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目的は伝えること!絵が苦手でもできるグラレコ実践のポイントを解説

グラフィックレコーディング(グラレコ)の目的は絵を描くことではなく、考えを可視化して伝えることだ。本記事では実践のポイントやおすすめの講座、作成サービスなどを紹介する。

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「グラレコ」とは何か?

新しい議事録のかたちとして近年、注目を集めている「グラフィックレコーディング(通称 グラレコ)」。会議や対話の内容を、イラストや図、文字を用いてリアルタイムにビジュアル化する手法のことで、アイデアを他者と共有したり、生産的な議論をしたりするために有効な手段として、取り入れる企業が増え始めている。

例えば、出口が見えず停滞していた会議でも、グラフィックレコーディングを用いて議論の過程を整理することで、どこで議論が行き詰まったかが明らかになり、前進することがある。また、職種や組織が異なるメンバーが話し合うときには、話題をビジュアル化することで共通認識が生まれ、コラボレーションが円滑になることも期待できる。

グラレコを行うことのメリット

会議にグラフィックレコーディングを取り入れるには、自ら実践する方法と、作成サービスを利用する方法がある。サービスを利用しても前述したような効果は期待できるが、自ら手を動かすことでもたらされるメリットも大きい。

グラフィックレコーディングの普及活動や多様な働き方を応援するコミュニティ「キャリアバラエティ」の運営を手がける岸智子氏(福岡女子大学社会人学び直しプログラムコーディネーター)は、週刊医学界新聞に連載した「グラフィックレコーディングのはじめかた」の中で、グラレコを用いることにより「記録、共有、振り返り、思考の整理の4つのことが可能になる」と分析している。

特に、最後の「思考の整理」について、グラフィックレコーディングは自分の思考や行動を客観的にとらえる「メタ認知」を活性化できると指摘。また、自分の頭の中の考えを表に出すことを「思考の外化」、客観的に眺めて再度自分の中に取り入れることを「思考の内化」といい、同手法は思考の外化と内化を繰り返すことで、自分の考えや思いが明確になっていくと説明している。

また、『はじめてのグラフィックレコーディング』(翔泳社)の著者であり、メディアプラットフォーム「note」でグラレコやビジュアルシンキングに関する連載を行う久保田麻美氏も、「描いた絵以上に、描くという過程そのものが重要」と言及している。描きながら考えるビジュアルシンキングのプロセス自体が、思考力・創造力の向上、コミュニケーションの活性化につながり、イノベーションが求められるビジネスシーンに有効であることがわかる。

グラレコ実践時のポイント

絵が上手でなければグラフィックレコーディングは難しいのではないか。そう思った人も多いかもしれない。ここでは、グラレコを実践する際のポイントを紹介する。

1 コミュニケーションを円滑にする「手段」と捉える

グラフィックレコーディングは、時間をかけて上手な絵や図を描くことが目的ではない。ビジュアル化することによって、相手に自分の考えをわかりやすく伝えることができればいいのだ。グラレコはあくまでコミュニケーションの手段であり、作成自体を目的にすることがないよう留意したい。

2「置き換え」で絵心を問わず取り組める

先に述べたように、絵のクオリティを追求することはグラフィックレコーディングの本質ではない。上手な絵を描くことではなく、伝えたいことを簡単な表現に置き換えることが重要となる。そのためには、細かいディテールにとらわれず、対象物をシンプルな図形に置き換えることが望ましい。

デザイナーである久保田氏は、著書『はじめてのグラフィックレコーディング』の中で、丸、三角、四角の図形で、意外に多くのものを簡単に表現できると言及している。同書で紹介されている、身の回りのものをこの3つの図形の組み合わせで表してみるミニワークは、シンプルな表現への置き換えを身につけるのに役立つだろう。

3「伝わる言葉選び」に数字やデータをフル活用

グラフィックレコーディングでは、文字もグラフィックの一要素として使われる。これを意外に思う人もいるかもしれないが、絵はイメージを伝えるもの、図は複雑な情報を構造化して整理するためのものであり、文字は物事の意味を誤りなく伝えるものとして必須の要素なのだ。

ただ、会議などで飛び交う話し言葉をそのまま書き出すと文章が長くなり、描くのにも読むのにも時間がかかってしまう。言葉をグラフィックの一要素として扱うときは、数字やデータなどを活用することで、ひと目で伝わるものになるはずだ。

グラレコの実践に役立つ講座とアプリ

次に、これからグラフィックレコーディングに取り組みたいと考えるワーカーにおすすめの講座とアプリを紹介したい。

1 ビジネス向けオンライングラレコ講座を提供「Schoo」

参加型の生放送授業と8000本以上の録画授業により、幅広いジャンルの学びを提供している「Schoo(スクー)」。同サービスの中には「グラフィックレコーディング」のカテゴリーがあり、現在、全11授業が公開中だ。

