディション管理、労務管理、雇用契約といった人事・勤怠管理を、一つのクラウドサービスで一元管理できる。企業の課題に合わせ、必要なサービスを組み合わせて利用することも可能。

株式会社ブイキューブ『V-CUBE』(コミュニケーション)

オンライン株主総会や大規模ウェビナー開催、遠隔医療、ICT教育、災害対策など、あらゆるシーンで活用されている映像コミュニケーションサービス。テレワークや業務効率化といった課題の解決にも利用されている。

株式会社ペイミー『Payme』(給与即日払い)

給与の即日払いサービス。働いた分の給与をその日にもらえるため、従業員の福利厚生として活用される。人材確保が難しい今の時代、またコロナ禍という不安の中で、働く人の安心・安全のセーフティネットとして利用できる。

ワウテック株式会社『WowTalk』(コミュニケーション)

直感的な操作性で、大規模導入もスムーズに行えるビジネスチャット・社内SNSツール。スマートフォン、PC、タブレットなど端末を選ばずに利用できる。業務効率化やコスト削減、情報漏えい防止、災害時の統制を強みとしている。

バックオフィス改革がもたらすものは?

デジタルトランスフォーメーション(DX)のうねりは、バックオフィスにも確実にやってきている。

バックオフィス改革による恩恵は、単なる業務効率化にとどまらない。ITツールなどの活用により、本来力を注ぐべき業務へのリソースの振り分けが可能になり、社内におけるバックオフィスの存在意義向上をもたらすことも期待できる。その第一歩として、まずは現在の業務内容を見直し、ITツールを活用できる業務から積極的な導入を進めてみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人:Naoto Tonsho