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【西海岸オフィスを参考にする方へ】デザインの「なぜ」を紐解く3つのポイント

[July 24, 2018] BY Kazumasa Ikoma

近年の働き方改革や業務フローの改善等に伴って増えるオフィスの刷新。その際に西海岸のオフィスを参考にする企業が増えている。この流れは日本だけに留まらず、アメリカ国内や世界的にも、西海岸のスタートアップ的なワークカルチャーを自社オフィスに取り入れようとする企業は増えている。本メディアでこれまで取材を行ったサンフランシスコのオフィスデザイン事務所でも世界的なプロジェクトが増加中だ。

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しかし、西海岸のデザインを表面上取り入れようとしてもオフィスとしてうまく機能するかは疑問である。デザインの背景には必ず「なぜそうなっているのか」があり、その「なぜ」のポイントを理解していることが西海岸デザインを取り入れるうえでは重要になるからだ。本記事ではサンフランシスコ・ベイエリアの背景と共に、西海岸デザインを導入する際に理解しておきたい背景の注目ポイントを3つ紹介する。

1. 業務上どのようなテクノロジーが使われているか

1つ目のポイントとして、参考にしたいオフィスではどのようなテクノロジーが使われていて、その結果としての人の流れがどうなっているのかを見てほしい。

テクノロジー都市というと、アメリカ国内だけでもニューヨーク、ロサンゼルス、オースティン等と今や複数挙がるが、サンフランシスコ・ベリエリアは以前から変わらず「スタートアップの聖地」だ。「GAFA」と呼ばれる4大テック企業(Google、Apple、Facebook、Amazon)のうち、Google、Apple、Facebookの3社が本社をこのベイエリアに置いているのもテクノロジーの街としての象徴の1つ。身近で生まれる最新テック製品やサービスを積極的に利用する「アーリー・アダプター」と呼ばれる人が多く存在し、新製品の開発・導入が行いやすい環境が整っている。

このような環境で生まれる製品やサービスには、働き方改善に繋がるものも多い。タスクマネジメントツールのAsanaやTrello、オンライン会議ツールのZoom、リクルーティングに利用されるLinkedinやコミュニケーションツールのSlackといった企業は例のほんの一部に過ぎないが、このようなツールを提供する企業の多くがサンフランシスコに本社を構え、世界展開を行う前にベイエリアで実地実験を行う。ここに挙げた企業はここ数年で日本に入ってきたものばかりだが、アメリカ、特にサンフランシスコではずっと前から利用が進んでいるサービスだ。

このようなサービスを通じて新しい働き方が可能になると、自然とオフィスの作りにも変化が起きる。マネジメントツールの増加で社員が個別で作業できるスペースを作りやすくなり、また少人数のグループで手軽に集まりやすいハドルルームのような小部屋を設けるようにもなった。最近のオフィスで、オンラインミーティング用の小部屋がいくつも連なって見られるようになったのも例の1つだろう。逆にテクノロジーオリエンテッドな環境になり過ぎないために、交流スペースやカフェテリアスペースを広く設ける企業も増えている。

実際にエイベックスのオフィスでも新オフィスでPhone Appliというアプリを導入し、社員がオフィスのどこにいるのかお互いにわかるようにしている。このように社員が働きたい場所で自由に働ける環境をテクノロジーで支援することで社内の流動性は上がり、結果として西海岸オフィスを意識してデザインされた13階のカフェテリアスペースは今もよく利用されている。

このように、新しいテクノロジーの導入で社員の働き方のオプションが広がり、その結果新たなデザインが必要になる、というのが近年のベイエリアにおけるオフィスの変遷だ。そのため、表面的に西海岸オフィスのデザインを単純に真似て導入しようとしても、テクノロジーツールが社内で普及していない会社ではデザインの効果が発揮されない結果になってしまう。西海岸のオフィスを参考にするときは、デザインだけではなく、どのようなテクノロジーで新たな働き方を可能にしているのか、合わせて見てみるとおもしろいだろう。自社が導入しているテクノロジーから人の流れを考えた上で、導入できる部分だけ取り入れるようにすると失敗はない。

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2. 企業が人材をつなぎとめるポイントがどこに仕込まれているか

2つ目に挙げる西海岸オフィスのポイントは、優秀な社員に「働きたい」「残りたい」と思わせるオフィスや働き方制度作りに企業が必死で取り組んだ結果であるという点だ。激化する人材獲得競争の中で、給料だけではなく、オフィスで人材を惹きつけようとする企業の取り組みに注目することが大切になる。

