仕事のやりがいは自分次第。自ら仕事を形づくる「ジョブ・クラフティング」という考え方
[March 28, 2023] BY Fusako Hirabayashi
仕事のやりがいは自らつくっていく時代
2022年、「ゆるい大企業」や「ホワイト過ぎる職場」に失望して辞める若手社員が増えているという記事が出て話題になった。20年前に比べ残業時間や仕事の負荷が軽減され、上司や先輩からの叱責も減るなど職場環境が改善されてきた半面、「やりがいが感じられない」「社外で通用しなくなるのでは」といった不安が大きくなっているというのだ。
実際に、エン・ジャパン株式会社が2020年に実施したアンケート調査(有効回答数11400名)では、転職を考え始めたきっかけとして「やりがい・達成感を感じない」が「給与が低い」や「人間関係が悪い」を上回り1位になっている。
(画像はエン・ジャパン株式会社のWebサイトより)
一方で、「VUCA(不確実性)」と呼ばれる時代を迎え、働き方も多様化するなかで、企業が求めるのは「自律型人材」だと言われている。2020年に株式会社グロービスが人事担当者200人を対象に実施した調査では、約7割が「自律型人材の必要性は増す」と回答している。同じく2020年に株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実施した、社員数300名以上の企業に勤める正社員435人を対象とした調査でも、8割以上が「会社から『自律』を期待されている」と答えている。
自律した働き方をするためには、仕事のやりがいも「与えられるもの」として享受するのではなく、「自らつくっていく」という考え方が必要だ。そこで注目されているのが、仕事に対する考え方や行動を主体的に変更する「ジョブ・クラフティング」という手法である。
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やらされ感をやりがいに変える「ジョブ・クラフティング」とは
ジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングは、2001年にイェール大学のWRZESNIEWSKI氏とミシガン大学のDUTTON氏によって提唱された概念であり、「個人が仕事のタスク境界もしくは関係境界について行う物理的・認知的変化」と定義されている。かみ砕いて言えば、個人が自分の仕事の範囲や他者との関係性を自ら調整したり、捉え方を変えたりすることによって、自分なりの仕事のやり方や仕事観をつくりあげることである。
3種類のクラフティング
ジョブ・クラフティングの「クラフティング」という言葉には、材料に手を加えて自分の手触りのある物をつくるというニュアンスが込められている。手を加える対象によって、タスク、関係性、認知の3つのクラフティングがある。
1. タスククラフティング
仕事の内容ややり方、手順などを変更したり、工夫を加えたりすること。スケジュールやタスクの管理方法を工夫するといったことから、プロジェクトを完成させるために自分の仕事に関連したタスクも手がけることまで、さまざまなレベルがある。
2. 関係性クラフティング
仕事をするうえでの他者との交流について、その範囲や頻度、質などを変えること。具体的な例としては、別の部署との交流の機会を設けたり、同僚と積極的に情報交換を行ったりすることがあげられる。
3. 認知クラフティング
個々のタスクや仕事全体についての意味づけを変えること。例えば、目の前の仕事が自分にとってどんな意味があるのかを考えてみたり、他者や社会に与える影響や意義について考えてみたりする試み。看護師が自分の仕事を、質の高い技術的なケアを提供することではなく、患者を支援しトータルにケアすることだと考えるようになることが一例である。
なお近年は、この3つに、スキルを磨く努力を指す「スキルクラフティング」を追加する流れもみられる。
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「ジョブ・デザイン」との違い
ジョブ・クラフティングと対比される概念として、「ジョブ・デザイン」がある。どちらも従業員のやりがい創出に関わるものだが、その主体が異なる。ジョブ・デザインは組織が主体であり、経営者や管理職が従業員に対し、働きがいのある仕事を設計したり、割り振ったりすることを指す。一方でジョブ・クラフティングは主体が従業員であり、「自分の仕事をどう捉えるか」という主観的側面にも着目することが特徴である。
ジョブ・クラフティングの効果
