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海外の省エネルギー指針に学ぶ!オフィスの省エネ・節電対策

エネルギー供給が不安定ななか、多くの国が省エネ対策を強化している。エネルギー消費大国であるイギリス・ドイツ・アメリカに注目し、政府の省エネ指針を考察するとともに、各国のオフィスの省エネ・節電対策を紹介する。

世界各国が省エネルギー対策を強化

気候変動や世界情勢の影響を受け、世界的にエネルギー供給の不安定な状況が続いている。2023年5月に開催されたG7広島サミットにおいても、気候・エネルギーに関する問題は重要課題となった。エネルギー消費大国を中心に、再生可能エネルギーへの転換の模索と並行して、「省エネルギー(以下、省エネ)」が即効性のある対策として強化されている。

デロイトトーマツグループの調査によると、公的機関における環境技術関連の予算は増加傾向にあり、世界32カ国および欧州委員会の2000年の予算が約100億ドルであったのに対し、2020年には約220億ドルと2倍以上に増加している。

予算の内訳は、大きい順に「省エネ」「再エネ」「原子力」「電力・エネルギー貯蔵」「水素・燃料電池」「その他」となっている。最も多くの予算を割り当てられているのが「省エネ」部門であり、省エネ対策がいかに重要な位置にあるのかがわかる。

各国の省エネ事情を知るうえで参考になるのが、アメリカの非営利組織・米国エネルギー効率経済評議会(ACEEE)が公表している「国際エネルギー効率スコアカード」だ。エネルギー消費の大きな25カ国を対象に、36の指標をもとに各国の省エネ効率を評価し比較している。2022年のランキングでは、フランスが最も省エネ効率の高い国と評価され、2位がイギリス、3位ドイツと続き、日本は7位、アメリカは10位という結果であった。

画像はACEEEのWebサイトより

世界では具体的にどのような省エネ指針が掲げられているのだろうか。本記事ではエネルギー消費大国であるイギリス・ドイツ・アメリカに注目し、各国政府の省エネ指針を考察するとともに、各国のオフィスで行われている省エネ・節電対策を紹介していきたい。

省エネに向けた海外政府の指針

1. イギリス政府の省エネ施策

イギリス政府は、商用の賃貸物件に建築環境基準を設けており、省エネ効率を示す「エネルギー性能証明書(Energy Performance Certificate:EPC)」を指標として、対象物件をAからGまで7段階でランク付けしている。これにより、Fランク以下に認定された建物については2023年4月以降、売却や賃貸が禁止されており、2030年以降の賃貸契約にはBランク以上の認証の提示が義務付けられる予定だ。

基準を満たさないオフィスビルは将来を見据えた改修が必要となるが、大掛かりな改修には高額のコストがかかる。そこでイギリス政府は、低コストで実施できるオフィスの省エネ・節電対策として、以下を提案している。

・夜間や営業時間外に、機器(照明、モニター、自動販売機、キッチン家電など)の電源を切る
・エアコンの温度を暖房時は19℃、冷房時は24℃以上に設定する
・ボイラーの設定温度を下げる
・現状のエネルギー使用量を評価する
・料金プランの見直しを行う
・窓、ドア、床の周りの隙間をブロックし、隙間風を防ぐ
・照明をLED電球に変える
・エネルギー支出をより細かく制御できるスマートメーターを設置する

このような取り組みは、コスト不要あるいは低コストで実施でき、従業員の協力を得て、毎日実行すれば、大きな効果が期待できる。イギリス政府によると、風力タービンの製造を手がけるMarlec Engineeringは、照明を蛍光灯からLEDに交換した結果、オフィスの明るさを変えることなく、照明コストの60%削減に成功したという。​​

​2. ドイツ政府の省エネ施策

ACEEEのスコアには「建築」「産業」「交通」「国家的取り組み」の4つのカテゴリーがあり、ドイツは総合順位は3位であるが、「国家的取り組み」の部門では1位となっている。
エネルギー効率の高い技術の導入拡大を狙い、融資制度や税額控除に多額の予算を投じていることが評価されたものだ。

具体的には、建物の改修、脱炭素化に貢献する冷暖房システムの導入、効率的な産業技術の導入、電気自動車購入などを支援している。建物については、20年以上前の2002年に策定された国家省エネ条例により、新築および大規模な改築を行う既存の建物に対してエネルギー性能要件が定められている。

ドイツが直面している課題として、ロシアからの天然ガスの供給停止によるエネルギー不足が挙げられる。ドイツは数十年にわたりロシアにとって最大のガス輸出市場であったため、ロシアのエネルギー供給から独立するための政策を推進しているのだ。

最近では2022年8月に閣議決定された省エネに向けた政令において、年間10ギガワット時(GWh)以上のエネルギーを消費する企業に対し、エネルギー高効率へ向けた対策の実施を義務化した。対策の具体例として、照明のLED電球への変更や圧縮空気システムの最適化などが挙げられている。