先に挙げた4大テック企業の「GAFA」を筆頭に、資金を潤沢に持つテック企業は優秀な技術者や社員に数千万円単位の年収を提示し、給与面で人材の独占に動きつつある。一方、資金にそこまでの余裕のない企業は働く場所の環境整備に資金を投入している、とサンフランシスコの建築デザイン事務所でCheif Design Officerを務めるEric Ibsen氏は語る。同様に上で関連記事として挙げたPrimo Orpilla氏やSeth Hanley氏といったオフィスデザイナー達も、自身の顧客の共通ニーズとして「人材の獲得・維持」がまず挙がると口を揃えている。

「1つの会社に3年残れば長いほう」と言われるほど、転職の繰り返しでキャリアを積み上げていくのが当たり前なベイエリア独特の気風もここには影響しているが、決して日本と関係ない話ではない。転職市場が大きくなりつつある日本でも人材の「獲得」のみならず、「維持」に向けた取り組みもベイエリア同様に必要になってくると予想されるからだ。

オハイオ州ベリアに拠点を置く、労働環境改善のコンサルティングサービスを提供するStegemeier Consulting Groupの創業者、Diane Stegmeier氏も20年以上のプロジェクト経験のもと、ベイエリアが労働環境の変革においてリードを取っていると述べる背景を次のように語っている。

ベイエリアでは、適切な人材の獲得と維持のために、労働環境に投資をする企業の意志がより強くなっていることが見受けられます。従業員が求めるものに対し耳を傾けようとするオープンマインドの気概があります。しかし、アメリカの他地域では社員に対する興味がまだ強くありません。ベイエリアのシニア・リーダー層はその姿勢が人材の獲得・維持に効果があるのか様子を探っているのです。従業員からの声はすべてのステークホルダーに共有されるため、結果として従業員はただ仕事場に行くのではなくて、企業がワークプレイス内に用意した「意図して作られた現実」に入り込むようなものなのです。

人材獲得のために労働環境の改善を行う施策は、ベイエリアに拠点を置く日系企業の間でも取り組みが進みつつあるポイントだ。先日のMegumi Kreutzinger氏に行ったインタビュー記事でも、現地の優秀な人材獲得のために働きやすさを前面に押し出していかなければいけないという日系企業の苦労が垣間見えたばかり。

以下は、人材獲得のためにベイエリアの企業がオフィスと絡めて考慮するポイントの一例である。企業はターゲットとする人材が求めるものを考慮しながらオフィスや働き方制度を整備している。

・立地・交通手段:
オフィスは都市部に置いているか、それとも郊外にあるか。都市部なら、サンフランシスコ都市部に多く住む若い人材を狙っているのか、交通のしやすい場所にあるか、等を見ることができる。郊外であれば、例えばシリコンバレーに住むマネージメント層の人材獲得を狙っているのか、またGoogleバスのように交通手段を完備しているのか、等を見ることができる。実際に先日取材したメルカリのアメリカ支社は幹部クラスの人材獲得のためにサンフランシスコ市内から離れたパロ・アルトにオフィスを移転したばかりだ。

・自由な働き方:
フレックス制度を導入しているか、オープンスペースだけでなく集中スペースも用意しているか等、社員1人ひとり裁量を持たせた働き方をしているか、常にチームベースでの働き方を求めているか、オフィスで判断することができる。

・企業文化:
ハッピーアワー等のイベントは盛んに行っているか、社員同士のコミュニーケションにおいては対面を勧めているか、それともエンジニア向けにSlack等のコミュニケーションツール上での会話を良しとしているか、といった企業が求める風土とオフィスの作りを見比べることができる。

・仕事以外の時間も充実する施設の有無:
ジムやヨガレッスンの他に、クリニックや旅行プランニングカウンターも設置して、社員の健康やプライベート時間の充実を気にかけることで、社員をどのように扱おうとしているか

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そのほかにも外部的な要因として、近年のWELL認証のように、建物のユーザーに焦点を置いた環境整備がカリフォルニア州を中心に行われている。社員の声を拾い、彼らの働きやすさを考慮したオフィスはどのようなアウトプットとして存在しているのか。オフィスをユーザー視点で徹底的に見てみることも必要だ。

3. スペース利用の効率化をどのように実現しているか

オフィスデザインは様々な制約の中で行われる。スペースの狭さというのはまず挙げられる制約だろう。世界でも有数の「賃料の高い都市」となり、東京の家賃相場の最低3倍以上はあるサンフランシスコで、企業がどのようにオフィスの”やりくり”をしているのかは見所ポイントの1つだ。(※1)

