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地域の素材・エネルギー・人材を活用!地産地消型オフィスの最新事例

近年、オフィスにも「地産地消」の概念が波及している。地元木材の使用、伝統工芸との融合など、地産地消型オフィスの事例を紹介しながら、そのメリットを考察する。

さまざまな分野に広がる「地産地消」

地産地消とは、地元で生産されたものを地元で消費することを指す。主に食材に対して使用されてきた言葉で、消費者にとっては新鮮な食材が入手でき、生産者にとっては収入が増え、その結果として地域経済の活性化につながったり、輸送による環境負荷が低減されるなど、多くのメリットがある。

この地産地消の概念が近年、食以外の領域にも広がっている。たとえば建築業界では、国レベルの地産地消として、国産の木材(地域材)を使用した建築物が注目されている。地域材を使用することで、森林資源の保護や地方経済の活性化につながるほか、輸入木材よりも環境負荷が低いと考えられるからだ。

また、電力業界では、地域で発電した電力を地域で消費する「エネルギーの地産地消」という言葉が使われるようになっている。これは東日本大震災の際に集中型のエネルギーシステムの脆弱性が顕在化したことにより起こった動きだ。地域の特性に応じた再生可能エネルギーなどを活用することで、エネルギー供給のリスク分散やCO2の排出削減が期待されている。

そのほか、地域の人材がその土地で活躍する「人材の地産地消」という考え方もある。これまで地域外に流出していた優秀な人材を地域に留める工夫をすることで、地域の活性化や課題解決につながるというものだ。

近年、この地産地消の概念が企業のオフィスにも波及してきている。地産地消型のオフィスとはどのようなものなのか。またそのメリットとは何か。国内4社の事例を通して考察したい。

地産地消型オフィスの最新事例

1. 地産品を取り入れ、地域と共に発展する姿勢を表現した「GMOインターネットグループ株式会社」

IT大手のGMOインターネットグループは、福岡県北九州市にあるITエンジニアの拠点「GMO kitaQ」を2022年2月に拡張移転した。このオフィスの特徴は、「地域と共に発展し、この地が豊かにもなる“循環型社会”を目指す」という同社の思いを反映したデザインにある。

まずインテリアデザインに、北九州市で幼少期を過ごしたデザイナーの森田恭通氏を起用。装飾品として、北九州の地産品である「合馬の竹」を使用した照明や、企業カラーのブルーを織り交ぜた「小倉織」が随所に取り入れられた。


合馬の竹や小倉織を新たな解釈でデザインに融合し、洗練された雰囲気に仕上げている

企業カラーのブルーを基調とした小倉織が大胆に取り入れられたキッチン(画像はすべてGMOインターネットグループ株式会社のプレスリリースより)

また、トイレのガラスには、北九州市在住のイラストレーター・画家の黒田征太郎氏によるアートを使用したという。まさに地域性を生かしたオフィスであり、約30名の社員が約170名に増員するなど、地域の雇用創出にも貢献している。

大手企業の拠点開設は、地域の若者へのインパクトも大きく、地域活性化にダイレクトにつながる。まさに地産地消型オフィスのモデルケースといえるだろう。

2. 地産地消でエシカルオフィスを実現した「ダイアモンドヘッド株式会社」

アパレルに特化したECシステム開発等を手掛けるダイアモンドヘッド。同社の札幌本社は、「エシカル(※)」をテーマとしたオフィスデザインとなってる。

エントランスの床には地産の素材である札幌軟石を使用。リフレッシュスペースには北海道産のメジロカバをはじめ、ヒノキやクリといった、サステナブルな素材である木材を使用した。会議室にはアップサイクルの考え方を採用し、地域の廃材も使用しているという。


床に札幌軟石を使用したエントランス

オフィス内は北海道産の木材を多用したデザインとなっている(画像はすべてダイアモンドヘッド株式会社のWebサイトより)

自然豊かな北海道の素材を多用した同オフィスは、「エシカルオフィス」としてニュース番組にも取り上げられた。資材で地産地消を実現しているオフィスは、自ずとエシカルオフィスになることを提示している。