画像はSchooのWebサイトより

特に人気の授業は「ポジティブな対話を引き出すグラレコトレーニング」や「グラフィックレコーディングの教科書 基礎編」、「Schooの授業で学びを深めるグラレコトレーニング」で、それぞれパッケージ化された内容を数時間で習得することができる。個人向けプランと法人向けプランがあるため、所属企業が福利厚生として提供している場合は社費で学ぶことが可能だ。

(2)初心者向けグラレコ作成に便利なアプリ「GoodNotes」

手書きノートアプリ「GoodNotes」。このアプリをiPadで使用すると、ノートにペンでメモをするそのままの感覚で、グラフィックレコーディングを行うことができる。シンプルなつくりで直感的に操作でき、初心者も使いやすいのが特徴だ。書いた文字の消去や移動、サイズやカラーの変更などを自在に行うことができ、手書きで行うグラフィックレコーディングの限界を超えられる。

画像はMac App StoreプレビューのWebサイトより

また、グラフィックレコーディングをデジタルで作成すると、すぐにPDFなどに書き出せるため、関係者との共有がしやすい。レポートやプレゼン資料に貼り付けたり、SNSに掲載してシェアしたりする際にも扱いやすいだろう。

グラレコ作成サービスを提供する海外・国内企業

グラフィックレコーディングの作成サービスとして提供する企業も出てきている。海外と国内の企業を紹介する。

(1)【海外】企業をビジュアルで支援するプロ集団「ImageThink」

海外ではグローバル企業やSaaS企業を中心に、外部のグラフィックレコーディングのプロに仕事を依頼する企業が目立つ。例えば、アメリカ・ニューヨークを拠点とするグラフィックレコーディングのプロ集団・ImageThinkは、GoogleやNASA、Johnson & Johnson、LEGOといった大企業をクライアントとしている。

画像はImageThinkのWebサイトより

会議やイベントの内容を文字とビジュアルにリアルタイムに変換するサービスを提供している同社。デザイン思考や視覚理論などのスキルを活用し、複雑な概念を魅力的で消化しやすいビジュアルに落とし込むことで、クライアントのコラボレーションやクリエイティブを支援している。

また、グラフィックファシリテーションにも力を入れ、会議やブレスト、戦略プランの策定などの進行に対応。目的を明確にするためのコンサルテーションやアジェンダ作成、グラフィックレコーディングはもちろん、創造性を刺激するワークなども手掛け、多くの企業から評価されている。

(2)【国内】富士通グループ社員の副業からスタート「グラフィックカタリスト・ビオトープ」

日本国内でも、個人や集団で企業からのグラフィックレコーディングの依頼に応える企業が増え始めている。グラフィックカタリスト・ビオトープは名称に「Catalyst=触媒」とあるように、「グラフィックレコーディングを手段として用い『場』をデザインする」役割までを担うことを目指すチームだ。

画像はグラフィックカタリスト・ビオトープのWebサイトより

2017年に富士通グループの社員で結成された同集団。現在は社内外で活動し、イベントでのグラフィックレコーディングから、各種研修、ワークショップといった企業からの相談にオーダーメイドで応えている。例えば、イベントのグラフィックレコーディングを手掛ける場合には、当日だけでなくイベントの前後も含めた設計や、ただ描くだけでなく参加者の主体性を引き出して場に巻き込んでいく仕掛けをつくるところまで行うのが同集団の特徴だ。

(3)Z世代の感性をオフィスに採用できる「カラフるサービス」(株式会社dot)

大学の自主ゼミから始まり、「自分たちの才能をひきだす」をモットーに、学生から生まれたアイデアを事業化するプロジェクトなどを手掛ける学生チーム・dot。Z世代ならではの感性を活かした企画を展開する中で、グラフィックレコーディングサービス「カラフるサービス」を提供している。

画像は株式会社dotのWebサイトより

同サービスのグラフィックレコーディングは、チーム単位で行うのが特色。内容の聞き逃しをなくし、リアルタイムの情報をより高いクオリティで完成させるためだという。また、実際にグラフィックレコーディングを実施するまでにオンラインあるいはオフラインでの打ち合わせを行うため、彼らとのコミュニケーションにより、若者世代の視座を知ることができるのも企業としてのメリットだ。

グラレコはビジネスの新様式となるか?

グラフィックレコーディングへの関心が高まっている背景に、Web会議やウェビナーの増加がある。オフラインと比べてオンラインの話し合いでは、議論が白熱しにくい、意思疎通がはかりにくいと感じたことがある人は少なくないはずだ。そのような場合、皆で共有することを目指し、話し合いをビジュアル化するグラフィックレコーディングは大いに貢献できることだろう。

オンラインホワイトボードの活用メリットについては本メディアでも取り上げたが、このような共同編集ツールを活用すれば、Web会議やウェビナーの参加者全員でグラフィックレコーディングを行うことも可能になる。今後、同手法がビジネスシーンをいかに発展させていくかに着目していきたい。

この記事を書いた人:Rui Minamoto

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