3. アメリカ政府の省エネ施策

アメリカでは、エネルギー省が「建築物エネルギー基準プログラム(Building Energy Codes Program:BECP)」を設け、各州の建築物エネルギー基準の策定を支援している。また、アメリカでは同国発祥のグリーンビルディング認証「Leadership in Energy & Environmental Design(LEED)」の取得も進んでいる。

LEEDは、評価対象により6つのプログラムに分かれており、12ある評価項目の合計点を算出して、「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」「標準認証」の4段階で評価するものだ。しかし、この「プラチナ」「ゴールド」を既存の建物が取得するのは容易ではない。

エネルギー省のエネルギー効率・再生可能エネルギー局(Energy Efficienfy & Renewable Energy:EERE)では、オフィスデザインの工夫により実現できる省エネ・節電対策として、以下の取り組みを推奨している

・オフィスの壁には明るい色、天井には反射率の高い資材を採用し、床は暗すぎない色を選択する
・建物の暖房、換気、空調、照明のゾーニング方法を検討する
・エネルギー効率の高い機器や制御装置を使用し、照明やプラグの負荷を最小限に抑える
・従業員が仕事に集中できるよう、自動制御システムを導入する​​

海外オフィスの省エネ・節電への取り組み

ここからは、実際に各国の企業がオフィスで取り組んでいる省エネ・節電対策について紹介していきたい。

1. Bloomberg​​ ヨーロッパ本部(イギリス/ロンドン)

世界の金融・ビジネス情報を提供するBloombergは、2017年にロンドン市内に建てた2つのビルにヨーロッパ本部を置いている。このビルは竣工当時、サステナブルな建物として注目を集めた。同社によれば、環境対策により同ビルでは、一般的なオフィスビルと比較してエネルギー消費とそれに伴う CO₂ 排出量の 35% 削減を実現したという。

画像はBloombergのWebサイトより

 

この省エネに貢献しているのが、冷暖房、照明、音響の機能を集約させた「天井パネル」だ。約50万個のLEDライトが使用され、一般的な照明に比べて約40%の省エネを達成した。さらに革新的なのは、CO2スマートセンサーを使用して、人の数や時間帯に応じて、自動で空気を入れ替える換気システムを導入していることだ。

画像は建築設計を手掛けたFoster+PartnersのWebサイトより

また、オフィスの中心に6つのフロアにまたがるらせん状のスロープを配置し、徒歩での移動を促している。省エネ・節電への対策に加え、従業員のウェルビーイングにつながる点でも先進的なオフィス設計といえるだろう。

2. ARAG Tower​​(ドイツ/デュッセルドルフ)

ドイツの大手保険会社ARAGは、デュッセルドルフ本部として、高さ約125メートル、32階建てのタワービルを建設した。このビルの構想は1990年代にスタートし、建物が完成したのは2001年2月。完成してからすでに20年以上が経過している。


画像は同ビルの建築設計を担当したFoster+Partners社のWebサイトより

このビルの特徴は、高性能な二重ガラスにある。高層ビルでありながら内側の窓は開閉可能となっており、建物内に自然の風を呼び込める。そして、もうひとつの特徴は、省エネとCO2排出量削減について高い基準を満たしていることだ。昼間は自然光を最大限活用し、夜間は蓄熱によるパッシブ空調を利用するため、エネルギーをほとんど必要としないというから驚きだ。

3. SRG Partnership ポートランドオフィス(アメリカ/オレゴン州)

アメリカの建築設計会社SRG Partnershipは、かつてオレゴニアン新聞の印刷所であった古いビルをポートランドオフィスとして使用している。1948年にポートランドの建築家が設計したビルを同社が2017年に改装したもので、当時の印刷機の一部が天井の梁として生かされている。

画像はSRG PartnershipのWebサイトより

このオフィスの特徴は、壁面いっぱいに設けられた大きな窓だ。この窓の近くにデスクを集約させることで、執務エリアにしっかりと自然光が届くようデザインされている。こうした自然光の活用によって、標準的な建物と比べて約30%以上の省エネを実現した。さらに、照明をLEDに変えたことで約50%の負荷削減に成功している。

ほかにも、昼光センサーや自動制御タイマー、調光設定などを併用している。建物の躯体を変えることなく、内装設備やレイアウトの工夫のみで、効果的な省エネ・節電を実現させた好例といえるだろう。

既存ビルの省エネ・節電対策に期待

省エネ対策を推進する国においては、今後も商業用建築物に対する環境基準が厳格化していくことが考えられる。特に既存の建物の省エネ・環境性能の向上が共通の課題といえるだろう。

本記事で紹介した事例から、オフィスビルは建設時に高い環境性能を満たしておくことで、時代を経ても長く活用できることがわかる。また、既存のビルや築年数を経たビルであっても、最新技術を用いた省エネ設備を導入することで省エネ・節電が可能となる。

オフィスの改修が難しい場合には、レイアウトの工夫、自然光の活用、従業員の意識改革に取り組むことでも、省エネ・節電対策の実現につながるだろう。まずはできることから始めてみることが重要だ。

この記事を書いた人:Kaori Isogawa