同社がビジネスを行うアパレル業界では、衣服の大量廃棄の問題などから、エシカルな取り組みに対する気運が高まっている。アパレル関連企業が、エシカルな意識をオフィスに体現することは、CSR(企業の社会的責任)を果たすことにもつながるだろう。

※エシカル:倫理的、道徳的といった意味をもつ言葉。人や社会、地球環境に配慮した消費行動を「エシカル消費」と呼ぶ。

3. エネルギーの地産地消でオープンイノベーションを創出した「株式会社NTTデータグループ」

世界50ヵ国以上でITサービスを提供するNTTデータグループ。同社では、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、オフィスで再生可能エネルギーの自家発電を行う「エネルギーの地産地消」への取り組みを始めている。

これまでもデータセンターで再生可能エネルギーの自家発電を推進してきたが、都心のデータセンターでの太陽光発電はパネルの設置が難しく、導入が進んでいなかった。そこで、都心のビルにも設置しやすいフィルム型のペロブスカイト太陽電池をNTT品川TWINSデータ棟の外壁に設置。同太陽電池を開発した積水化学工業株式会社と共同で、発電効率や安全性についての実証実験を行っている。建物の外壁面に設置した実証実験としては日本初の事例だという。


軽量で柔軟性が高い特徴をもつペロブスカイト太陽電池の壁面設置イメージ(画像は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構のWebサイトより)

実証実験の結果を受けて、将来的には全国のデータセンターとオフィスへ導入を拡大する考えだ。

同社は、既存建築物の外壁への再生可能エネルギーの導入手法を確立することで、自社だけでなく、ストックされた都心部の既存建築物の脱炭素化に貢献することを目指している。地産地消がオープンイノベーションの場にも成り得ることを示す先進事例だ。

4. 地域の食材を活用し‟三方よし”のサービスを提供する「I&O 八丈島」

最後に、サテライトオフィスでの地産地消の事例を紹介する。「I&O 八丈島」は、東京都八丈島にある宿泊機能付きの会員制サテライトオフィスだ。Island and office株式会社が法人向けに提供しているもので、八丈島の自然や文化に触れながら仕事をすることで、新しいアイデアの創出や強い組織づくりにつなげることをねらいとしている。


画像はIsland and office株式会社のWebサイトより

同施設では会員企業向けに、地元の食材を使用したケータリングサービスを提供している。八丈島の野草や素潜りで採ったシーフードを使った料理をはじめ、この地でしか味わうことができないメニューを提供している地元のカフェと連携した取り組みだ。また、バーベキュープランも用意しており、同カフェと関わりのある生産者から仕入れた食材を提供している。


八丈島の食材を活かした地産地消のケータリングサービス(画像はIsland and office株式会社のプレスリリースより)

サテライトオフィスは、地域特性の強い地域に設けられることが多いものだ。そこで地産地消の食事を提供することで、利用者にとっては地元の食材を味わえるメリットがあり、地域にとっては地域経済が潤うメリットがある。もちろん、地域と利用者をつなぐ施設にとっても、地域に根ざしたサービス特色になるため、三方よしの施策になる。

地産地消はSDGsへの取り組みにも

地産地消はSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献する取り組みでもある。まず、ゴール14「海の豊かさを守ろう」とゴール15「陸の豊かさも守ろう」に直接的に関わるものであり、輸送エネルギーの低減によりゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」やゴール13「気候変動に具体的な対策を」にもつながるものと考えられる。

また、地域で活用されていなかった木材や廃材を活かすことは、ゴール12「つくる責任、つかう責任」にも関係する。エネルギーの地産地消を推進するNTTデータグループの取り組みは、ゴール12「産業と技術革新の基盤をつくろう」に当たるであろうし、地元のカフェや生産者から食材を調達するI&O 八丈島の取り組みは、食料生産を持続可能なものとする意味でゴール2「飢餓をゼロに」に貢献するものだ。

ステークホルダーに対し企業の顔ともなるオフィスで、地産地消を実践する意義は大きい。地産地消型オフィスは国内だけでなく、世界でも注目を集めるトレンドであり、今後は海外の動向も紹介していきたい。

この記事を書いた人:Rui Minamoto