海外の複数の研究から3つのクラフティング、すなわちタスク、関係性、認知の主体的な変更が、ウェルビーイング、ワークエンゲイジメント、コーリング(仕事に目的や意義を感じている状態)にプラスの影響を与えることが明らかになっている。
国内では、慶應義塾大学総合政策学部の島津明人教授が「ジョブ・クラフティング研修プログラム」を開発しており、その研修を受けた後にワークエンゲイジメントが向上し、心理的ストレス反応が低下していたことを報告している。
(画像は「ジョブ・クラフティング研修プログラム 実施マニュアル」より)
また、東京大学社会科学研究所の池田めぐみ助教らの研究では、タスククラフティングが業務能力向上と協働スキルの向上に、関係性クラフティングは協働スキルの向上とタフネス向上にプラスの影響を与えることが確認されている。
ジョブ・クラフティングを活発化させる方法
ここまで、ジョブ・クラフティングはやりがいの創出と自律的な働き方につながることを紹介してきた。では、ジョブ・クラフティングを活発にするために企業はどのような施策を行えばよいのだろうか。
ジョブ・クラフティングの提唱者は、ジョブ・クラフティングへの動機として、「仕事のコントロールに対する欲求」「ポジティブな自己評価に対する欲求」「他人とのつながりに対する欲求」の3つをあげている。こうした欲求が自覚されたワーカーが、さらに仕事の自由度が高く、裁量が大きい場合に、ジョブ・クラフティングの機会を得やすいという。
この欲求の明確化と、ジョブ・クラフティングの機会創出を行い、日常的にジョブ・クラフティングを行えるように促すのが、先にあげた島津明人教授の「ジョブ・クラフティング研修プログラム」である。
その中身は、2回の集合研修と研修後のメールフォローからなる。2回の集合研修の間に約1カ月間のインターバルをおく全6週間のプログラムだ。
(画像は「ジョブ・クラフティング研修プログラム 実施マニュアル」より)
1回目の集合研修では、ジョブ・クラフティングの基礎知識や具体的な事例紹介の後、事例を用いたワークを通じて理解を深める。続いて、日常業務の中で自分ができるジョブ・クラフティングを考察し、実施計画をカードにまとめて終了となる。
研修1回目のプログラム
(画像は「ジョブ・クラフティング研修プログラム 実施マニュアル」より)
その後、1カ月はジョブ・クラフティング計画の実行期間となり、メールで研修内容のリマインドや、実行における個別相談を行い、実施をサポートする。
2回目の集合研修では、1カ月間の実施状況を振り返り、気づきや今後に生かすポイントを考えるワークを行う。それを踏まえて改善版ジョブ・クラフティング計画を立て、カードに記入してもらう。
研修2回目のプログラム
(画像は「ジョブ・クラフティング研修プログラム 実施マニュアル」より)
2回目の研修終了後、約2週間の間に再度、メールを送付。参加者のジョブ・クラフティング実行を促すリマインドを行い、すでに計画を実行している参加者に対しては計画の振り返りを促してプログラム終了となる。
なお、ジョブ・クラフティングを促すためには、業務プロセスに対して上司がフィードバックを行うことが有効と考えられている。具体的には、先の池田めぐみ助教らの研究において、「部下の行動に対して、その意図を尋ねる」「部下に指摘する際、理由も一緒に説明する」「部下がやりたい仕事に対して、どのようにやると良いのかを助言する」の3つがプラスの影響を与えることが示されている。
誰もが「ジョブ・クラフター」として働く未来へ
ジョブ・クラフティングという概念の背後には、「誰もが自分なりに仕事をつくりあげる力を持つ『ジョブ・クラフター』である」という考え方がある。
ジョブ・クラフティングに相当する行為は、多くのワーカーが日常業務の中で行っていると思われるが、自らを「ジョブ・クラフター」であると認識することでその促進とやりがいの創出が期待できる。企業には、従業員を「ジョブ・クラフター」として扱い、ジョブ・クラフティングが可能になる環境やカルチャーを醸成することが求められる。
ジョブ・クラフティングという考え方を活用することで、企業と従業員がともに生き生きと成長する未来に期待したい。
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この記事を書いた人
Fusako Hirabayashi IT系大手企業で研究開発、新規事業立ち上げなどの業務に携わりながら働き方とそれを支える環境に関心を持ち、裁量労働制の導入検討委員を担当する。宅地建物取引士資格を取得し、不動産仲介業務にも従事。現在は、フリーランスのライターとして、新しいワークスタイルやワークプレイスについて発信している。
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