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コミュニティのハブを担うコワーキングスペース | 米国事例に見る新たな可能性

コロナ禍で動きは鈍化しているが、働き方の多様化などにより「コワーキングスペース」の再成長が予想されている。今回はコミュニティのハブとしての機能に注目し、米国の特徴的な事例を紹介する。

コワーキングスペースの最新動向

コワーキングスペースは、2005年に起業家が多く集まるサンフランシスコのシリコンバレーで生まれ、ICTの発展や働き方の多様化を背景に世界各国で拡大した。コワーキングスペース向けのソフトウェア開発を行うandcards社によると、2020年には世界中で1688のコワーキングスペースがオープンすると予測されていたが、パンデミックの影響で業界の動きは鈍化しているとのこと。その一方で、テレワークやワーケーションが推進され、オフィスのコスト削減を望む企業も増えていることから、再成長を遂げることが予想されている。

また、「コワーキング業界は数ではなく、質を重視する段階にシフトしている」という。特にコワーキングスペースにおける「コミュニティの形成」は、コロナ危機からの回復をめざす都市や地方の活性化を促し、新たなネットワークを構築するために不可欠な要素と考えられる。

同社は、これからのコワーキングスペースに求められるものとして、13のキーワードをあげている。テクノロジーとワーカーの働き方をリンクさせる「スーパーフレックスなオフィス」や「環境に優しい空間づくり」など、WORKTECHでも度々取り上げられてきた内容も見られる。今回はそのなかから「多様なコミュニティとニッチに特化したスペース」というキーワードに着目し、コミュニティのハブとして機能する米国のコワーキングスペース事例を紹介する。

米国の事例に見る、コワーキングスペースの新たな役割

ダイバーシティやインクルージョンへの理解が進む米国のコワーキングスペースでは、何に特化し、どのようしてコミュニティの形成を支援しているのだろうか。具体的な取り組みを以下に紹介する。

1.チャイルドケアを提供し、働く親のワークライフバランスをサポートする「Big and Tiny(ビッグ・アンド・タイニー)」

2018年にカリフォルニア州・サンタモニカで開業したBig and Tinyは、質の高いチャイルドケアと刺激的なコワーキングスペースを統合したサービスを提供している。現在、ハリウッドにも展開しており、近々ニューヨークに新たな施設がオープンする予定だ。

働く親のワークライフバランスを尊重するため、コワーキングスペースは、子どもの近くにいながら中断することなく仕事を進めたり、同じような考えを持つ親や起業家と出会ったりできるよう設計されている。

画像はBig and TinyのWebサイトより

チャイルドケアは、幼児教育の資格を持ち、子どもの発達や指導法を深く理解した教育者が担当。乳児~幼児を対象に、年齢に応じた体験学習、創造性、コミュニケーションを重視した教育プログラムを提供している。音楽やアート、料理、ガーデニング、運動、ヨガといった多彩な活動によりクリエイティブ表現を養うほか、異なる言語や文化を体験したり、持続可能性や環境配慮の重要性を伝えたりと、単なるチャイルドケアではなく質の高い教育を実践している点に特徴がある。

「親の仕事場」と「子どもの学び場・遊び場」を統合した施設内は、機能別にゾーニングされており、エントランスから一番離れたエリアにコワーキングスペースが配置されている。コワーキングスペースには、充実したアメニティに加え、コミュニティテーブル、防音仕様の会議室や電話ブース、自然を眺めながら作業できるガーデンオフィスなどを整備。また、定期的なコミュニティイベントやスピーカーを招いたトークイベントが開催され、親同士のコミュニティ形成や情報交換の場にもなっている。

画像はBig and TinyのWebサイトより

2.あらゆる夢の実現を支援。女性による女性のためのコワーキングスペース「SheSpace(シー・スペース)」

2020年にテキサス州ヒューストンにオープンしたSheSpaceは、女性に特化したコワーキングスペースだ。女性がキャリアとプライベートの両方の目標を達成できるよう、その道筋づくりを支援している。

アーティストや経営者など、異なる仕事やライフスタイル、考え方を持つ女性が集まり、向上心を高め合い、夢に向けて前進するための場づくりを目的とする。その想いは開設準備の段階から貫かれており、コワーキングスペースの建設からマーケティング、テックやデザインに至るまで、関わるスタッフはすべて女性で構成されたという。