近年のオフィスでは、社員のコミュニティスペースを確保し、そこに置くアメニティや自然植物を充実させて室内環境を整えることが多い。特にテック企業に至ってはときにハイペースで業務を進める時期もあることから、社員がオフィスに長時間いるような場合でもできる限り居心地の良い環境を提供しようとする取り組みがある。このように書くと、このコミュニティスペースの充実施策も人材獲得のための施策の1つであるかのように聞こえるが、実は不動産コスト的な理由もある。

サンフランシスコのオフィスでは、社員1人あたりのデスクスペースを広く取るのが最近のトレンドの1つとなっていたが、高騰を続ける賃貸料が原因で現在はまた縮小に戻りつつある。その代替案として、企業は共有スペースの拡大と充実を図り、より豊富な種類の働くスペースを用意することで「少ないスペースで人的リソースを確保」する施策を取っている。優秀な人材の獲得・維持を続けながらオフィススペースの”ストレッチ”を行っている、ということだ。

ベイエリアのスタートアップほど人的リソース量の増減は見られない日本企業がここに目を向けるべき理由は2つある。1つは、このオフィス賃貸料がスタートアップ・テック企業エリアとしての人気の高さから高騰し、その結果スペースの有効活用を進める取り組みが各企業必死であるという点。もう1つは、成功を収めるスタートアップの成長スピードは急激であるがゆえに、少ないスペースで多くの優秀な人材を確保し、その上で彼らの生産性を上げるためのスペース活用のノウハウがベイエリア内で蓄積されているという点だ。ベイエリアほど賃料が高くないものの、日本においても「少ないスペースでやりくりし、賃料を節約したい」という問題はある。やはりスペースの効率利用は知っておきたいポイントだ。

例えばベイエリアの多くの企業がガラス壁を利用し、オフィスを広く見せたり、社内の透明性を出そうとしているのは広く知られている。Airbnbでは下画像のようにガレージ型のドアでクローズドのミーティングスペースやオープンの状態では交流スペースとして活用できるようにしている。Amazonが新オフィスのSphere内の植物を敷き詰めた室内温室でフリーアドレスデスクを導入しているのもスペースの効率利用と新たな働く環境の提供を同時に行っている例の1つだ。

サンフランシスコのオフィスでは、来客スペースや面接スペースはもちろんのこと、オフィス全体での働きやすさを重視し、オフィスの隅から隅まで自由な場所で働く社員の姿を有望な人材に見せて、優秀な人材獲得を狙っている。ここには「あくまでリクルーティングだけのためのデザイン」はなく、入社した後も心地よく仕事できる場を提供することで人材をつなぎとめる企業の姿勢が表れている。見方を変えると「執務スペースに人数を詰め込むことがない」というのが西海岸オフィスのポイントではないだろうか。

家賃等経費を抑えることで多くの人を雇いマンパワーで成果を上げるか、それとも良質なワークプレイスを整え、そこで働く社員の成果を高めていくか。ベイエリアのオフィスの生産性は後者で測られることが圧倒的に多い。読者の方には西海岸オフィスを見る際に、限られたスペースで一定の社員数を確保し、さらに彼らの生産性を上げる企業の取り組みに注目していただきたい。

これらを踏まえた上で

ベイエリアには最新テクノロジーと動線設計の問題を考慮し、人材獲得・維持に繋げられるデザインや働き方制度を構築した上で、カリフォルニア州が定めるサステイナブルな建築基準にもクリアしながら、オフィススペースの効率最大化を行っているオフィスが数多く存在している。もし読者の方が西海岸のオフィスデザインを自社でも活用してみたいと考える時には、ここに挙げた3つのポイントを参考に、デザインの裏に潜む理由・背景を見てみると良いだろう。いくつも観点をここで挙げたように包括的な見方が必要になる。

本メディアでは今後もオフィスデザインそのものだけではなく、西海岸のテクノロジーや働き方の文化、働く人の価値観といったところに、読者の方と一緒に焦点を当てていきたい。

※1
三幸エステート株式会社による2018年6月30日を基準にした東京主要5区のオフィス相場一覧表において最も家賃相場の高いものは、千代田区丸の内・大手町エリアの大規模オフィス(200坪以上)で、1坪あたり40,360円(1m²あたり12,209円 )。一方、Statistaによるサンフランシスコの家賃相場は最も低いもので1ft²あたり57.55ドル(1m²あたり619.24ドル)、1ドル=111.58円(Yahoo為替7月22日午前4:00現在)で計算しても1m²あたり69,095円と、5倍以上になるところもある。

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この記事を書いた人

Kazumasa Ikoma オフィス業界における最新情報をリサーチ。アメリカ・サンフランシスコでオフィスマネージャーを務めた経験をもとに、西海岸のオフィスデザインや企業文化、働き方について調査を行い、人が中心となるオフィスのあり方を発信していく。



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