女性向けのコワーキングスペースと言えば、以前紹介したThe Wingのように温かみのある落ち着いた色調の空間が多い。一方、SheSpaceはビビッドかつカラフルで、大胆な色づかいが特徴的だ。壁には「YES SHE CAN!」や「EMPOWER THE WOMEN AROUND YOU(世界の女性をエンパワーする)」といった力強いメッセージがあり、女性の可能性を信じて応援する姿勢が伝わってくる。

画像はSheSpaceのWebサイトより

SheSpaceが一線を画すのは、女性のキャリアをバックアップする教育プログラムやネットワーク形成に力を入れている点だ。メンタープログラムでは、メンター(指導者)とメンティ(被指導者)のマッチングを行い、個人としての成長とビジネスにおける成長を支援している。また、ヒューストンやその周辺地域で活動する青少年団体と提携し、次世代を担う女子向けのイベントも開催している。

このほか、SheSpaceにはポッドキャストのスタジオが併設されており、防音機能はもちろん、高品質のヘッドフォンやマイク、サウンドボードなど録音に必要なデバイスとツールが装備されている。デスクを必要としない人向けに、「SheConnects」という月30ドルの手軽な会員プランも用意されており、ポッドキャストスタジオをレンタルできるほか、すべてのイベントへの参加が可能となる。

画像はSheSpaceのWebサイトより

コロナ禍にオープンしたSheSpaceは、感染防止対策を考慮したレイアウトを採用するとともに、オンラインイベントを行うなど積極的な発信を続けている。女性の社会参画を後押しする場としての役割も期待されており、今年はさらに敷地を拡張し、オフィススペースに加えてイベントエリアなども追加する予定だ。

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3.屋内外のプレイパークとドッグ・デイケアを備えた「Work & Woof(ワーク・アンド・ウーフ)」

テキサス州オースティンにあるWork & Woofは、コワーキングスペースと屋内外のプレイパーク、犬用のデイケアが融合した、ペットと過ごせるワークスペースだ。 約1400平方メートルの作業スペース、3つのプライベートオフィス、18のオープンデスクに加え、犬の遊び場やショップ、バスルームを備えている。「You Work, They Play」をモットーに、ペットと飼い主のためのワンストップショップをめざして2018年にオープンした。

画像はWork & WoofのWebサイトより

飼い主が仕事をしているあいだ、ペットは施設内で自由に過ごす。ペットシッターが見守る屋内外のプレイパークで遊ぶほか、専門トレーナーによるしつけや個別のアクティビティを受けることもできる。天候に左右されず、安全な空間でペットがリラックスして過ごすことで、飼い主も安心して仕事ができるという。

コワーキングスペースには、コミューナルテーブル(相席テーブル)やプライベートオフィス、電話ブース、キッチンなどが装備されており、35ドルのデイパスでも利用できる。また、犬用のデンタルケアサービスやペットフードについての教育イベント、様々なコスチュームが用意されたハロウィン仮想撮影会など、ペットと飼い主の生活を豊かにするイベントも定期的に開催している。

近年の多様な働き方の広がりにより、日本でもまだ少数ではあるが、ペットの同伴出勤を認める企業やコワーキングスペース、託犬所を完備したオフィスなどが見られるようになってきた。ペットと同じ空間で働きたいと願う飼い主にはもちろん、飼いたくても飼えない環境にあるワーカーにとっても期待の高まるワークスペース・トレンドだろう。また、ペットを介したワーカー同士のコミュニケーションの創出や、ペットと同じ空間で働くことにより得られるセラピー効果などにも期待が寄せられる。

コミュニティの内と外を包括する、これからのコワーキングスペース

これまでも、特定のターゲットに向けたコワーキングスペースは国内外を問わず存在していた。それに加え、これからのコワーキングスペースに求められるのは、ユーザー間のみの循環ではなく、外部への発信やネットワーク形成によるコミュニティのハブとしての機能である。

パンデミックにより、多くのコミュニティとそれを取り巻く都市や地方が弱体化している。この現状を打破するためのブースターとなり得るのが、コミュニティのハブとなるコワーキングスペースの存在だと言えるだろう。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri